虫たちの午後 4
文:谷口江里也
画:海藤春樹
©️Elia Taniguchi & Haruki Kaito
君がもし
自分のことを嫌いになりそうになったら
とりあえず、この虫たちを見てほしい
そして、君がもし
誰かを好きになったら
いつかどこかで、この虫たちを思い出してほしい
ヒトはいろいろ
ムシもいろいろ
それぞれみんな一つの命
それぞれみんな一つの心
目次
1:鉢植え虫
2:ひらり虫
3:ひかり虫
4:風虫
5:吹雪虫
6:明日虫
7:虫たちの午後 について
1 鉢植え虫
出来ることなら花になりたい
虫はそう思い
まんまと思った通り鉢植えの花になった
幸い虫の羽根は
そんじょそこらにはない美しい色をしており
虫の目も、なかなか特色のある形をしていたので
花になってみると
それはそれでそれなりに
個性的と言えばいえなくもないような
一風変わった花にはなった
メデタシメデタシ
つまり虫は見事に願いを果たしたというわけだ
一見そう見え、また自分でもそう思い
あとは鉢植えの花として虫が余生を全うすれば
他の虫たちの熱い視線を浴びながら
見事思いを遂げて第二の人生を獲得した幸せな虫として
生きていけるはずだった
もちろん虫もそう思い
まんまと鉢植えの花になったあと
そうしてしばらくじっとしていたわけだが……
ところがしばらくして虫は手足がむずむずしてくるのを
どうにも我慢が出来なくなった
あたりまえだ
虫がそんなに長い間
じっとしていられるわけがない
そんなことは分かり切ったことだから
普通虫は花になろうなどととはしないのだ
なんだそういうことだったのかと
今さらながら虫は思い
いやはやマイッタ、などと言いながら
やっぱり虫に戻ろうと思い
鉢植えの花になったときにしたように
もう一度
手足を動かさずに想いを込めてじっとして
虫に戻るよう念じた
が、しかし何故か今度は
そうは問屋がおろさなかった
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