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小箱の中身

僕はお母さんのおじいさんに一度だけ会ったことがある。
小学1年生の時だった。
その時「これを預かっておいてくれ」と小さな箱を渡されたのだが、それっきりおじいさんと会うことはなかった。
亡くなったという話を聞いたような気がする。

その預かった箱が机の引き出しから出てきた。
しまい込んでいたことをすっかり忘れていたらしい。

その箱は紙製で四角く、藍色で薄くストライプの地模様が描かれている。
両側の側面から黄色い紐が出ていて、上面で蛇が絡まったように複雑に結ばれている。

僕は持ち上げてみた。
全体の重さは僕の使っている筆箱くらいだ。
重さは偏っておらず、どこも均等に同じ重さだ。

振ってみた。
音はしない。
空なんだろうか?
中身が隙間なく詰まってるんだろうか?

定規で箱を計ってみた。
上面は縦10cm×横7cm、側面の高さは9cm。

何が入っているのだろう。
何が入れられるだろう。

目の前にある消しゴムを計ってみた。
縦2cm、横5cm、高さ1cm。
2cm×1cmの面を下にして縦に並べると消しゴムは底に35個並ぶ。
そしてまだ空いている高さ4cmの空間に1cm×5cmの面を下にして並べると、残り28個並ぶ。
合計63個が入る。
他の並べ方も考えてみたが、この並べ方が一番消しゴムが入るようだ。
箱の体積10cm×7cm×9c=630㎤は、消しゴム63個の体積2cm×5cm×1cm×63個=630㎤と等しいので、これ以上消しゴムを入れることはできない。

だったら、鉛筆は?
今僕が使っている鉛筆は12cm。
このままでは入らない。
斜めにしたら入るかな?
直角を挟んだ二辺10cmと7cmを持つ直角三角形の斜辺の長さ√149。
√149は約12.206cm。
斜めにしたら鉛筆は箱の底にギリギリ入るんだ。

じゃあ、ノートは?
ノートの大きさは25cm×18cmなので、40%の大きさに縮めるとノートは10cm×7.2cmになり箱の底面に入る。
そのままだったら入らない。

液体だったら?
箱の体積は10cm×7cm×9cm=630㎤。
水を入れたとしたら、およそ630gの重さになる。

このあいだ授業で聞いた重たい金属タングステンだとどうだろう。
タングステンの比重は0.0193g/1㎣らしい。
ということは、100mm×70mm×90mm×0.0193g/1㎣=12,159g
タングステンを入れると、この箱一つで約12kg以上の重さになるんだ。

じゃあ、地球を入れようとするとどうなるだろう?
地球の直径は12,742km。
cmに換算すると、12,742km×100,000cm=1,274,200,000cm。
箱の一番短い辺は7cm。
1,274,200,000cm÷7cm =182,028,571.42…。
ということは、約180,000,000分の1(1憶8千万分の1)の大きさにすると、地球はこの箱に入るらしい。
う~ん、数字が大きすぎてよく分からない。
地球が大きいということだけよく分かった。

じゃあ、小さなもの、水素原子だとどうだろう。
水素原子の直径は0.000,000,01cm。
縦10cm×横7cm=70㎠の箱に側面には、7,000,000,000個(70憶個)の水素原子が並ぶ。
箱の高さは9cmなので、縦に900,000,000個(9憶個)が積み上げられる。
70憶×9憶=640憶。
こっちはも数字が大きすぎて分からない。
水素原子が小さいことだけよく分かった。

僕はお父さんにメジャーを借りて駐車場にある軽自動車を計ってみた。
部屋に戻って計算をしてみた。
車の長さ約3.4m×幅1.5m×高さ1.6m。
3.4mは3400cmなので、約30分の1の大きさにすると箱に入るようだ。
地球や水素原子に比べて、車だと想像ができる数字だな。

で、箱の中身は何だろう。

その時、「お昼ご飯できたよー」とお母さんの声が聞こえた。
台所からはケチャップライスのいい香りがしていたので、お昼ご飯はオムライスだろう。
オムライスだったら二人前くらい箱に詰められるかななどど考えながらお昼ご飯を食べた。

お昼ご飯のあと部屋に帰ると、机の上の箱はそのままだった。
中身は何だろう。

僕はもう一度振ってみて、机の引き出しの奥にまたそっとしまった。

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