今年のBook of the year~Noriko篇~
2013年ごろから毎年密かに「Book of the year」を決めています。
密かに、って別に隠していた訳ではなく。心の中で表彰してひとり楽しんでました。対象は、その年に自分が「読んだ」本(出版された、ではなくあくまでも自分が読んだ本)。
今年はちょっと図々しく?こちらで発表してみることにしました。
フィクション部門:深沢潮「翡翠色の海をうたう」
今年もっとも「強烈なインパクト」をもたらした作品だ。
小説家を目指す30代女性が主人公。子どもの頃から勉強、受験、就職、恋愛となかなかうまくいかず、なんとか次回の文学賞で新人賞を受賞し、人生そのものを挽回したいと願っている。
そこで選んだ題材が、「太平洋戦争中の沖縄における慰安婦」。
ほぼ知識ゼロの状態で沖縄へ向かい、取材を開始する。
そしてこの本ではもう1人の女性の目線でも物語が同時進行する。朝鮮半島から慰安婦として沖縄に連れてこられ、地上戦に巻き込まれてしまった女性だ。こちらの物語は壮絶で読むのがつらい。
当初は大陸で、毎日のように数十人単位の男性の相手をさせられる。自分の気持ちにふたをしないと、おかしくなってしまいそうな状況が描かれる。
沖縄に舟でやってきてからは、激しい攻撃のなか、防空壕を転々として、奇跡的に生き延びるのだが、生きるか死ぬかという状況下でも、「朝鮮人」というだけで差別されるさまがつらい。
慰安婦目線で書かれた小説をたぶん初めて読んだ。とにかく、ショック、の一言。
作者の深沢潮さんは、両親が在日韓国人で、長らく出自を隠してきたという。そうした経験を背景に、在日コリアンへの差別問題を取り上げた作品が多数あり、いま興味を持って読み進めているところだ。
ノンフィクション部門①:ツレヅレハナコ「まいにち酒ごはん日記」
ツレヅレハナコさん、お名前は知っていたのだけど、今年初めて読んだ。
吉本ばななさんがエッセイでこの本を絶賛していたので、ばななファンとしてはそりゃ読むでしょう!(のちに、ばななさんとハナコさんの対談も実現した)
この本は、ハナコさんがインスタグラムに掲載していた日記を書籍化したもの。
ハナコさんはもともとは料理関係の書籍の編集者で、いまでは食まわりの記事を書く文筆家。雑誌での連載や著書多数。そして食関連のプロデュース業もこなしている。
まず、ハナコさん酒がめちゃめちゃ強い。出張帰りの新幹線でひとりで日本酒4合瓶あけるとか。ホムパ(ホームパーティー)を頻繁に開催し、8人でワイン10本とか。朝からチューハイ、ビールはもはや当たり前。
そして、胃がほんとうに丈夫なんでしょうね、とにかく食べる量もハンパない。2軒3軒4軒ハシゴも日常茶飯事。
なぜこの本が、こんなにも私の心にヒットしたのか?
「食べること」は、「生きること」。
食べることを大切にする人は、生きることを大切にする人だなと思ったから。
ハナコさんは、自分ひとりの食事も、妥協なく、食べたいものをちゃんと作る。にしても、生春巻き、自分のために作るのか!
ラザニア、自分のために作るのか!(しかもパスタは手打ち!)
インスタ用に作ってる人もいるかもしれないが、ハナコさんは違うような気がする。
1食もおろそかにすまいという執念。(ほめてます)1人で外食するときも、「入りやすいからここでいいや」ということはまずなさそうで、
ディープなカウンターの店であろうが平気で入り、名物料理をしっかり堪能し、お店の人と仲良くなったりしている。なんて広い世界を生きているのだろうか。
私自身、料理下手で、面倒くさがりやで、日々の食事は適当に流れてしまう。家族がかわいそうだなあと申し訳なく思っている。
1日3食、真剣に考えて、作って食べているハナコさんとは、人生そのものの濃度が違ってくるのではないか。この本を読んで考えさせられてしまった。
すっかりファンになって薬味の本も購読。(来年は料理頑張ろう……)
ノンフィクション部門➁:田中茂樹「子どもを信じること」
今年は小学生の息子がめちゃめちゃ荒れていた時期があって、心底、うんざりしていたときにこの本に出会った。
作者は医師で臨床心理士。4人の男の子の父親であり、ボランティアで長年近所の子どもたちとフットサルをやっている。
日々、不登校、摂食障害、リストカットなど、子育ての悩みを持つ親の
話を聞く中で、「子どもが本来持っている力を信じていれば大丈夫」と思うようになる。とにかく、子どもを信じて、優しく接すること、小言を言わない、家はくつろぐ場所にしてあげる、という内容が繰り返し書かれている。
子どもを信じる、という考え方について感心したのが、たとえば子どもが学校から帰ってきて床に服を脱ぎ捨てたままでも、そっと拾ってハンガーにかけておいてあげる。「片づけなさい」とは言わない。
そうするとその子が大人になったら自然と片付けられるようになる、と信じるというのか?
いや、そうではなく、子どもを信じる、というのは、「片づけようが片づけまいが、あなたは愛するに値する存在だ」と信じ続けるということ。
育児の目標は「生きることを好きになる」ことだと、作者はくりかえし書いている。
育児の目標ですか……。
学歴至上主義で生きてきてしまった私は、子どもの成績がとってもとってもとーっても気になる。できれば偏差値の高い学校に進んでほしい。そのほうが将来、なにかとスムーズに進むのではないか、と思ってしまうのだ。
でも…じゃあそのように誘導して勉強させたとして、「なにかとスムーズ」って何?本当に子どもは幸せになれるのか?と問われるとそれはまったくわからない。じゃあ「幸せって何?」というところに行きつくのだけれど、
「生きることを好き」な人は、基本的に幸せなのではないか。
そして今年一番「なるほど!そんな手が!」と思ったこと。
それは「アイスクリーム療法」。
「冷蔵庫が満杯になるくらいのアイスクリームを買ってきて、子どもに、いつ、何個食べてもいいんだよと言うだけ」
30個くらい、色々な味や形のものをまんべんなく買ってきて、冷凍庫を満杯にしておく。そして子どもに「アイスは食べ放題だよ」という。食事前だろうが夜寝る前だろうが一度に何個食べようがなんにも言わない。食べ終わった包み紙をそのへんに放置してもなにも言わない。作者が考案したものだそう。
・すぐに実践できる簡単でユニークな「子どもを元気にする方法」
・家の中を明るくする方法
・小言を言う親への認知行動療法 という位置づけだ。
子どもがめちゃめちゃ喜ぶのはもちろんだけれど、親も、「いかに日々小言を言っていたか」気づくらしい。
アイスクリーム食べ放題なんて、通常ならぜったいにあり得ないことを自分が子どもにやらせてる!という親の「限界突破感」もあるとのこと。
子どもが荒れて荒れてどうしようもなくて、家が暗いとき(一時期の我が家のような…)ぜひ試していただきたい。
(そして余談だが我が家はどうしたかというと、これが大失敗!
敗因は、とりあえず、と思ってアイスを6個しか買わなかったので、どれを食べるかをめぐり兄妹げんか勃発。中途半端すぎた~涙 かえって痛い目にあいました。やるときはびびらず大量にアイスを購入してください!!)
皆さまもぜひ、今年読んだ本でどれが一番印象に残ったかな?と
振り返ってみてください。
来年もたくさん本と出合えますように。
(Text&Photos : Noriko) ©elia
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