ジャズ喫茶で聴きたい2020-2021のジャズ - for 21st Century Jazz Kissa : Traditional Feeling
2021年は鎌倉FMでラジオ番組を始めて、そこで新譜をかけないことにしたので、例年以上に旧譜を聴いた年でした。
鎌倉FMをそういうコンセプトにしたのはここ数年、オーセンティックなジャズを楽しく聴いていたから、というのも理由にあったので。
今、敢えてオーセンティックなジャズをやる若手の中には面白いセンスを持った人が沢山いて面白いことになっています。あくまでザ・モダンジャズではあって、過去のスタイルに沿ってやってはいるんですけど、その枠の中に今の若い人たちならではの技術やセンスが入っているのを感じます。なので、この辺りは掘りがいのある領域だと思います。
それに80年代のUKでのジャズ・ダンス・カルチャーじゃないですけど、DJやる時にもハードバップやアフロキューバンをプレイするのも面白いかもと思って、そういうテンポが速くてかっこいいジャズを探していたのもあります。そういう目線でも聴ける新譜が結構あると思うんですよね。
なので、この辺のシーンもぜひ、注目してみてください。
というわけでここでは2020-2021の良作を少し紹介します。プレイリストも作ったので併せてどうぞ。
◉Isiah J Thompson - Play The Music of Buddy Montgomery
2020年のアルバムなんですけど、たまたま見つけてお気に入りに。ウェス・モンゴメリーの兄バディ・モンゴメリー曲集というスーパー・マニアックなコンセプトですが、ウィントン・マルサリス人脈のアイザイア・J・トーマスの演奏がキレッキレで、スウィングしまくりです。めちゃくちゃ難しいフレーズとか入りまくりで、こんな曲を本当にバディ・モンゴメリーが書いてたのかよと思っちゃう瞬間もありますが、それもさらっと聴かせてしまうのでとにかく楽しいです。ジャズ喫茶で流れたら、お客さんがジャケを見に来る系。
◉Belmondo Quintet - Brotherhood
ベルモンド兄弟は、現代ジャズとアヴィシャイ・コーエン『Aurora』、オーセンティックなジャズだとディーディー・ブリッジウォーター『Love And Peace - A Tribute To Horace Silver』、ブラジル音楽好きにはミルトン・ナシメントのコラボ『Belmondo & Milton Nascimento』、更にクラブ系ではフレデリック・ガリアーノのバンド・プロジェクト『Espaces Baroques』などでも知られるフランス屈指のプレイヤー。自分たちがリスペクトするジャズの巨匠に捧げたオリジナル曲を集めたアルバムで、それぞれにウェイン・ショーターやビル・エヴァンスなど、アーティスト名がついている。これがなかなかいい曲ばかり。ピアノがエリック・レニーニだったり、演奏も素晴らしく、ありそうでなかった好盤になってます。
◉Ryan Devlin - Throughts on the Matter
◉Ryan Devlin - The Shape of Light
今年の時点でまだ24歳のボストン出身NY在住らしいのですが、どう聴いても超オールドスクールでびっくり。『Throughts on the Matter』はジョン・コルトレーン系譜のサックスのスタイルで、サウンドはアコースティック。ピアノもマッコイ・タイナー風だったりで、『A Love Supreme』的な4章構成の組曲あり。『The Shape of Light』はそのコルトレーン・スタイルを引き継ぎつつ、ファンクやフュージョン時代にも適応させたマイケル・ブレッカーやスティーブ・グロスマンの影響を感じさせるサックス演奏で、バックもエレクトリック・ベースに、8ビートや16ビート、シンセサイザーで70年代的。両方とも是つように演奏はアップデートされつつも、忠実さもあって、面白オマージュ=パロディ・アルバムとしても聴けます。デルヴォン・ラマーなんかとも通じる感覚なのかも。感想としては変なやつ出て来たなって思います(笑
◉Eric Wyatt - A Song of Hope
このプレイリストの中で特におすすめかも。NYブルックリンで活動するサックス奏者エリック・ワイアットはローカルなシーンのリーダーみたいな存在で、後進からの信頼も厚いベテラン。ここでは新鋭のサマラ・ジョイやシオ・クローカー、そして名手ジェフ・テイン・ワッツと豪華ミュージシャンが集結。ロリンズ的などっしりとしたサックスと、コルトレーン的な曲想が合体したようなスタイルで、演奏は厚くグルーヴィー。なので、カマシ・ワシントンとか好きな人に聴いてもらいたい逸品。シオ・クローカー作「Blues for RH」や、マッコイ・タイナー作「Contemplation」もいいし、パーカッション入りの「Fur Live」はDJでかけてみたいゆったりと気持ちいい1曲。
◉Michael Stephenson Meets The Alexander Claffy Trio
マイケル・ステフェンソンはサックス奏者でヴォーカリスト。グレッグ・タルディやJDアレン、オリン・エヴァンスにも起用されていたNYの実力派ベーシストのアレキサンダー・クラフィのグループをバックに歌うジャズ・ヴォーカル作品。ピアニストはカッサ・オーバーオール『I Think I'm Good』参加のジュリアス・ロドリゲス。かなりオーセンティックかつ小粋でベン・シドランやボブ・ドロウを感じさせる軽やかさなんだけど、不思議と古さを感じさせない。マイケルはL'Rain『Fatigue』にも参加するジャンルを超えて活動する人なんだけど、その辺もその理由なんでしょうか。
◉Benny Benack III - A Lot Of Livin' To Do
『Michael Stephenson Meets The Alexander Claffy Trio』にも参加していたトランぺッターのベニー・べナックⅢはヴォーカリストでもあります。彼はNew Century Jazz Quintetのメンバーでもあって、ストレートアヘッド系の名手ですが、いちプレイヤーに止まらないアーティストで、リーダー作も素晴らしい。この2020年作ではNew Century Jazz Quintetの同僚ユリシス・オーウェンスや大林武司、そしてクリスチャン・マクブライドの超強力トリオをバックに歌います。これがオーセンティックなのに実にポップ。マイケル・ステフェンソンもそうでしたが、なんなんだろう、この世代の感覚。アルバム一枚通していいです。フィジカル欲しいなぁ…
◉George DeLancey - Paradise
オールド・スクールな志向のベーシストのジョージ・デランシーのこの2020年のアルバムも偶然見つけて聴いてみたら、演奏もいいんですが、アレンジと個々の演奏のニュアンスが素晴らしくて、あまりにおしゃれだったのですぐに気に入ってしまいました。オスカー・ペティフォードの「Bohemia After Dark」は00年代にリリースされていたらクラブでプレイされていたのでは?そして、ジョン・ルイス作曲でMJQが演奏していた「Skate in Central Park」がめちゃくちゃ洗練されていて、うっとりするほど素敵なワルツに。室内楽ジャズとか呼ばれていたMJQの音楽は確かに今、再解釈したい音楽なのかもしれません。ちなみに素晴らしいピアノは海野雅威です。
◉Timo Lassy - Trio
その昔、フィンランドジャズってのが流行ったのを覚えていますか?DJのニコラ・コンテらがプッシュしていたファイブ・コーナーズ・クインテットらがクラブシーンで話題になっていました。音楽的にはハードバップやアフロキューバン、ジャズ・サンバなどが軸にあるオールドスクールなものだったので、ジャズ・リスナーにも割と浸透していました。
そのフィンランドジャズのムーブメントの中心人物のひとり、サックス奏者のティモ・ラッシーの新作が良かったんですよね。なぜこれをチェックしていたかというと、近年、ハイブリッドな北欧ジャズの面白いところをリリースしていたフィンランドのWE JAZZ Recodsと言うレーベルがリリースしたから。
なのでこのアルバムも表面的にはオーセンティックなんですけど、ジャズ以外のジャンルを通過した感覚が随所に感じられます。ウィズ・ストリングスものなんですけど、そのストリングスの入れ方もいわゆる弦楽アレンジとは違う感じで面白い。でも、表面的にはオールドスクールなジャズのまま、といった塩梅。このレーベルは要注目かと思います。
◉Joe Alterman - The Upside Of Down
今年、よく家で流していたアルバム。何も言われずに聴いたら60-70年代のピアノトリオかと思う雰囲気。レッド・ガーランドみたいなスウィングとラムゼイ・ルイスみたいなソウルフルさが聴こえる嘘みたいなサウンド。何かが突出していいかと言われるとわからないんだけど、こういういい雰囲気をパックしたアルバムってのがありそうでない。NYに行って、ふらっとバーに入ったらたまたまこれやってたみたいな奇跡に出会えないかなと妄想してしまいますね。ソウル好きがシルクソニックに萌えている間、僕はジョー・アルターマンに癒されてました。
◉Todd Cochran - Then And Again, Here And Now
僕はこのピアニストのことを全く知らなかったけど、サニーサイドからのリリースだからと聴いてみたら当たりでした。70年代にボビー・ハッチャーソンのブルーノート作『Head On』で起用されていたベテランで、スタンリー・クラーク、フレディー・ハバードなどのジャズだけでなく、ピーター・ガブリエルからアレサ・フランクリン、ジョーン・アーマトレイディングやフィッシュボーンなどに幅広く起用され、フリージャズ時代なども経て、その後はハリウッドの映画音楽をやっていた彼がオーセンティックなジャズに戻ってきたアルバム、とのこと。
これが素晴らしいんですよ、ドラムが名手マイケル・カーヴィンで最高なだけじゃなくて、フリージャズ時代の名残か、映画経由の編曲なのか、気持ちよくスウィングしたたまま、どんどん展開していくし、トッドのピアノも様々なスタイルに変化していくので、すごく楽しい。でも、弾きまくり、崩しまくり、ではなくて、その”曲”を弾いてるって感じの慎ましさはあって、ありそうでないピアノトリオ・アルバムになってる。トッドのピアノにはゴスペルのフィーリングやブルージーさがあるのもいいですよね。
◉Veronica Swift - This Bitter Earth
日本でも人気のヴォーカリストのヴェロニカ・スウィフトの新作はマック・アヴェニューからのリリース。アルバムは彼女がずっと温めていた様々なメッセージや思いを込めたもので、様々な音楽性が入っていますが、それも上手くアルバム全体が馴染むようなミュージカル調だったり、フォーキーだったりなので、アルバム全体に統一感がありますし、オーセンティックなものとしても楽しめるムードがあります。
その中でもセロニアス・モンク・コンペティション2位のテクニシャンっぷりを発揮したボブ・ドロウ作の「You're The Dangerous Type」での速いテンポを一気に駆け抜ける歌唱や、スウィングしながらスポークン気味に歌うデイブ・フリッシュバーグ作「The Sports Page」がおすすめ。こういう曲をラウンジでDJする時にかけてみたいですね。ピアノにめちゃくちゃ耳を奪われると思ったら、名手エメット・コーエンでした。ベースは中村恭士。
という感じです。以下、今年のおすすめを紹介していた記事のリンクを張っておきます。
以下、2021年の頭に作ったプレイリスト。
◇ジャズ喫茶で聴きたい21世紀のジャズ:for 21st Century JAZZ KISSA with Playlist
こちらは2018年に作ったプレイリスト。
◇Traditional feeling JAZZ by Jazz The New Chapter
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