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鳥たちの夜 2

文:谷口江里也
©️Elia Taniguchi

目次
1:命に関する考察
2:脚に関する考察
3:孵化に関する考察


1 命に関する考察

かつて鳥がまだ大地を徘徊していた頃
命は死とともに、鳥にとって最も得体の知れないものの一つだった。
考えれば考えるほど、死は理不尽で不気味なものに思われた。
命は不可解で不確かなものに思われた。
だが鳥は、実際に空を飛べるようになってすぐ
そのことに対して自ら結論を出した。
すなわち死は大地のものであり、命は空のものだと決めたのだ。
なぜなら、そう覚悟しなければ
飛び続けることが出来ないと思ったからだ。

鳥が重力に逆らって空を飛ぶ生き物となってからというもの
鳥にとって死は極めて身近な存在となった。
羽ばたくのを止めた途端
風に乗るのを止めた途端、鳥の体は下へと落ちる。
試したことはなかったが、そうして地面に落ちれば
死ぬのはほとんど確実だった。
鳥はそれまでにいくつもの死を見てきた。
昨日まで元気に動き回っていた仲間の体が突然動かなくなり
二度と動かなくなる、それが死だ。
落ちれば、そのような体に自分もなるのだ。

だがそれにしても、死は一体いつから何をもって始まるのか?
動かなくなった体は、しばらくの間は
まるで眠っているように見える。
だがいったん死んだ体は決して目覚めることがない。
もしもそれが眠りであるなら、眠りには必ず終わりがある。
必ず訪れるその目覚めが死んだ体にはない。
一体何が違うのか? 
死と生を隔てるものは何なのか? 
そう考えたとき鳥はふと、命というものの存在を意識した。
それが体を動かしているのだと思った。

だから命が体を駆ることを止めたとき
あるいは何らかの理由で命が体から離れたとき死が訪れるのだ。
死とはおそらくそういうものに違いないと鳥は思った。
命が離れた体は、やがて大地の上で土へと還る。
だとしたら……
それでは体を離れた命はどこへ行くのか? 
こうして新たな問いが鳥に生まれた。
命とは一つの体に一つずつあるものなのか
それとも風のように、あるいは水のように
そこらじゅうを満たすものとしてしてあるものなのか……?

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