Youtubeの再生ランキングで見る~2024年の衆議院選挙でのネット世論~与党から見る編~
2024年10月27日の衆議院選挙は、近年稀に見る大波乱の結果となりました。自民党は単独で過半数割れという歴史的大敗を喫し、その余波は政界全体を揺るがしています。
中でも注目されたのが「裏金問題」の影響です。この問題は、選挙前の報道やSNS上で大きな話題となり、有権者の投票行動にも強い影響を与えたと言われています。
本稿では、「裏金問題」がどれほどの影響を及ぼしたのかを、YouTubeの再生ランキングを中心に分析し、その背景や波及効果を考察します
1.政治の不祥事とYouTube検索数の関係
政治スキャンダルが世論にどれほど影響を与えるのかを測る一つの指標として、YouTube検索数の推移があります。人々が特定の問題に関心を寄せている時、その関連キーワードがYouTubeでどの程度検索されるかは、注目度や世論の動向を知る上で非常に有用です。
以下は、過去に大きく報道された政治スキャンダルについて、YouTube検索数の動向を分析した結果です。
一般的なスキャンダルの検索トレンド
この事から多くの政治スキャンダルは、以下のような特徴を持っています:
1. 問題発覚時に急上昇
スキャンダルが報道されると同時に、関連キーワードの検索数が急上昇します。
2. 2~3か月で減少
検索数はピーク時の約1/5にまで減少するのが一般的です。
3. 4~5か月でほぼゼロ
時間が経つにつれ注目度は急激に低下し、検索数がゼロに近づく傾向があります。
このことから、政治スキャンダルの関心は短期間で冷めやすく、一時的な影響に留まる場合が多いと言えるでしょう
それでは裏金問題はというと、どうなのかであるが、下記のとおりである
裏金問題の異例の動向
では、今回の「裏金問題」はどうだったのでしょうか。以下に検索数の推移を示します:
• 発覚後1か月以内
一般的なスキャンダルと同様、発覚直後は急激に検索数が増加しました。
• 1か月後
他のスキャンダルとは異なり、検索数が一時的に減少した後、再び増加しました。
• 4~5か月経過後
減少したものの、通常のスキャンダルと比較して注目度少しばかり高かった。
• 10か月後
選挙直前には驚異的な伸びを記録し、発覚後の1ケ月後をも上回る検索数となりました。
この事から、裏金問題がこれまでの政治的スキャンダルとは大きく異なった展開であった事が分かるだろうし、ここまで注目されてる以上は2024年の選挙において影響があった可能性が高いと思われる。
2.岸田の内閣支持率でみる裏金問題の影響
裏金問題が影響を与えたと考えられるもう一つの実例として、NHKによる内閣支持率調査が挙げられる。裏金問題が発覚した直後、支持率は7%下落し、さらに翌月には6%下落しており、合計で約13%の下落が見られた。このことからも、裏金問題が内閣支持率に大きな影響を与えた可能性が高いと考えられる。
NHK世論調査 内閣支持率 政党支持率 毎月の最新情報 | NHK選挙WEB
また、2022年8月頃には、裏金問題以上に大幅な支持率の下落が記録されている。この時期には、1か月前に発生した安倍元総理の銃撃事件を発端として、旧統一教会と自民党の関係が大きく取り沙汰された。裏金問題のような一貫した動きではなかったものの、検索数は発覚から3か月後に検索のピークを迎え、1〜2か月後の時点では60%前後という推移を見せていた。この現象は、他のケースとは異なる動きを示しており、特にネット界隈ではどのように展開していたのか、興味深いところである。
3.旧統一教会との繋がりとその影響
「岸田文雄」というキーワードで特に人気を集めた動画を四半期ごとに10本ずつ並べると、以下のようなタイトルが挙げられます。
ご覧のとおり、岸田総理に対する政治的意見よりも、ネタ動画や岸田氏本人が直接関与していない内容の動画が多いことが分かります。また、2022年第2四半期には中国語のタイトルが目立ち、日本語のコンテンツが少なかったことや、10本のうち9本しか挙がらない状況からも、岸田総理自身が話題性に欠けていた時期だと言えるでしょう。
一方で、第4四半期に入ると岸田総理への批判が急増し、その主な内容は「旧統一教会」ではなく、「物価高」と「増税」に関するものであることが分かります。実際、この時期の物価上昇と関連キーワードの検索数は以下の通りです。
物価上昇はコロナ禍からの回復が遅れる中、ウクライナ戦争の影響による原材料費の高騰などで加速し、人々が生活の苦しさを直接実感する状況となりました。事実、2022年第2四半期には「値上げの夏、岸田インフレと戦う/小西ひろゆき #short 」という動画が投稿され、こうした動きの兆候が既に現れていました。
以上のように、ネット上の世論では「岸田文雄」に対して「旧統一教会」よりも「増税」に関する話題が多く取り上げられていることが分かります。一方、「自民党」に関連する動画では、
「統一教会」との関係を批判する声も一部見受けられるものの、大きく注目されるには至っていません。ただし、リアルな世論では支持率が13%も下落する結果となったことから、ネット上での議論が限定的であったとしても、実社会では大きな影響を与えていたことがうかがえます。
このことから、政治スキャンダルについてはネット世論とリアル世論で異なる動きを示す場合があると考えられます。
4.裏金問題となるとどうなるか
2023年度の前期では、「増税」というキーワードの使用頻度は減少しましたが、後期に入ると再び話題に上り、岸田総理に対する増税批判が強まる傾向が見られます。
前期には、小ネタや岸田批判を含む動画が多く見られたものの、話題になりにくかった時期と比較するとやや落ち着いた状況でした。この背景には、2022年末に与党税制改正大綱で防衛増税が「2027年度に向けて複数年かけて実施」とされ、開始時期も「2024年以降の適切な時期」と表現されるなど、事実上の棚上げ状態となったことが影響していると考えられます。しかし、2023年後期には再び増税議論が活発化し、岸田総理への批判が再燃しました。
また、この時期の動画では、複数の政治家が岸田総理を批判する内容が目立ち、特に山本太郎氏による批判動画が注目を集めました。これらの動画には、山本太郎氏を支持するコメントと否定的な意見がほぼ半々に分かれており、視聴者の意見が大きく割れていることが窺えます。
前期では「増税」や「脱税」関連(裏金問題に関連)の話題が多く取り上げられた一方、派閥の解散や夏の定額減税の影響で話題が沈静化しました。しかし、流行した動画の多くは岸田総理の人格や行動に対する批判が中心となり、否定的な内容で埋め尽くされる結果となりました。
枝野幸男の再評価:批判から支持への転換
2020年度においては、編集のない簡素な動画であっても、枝野幸男氏を批判する内容が万単位の再生数を記録していました。その後、編集が施された動画が増えるものの、2022年度までは批判一色の内容が大半を占めていました。特に2022年度には、タイトルから枝野氏を批判する意図が明確に読み取れる動画が主流でした。
しかし、2023年度には一転して、枝野幸男氏を肯定的に取り上げる動画が約半数を占めるようになります。この変化は、2023年末を境に枝野氏に対する評価が大きくプラスに転じたことを示しています。この動きは、裏金問題が自民党の支持率にマイナスの影響を及ぼし、結果的に野党への支持が強まった可能性を示唆しています。
5.何故裏金問題がここまで影響を与えたのだろうか
自民党への批判が高まった理由として、以下の2点が考えられます:
金銭的なスキャンダルは他のスキャンダルよりも政治家に対する影響が大きい
物価高による国民生活の苦しさが、政治家への不信感を増幅させた
まず、1点目について、ジョン・B・トンプソンの著書『Political Scandal: Power and Visibility in the Media Age』では、金銭的スキャンダルが政治家の信頼性と支持率に深刻な影響を及ぼすと指摘されています。彼は、金銭的な不正行為は具体的で有権者にとって理解しやすく、倫理的や個人的なスキャンダルよりも強い反発を招く傾向があると述べています。
次に、2点目について、ピッパ・ノリスの論文「Political Scandals in the USA」では、経済状況やメディアの報道姿勢、政治的対立がスキャンダルの影響を増幅させる要因として挙げられています。特に経済的に厳しい状況下では、政治家の金銭的スキャンダルに対する国民の反発が一層強まると分析されています。
これらの研究からも分かるように、金銭にまつわるスキャンダルが政権への批判を引き起こす上で非常に大きな要因となること、さらに経済が困窮している状況ではその影響がさらに増幅されることが確認できます。今回のデータからも、経済的困窮下での金銭スキャンダルが自民党への批判を高め、野党への支持を拡大させた可能性が高いと考えられます。
例えば、「桜を見る会」の問題では、発覚から2〜3か月後も注目度が50前後に留まるほど大きな関心を集めました。また、2009年の政権交代は、リーマンショックという経済的な大ダメージの中で起きた出来事でした。この2つの事例は、それぞれ金銭的スキャンダルと経済的危機が政権に与える影響を象徴しています。
これらの事例からも、金銭的スキャンダルと経済的な困難は、政変を引き起こす重要な要因であると言えるでしょう。
6.まとめ
一般的な傾向と今回のケース
経済が困窮している状況では、政治に対する批判が強まる傾向があります。特に、金銭的なスキャンダルは有権者にとって具体的かつ理解しやすいため、倫理的・個人的なスキャンダルよりも政治家に与えるダメージが大きいとされています。
今回のケースでは、物価高による経済的困難が国民の政治不信を高める中で、「裏金問題」という金銭的スキャンダルが発生しました。この問題は、YouTubeの動画再生数や関連キーワードの検索数からも注目されていることが分かります。結果として、2024年の衆議院選挙で自民党は単独過半数を割る事態に至りました。
ネットでの取り上げ方と支持率の関係
一方で、「統一教会」の問題のように、ネット上ではあまり取り上げられないものの、支持率に大きな影響を及ぼしている事象も存在します。この場合、統一教会問題がメディアで大きく報じられる中、ネット上での議論や動画の再生数はそれほど多くありませんでした。しかし、2022年の支持率低下を見ると、旧統一教会と政治の関係が有権者に与えた影響は確実に存在していたことが分かります。
こうした事例は、ネット世論とリアル世論のズレを示しています。ネット上で目立つトピックだけでなく、現実での支持率に影響を与える要因も合わせて分析することが重要です。
とはいえ、ネットの世論界では政治家の皆様は下半身の事がばれないかを気にするよりも、上半身にある自分の手元の財布の使い方に問題がないかに神経をとがらせないと駄目ですね。
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