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【カンヌライオンズ2024】世界のgood workから見る”問題変換力”vol.2

今回3回目の投稿です。
私、プランナー/PRディレクターを生業としている森本進一と申します。

昨年のnoteでは、「問題変換力」をテーマに、去年カンヌライオンズの現地で見たり、アワードを受賞した作品から、そのケースで解決に挑んだ問題はなにかを探す記事を書きました。

残念ながら今年は現地に足を運ぶことはできなかったのですが、様々なカテゴリーの受賞ワークに目を通して、再び「問題変換力」をテーマにいくつかのケースをご紹介したいと思います。(書こう書こうと思って1ヶ月経ってしまいましたが・・・)

このあたりの説明は、これまでの記事と重複しますが、「問題変換力」とは、クライアントさんから「Z世代にこの商品を売りたい」といった広いお題が来たときに、そのままそれを考えはじめてしまうと、広大な砂漠の中から指輪を探すような作業になってしまうので、そうするのではなく、ある程度範囲を区切って指輪を探すことにトライするアプローチ(問題を変換して小さくする)と考えています。

今回も、今年のカンヌライオンズの中から個人的に気になった3つの事例を元に、
>元々どんなお題だったか?
>それをどんな問題に変換したのか?

を予想しながら、紹介する形で進めてみます。

個人の見解なので様々なご意見もお有りかと思いますが、大目に見ていただけると幸いです。
読んでいただける方の頭の片隅に残り、いいアウトプットが生まれていくと嬉しいです。


■洗濯機ブランドからの問題。『サッカーファンをブランドのファンに変えるには?』

「CLEAN SPONSORSHIP」

BRAND EXPERIENCE AND ACTIVATION部門 Gold

DM9, SAO PAULO / CONSUL

■ブランドの課題
まずは、BRAND EXPERIENCE AND ACTIVATION部門、MEDIA部門、OUTDOOR部門でゴールド、DIRECTでもシルバーを受賞した、ブラジルの家電メーカーConsulからの出題。
Consulは洗濯機ブランドを展開しており、より多くの人からブランドへの好意的な認知を獲得し、売上を高めたいと考えていた。

■予想する元々のお題
「自社が展開する洗濯機に目を向けさせて、好意的な認知を獲得するにはどうするべきか?」

■変換して小さくした問題
変換①「汚れがキレイになる、というだけでは機能の差別化はできない。ブラジル人の多くが関心を抱いているサッカーと絡めて、情緒に訴える発信ができないか?」
変換②「他のブランドと同じように、サッカーチームにスポンサードすると目立つことはできない。もっとサッカーファンに寄り添った活動ができないか?」
変換③「洗濯機会の多く、ファンも多いサッカーのユニフォームと絡めた発信ができないか?」

■かけ合わせたサッカーファンのインサイト
ブラジルのサッカーチームは、ヨーロッパやサウジアラビアのクラブの給与と競争できず、選手の維持が難しい状況。
そのため資金を調達するために多くのスポンサー契約に頼り、結果的にチームのユニフォームにロゴやブランドが追加されるようになり、平均で 11 個のロゴがついており、チームによっては25個にものぼる。サッカーファンは、自分のチームのユニフォームがもはや認識できない状況に。

スポンサーロゴが多いことを嘆くサッカーファン(ケースムービーより引用)
スポンサーロゴが多いことを嘆くサッカーファン(ケースムービーより引用)

■アイデア
そこでConsulでは、洗濯機ブランドを持つ強みを活かして、ブランドロゴで汚れたブラジルのサッカー ジャージ の議論を起こすことに。
ブラジルで100年の歴史を持つ伝統的なサッカークラブであるユベントスとポンテ・プレッタのスポンサードを開始。
両クラブのスポンサー契約をすべて買い取り、クラブ のユニフォームからすべてのロゴ(汚れ)をキレイにした。

クリーンパートナーシップ発表の様子(ケースムービーより引用)
スポンサーロゴがまったくないユニフォーム(ケースムービーより引用)
アウェイ版(ケースムービーより引用)
ユニフォームの発表を洗濯機から出して行うというにくい演出も(ケースムービーより引用)


■結果
結果、SNSでのブランド言及量は前年同期比で 700% 増加。好意的なブランドの認知は87%に推移し、洗濯機の売上は 12% に増加する結果に。

ブランドが解決できる「キレイにする」ということを抽象化して、ブランドロゴで汚れたユニフォームを、文字通り「キレイに」したアクション。
物性的な汚れだけがキレイにできる、という機能訴求に留まっているとこのアイデアにはたどり着かない気がします。
まずブランドとしてどの訴求が採られていないテーマで、さらにそれが動かしたいサッカーファンの関心を寄せるテーマはなにか?という観点で考えていった結果、非常にインサイトフルな施策になっていますね。

■格闘技プロモーターからの問題。『社会的責任を果たすには?』

「THE NATIONAL SPORT OF KAZAKHSTAN」

SOCIAL AND INFLUENCER部門 Gold

GFORCE, ALMATY / RUH FIGHTING CHAMPIONSHIP

■ブランドの課題
続いては、ちょっとトリッキーですが、カザフスタン最大のMMA総合格闘技プロモーターRuh Fighting (RFC)からの出題。
RFCでは、オンライントーナメントを企画・放送しているが、2023年に社会的責任を果たす宣言を行った。この宣言を体現する取り組みを行いたいと考えていた。

■予想する元々のお題
「総合格闘技プロモーターとして、社会的責任をどう果たし、それをどうアピールしていくべきか?」

■変換して小さくした問題
変換①「ブランドの視聴者の90%が男性。男性たちが関与する形で、カザフスタンの社会問題への取り組みを通じた社会的責任を果たすことができないか?」
変換②「ただし、お勉強的な啓発運動などは響かない。皆が社会問題を考え、議論するものに変換するには?」
変換③「MMAが盛り上がるのは、試合に加えて、試合前の告知タイミング。そのMMAならではの要素を活かして議論を生み出すことができないか?」

■かけ合わせた社会課題
カザフスタンでは、家庭内暴力が数多く発生。
成人男性人口500万人に対し、10万件を超える家庭内暴力が発生しており、過去5年間で3倍に増加。
そしてこの家庭内暴力の問題は女性しか議論しておらず、男性はそれらを話すことを敬遠していた。

■アイデア
究極の格闘技であるMMAは、通常は男性同士で行われ、男性と女性の間で行われることはない。
そこで、RFCはあえて初となる「男性 対 女性」の試合を開始することを発表。大規模な記者会見を行ったほか、登録者のほとんどが男性で計170万人のフォロワーを超えるSNSでも発表した。

発表された試合の告知

もちろん、その発表直後に男性フォロワーから試合中止を求めるなど非難が殺到。嘆願書が作成され、政府と大統領に提出されたり、ブロガーやMMAのスター、マスメディアまでも巻き込んで大反対キャンペーンが開催された。

だが、これはすべて織り込み済みの仕掛け。
試合日にRFCは、リング上の試合ではなく、カザフスタンで起こった家庭内暴力の実際の映像を含む衝撃的な放送を「10万件の男性VS女性の試合」として開始
放送直後、コメントは肯定的なものが溢れ、問題を指摘したRFCに感謝する声が増加した。

実際にながれた、「10万件の男性VS女性の試合」(ケースムービーより引用)

■結果
これまで家庭内暴力に関心を払っておらず、議論を敬遠してきた当事者である男性に直接リーチ。国内の成人男性人口が500万いるうち、300万人の男性にリーチ。
衝撃的な実際の家庭内暴力の映像視聴回数は、100万回を超えた。
また初めて、保守派の男性たちが家庭内暴力犯罪化法の制定を求める請願書に署名。2024年2月28日、この法律はカザフスタン議会で可決された。

ブランドでリーチできる属性がどんなところがあるのか?(今回は90%が男性)、ブランドとしてどう伝えると社会的責任を果たせるのか?というのを非常にブランドらしい(試合の発表)やり方で伝えており、お勉強的な啓発にならずに、世の中を動かしたいいアイデアですね。

つづいては、富裕層が多い国だからこそ生まれたユニークなアイデア。

■マクドナルドからの問題。『夜の売上を上げるには?』

「AFTER-DINNER DINNER」

DIRECT部門 Bronze 

FP7 MCCANN, DUBAI / MCDONALD'S

■ブランドの課題
つづいては、ドバイのマクドナルドから、DIRECT部門、MEDIA部門でブロンズ、PRでショートリストに入った、シンプルだけど人を動かす力を持つアクションの出題。

■予想する元々のお題
「昼のイメージが強いマクドナルドを、夜も食べてもらうにはどうするべきか?」

■変換して小さくした問題
変換①「ランチには十分でも、夜食べるには量が少ないことから、夜食べるもの、というイメージがマクドナルドにはない。それを活かすアプローチが取れないか?」
変換②「夜は高級レストランに行く人が多い。それらを競合視するのではなく、協力するパートナーとして捉え直すことはできないか?」

■かけ合わせたインサイト
高級レストランに訪れる人々は、料理の満足はもちろんだが、雰囲気を味わっている。そして、高級レストランを食べた後の人たちは、食事の量が少ないことからお腹も空っぽのままで帰ることが多いのでは?ということに着目。

高級レストランの食事が少ないことを嘆くインフルエンサー(ケースムービーより引用)

■アイデア
そこでマクドナルドでは、高級レストランで食事をした後の〆としてマクドナルドに立ち寄ることを提案。
カウンターで、レストランの高額な請求書を提示するだけで、無料のハンバーガーを提供するキャンペーンを開催。

プッシュ通知が届く様子(ケースムービーより引用)

位置情報を活用して、マクドナルドの近くにある高級レストラン近くでプッシュ通知を行ったり、OOHを展開。さらに、高級レストランの外に停めてあるクルマにもチラシを置くなどのアクションを実施した。


■結果
このキャンペーンは、ドバイだけでなくドミニカ共和国でも実施され、来店者数が大幅に増加。特に週末の午後9時から午前3時の間には35%の増加。
売上は24%増加し、SNSでのインプレッションも1億回を突破した。

マクドナルドはランチで食べるもの、食事として食べるもの、という常識を、あえての「〆」として提案。そして本来需要を食い合う競合と捉えてしまいがち(あるいは無視している)高級レストランを仮想パートナーとして据え、行動習慣を喚起したアプローチです。

単なるインセンティブキャンペーンにしてしまうのではなく、〆提案とパートナーを巻き込む形で、永続的に〆に食べるものとしての習慣を残すという解決を行ったいいアイデアですね。

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以上が、今年のカンヌで個人的に気になったケースを基に「問題変換」を考えたお話しでした。
また反響やニーズがあれば違うテーマでも書いてみたいと思います。

最後までご覧いただいた方、ありがとうございました。

※主にTwitterで発信しております

https://twitter.com/shin1111_1

■おまけ(Cannesで見つけたgood work)

今年のカンヌで見つけたgoodなWorkをいくつかご紹介。


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