『エルフの工房物語』スマホカバー3
「はいっ」
するとエルフは、嬉しそうに手を叩く。
「合成革じゃなくて、天然の革を使用したものです。うちの製品で使っている革は、ラセッテーレザーといいまして」
「らせってーれーざー?」
なんだそのビーム攻撃みたいなのは? と思ったが、
「RUSSETY、英語ではなく、russetという朽葉を元にした造語です。革メーカ-、山口産業株式会社さんが、木々から落ちた葉が土に帰りまた新しい命を育む、……そんな循環型社会を革製品にも、という思いで名付けられた、"製法"です」
「せ、製法」
「詳しくは省きますが、革をなめす、作る時に、普通ならクロムという化学薬品を使う所を、植物、ミモザのタンニンでなめす事で、有害物質の排出をなるべく少なくしたという……」
「え、ええと?」
少しアルコールが残ってる脳では、エルフの語る事が全て飲み込めない。
エルフもそれを察したのか、にこりと笑って。
「難しい事を省けば、地球に優しく、人にも優しい、そのおかげで」
エルフは、棚に近より、そのスマホを手にとって、
自らの白い肌に擦りつけた。
「赤ちゃんでも安心して触れられる、肌に優しい革なんです」
「……へぇ」
その解りやすいパフォーマンスは、百聞よりも一見の価値、そのもので、貴史の腑にすっと落ちた。
「……あ、こちらは見本品ですので! 流石に、自分の肌に擦りつけたものを、オススメはしませんから」
「あ、はい、……つうかまぁ」
貴史、
「革に、肌に良い悪いがあるとは思わなかったっすね」
素直に思った事を言えば、
「日本エコレザー基準というのをクリアしてまして、デリケートな素材の保管にもむいてるんですよ? 例えばマスクとか。花粉症の時なんかはマスクホルダーが結構売れてます」
「……日本エコレザー基準」
目の前のエルフがさっきから、山口とか、日本とか、さも当然の様に話してる事態に、違和感を覚えざるを得ない青年である、
ここまで来ると、この店主は本当は日本人ではないか?
客寄せの為に、カラコンを付けて耳も特殊メイクなのではないか?
そう思った時、
「ああそれで、スマホカバーは現在在庫が無くて、……ちょうど今作っている所なのですが」
「え?」
「よろしければ、見ますか?」
「……」
コスプレした(疑惑がある)店員からの誘い。
このまま店を出る選択肢もあった、だけど、
エルフが革細工の商品を作る光景、
どうしても興味の方が勝ってしまい、彼は、頭を下げてお願いする。するとエルフはにこりと笑った。
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