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interview Àbáse "Awakening":ベーシストが僕を見て「Sun Ra!」とだけ言ったんだ

ハンガリー人のアバセはずっと旅をしているようなアーティストだ。ハンガリーでの活動を経て、ブラジルに渡り、アフリカ系ブラジル人のコミュニティに入り込んで音楽を作ったと思ったら、ベルリンに移住し、また新たな音楽を模索し始めた。

当初、彼の名前が局地的に話題になり始めたころ、『Invocation』のアフロビートの印象があった。

ヨーロッパから現代ジャズを経由した謎のアフロビート・プロジェクトが出てきたと思っていたら、オーストラリアのドラマーのZiggu Zeitgeistとのコラボによる人力ビート系のアルバム『Body Mind Spirit』をリリースした。

かと思えば、前作『Laroye』はブラジル北東部のアフリカ系ブラジル人たちとの交流を形にしたようなアルバムで、アフリカ系ブラジル人の伝統音楽からバイレファンキ、近年のブラジルのラップミュージックまでをぶち込んだ意欲作だった。

そんな全く異なるベクトルの作品を経ての新作『Awakening』はひとことで言うと現代版のスピリチュアルジャズだ。現在、ヨーロッパのジャズシーンの中心地になっていて、ヨーロッパ中から実力のあるミュージシャンが集まっているベルリンのシーンを拠点にしているアバセが自身のバンドを結成し、生演奏の魅力をがっつり詰め込んだ。アバセらしいクラブシーンでのスピリチュアルジャズの再評価文脈をもしっかり織り込んだサウンドが特徴で、DJからの需要にもきちんと応えている。今のジャズでこういった配慮がなされている音源は他にない。

しかも、そこには偶然参加してくれることになったサン・ラ・アーケストラのメンバーがいたり、パット・トーマスやオーランド・ジュリアスといったアフロビートの巨匠を支えるパーカッション奏者も名を連ねている。アバセらしい出会いや交流をそのまま反映させたフレキシブルな制作プロセスもここにはある。

ここではこの『Awakening』というアルバムの物語をシェアしようと思う。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:木村善太 | 協力:ディスクユニオン

◉『Awakening』のコンセプト

◎バンドの一体感に溢れ、ライブかつアナログな志向

――『Awakening』の音楽的な方向性について聞かせてください

前作『Laroye』は録音も一人ずつ別録で、PCで編集した部分も多く、“プロデューサーによる作品”だった。でも、今回はそうはしたくなかったんだ。今作を録音した時は、パンデミック後の影響もあり、新しい生活が始まり、自分にとって転換の時期。ちょうど再びジャズをよく聴くようになった時期でもあった。他にも急に90’sヒップホップばかり聴きたくなったりもしていた。一年半以上はジョン・コルトレーンブルーノートのレコードを聴きたい時期が続いていた。その影響もあり、Ableton Liveなどは一切触らずに、余計な編集も施さない、バンドとしての一体感に溢れた、よりライブでアナログ志向な作品を作りたくなった。前作では多様なスタイルの楽曲を多く収録したけど、今回はもっと作品として一貫したものを作りたかったんだ。

――タイトルの『Awakening』に込めたものについて教えてください。

タイトルは簡単に言うと私の娘の存在からインスピレーション。赤ちゃんはお腹の中にいる時点ですでに音が聞こえている。そして、彼らが外の世界に出てくるとき、彼らはこれらの音を認識する。だから、馴染みのある音を聞きかせると、赤ちゃんを落ち着かせることができる。

娘の年連を数えるときに外に出てきて生まれてからの年数と人生を数え始めるんだけど、子宮の中でも独自の現実を持っていたわけだから、外に出た時には別の次元のレイヤーが追加されたようなものなんじゃないかなと。なぜなら、子宮の中は暗くて、ビジョンがなく、ただ音や感情があるだけで、私たちの視点から見ると非常に制限されているから。

そんなことを考えていたら、死は子宮から世界へと移行するのと同じように、次のステップに進むようなものだと思うようになった。僕らは、この人生の後、より高次元のものへと移行していくってことなんじゃないかなって。

僕にとってこのタイトル『Awakening』とは、基本的に“誕生”のことを意味する。当初、原題は「Birth」か「Awakening」のどちらかで悩んだ。それは赤ちゃんの最初の息づかいのような、向こう側に行くような感覚。光を追いかけるような感覚。人生に関する異なる視点に気づくこと。それに気づく瞬間も表しているんだ。

◉スピリチュアルジャズからの影響

◎影響源:ジョン・コルトレーン

――『Awakening』でやろうとした《ジャズ》の部分について聞かせて下さい。

間違いなく、マッコイ・タイナーエルヴィン・ジョーンズジミー・ギャリソンとの古典的なジョン・コルトレーン・カルテットの影響は受けている。

一緒にレコーディングに来てくれたベーシストのErnő Hockは、僕よりもそのあたりをディープに掘り下げている。今回、彼がこれまでの僕には難しかったようなレコードを教えてくれた。例えば、後期のコルトレーンの『Stellar Regions』。カルテットのメンバーをラシッド・アリ&アリス・コルトレーンに変えたころのものだね。それらが今の自分にはしっくり来た。特にコルトレーン・カルテットの最後の録音『Meditations』。本当に美しいんだ。彼らがほとんどすべての物事から逸脱しているとき、その音は特に美しく浮遊している。とても刺激的なんだ。

他にもエルヴィンとマッコイによる『Illuminations』もとても美しい。Impulse! Recordsの作品をたくさん聴いたかな。

◎影響源:マックス・ローチ、ストラタ・イースト、ピート・ラロカ

――確かにそんなサウンドですね

あと、サン・ラにまたハマったし、マックス・ローチアビー・リンカーンも聴き始めた。マックス・ローチの『Members, Don't Git Weary』もよく聴いて影響を受けたね。

そうそう、フレディ・ハバードファラオ・サンダースもよく聞いた。

他にはストラタ・イーストトライブブラック・ジャズといった小さなジャズ・レーベルのムーブメント全体からインスピレーションを受けているのも欠かせないね。コミュニティの感覚と、勇敢で大胆なアレンジが素晴らしいんだ。

――スピリチュアルジャズですね。

そうだね。もうひとりあげるならピート・ラロッカ。彼はブルーノートに『Basra』を残しているのが有名だよね。実はもう一枚の『Turkish Woman in the Bath』もすばらしいんだ。チックコリアが参加しているんだけど、ピアノには不気味なディレイが入っていて、かなり奇妙。演奏は自由でかなり抽象的で、それがどこかダーティでユニークなタッチに聴こえたりもするんだよね。

◎影響源:現代のスピリチュアルジャズ

――けっこう古いジャズからの影響が大きかったと。

でも、ナラ・シナフロからも大きな影響を受けてるよ。彼女は(この取材の)2日前にベルリンで演奏したばかりで、僕らは彼女のためにオープニングを飾ることになった。フローティング・ポインツファラオ・サンダース、そしてナラ・シナフロは、人々が息を呑むような音楽を作ってるよね。特にFloating Pointsのレコードの始まり方が素晴らしいんだ。彼のレコードの冒頭の小さなスペースを聴いたときに、いろんなことを考えさせられるような、ある種の声明のようなものを感じたんだ。本当にクールだよ。そして今、アンドレ3000シャバカ・ハッチングスがやっていることからも感じるものがある。それらからインスパイアされた部分もあるよ。

◉ハンガリーの民族音楽からの影響

――スピリチュアルジャズとそれとも繋がりのあるアンビエント的なジャズが主なインスピレーションだったと。

あと、ハンガリーの民謡にインスパイアされたジャズもインスピレーションだね。

ハンガリーでは、60年代にハンガリーのジャズ・ミュージシャンが民族音楽を解釈するムーブメントが起きていた。ハンガリーは自分たちの民俗の伝統への意識が強い国なんだ。1900年代初頭には、バルトークコダーイのような人たちが主導して、学校や小学校で自国の民謡を学校で教えるための音楽改革のようなものがあった。だから、ハンガリーの学校にはデフォルトで民俗音楽を学ぶ環境がある。これは本当に素晴らしいことだよね。ま、自分が子供の頃はそれを退屈に感じていたけど、大人になった今はそれがどれほど素晴らしいことだったのかがわかる。そして、それらは特別な方法で教えられていたんだ。ハンガリーはクラシック音楽の伝統も強くて、僕らはハンガリーの民謡とクラシックが融合した音楽を学ぶことができた。民族の伝統を実装したクラシック音楽をね。

だから、ハンガリーでは誰もがデフォルトで民族音楽を理解しているし、そこにフォーカスしたジャズ・ミュージシャンがたくさんいるんだ。サックス奏者のミハイ・ドレシュ(Mihaly Dresch)は70年代後半にレコーディングを始め、今も現役だ。ピアニストのヤノシュ・ゴンダ(Janos Gonda)も素晴らしい。彼らはサイケデリック・フォークやロックの影響を受けていたし、そこにはモダン・フォークのアーティストなどジャズ・ミュージシャンじゃない人たちも加わって、即興演奏をしていたムーブメントがあったんだ。僕はそんな音楽も掘り始めていたから、そこからの影響も入っているよ。

「Gyaszba Borult Isten Csillagvara」がハンガリー民謡のカヴァー

――ジャズ以外だと、あなたの音楽に欠かせないアフロビートも含まれていました。

アフロビートの影響を受けた曲は「Orbit Sirius」「Menidaso」だね。

――全体的にはジャズがベースにあるけど、そこに様々な影響が入っていると。

今回はすごく“ライブ”であり、“生演奏”みたいな感じなんだよね。その中にも少し形を整えているトラックがいくつかあったり、さらにオーバーダブをしているものもいくつかある。それらはよりグルーヴィーな感じがするんだ。スピリチュアルジャズにインスパイアされた曲に関しても、アフロビートやクラブミュージックの影響も非常に強いんだ。

◉クラブ・ミュージックからの影響

――なるほど。

『Latoye』を作っていて面白かったのはブラジルのクラブ、バイレファンキ、そして、カンドンブレの体験がスピリチュアルなものとして入っていること。僕にとってはクラブミュージックもスピリチュアルなものになり得るって思ったから。だから、クラブミュージックが影響を受けた曲を『Laroye』にたくさん残したのは、僕にとっては理にかなっているし、みんなにもこの感覚を持ってもらいたかったからなんだ。

そして、僕らはそれを探求し続けている。新作だったら「Destruction Everywhere」では、非常に強力なベースラインとドラムの研究を反映したものなのでクラブでもプレイできる曲なんだけど、一方で僕はその中で即興演奏をしている。

あと、アルバムの最後の「Shango」はスピリチュアルなヨルバの曲の演奏だけど、その下ではシンセパッドによる強いキックが鳴っている。僕はミキシングをしながら、アンダーグラウンド・レジスタンスのサウンドについて考えていたんだ。つまり僕らが演奏したものをクラブでもプレイできるようにミキシングした曲ってこと。2つの世界が混ざり合っているんだ。

――他にもクラブミュージックにインスパイアされた曲はありますか?

例えば、Rhodesで弾いているのアルペジオにはテクノのリファレンスが入っている。それを何曲かにこっそり入れている。例えば、アンビエントな「Bloom」には微妙にアルペジオを入れている。最後の方でしか聞こえてこないけどね。「Destruction everywhere」で微かにシンセのレイヤーが入っている。家でかけて聴いていてもわからない程度でね。でも、わかる人はわかると思うよ。

意図的にクラブでも演奏できるようにミキシングした曲は、途中で大きく変化して、長いソロに入る「Orbit Sirius」だね。強いローエンドとフロア映えするサウンドを持ってる。「Orbit Sirius」「Shango」は、ミキシングの面で直接的にクラブミュージックの影響を受けている曲だね。

◉バンドメンバーのこと

――アルバムに参加したミュージシャンについて、彼らがどのように貢献したか、または化学反応はどのようなものだったかについて教えてください。

アルバムのコアコンセプトの1つとして、このアルバムは、(ベルリンに移住してから結成した)新しいバンドを表現することだった。

例えば、このバンドにはナイジェリア生まれのガーナ人パーカッションのエリック・オブス (Eric Owusu)というマスタードラマーがいる。彼は17歳の時にオーランド・ジュリアスと同棲していたんだ。オーランド・ジュリアスのアルバムに参加してるし、パット・トーマスKwashibu Area Bandのコア・メンバーでもある。近年はパット・トーマスのリバイバル・バンドをやっている。もはや巨匠のような存在だ。

それから、Ziggy Zeingeistは欠かせない、ベルリンに来た頃から彼とは一緒に活動している。僕のオリジナル・ベーシストのAndras Koroknayも参加している。

彼らを含むコア・グループをスタジオ・ブルワリーに集めてライブでレコーディングしたんだ。つまり、すべて同じ部屋で、同じテイクで演奏されたもの。その後、僕のシンセ・パートとエリックのヴォーカルをオーバーダビングしている。あと、数曲でユカ・スネルのヴァイオリンをオーバーダブしてる。

◉「Sun is Away」とサン・ラ・アーケストラ

――へー。そのバンドでのセッションがこのアルバムの肝だと。

個人的にアルバムの中で一番好きな曲は「Sun is Away」。完全に即興で作られた曲だからね。最初のコードを弾いて、ハンガリー語でCマイナーをベーシストに伝えてたんだ。彼は「オーケー、そうだね」って言って、そこからただみんなで演奏したんだ。あの曲でベーシストが僕に突然「Sun Ra!」と言ったんだよね。

セッションの3日目の深夜にジャムってみたんだけど、ひどいものだった。だから別のことも試したんだけど、それもイマイチでね。みんな疲れていたし、ビール飲んでて酔ってたんだよね。だから、僕はもう家に帰ろうって思ったんだけど、なぜか誰も帰りたがらなかった。そんな時にベーシストが僕を見て、「Sun Ra」とだけ言ったんだ。そして、彼は演奏を始めた。すごくクレイジーなんだけど、その瞬間、曲が現れたような感覚だった。何もないところから「Sun is Away」が現れたんだ。しかも、それは僕が達成したかったものに最も近いものだった。誰もアイデアやコンセプトやスケッチなどを持っていなかったから、音楽にエゴは全くなく、みんなが感じたことをそのまま演奏し、みんなで誰かの演奏に反応したんだ。

そして、この録音をしてすぐに声が聞こえてきた。僕に影響を与えたクリフォード・ジョーダン『Glass Bean Games』のイメージだ。60~70年代には曲にあわせて何度も詠唱するようなジャズがあったんだ。例えば、ジョン・コルトレーン”Love Supreme”だったし、クリフォード・ジョーダン”John Coltrane”と詠唱していた。それはサンラっぽいことでもあるんだ。サン・ラもそういったヴォーカルを何度も採用していた。レコ-ディングの後、僕はすぐに”Sun is the way”って言葉を書いたんだ。でも、後から”Sun Is Away”に変えたんだけどね。次の日にたまたま僕らと同じスタジオにいて、別の部屋で自身のアルバムの制作していたウェイン・スノウに頼んでヴォーカルを録音したんだ。

――いろんなインスピレーションが湧いてきて、導かれるように作ったと。

そこで終わりじゃない。親友でDJのベンが連絡をくれて「1週間後にサンラ・アーケストラのライブがベルリンであって、アーケストラのメンバーの何人かがこのスタジオに来るから、一緒に何かやらない?」って言ってくれた。僕はヴォーカルを入れたかったからもちろんやりたいって答えたよ。

――すごい偶然!

それでアーケストラのメンバーのノエル・スコット(Knoel Scott)セシル・ブルックス(Cecil Brooks)「Sun is Away」を聴いてもらって、この曲全体がサンラからのインスピレーションで、即興で作ったって経緯を伝えたんだ。彼らはそれをすごく喜んでくれた。特にノア・エスコットはドープだと言ってくれたんだよね。そして、僕はコンセプトを説明し、ヴォーカルとホーンが欲しいって伝えた。僕は彼らをこの曲に導くことができたんだ。信じられないよね。

しかも、スタジオにはドゥママも一緒にいたんだ。ドゥママは南アフリカのシンガーで、ベルリンのシーンで活躍している。彼女はサンラ・アーケストラから大きな影響を受けていた。だから、彼女にお願いしたんだ。彼女はバックグラウンド・ボーカルを担当してくれて、高音域の声を入れてくれた。

最終的に彼らはアルバムで唯一のフィーチャリング・アーティストになった。これはピりチュアルな体験だったね。サンラが参考になったことから始まって、最後にはアルバムのベストトラックが僕らに授けられたんだ。

――音楽的には即興だし、ゲストは偶然参加した人だったりする。奇跡のようなアルバムですね。

そうそう、もう1人、本当に誇りに思っているゲストがいる。それが娘のフローラ。レコーディングの2週間前に、Abletonですべてのデモを作って、アイデアをまとめて、何がうまくいき、何がうまくいかないかを精査していた。そして、「Shining」をチェックしたら、ほとんど完成しているように思えた。デモは録音とほぼ同じ。僕がプロデュースしたものを、あとからライブで演奏したんだ。自宅でこの曲を作っていたら、彼女が僕のところに来て「マイクをくれ」って言ってきた。僕は時々、彼女に歌ってもらって、その声にエフェクトをかけたて遊んだりしていたから、彼女はマイクを気に入っていた。彼女はダイナミックマイクを持って「アー、イヤァ!」って叫んだんだ。それは僕らが自宅でよく一緒に聴いていたThe Metersのファーストアルバムのイントロ部分だった。彼女はそれが大好きだったからね。彼女はその曲のテンポに合わせてそれをやってくれた。それは僕らがレコーディングした音源のテンポとほぼ同じだったから、正しい位置に置くだけでよかった。すごいよね。

フローラは純粋な喜びから高い叫び声をあげていて、それは鳥の鳴き声とかダブサイレンのようにも聞こえる奇妙な音なんだけど、このアルバムにとってそれは完璧なものだったんだ。だから、僕は彼女に許可をとって、これを収録したんだ。

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