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interview Jharis Yokley:ホセ・ジェイムズが発掘し、BIGYUKIを魅了する新世代ドラマー
ジャリス・ヨークリーの登場は鮮烈だった。
クリス・デイヴ、ネイト・スミス、リチャード・スペイヴン。現代を代表するドラマーを自身の作品に次々に起用してきたホセ・ジェイムズが突如無名の若者をレギュラードラマーに抜擢したからだ。
ホセのライブを観れば、彼のバンドにおけるドラマーの重要度は一目瞭然。ホセの音楽は誰をドラマーにするかでそのクオリティが決まってしまう、と言っても過言ではない。そんな責任重大な席に座ったのがジャリスだった。
ジャリスはそんな期待と不安が混ざり合った状況をあっという間に賞賛一色に変えてしまった。そして、ホセの音楽はこれまでとは違う形で新たな高みに到達している。『New York 2020』からホセの音楽には変化が生まれている。
ジャリスにはBIGYUKIも称賛を惜しまない。ジャリスの才能に魅了されたBIGYUKIは自身のライブでもジャリスを起用している。彼のドラムは周囲のアーティストに少しずつ影響を与え始めている。
そんなジャリスがソロアルバム『Sometimes, Late At Night』を制作した。ホセ・ジェイムズがジャリスの背中を押し、BIGYUKIが手を貸した。そして、ホセは自身のレーベルからリリースをした。そのアルバムにはジャリスの個性が強く表れていた
※ジャリス・ヨークリー来日情報 2024
■ホセ・ジェイムズ
09/01 (日) ビルボード横浜
09/02 (月) - 03 (火) ビルボード東京
■BIGYUKI
09/20 (金) ブルーノートプレイス
09/22 (日) ブルーノート東京
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取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:染谷和美
協力:コアポート
◉コンテンポラリー・ゴスペルの影響
ーーまずドラムをやるようになったきっかけはなんでしょうか
ドラムを始めたのは3歳の頃。父親はチャーチでキーボードとオルガンを弾いていて、母親はシンガーだった。それで、僕は家の中で鍋とかフライパンを叩いているような子供だった。あるとき、チャーチでのリハーサルでドラマーが必要になったときに「息子がいつも鍋とかを叩いているからドラムを叩かせてみよう」って父が言い出したんだ。それがドラムを始めたきっかけ。それからドラムの虜になって、今にいたってる。
ーーチャーチではどんなことを学びましたか
僕が行っていたのはアメリカのブラックチャーチ。スタイル的には何でもありで、ジャズ、ファンク、ロック、ラテン、そういう様々なジャンルの音楽を演奏することを当たり前だと思えるようになったのが一番の経験。それから、キャリアを築くための準備段階にもなった。毎週日曜日に人が集まる教会で演奏するというのは、それなりの大勢の前で毎週コンサートをしているようなものだったから、緊張しなくなっていった。それから、曲を覚えて準備することや、あるいは全く準備なしの状態で演奏しなきゃならないことを、プロになる意識する前から訓練できた。
ーー今、おいくつでしたっけ?(2024年)
32歳。
ーー世代的には物心ついたときにはコンテンポラリー・ゴスペルもすごくハイブリッドな面白い音楽になってたと思うし、あとはゴスペルチョップスみたいな教会の資金集めでドラマーがテクニックを披露する動画をアップするみたいなカルチャーが10代のころからすでにあった世代ですよね。
gospelchops.com というサイトがとても人気だった。そのサイトで Eric Moore、Thomas Pridgen、Nick Smith、Aaron Spears、Gerald Heyward、そういったゴスペルドラマーたちと出会って何度も動画をみたよ。
とくに Thomas Pridgen の動画を繰り返し見ていたことを覚えている。それが転機になったから、ゴスペル・ミュージックとかゴスペルチョップスにはお世話になったんだ。
◉バークリー音大で学んだこと
ーーそのあとは、ドラムをどのようなところで学びましたか。
教会が自分にとって音楽やパフォーマンスをする最初の場だった。ミドルスクールやハイスクールでは、ジャズバンドやコンサートバンドに所属していて、そこで譜面を読んだり書いたりすることを学んだ。それからバークリーに進学したんだ。
バークリーでは、Miles Davis Quintet、John Coltrane、Elvin Jones、Max Roach らに触れて、彼らについて勉強していた。ライブラリーに通い詰めて、とにかくCDを借りては自分のラップトップに取り込んでいた。
バークリーでの学びは素晴らしかったよ。Terri Lyne Carrington、Ralph Peterson、Neal Smith、Ron Savage、それからクレイジーで素晴らしいピアニストの Danilo Pérez に教わった。バークリーでは、ミュージシャンとしてテクニックや感情的な部分に焦点を当てていたんだ。
◉エレクトロニック・ミュージックの影響
ーー一方であなたはエレクトロニック系の音楽を聴いていたわけですよね。そういう音楽を聴くようになったころの話を教えてもらえますか。
高校生の終わり頃に、Jojo Mayer から影響を強く受けて、彼のテクニックをすべてを覚えようとしていたんだ。それから Thomas Pridgen の影響で Squarepusher を聴き始めるようになった。Deantoni Parks や Mark Guiliana もエレクトロニックミュージックの影響を受けているドラマーだよね。
他にはRadiohead、Thom Yorke、Aphex Twin を聴いていた。そういったグルーヴを演奏しようと挑戦したんだけど難しかった。人間には演奏できないくらいコンピューターでは速くできちゃうからね。
ーーそういう音楽を一緒にやる仲間はいたんですか?それとも家でこっそり一人でやっていたんですか?
一人でやっていたよ、ナーディにね(笑)一緒にやる人が見つからなかったから、一人で練習していた。だから、ライブではやったことなかったんだ。
ーーどういう練習をしていたんですか?
トラックに合わせて演奏して、ドラムマシンをドラムセットで再現しようとしていた。
ーー特に難しかった曲とか覚えていますか?
難しい曲はたくさんあったよ。Thom Yorke の “Guess Again!”。ハイハットがスウィングした16分からストレートの16分になるんだけど、それを片手でやろうとするとすごい難しいんだ(very impossible)。いつかものにして演奏しようと思ってるよ。BigYukiと一緒に演奏できたらいいね。
◎Jojo Mayer
ーーJojo Mayer ってかなり特殊なドラマーだと思うんですけど、彼らのどんなところがすごいと思いますか?
Jojo のことを知ったのはとても有名になった2008年頃のビデオ*1がきっかけだった。僕もみんなと同じように彼のテクニックに驚いたんだ。彼はあらゆるドラムの技術をマスターしているような人で、本当にすごいドラマーだ。彼が僕のハイスクールでドラムクリニックをしたことがあって、そのときはついに Jojo 本人に会えたと思ってとてもうれしかった。それで、彼のシグネチャースティックも買った。彼のようになりたくてトラディショナルグリップにして、10インチのハイタムをフロアタムの横に置くっていうセッティングも真似したくらいだ(笑)
ーーガチで憧れていたと
モーラーやプッシュプル、ドロップキャッチなどの彼のテクニックを習得しようと練習していた*2。それは僕にとっても重要な経験だったんだ。彼を研究することを通して、何時間もドラムセットに座って、テクニックを磨くことを覚えたからね。とにかく、Jojo といったらそういったテクニックとかドラムンベースの印象があるよね。
ーーたしかに。
あと、彼は足のテクニックも素晴らしいんだ。ハイハットの高速のオープン・クローズについては、僕も習得して、自分でもやっているんだけど、右足のヒールトゥテクニックに関してはどれだけ長い時間をかけて練習してもできようにならなかった*3。
◎Deantoni Parks
ーーひえー、あなたでさえ難しいと。Deantoni Parksはどうですか?
Deantoni は Jojo とはまた違った意味でマシンみたいなドラマーだよ。フィジカル的なもの、それから安定感。高速の8分をダイナミクスもアクセントも全く変化させることなく、一定の強度で演奏できるんだ。彼はまさしくマシンだ。クレイジーだよ。Thoms Pridgen が僕のことを Deantoni に紹介してくれて、彼がインタビューのなかで僕の名前をだしてくれたことがあったんだよね(得意げ
Meshelle Ndegeocello の作品での演奏は素晴らしかったよね。とくに “Article 3” っていう曲のドラムは僕のフェイバリットの一つだよ。ただ16分を叩いているだけのように聴こえて、すごく複雑なことをやっているんだ。彼が参加していた The Mars Volta も大好きなバンドの一つだよ。
◎プロデューサーからの影響
ーードラマーとしては、機械のような演奏をする人たちに興味があったと思うんですが、一方で自分でもビートを作ったりプログラミングをされたりしていますよね。それはいつごろ始めたんですか?
プログラミングを始めたきっかけは退屈していて、なにか作りたいと思ったからなんだ*1。ルームメイトにベースプレイヤーでプロデューサーの Ben Carr (Carrtoons) と、Drew Moore というプロデューサーがいて、彼らがいつもビートをつくったりプログラミングをしていたから、それで僕も作ってみようと思ったんだよね。自分が作ったビートを Ben に聞いてもらったときに、ビートに合わせてドラムを自分で叩いてみたらって言われた。それがきっかけでインスタグラムにアップしているような、ドラム抜きのトラックをつくってその上で演奏するということを始めたんだ。きっかけを作ってくれた Ben には感謝しているよ。
ーーへー、最高のルームメイト
彼らのおかげで、コンピューターにもつよくなった。あそこは、24時間誰かが音を出しているようなアパートだったから、その仲間に入っていったんだ。
ーー自分でプログラミングしたり、ビートを作ったりするうえではどんなアーティストがインスピレーションになっていますか?
J Dilla、 Kanye、DJ Premier から強く影響を受けた。実は DJ Premier とは少しツアーしたこともある。彼のクラシックなビートを演奏できたのはクールだったし、とても刺激を受けたよ。
それから、The Kount とか Kiefer とか、ソーシャルメディア世代の新しいビートメイカーにもインスパイアされている。
でも一番影響を受けたのはやっぱり、J Dilla と Kanye Westだね。彼らはソウルをサンプリングしてビートを作っているでしょ。僕がいまインスタグラムにアップロードしているのも、クラシックな曲やボーカルをサンプリングして、自分でドラムを叩いてリミックスしているものが多いからね。
◎Thom Yorke / Radiohead
ーーエレクトロニックミュージックに関してはどうですか?
やっぱり、Thom Yorke が一番好きだね。Radiohead ももちろん好きだけど、彼のソロも素晴らしいよね。
ーーどんなところが好きなんですか?
なんだろう。なぜか分からないけど彼の高い歌声が好きなんだよね。それから、とても不思議な曲も多くて、聴いているとなんとも言い表せないような気持ちになるんだ。なんて言うんだろう、まるで自分が過去と未来に同時にいるような感覚になる。
“Like Spinning Plates”というお気に入りの曲があるんだ。拍子がないような変わった曲で、聴いていると、自分が大好きな場所にいるような感覚になる曲なんだ。彼の高い歌声が、頂上の方からから聞こえてくるような感じがする。
それからドラムに関してなら、Squarepusher がお気に入りだね。彼のビートは超クレイジーで、刺激をうけたよ。
ーー割と変な音楽を作るミュージシャンの名前ばかり挙がってますね
変な音楽が好きなんだ(笑)
ーー加えて少しダークなところがあるというか
たしかに風変わりで暗いところはあるね。だけど同時に、そういった要素をうまくまとめて、多くの人に聴いてもらえるようにしている音楽が好きなんだ。例えば Radiohead の曲は風変わりで暗いけれど、彼らはポピュラーなバンドだよね。それは彼らが風変わりなものを作りつつも、それを心地よく親しみやすいものにする術を知っているからじゃないかな。それはとても重要なことだと思う。
◉ドラム・スタイルについて
ーードラムの話に戻りますが、新しいアルバムも含め今のあなたのドラムには「ジャリスっぽい」と思うような音色やフレーズがある気がするんです。自分でも自分らしいリズムの組み立て方やドラムのセッティングってあります?
風変わりだけど多くのリスナーに届くような音楽が好きなんだ。だから、たくさんのゴーストノートや複雑で細分化されたリズムを取り入れた、雑然としているグルーヴを叩いているときでも、2拍目と4拍目のスネアや1拍目と3拍目のキックのビートを感じられて、踊れたり首を振れたりするようなものにしたいと思っている。型にはまっていないような雑然としたビート、ノイズやサブディビジョンの奥深くから、首を振ることができるような何かが浮かび上がってくるようにしたいんだ。
ーーセッティングに関してはどうですか?
ハイハットを2つ使うのが好きなんだ。Marcus Gilmore を除けば、最近では珍しいと思う。Marcusはチャイム(カップチャイム)を2つめのハイハットとして使っていて、あれは素晴らしいよね。ハイハット2つというのが、他のドラマーとの大きな違いだと思う。アルバムではハイハット二つを同時に叩いてたりもしている。それから僕独自のヒールトゥテクニックで、普通は右手を使う8分のパルスを左足だけで刻めるから、右手が自由になるんだ。そのおかげで右手は他のパターンを叩くことができる。
◉デビュー作『Sometimes, Late At Night』
ーーソロアルバム『Sometimes, Late At Night』は Big Yuki とレコーディングしたと思います。BIgyukiはスタジオの中でどんどんアイディアを出して、どんどん曲を変えていくタイプですよね。
Yuki はクレイジーだよ(笑)彼はいろいろなアイディアをどんどん思いつくんだ。サウンドを調整しているうちに、全く違う曲を生み出してしまったりする。「じゃ、こっちの曲に取りかかろうか」ってなったタイミングで「サウンドを調整させてくれ」なんて言ったなと思ったら、彼は急に踊り出したりして、素晴らしいアイディアを思いつくんだ。はじめとは全然違う今日になったりもするけれど、素晴らしい出来なのは間違いない。今回のセッションの Yuki は本当に素晴らしいとしか言いようがないね。
ーーははは、彼は本当に自由なんですね。
それにドリームランドスタジオにはシンセサイザーとかキーボードがたくさんあって、Yuki にとっては天国みたいなところなんだ。彼がスタジオのなかをあっちこっち行って、いろんな楽器をいじくり回している舞台裏の動画がたくさんあるんだ。彼と一緒に仕事ができて本当によかったよ。僕のデモに合わせたサウンドを彼が作ってくれたこともそうだし、彼の制作のプロセスはとても参考になった。
ーーお菓子屋さんにいる子供みたいな感じですかね?(He is like kid in a candy store?)
まさしくその通りだったね。
ーーじゃあ、元のデモとはかなり違う進化をしたってことですね。
そうだね、デモからはいい意味で刷新されたという感じかな。Yuki が担当してくれたセクションもたくさんあるし。僕がつくったデモも元々インスタグラム用に作っていたビートとかだったから、長くても1分くらいしかなかったんだ。それをそのまま Yuki に預けて、新しいセクションとかサウンドスケープを作ってくれたような曲もあるから、最初とはだいぶ変わったかな。
ーー僕は Bigyukiにもう10回くらいインタビューしているんですけど。
それはすごいね(笑)
ーーYuki が共演したがるミュージシャンって傾向があって、彼が共演したミュージシャンを褒めるときに「早い」って話をするんですよ。彼がなにかアイディアを出したときに、それにその場で対応して新しいものを出してくれるようなミュージシャンが彼の好みなんでしょうね。おそらくあなたも「早い」ミュージシャンなんだと思うんですけど、それについて自分ではどう思いますか。
ワーオ。あまり意識はしていないんだけど、すぐ反応できるようにはつねにしているよ。すぐに反応を返せるっていうのはジャズの即興性、インプロビゼーションから学んだことだと思う。例えばライブでサックスがクレイジーなことをしたときにはすぐにそれに応えたいし、聞こえてきたものに反応すること、会話のようにアイディアをやりとりするというのはジャズでやってきたことだと思う。それをヒップホップやエレクトロニックの世界に活かしていくことで新しい可能性が広がっていくんだ。
ーーなるほど
そうやって Yuki の演奏に反応しながらも、グルーヴはキープしなきゃいけない。人々を踊らせながら、次のアイディアについて考えなきゃいけない。新しいアイディアを生み出す余裕をもちながらも、「このままグルーヴをキープして観客を飽きさせずに踊らせ続けよう」って考えてなきゃいけないんだよね。
とくにライブをしているときに、僕と Yuki の間にはそういう点でシナジーがあると感じている。同じタイミングでブレイクをするのが分かっているみたいに感じられるんだ。だんだんと盛り上げていくときも、ピークに達するときも、なんて言えばいいのか分からないけど、とにかく初めて一緒に演奏したときからそういう繋がりがあったと思う。
ーー今、言っていたようなライブをするときの考え方がよく表れているのがこのアルバムだと思いました。
まさにその通りで、それこそがこのアルバムが生まれたきっかけなんだ。ハワイのブルーノートでサウンドチェックのあとに僕と Yuki の2人でセッションしているときに、 José と Taali が「これをアルバムにするべきだよ、まだアルバムの編成についてまだ決まっていないなら、2人でやるべきだ」って言ってくれたんだ。僕とYuki はすでに音楽的な関係を築けているし、感覚的にも相性がいいからって、José と Taali は言ってくれた。
それをうまく表現する方法を追求していった。大体が1回目か2回目のテイクで録れたものなんだ。夢中になって演奏しているうちに Yuki が思いついたクレイジーなことを、そのままやってみようって進めていって、それをアルバムのかたちにまとめたんだよ。
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