column:ステラ・コールとレイヴェイのこと(6,900字)
ステラ・コールの音源を聴いて、TikTokを見て、これは面白いなと思ったので、取材をすることにした。その辺の話は年始の記事でも書いた。
とはいえ、音楽的にはゴリッゴリの「ジャズ」。しかも、1950年代的なサウンド。ロック系、もしくはオルタナティブな音楽を好む人たちからしたら唾棄すべき「保守的」な音楽だと思われそうなものだ。なので、自分でもどういう人が彼女に関心を持つのかさっぱり想像はつかないのだが、TikTokやSpotifyでは80万人を超える人が彼女がフォローしているわけで、2020年代だからこそウケる要素は確実にどこかにあるわけだ。
そんなことを考えながら僕は以下の取材を行った。すごく面白かったし、貴重な発言がいくつもあった。その中でも僕が特に興味深いと思ったポイントを解説したい。
◉ジャズではなくミュージカル映画
注目は冒頭だ。
そもそも彼女が最初に惹かれたのはミュージカル映画で、ジャズに惹かれたわけではなかったこと。その後、ジャズの魅力に気付くわけだが、今の彼女の中にも「音楽」ではなく、「ミュージカル」への関心が強くあることはこの取材でも明らかだった。
だから彼女が名前を挙げるのはジュディ・ガーランドとバーブラ・ストライサンド。「歌」ではなく、物語を語ることの中に「歌」がある「ミュージカル」のフォーマットに惹かれ、その中の主役に憧れたということ。
エラ・フィッツジェラルドに関して「残念ながらエラ・フィッツジェラルドがミュージカルに出ることはなかったけど、もし出ていたらきっと素晴らしかっただろうなと思う」なんて語る人はなかなかいないだろう。エラを見る視点がそもそも違う、ということだ。
つまり、彼女のアルバムも「異なる視点で聴くといい」ということだろう。「ジャズのアルバム」として聴かないほうがこのアルバムでやろうとしていることが見えてくるということ。
このコンセプトを知ってから聴こえ方が変わってきた。
◉アラン・ブロードベントを起用した理由
そこに起用されたアラン・ブロードベントという人についても説明したほうがいいだろう。彼はピアニストとして素晴らしいが、ここでは編曲に着目するといいだろう。
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