ジャズ・バーで聴きたいジャズ 2020-2021 - for 21st Century Jazz Bar : Good Melodies & Mellow Mood
最初はテイラー・アイグスティの「Rainbows」、その後にはジャン・ミシェル・ピルクやパブロ・ヘルド、キーナン・メイヤー、と言った感じで、メロディアスでメランコリックなジャズに立て続けに出会ったので、ラジオでかけたり、BGMの選曲する時にでも選ぼうかなととりあえずメモ的にプレイリストに入れていたんですが、年末になってみたらそこそこの数になっていたので、年間ベストのついで<for 21st Century Jazz Bar : Good Melodies & Mellow Mood>として公開することにしました。
あと、今年は雑誌のミュージック・バー特集の仕事もしたので、そういったテーマで原稿を書いたり、プレイリスト<JAZZ PIANO for Music Bar selected by Mitsutaka Nagira>を作ったことも関係あるのかもしれません。
個人的に多少は演奏者の表現力が入っていたり、情感が乗っているものの方が好きなので、チルとかアンビエントというよりは、どちらかというとスロウ、もしくはバラードといったほうがしっくりきそうな曲多めになりました。いきつけのバーでかかってたらいいかも曲って感じでしょうか。
そもそもジャズは毎年それなりの数の新譜がリリースされているので、こういった楽曲も毎年、それなりの数が発表されています。トレンドとは無縁の作品が多いですが、こういった単純に”いい曲”や”いい演奏”、”心地よい演奏”や”心が落ち着く曲”も音楽の魅力だと思います。
それに、まるでシンガーソングライターのように演奏するジャズ・ミュージシャンが絶え間なく現れていることも21世紀のジャズを面白くしている要因だと僕は思っているので。
というわけで、BGMにも最適だと思うので、ぜひ年末年始にゆったりと聴いてください。
以下、プレイリストといくつかの曲解説です。
◉Jean-Michel Pilc - Children's Scene
フランス出身、2000年代屈指のジャズ・ピアニストで、その圧倒的なテクニックはティグラン・ハマシアンも影響を語るほど。イメージとしては変拍子や複雑なフレーズが満載のテクニカルな演奏の人だったが、ここではものすごくメロディアスで、優しい演奏。自分の子供たちと子供たちがかわいがっている猫をイメージして書いた曲とのこと。
◉Georgia Mancio, Alan Broadbent - Quiet Is the Star
UKのヴォーカリストのジョージア・マンシオとニュージーランド出身の名ピアニストのアラン・ブロードベントとのデュオ・プロジェクトで2017年の『Songbook』に続く2作目。静寂をテーマにしたタイトル曲に代表されるようなジョージア・マンシオの静かで穏やかなオリジナル曲を丁寧に演奏する。フォーキーなセンスもあるオリジナル曲も魅力だし、アイリーン・クラールの作品でも名演を残してきたブロードベントの伴奏もさすがの巧みさ。ブロードベントといえば、チャーリー・ヘイデンのカルテット・ウエストのメンバーでもありましたが、そのことを思い出させるようなストーリー性を感じさせる楽曲も演奏も素晴らしいです。
◉Art Hirahara - Open Sky
00年代からアメリカのストレートアヘッド系のシーンで活動していて、Posi-Toneレーベルの看板プレイヤー的な存在でもあるアメリカ人ピアニスト。リーダー作をすでにたくさん出している人なんですけど、何気にいい曲があるので、アルバムが出るたびに毎回DLして聴いてしまう人でもあります。ここでは牡丹もしくは芍薬という意味の「Peony」がおすすめ。
◉Keenan Meyer - The Alchemy of Living
◉Malcolm Jiyane Tree-O - UMDALI
◉Abudullah Ibrahim - Solotude
2021年はジャイルス・ピーターソンのレーベルBrownswoodがコンピレーション『Indaba is』がリリースされたことで、ここ数年、アンダーグラウンド・レベルでちょっとしたトレンドだった南アフリカのジャズシーンが一層注目を集めた年でした。
パーカッションを組み込んだアフリカ由来のリズムの魅力もありますが、個人的には旋律に惹かれることが多く、もともとダラー・ブランドに関しても彼が紡ぐ旋律に惹かれていたなと思いだしたりしました。ピアニストのキーナン・メイヤーやトロンボーン奏者のマルコルム・ジヤネ・ツリー・オーに関してもそんな感じでした。
ちなみにダラー・ブランド=アブドゥラ・イブラヒムもソロピアノの新作をリリース。この人も今や87歳(1934年生まれ)ですが、近年もリリースが多く、どれも美しい演奏を聴かせていて、また新たな充実期が来ているので、要チェックです。
◉Jamael Dean - Primordial Waters
カルロス・ニーニョ周辺の若手ピアニストのジャメル・ディーンは近年、ピアニストとしてもプロデューサーとしても活動していて、これはその両サイドが前後半に入っていると言った志向で、リリースはストーンズ・スロウ。
ヨルバ語と思われるヴォーカルが入っていますが、旋律の感じはアフリカだけでなく、ブラジルっぽさも感じさせるものだったりで、ちょっと変わったひねり方。ちなみにピアニストとしてはLAのレジェンド・ピアニストのホレス・タプスコットの系譜でもあって、実はLAジャズの歴史を受け継ぐ正統とも言えて、その辺りも面白い存在だと思います。
全編モーダルでメロディアスで聴きやすく、実は『Ished Tree』もメロディアスできれいな旋律が入っていたピアノ・ソロ・アルバムだった程度にはそういった感性がある人。本作にも美しい旋律が至る所に聴こえます。
◉Pablo Held - Embrace You
00年代後半から活動しているピアニストで現在のドイツ屈指のピアニスト。UKのEditionからもリリースしてたりもします。本作は彼が妻子に捧げたアルバム。自らピアノ、シンセ、メロトロン、チェレスタを弾いて、多重録音したアルバムで、ドリーミーだったり、幻想的だったり、メランコリックだったり、表現したい世界観があるのがわかります。ほとんどが自作曲で、その中でウェイン・ショーター、セロニアス・モンク、ジョン・テイラーのカヴァーも混じっているけど、それがすごくナチュラルにハマっていて、トータルなアルバムとしても完成度が高いです。
個人的にはモノ・フォンタナ好きにも勧めたい一枚です。
◉Daniel Garcia Trio - Via de la Plata
スペインが地理的にヨーロッパから中東から北アフリカまでの様々な文化が交じり合うような場所にあったというようなことを聴かせてくれるジャズ。以前、ミゲル・ヒロシというパーカッション奏者が
と語っていましたが、フラメンコを含むスペインの音楽はそもそもハイブリッドな音楽でした。
本作はスペイン人ピアニストのダニエル・ガルシアによるアルバムですが、フラメンコだけでなく、レバノンのイブラヒム・マーロフやイスラエルのアナット・コーエンなど加わることで、そのスペイン音楽の多様性がわかりやすさだけでなく、ダニエル・ガルシアが目指すジャズの枠の中ですっきりと表現されているのもポイント。ゲストの演奏も差異を際立たせて浮かび上がらせるのではなく、もともと旋律やリズムに含まれていた中東の要素を美しく、メロディアスな演奏の中に改めて織り込み直しているような繊細さとバランス感が絶妙。ここまでいろんなものがしっかり溶け合っているジャズは珍しいと思います。と思ったら、ダニーロ・ペレスの教え子とのことで納得しました。
◉David Friesen - Day of Rest
リズムセクションの一部的な役割をはるかに超えたスタイルでベースを演奏する奇才デヴィッド・フリーゼンが作ったソロ・ピアノ・アルバム。これが実に美しい旋律の連続。2分くらいの曲がたくさん入っているこのアルバムは、事前にある程度書いた曲もあれば、即興ベースの曲もあるんだろうけど、どれも魅力的。アブストラクトだったり、ベースの音を極端に増幅したり、ノイズ出したり、みたいな人だってイメージで聴くと肩透かしですが、それを忘れて聴くといい感じのアルバム。
◉Helen Sung - Quartet+
ピアニストで、現在は教育者としても地位を確立しているヘレン・サンは作品は少ないものの地道にいい作品をリリースしていて、個人的にはスペインの作曲家アルベニスへのオマージュの『Sunbird』が愛聴盤でした。ここではストリングスとの共演で演奏もアレンジも素晴らしいのですが、なにより選曲が興味深くて、ジェリ・アレン、カーラ・ブレイ、メリー・ルー・ウィリアムス、マリアン・マクパートランド、そして、穐吉敏子と偉大な女性ジャズ作編曲家へのオマージュで構成されています。プレイリストに入れていませんが、穐吉敏子「Long Yellow Load」を取り上げているのにはグッときます。2021年に挾間美帆がNEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇で同曲を取り上げていましたが、穐吉さんの功績に改めて光が当たり始めている時期なのかもしれませんね。『Quartet+』はひっそりとリリースされて、特に目立たない感じですが、振り返った時に2021年の重要作になるかもと思っています。
◉Nils Landgren - Nature Boy
スウェーデン屈指の名トロンボーン奏者が教会で録音したトロンボーン独奏アルバム。教会独特のナチュラルなリバーブを活かした録音がとても気持ちがいい。スタンダードの「Nature Boy」、エリントン「In a Sentimental Mood」「Solitude」、自作曲「A Minor」以外はすべてスウェーデンのトラッドや讃美歌などを演奏していて、その心温まるような優しい旋律も魅力的。そのメロディーを丁寧になぞりながら、自身のトロンボーンの音色と教会の音響で聴かせる超シンプルさで、その楽器の技術や表現力が問われる状況だからこそ、名手ニルス・ラングレンのすごさが炙り出されているという聴きどころも。録音が特殊過ぎて、プレイリストにハマらなかったので、別枠でここに書いておきます。
という感じです。以下、今年のおすすめを紹介していた記事のリンクを張っておきます。
以下、2021年に作ったECMのプレイリストです。この記事と相性いいと思います。
◇ECM records : mellow, slow and melancholy
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今回、こういうのをまとめて紹介した理由はいくつかあるんですけど、
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