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アテネの野外劇場でオペラを見た夜

 ギリシャを旅していると、あちこちに劇場の跡があって驚く。小さな島にも、郊外の街にも、遺跡の中に劇場の跡が残る。夏のアテネで、歴史的な建造物でもある野外劇場でオペラを見た。古代のギリシャ人も、こうして舞台を楽しんだのだろうか。

ギリシャの夏は舞台の夏

 アテネのアクロポリスの麓、パルテノン神殿のそばに、ギリシャ最古の劇場の跡が残っている。酒と演劇の神ディオニソス(ローマ神話ではバッカス)の聖域に造られた劇場だという。パルテノン神殿を見学に行くと、眼下に劇場の跡が見えるので、写真に収めた。演劇の神様がお酒の神様であるというのもいい。

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 ディオニソス劇場のそばには、 ヘロデス・アティコス音楽堂(※)がある。パルテノン神殿の下に、二つの劇場跡が並んでいるのだ。

 夏の間、ペロポネソス半島にあるエピダウロスの野外劇場と、このヘロデス・アティコスをはじめとするアテネの劇場で、「アテネ・エピダウロス・フェスティバル」と題し、演劇やコンサートが上演される。2004年の夏、ギリシャに滞在したとき、ここで蜷川幸雄さんの演劇が上演されると知り、絶対見たいと思って、ギリシャに到着して早々にチケットを買いに出かけた。

04.6.28 アテネ (5)

 チケットオフィスで、日本人旅行者のGさんと出会った。会社を辞めて旅行中という20代後半の男性で、タイ、インド、ネパール、トルコを回ってきたのだという。日本人離れした雰囲気だったので、日本語で話しかけられて驚いた。アテネの街中をぐるぐる歩いていると、他にも日本人旅行者と出会った。後で一緒にご飯でも、と話したけれど、会えずに終わった人もいた。

野外劇場でオペラ

 翌日、Gさんと、彼がネットカフェで出会ったという日本人男性、Yくんと一緒に、 ヘロデス・アティコス音楽堂に向かった。この日はオペラが上演される予定だ。Yくんは20代前半の専門学校生。コイントスを2回して、別の街へ行くのをやめて、私たちと一緒に出かけることにした。

 この日のチケットは売り切れで、音楽堂の入口辺りでうろついていると、通りかかった女性から、スチューデントチケットを1枚、正規料金の25ユーロで譲ってもらえた。舞台を見たいと言っていたGさんに行ってもらい、私とYくんは、外で音だけでも聞こうと話していた。すると、劇場の関係者だろうか、一人のおじさんに話しかけられた。「私たちは日本人だ、チケットがないんだ」などと話すと、なんと音楽堂の中に入れてくれるという。そばにいた女性も「彼についていけばいいわよ」と笑っている。

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 おじさんの”顔”で中に入り、観客席の更に上の方に座らせてもらう。座席はなくて岩場みたいなところだったけれど、舞台がよく見えた。「初オペラが古代劇場なんて最高!」と日記に書いているのだが、私は少し勘違いをしていた。紀元前につくられた劇場で舞台を見ているつもりだったが、ヘロデス・アティコス音楽堂は、大富豪のヘロデス・アティコスがアテネ市に寄付したもので、161年の建築。観客席は新たに修復されたものだという。それでも1800年以上も前の劇場だ。

 休憩の間に、YくんがGさんを見つけ出した。スチューデントチケットで入ったはずなのに、なぜか一番いい席に座っている。私たちは最後まで観劇して会場を出た。たぶん言葉もわからないので意味は理解できなかったはずだが、雷の演出などもあり、屋外で響く歌声に感激した。

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真夜中のビール

 オペラは夜9時くらいから始まったので、終演は12時を回っていた。12時半を過ぎたころにタベルナ(レストラン)へ。真夜中、1時くらいからビール! カラマリ(イカ)のフライ、ムサカ、ナポリタンみたいなトマトソースのパスタ。ポークのスブラキ(串焼き)、ポテトで1人10ユーロくらい。一緒に写真を撮って2人と別れた。

 「面白い出会い」と日記に書き残している。日本に帰国後、GさんとYくんと3人で会おうと連絡をとった。確かYくんは来れなかったのだが、Gさんとは一度会えた。この旅ではいろんな人に出会った。

 オペラを見た日から数週間後、私は再びヘロデス・アティコス音楽堂の観客席に座っていた。今度はちゃんと、チケットオフィスで買った蜷川幸雄さん演出の舞台のチケットを握り締めて。この話は長くなるので、また改めて。
 昼間見たときには、歴史的建造物として眠っているようだったのに、観客が入り、舞台が始まると、劇場が息づきはじめる。古代の人たちも、きっとこうやって、舞台を楽しんだのだろう。

※イロド・アティコス、ヘロデス・アティクス、ヘロディス・アッティコスなどとも表記される
※「地球の歩き方 ギリシア」参照

(Text & Photos:Shoko)

 この夏、ギリシャは異常な熱波で各地で山火事が発生している。近隣の国でも山火事が起きている。一方、日本では長雨が続く。早く異常気象が収まり、これ以上被害が広がらないよう祈っている。

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elia
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