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夏のギリシャで蚊と格闘
子どものころから、やたらと蚊に刺される。刺された跡は、赤くなってぶわーっと腫れあがる。すぐに薬を塗らないと、いつまでもかゆみがぶり返す。そんなわけで夏の旅には虫除けグッズが欠かせない。
少しずつ秋の気配を感じるころだが、夏真っ盛りの暑い時期よりも、涼しくなってから蚊が現れるような気がするので、油断ならない。
ミコノス島のタベルナで
このnoteを一緒に作っているMihokoとNoriko、3人でギリシャのミコノス島に行ったときのこと。2人はあまり蚊に刺されない体質のようで気にしていなかったが、私は日焼け止めと一緒に虫除けスプレーを持参した。もちろん虫刺されの薬は必須。
ギリシャのタベルナ(食堂)では、屋外のテーブル席が人気だ。ミコノスのリトル・ヴェニスと呼ばれるエリアでは、海沿いにタベルナが並び、海を眺めながら食事を楽しむことができる。店に入り、海に面したテーブルを選び、席に着く。私はバッグから魚の形の携帯虫除け器を取り出し、そっと足元に置いた。乾電池式で、虫除け成分を出すのだ。
二人は面白がっていたが、私は大真面目だ。なぜ他の人と一緒にいても私ばかり刺されるのだろう。Norikoはバッグの中に入れていた携帯醤油を取り出す。村上春樹さんの『遠い太鼓』という本に書かれていたエピソードに倣って、焼いた魚にささっと醤油を垂らす。日本人の席には謎の黒い液体と魚の形の物体がある、と言われたりして、と笑った。
でもミコノスはカラリと乾燥した気候だからか、あまり蚊に刺されることはなかった。
郷に入っては郷に従え?
その後、2004年にギリシャを再訪し、あちこち旅して回った。考えてみたら、真夏のギリシャで過ごすのは初めてだった。アテネでは、なんとも強力な蚊に悩まされた。日本の蚊よりももっとひどく腫れて、いつまでもいつまでもかゆいのだ。
日本から薬は持ってきていたが、刺された跡の赤みがなかなか引かないので、ギリシャの薬を買ってみることにした。緑の十字が薬局の目印。「虫刺されの薬をください」と言いたいのだが、何と言えばよいか分からない。赤く腫れた腕を見せ、「itchy(かゆい)」と腕をかく真似をすると、チューブ型の薬を出してきてくれた。オレンジ色の背景に黒い虫の絵。なかなか効きそうだ。
お世話になっていた日本人女性Mさんに虫刺されの薬を買った話をすると、ギリシャの蚊にはギリシャの薬が効くだろう、と言われた。郷に入っては郷に従え、ギリシャの蚊にはギリシャの薬。日本の薬よりも効いている気がする。それでもかゆみがぶり返すので、何度も塗り直し、枕元に薬を置いて寝た。
エーゲ海の美しい島として名高いサントリーニ島で、Mihokoに教えてもらったホテルに滞在したときのこと。部屋には海を望む素敵なテラスがあった。でも私は蚊が怖くて、夜は窓を閉め切り、室内で過ごした。後から同じホテルに宿泊したMihokoは、テラスが気に入り、夜風に吹かれながらお酒を飲んだりして過ごしたらしい。素敵だ……。
ここもミコノス島と同じように乾燥していたからか、あまり蚊はいなかったみたいだ。一緒に泊まった友人Yに悪いことをした。
ロマンチック?なキャンドルナイト
ミコノスやサントリーニのあるキクラデス諸島を旅し、ギリシャの島は乾燥したところばかりなのかと思い始めていたのだが、西部のイオニア諸島は違った。日本に住む人にはおなじみの、じっとりとした湿度を感じる。
あれはケファロニアという島での出来事。バスの乗り継ぎがうまくいかず急遽、港の近くの町に泊まることにした。半地下みたいな部屋で、蒸し暑い。寝苦しい上に、耳元で「プーーーーン」という微かなあの音。蚊が飛び回る音がする。喉も乾いて夜中に目覚め、そのまま眠れなくなってしまった。
ケファロニアから、船でザキントスという島へ移動した。港からバスに揺られて街中へ向かう途中、柳の木があって驚いた。ミコノスやサントリーニのあるキクラデス諸島とは気候が違うのだろう。町へ着いて、その日泊まる部屋を探すが、エアコンのない部屋が多い。宿のオーナーは「涼しい」と言うのだが、部屋探しをする私たちは汗だくだ。Mihokoは暑さが苦手だし、私は蚊が怖い。やっとエアコン付きの部屋が見つかった。
キッチン付きの部屋だったので、滞在2日目は部屋で夕食を取った。冷凍ピラフとサラダ、マリネというメニュー。スーパーで見つけた虫除けの黄色い蝋燭に火を灯す。こんなものが売ってるくらいだから、蚊がいるんだろうねとMihokoと話す。エーゲ海の島ではあまり目にしなかった気がする。
テラスにいると、同じ宿に泊まっていたカナダ人男性から、「Romanticだね」と笑われた。飲みに誘われたが、翌朝早くからツアーに参加する予定だったので断った。ちっともロマンチックじゃない。
今でも夏の虫除け対策は欠かせない。魚の形の虫除け器は使わないまま自宅にあったのだが、型が古いので処分した。しかし昨年、また新しいものを買い、会社で足元に置いた。というのも換気のために開けた窓から、たまに蚊が入ってくるのだ。今年は事務所の場所が変わったからかあまり蚊は出ず(その代わり、なぜか時々蜂が入ってくる)、虫除け器は使わずに終わりそうだが、バッグにはスティック状の虫刺されの薬を入れている。
夏のフィンランドに行ってみたい、イタリアのヴェネツィアに行きたい、と前々から思っているのだが、ガイドブックに「蚊が出る」と書いてあったのを見て、ちょっと恐れている。
(Text:Shoko,Photos:Shoko&Mihoko)©︎elia
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