旅で知ったビールの美味しさ/旅とビール(2)
旅とビールの思い出第二弾。今回は、旅先で出会ったビールの味を振り返ります。noteを一緒に作っているMihokoとNorikoと一緒に飲んだビールの思い出も。(by Shoko)
ビールに目覚めた夏のギリシャ
子どもの頃、親戚のおじさんたちが美味しそうに飲んでいた瓶ビール。キラキラした黄金色の液体はさぞ美味しいのだろうと思っていたが、大学生になって初めて飲んだビールは、ちっとも美味しくなかった。二十代の頃はアルコールに弱くて、ビールをコップ半分も飲まないうちに顔が赤くなっていた。
ビールの美味しさに目覚めたのは、たぶん夏のギリシャだ。エーゲ海の島の一つに滞在していた時のこと。ビーチのそばに小さなタベルナ(食堂)があって、海を眺めながらシーフードをつまみ、ビールを飲んだ。冷たく苦味のある液体と炭酸が喉に心地よい。
苦いだけだったビールを美味しく感じるようになり、私も立派な大人になったのだろう。ギリシャのビール「Mythos」の緑のボトルとラベルの文字を思い出す。
イギリスのパブでビール
イギリスでは、パブで飲むビールの美味しさを知った。カウンターで好きな銘柄を頼んでグラスに注いでもらう。「パイント」という単位も覚えた。イギリスとアメリカでは量が違うらしく、イギリスの1パイントは568ml。量が多いので、ハーフパイントを選ぶことも多かった。
イギリスに住んでいるMihokoが好きな「ステラ(Stella Artois ステラ・アルトワ)」というビールの名を最初に覚えた。日本でよく飲まれるビールのタイプ、ラガービールだ。ところがこれはベルギーのビールだということを後から知った。茶褐色のエールや黒ビールは、ちょっと高めの温度でゆっくり、ちびちび飲むらしい。まろやかな味の小麦のビール、柑橘系のフレーバーやフルーツビール。ビールにもいろいろな種類があることを覚えた。
イギリスの夏は日が長く、遅くまで明るい。日本と違って湿度が低いから、過ごしやすい。イギリスの美味しいものは「パブめし」だとMihokoに教えてもらい、大きなジャケットポテトやシェパーズ・パイ、フィッシュアンドチップスなどと一緒にビールを飲んだ。
ロンドンで、さまざまな食料品が並ぶマーケット「Borough Market (バラ・マーケット)」に行った時、周辺のパブで昼食をとるロンドナー(ロンドンっ子)たちの姿を見かけた。シャツにネクタイ姿の男性が、屋外のテーブルでビールを片手にランチを食べている。昼休みにビール!いいなあ、なんて思いながら眺めた。
私の勘違いだったらいけないのでMihokoに尋ねると、昼休みに1杯くらい軽く飲むことはあるという。
ロンドンのパブには、ちょっとおしゃれなフードメニューもあって、ひよこ豆のペースト「フムス」をピタパンにのせ、タワーブリッジを眺めながらビールを飲んだ。川沿いの小さなパブ、緑の芝生がきれいなテラス席。ビールと一緒に眺めた景色も思い出す。
ドイツのビールとソーセージ
ビールが美味しい国といえば、ドイツもその一つ。ビールの聖地と呼んでもよさそうなミュンヘンに行ったことがある。ビールの祭典「オクトーバーフェスト」が開かれる町だ。日本でも「オクトーバーフェスト」の名をつけたイベントが開かれるようになって、ドイツのビールや料理を目にする機会も増えたけれど、旅行した当時はそんなイベントをまだ体験したことがなかったので、何かもが珍しかった。
1リットルくらい入るような巨大なビールグラスやジョッキ。歴史のあるビアホールでは、大きなテーブルで、観光客も地元の人も、グラスを手に楽しそうに飲んでいる。クリスマスマーケット見物が目的だったので、12月の旅だったが、冬でもビールをよく飲んだ。醸造所直営のビアレストランもあり、店ごとに置かれているビールの種類も違い、グラスにも銘柄が描かれていた。
ビールと一緒に味わいたいのは、もう一つのドイツ名物ソーセージ。と言いたいところだけれど、旅行中はあまりビールと一緒には食べなかった。クリスマスマーケットでは、ソーセージの屋台も見かけた。
地域ごとに特徴的なソーセージがある。ニュルンベルクのソーセージは、小指くらいの小ぶりのもの。炭火の上でくるくる転がされながら焼かれていて、パンに挟んで売ってくれる。
パンフレットに書かれた内容をメモしたものが出てきた。
「本物のニュルンベルクの焼きソーセージは正確に23グラム。小指くらいの大きさで長さは7〜9センチ。なぜそんなに小さいのか。必要があれば鍵穴から通される。牢屋のドア、飲み屋のドア」
私の英語力で取ったメモなので意味不明。調べてみたら、外出禁止の時間に鍵穴を通してソーセージを売っていた、という逸話があるらしい。
ミュンヘンの名物は「ヴァイスヴルスト」という白いソーセージ。お湯に入った状態で出てきて、皮を剥がし、甘いマスタードをつけて食べる。傷みやすかったため午前中しか食べられなかったそうで、今でもその伝統を守っているお店も多い。そんなわけで、私もなんとか朝ごはんに一度だけ食べることができた。この時はさすがにビールは飲まなかったけれど。
両親と一緒に旅行した時に、ドイツ乗り換えの便を利用したことがある。空港での待ち時間の間に飲んだビールが美味しくて、さすがドイツだと感心した。父は学生時代にドイツ語をかじったからか、旅行の途中、ドイツに寄ってみたかったようだった。時間が足りないと選択肢に入れなかったことを、今ちょっと残念に思っている。ドイツの街で、みんなでビールを飲めたらよかった。
ローカルビールと出会う楽しみ
旅先では、その土地のビールを飲んでみる。私の両親は「とりあえずビール」派な人たちで、食事の初めにはだいたいビールを頼む。カナダ旅行でナイアガラに行った時、予約していた滝が見えるレストランでは、窓側の席は埋まっていて、滝が見えない席に通された。でも、分厚いステーキは父の気に入ったようで、今でもたまに話題に上る。カナダでの最初の夕食だったから、カナダのビールで乾杯した。
ホテルの部屋でテイクアウトした料理で食事を済ませよう、となった日にも、カナダの缶ビールを買ってきた。
Norikoと一緒に行ったハワイでも、ハワイのビールをいろいろと試した。初日はガーリックシュリンプと缶ビール。ベトナム料理店でビール、ホテルのオーシャンビューのバルコニーでもビール。ワイキキにあるクラフトビールの店に行き、飲み比べセットも楽しんだ。ハッピーアワーの時間帯で、まだ混み合う前にのんびりグラスを傾ける。二人して写真の練習も兼ねて、ビールを一生懸命撮影したのも懐かしい。
最近では、日本でも各地で個性的なクラフトビールが飲めるようになった。昔は「地ビール」と呼んでいたが、ちょっとクセの強いものが多かった気がする。福岡にある「ホテルオークラ福岡」には地下にビールの醸造所がある。私がクラフトビールの面白さを知ったのは、ここで飲んだビールがきっかけかもしれない。今年の夏に東京に行った時にも、友人が探してくれた新宿のビルの地下にある店で、そこでつくられているクラフトビールを飲んだ。
私が子どものころ、親戚と一緒に一泊の小旅行に行った。温泉に入って、大人はビール、子どもはジュース。お酒好きなおじさんたちの中には、朝からビールを飲む強者もいて、子どもながら驚いて見ていたのだが、だんだんその気持ちが分かるようになってきた。さすがに朝からは飲まないけれど、旅先で、あるいは休日の午後に、明るい光の中で飲むビールは開放的で、くつろいだ気分にしてくれる。
私は鉄道で長時間の旅をすることが少ないので、前回のNorikoの記事のように新幹線の車中ビールの経験はまだないけれど、旅先で一人でビールを飲んだことを思い出した。ギリシャの港近くのタベルナで、東京で泊まったホテル近くのレストランで。一人で食事をするのは苦手で、部屋で済ませることも多いのだけれど、外でビールを飲みたくなって出かけた。これもまた、大人になったということなのか、単に図太くなっただけか。
グラスに注がれた黄金色に輝く液体に、白くクリーミーな泡。お店で飲む生ビールって、なんであんなに美味しいのだろう。ああ、ビールが飲みたくなってきた。
(text:Shoko/ photos: Mihoko & Shoko) Ⓒelia
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