何者にもなれない人々
1年ほど前だったか、悪名高い西野亮廣の映画「プペル」の台本付きチケットを80枚分購入した意識高い系の人が話題になった事があった。
彼が今どうしているのかは知らないが、80プペル以前もアムウェイや環境などのマルチにハマり、勢いで会社を辞めた後、土木作業や農業のアルバイト等で食い繋いでいるという、社会のありとあらゆるいかがわしい商売のカモとして生まれてきたような人だった。
「自分は特別な何者かである」「自分は他者より明らかに優れている」こうした幻想は10~20代の野心ある青年ならば誰しも抱くものかもしれない。
そしてそれを実現したいと思った時、特別な才能を持たない者はどうするのか。
彼らはマルチ商法やオンラインサロンといった誰かが作ったシステムの上に乗っかり、華々しく活躍している主催者に近づいたり、同じく才能を持たない意識高い系の人といっとき盛り上がったりする事で自分は特別なポジションにいると錯覚し、何者でもない自分と理想とのギャップを埋めようとする。そして何かを生み出すような行動をしないケースがほとんどだ。
中には、起業はしているが概ね上手くいっているとは言い難い人も含まれる事もある。そして沈みかけのビジネスを抱えながら、成功者とされるインフルエンサーに縋りつき、本来ならビジネスに回すべき資金をオンラインサロンやマルチに投入してしまう。
堀江貴文の「多動力」という本に代表される、成功者はパワフルでいくつもの事業や活動をしているものだという自己啓発業界の定説があるのだが、あれを真に受け、本業をおろそかにしていろんな活動をやりたがってしまう人が後を立たない。
多動力というのは半分は本当だが、半分は嘘である。
当たり前だが、ひとつの事業に成功すれば大小様々なビジネスや投資、遊びに誘われる事が多くなり、人付き合いも含めて多動にならざるをえない。
もちろんそうした話は一切断り、ひたすらひとつの仕事だけに邁進する人もいるだろうが、そういう人の事業はそれほど拡大せず、また、インフルエンサー型経営者に憧れる人の見本にはならない。
マルチの人がよく、セブンポケットという「本業副業含めて7つの収入源を確保せよ」という話をするのだが、このセブンポケットも多動力に通じる話だと思う。しかし基本は「軸になる収入源を確保した上で副業をしよう」という話であり、とりあえずなんでもいいから色々と興味のあること全てに手を出せという話ではない。
凡人がたくさんのものに手を出しても、すべてやりきらず自然消滅的に終わるのがオチだろう。
余談だが、私は肩こりがかなりひどいので、月に1度はマッサージを受けに行くのだが、10年ほど前に通っていた店のオーナーは達人と言えるような人だった。
しかし、おそらく商売がそれほど上手くはなかったのだろう。
一人で小さな店を回しており、家賃を削るために店の端で生活しているらしかった。
これほど実力があれば、もっと他の展開も出来るだろうに…と思いながら通っていたのだが、ある時期から急に店の電話が繋がらなくなりどうも廃業した様子だった。
この人は廃業する少し前からとあるIT系インフルエンサーに熱狂し、週末に夜行バスで東京へ通うほどだったらしい。
もしかしたらそのまま勢いで東京へ進出したのかもしれないが、おそらくもうマッサージ師としての仕事はしていないのだろう。スーパーヒーラーとしてブログやSNSをしていたのだが、今はもう全て消えているのだった。
本当に実力はあったけどな……と今でも時折思い出す事がある。
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