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服飾 ファッションと自己表現 アンダーカバーを着る理由

✪登場人物✪
👴:若者にファッションうんちくを垂れるのが好きな、服に詳しいじじい 守備範囲はドメブラ
👶:プチプラ服着てる辛辣な孫 あんまり服に詳しくないヤング うまい棒が好き
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👶:先日よりトム・ヨークが来日しているけど、私服でアンダーカバーの服を着ていたことが物議を醸しているね

👴:うむ、アンダーカバーの一般的なイメージは芸能人の着用やGUとのコラボなど、ストリートっぽいスタイルでおしゃれな陽キャが着ているものと思われているのかもしれん それがトムの内省的なイメージと合わないとして批判を浴びているようじゃ

トム・ヨークがなぜアンダーカバーを着ているのか、おしゃれフリークたちがこぞってアンダーカバーをもてはやすのは一体何故なのか、ひいてはわしがアンダーカバーに心酔し、彼らの活動を追いかけるようになった理由はなにか、そこを紐解いてみようじゃないか


アンダーカバーの歴史

👴:まずはざっくりと略歴から説明しよう

デザイナーの高橋盾氏

1990年 高橋盾氏と一之瀬弘法氏が文化服装学院の在学中にアンダーカバーというブランドを立ち上げる
1993年 卒業後NIGO氏と裏原宿にNOWHEREという店をオープンする 
1994年 1994-95秋冬から東京コレクションに参加 同年有限会社アンダーカバー設立
1997年 毎日新聞社毎日ファッション大賞新人賞受賞
2000年 有限会社アンダーカバーから株式会社アンダーカバーへ移行
2001年 毎日新聞社毎日ファッション大賞受賞
2002年 2003春夏からパリコレに参加
2009年 2010春夏ピッティウオモに参加
2013年 毎日新聞社毎日ファッション大賞受賞

アンダーカバー公式ホームページより抜粋

となっておる 裏原宿のお店から、だんだん世界へと活躍の場を広げていったことが分かる、華々しい経歴のブランドなのじゃ

👶:なんだよ結局成功したおしゃれブランドの話じゃねえか

👴:まあ待ちたまえ 確かに事業を拡大していったことは事実だが、アンダーカバーの真価はそこではないのじゃよ

当初アンダーカバーはプリントTシャツを刷って売っていたが、あまりのかっこよさにどんどん売れて裏原宿のキッズを中心に人気を獲得していったんじゃ

アンダーカバーはパンクの始祖である、ヴィヴィアン・ウエストウッドから多大な影響を受けているんじゃ ヴィヴィアンひいてはピストルズのパンク精神を受け継ぎ、アンダーカバーの根底には常に反逆の精神や破壊と創造が同居しているんじゃよ

アンダーカバーの反逆の精神

👶:アンダーカバーの反逆の精神って要はパンクロックってことだろ? でもアンダーカバーの洋服見てもまあ一部(スキニーパンツとか)はパンクの影響あるっぽいけど、そこまでパンクって感じあんまりしないけど?ワイパンとかもあるじゃん!

👴:まあまあまあ…そう言うだろうと思ったわい、何も表面に出ているものだけがそうだって訳ではないのじゃよ
アンダーカバーの真骨頂は既存の洋服を再構築し、今までの洋服の概念をぶち壊した、その破壊と創造の精神が”パンク”なんじゃよ

事実アンダーカバーが日本で初めて創り出した”洋服の概念の破壊”は目覚ましいものがあったのじゃ Y2Kと言われる2000年代に流行ったものが現在人気じゃが、2000年代当時の流行をつくった立役者と言っても過言ではありますまい

94-95AW 短丈のアウター

例えば、きょうび数多のブランドで売られている極端に短丈のアウター、あの原型を世に出したのはアンダーカバーが最初なんじゃ アンダーカバーが発表するまでは、そんなサイズの服は世の中に存在しなかったんじゃ 服をリバーシブルすることで、全く違う洋服になる手法を日本に紹介したのも、服にトロンプルイユ(だまし絵のことじゃ、ポケットが縫われている絵やニットが編まれている絵を服にプリントしたんじゃよ)の手法を使ったのも、服を袖や胴体でパーツ別にジッパーでバラバラに外せるようにし、別のパーツも繋げるようにした服など(GU UNDERCOVERではコンパーチブルアウターと表現されておった)も、アンダーカバーが最初なのじゃ(超絶早口)

99-00AW AMBIVALENCE リバーシブルの洋服
98SS DRAPE トロンプルイユ技法(片方の身頃はドレープ、もう片方はドレープをプリントしたデザイン)
98-99AW EXCHANGE コンパーチブルデザイン
98-99AW EXCHANGE コンパーチブルデザイン 取り外し方と着こなし方の取説
99SS RELIEF トロンプルイユの一種 ボタンやポケットをアタリ(色落ち加工)で表現

👴(肩で息をする音)…ゼイゼイ…

👶:おじいちゃん、お茶飲んで

👴:(お茶を啜る音)…ふう…つまり、アンダーカバーの”パンク精神”というのは、今まで存在していた価値や意味をひっくり返した、その行為そのものに宿っておるんじゃ その行為に深く共感した当時のキッズたちは、その破壊と創造からなる洋服を身にまとうことで、自分たちの反骨精神やアイデンティティを表現したんじゃ どうじゃ?ロックじゃろ?

👶:な〜るほど!ザ・ワールド! ファッションに新しい風を吹かせた、そういうところで人気が出たんだね

👴:当時裏原宿系というストリート発のファッションが流行っており、アンダーカバーはその先駆者だったんじゃ、パンクや古着や音楽やアートをミクスチャし、今でにない新しい服の概念を創り出した 彼らのつくる世界は唯一無二だったんじゃ 当時はカルト的な人気があったんじゃよ 立ち上がり(最新作の発売開始日のこと)の日にお店に並んでも大行列で買えなかった時期もあったんじゃ

アンダーカバーとアート

👴:ところでおぬし、アートは詳しいかの?

👶:よく分からん

👴:アンダーカバーとアートは切っても切れない関係にあるんじゃ どれ、この洋服を見てみい

05SS BUT BEAUTIFUL Ⅱ

👶:なんか木彫りの人形みたいだけど、これも洋服なの?

👴:ふぉふぉ、これもショーで発表された立派な洋服じゃよ 
”ヤン・シュヴァンクマイエル”って聞いたことないかの?チェコのアーティストで人形や粘土を使って映画を撮る人がいるんじゃ、そのアーティストからインスパイアされた作品なんじゃ 

短編映画”ジャバウォッキー"

目玉や牙の付いた洋服、それをふんわりしたガーリーなチュールやレースで包みこんでいる、そこにはミステリアスなダークファンタジーの世界観があるんじゃ 当時の日本でヤン・シュヴァンクマイエルを知っている者はほぼ居らんかった 事実上アンダーカバーが紹介したようなものじゃ

05SS BUT BEAUTIFUL Ⅱ

👶:なんでアートと服をコラボさせたの?

👴:アンダーカバーは服だけでなくアートや音楽が入ったおもちゃ箱みたいな雰囲気なんじゃよ もともと高橋盾氏はアートに造形が深く、彼の頭の中では洋服とアートは陸続きになっているようなんじゃ 

最近のファッション店では、おもちゃをディスプレイすることもよくあるが、これも裏原宿でNOWHEREのお店をやっていた時代から彼らがやっていたことなんじゃ 1990年代当時服屋におもちゃを置いている店なんていうものはなかった これも彼らのアイデアであるし、ストリート発の一種の造形美(デザイン)でもあるんじゃ

最近のアンダーカバーは映画の1シーンや絵画を大胆にプリントした洋服もつくっておる
hurt期のミヒャエル・ボレマンスとのコラボ、しびれるうううう〜

2015-16AW HURT ボレマンスの絵画が大胆にプリントされている
2015-16AW HURT ボレマンスの絵画が大胆にプリントされている

👶:(突然うまい棒を食べはじめる音)
それはさっきのパンク精神と関係あるの?

👴:もちろんじゃ!このアートにインスパイアされた洋服というのは、まさしく着るアートなんじゃ アートな洋服という概念を創り出し、日本に紹介したのも初めてのことじゃ、これも既存の服の概念を覆した、新しい服のジャンルなんじゃよ その精神がパンクなんじゃ

また、パンクアートというジャンルもあるぐらいじゃから、パンクというマインド自体がアートに理解があるのじゃ もともとは反体制活動の一環として、ライブのポスターデザインやレコードジャケットに用いられてきたところから端を発する 

ほれ、ピストルズのレコードジャケットみたいなもんじゃ イギリスの女王の顔を加工してある絵も見たことあるじゃろ アンダーカバーの場合、そこからよりアートの深い森に進んでいったのじゃろう

総括

2011-12AW MIRROR トム・ヨーク

👶:話を戻すけど、結局トム・ヨークはアンダーカバーのパンク精神に共感してるから、洋服を着てるんだよね

👴:さよう アンダーカバーの反逆の精神に共感しているんじゃ だからトムも高橋盾氏との交友が続いておるのじゃ 高橋氏もDJをするので、音楽はすごく詳しいんじゃよ 昔発表したコレクションでは、なんとパティ・スミスとコラボしたんじゃ! これもアンダーカバーの創り出した世界のたまものじゃよ… それだけみんな共感してくれているのじゃ

👶:おじいちゃんもいっぱいアンダーカバーの洋服持ってるもんな

👴:わしのコレクションはまだまだじゃよ しかしアンダーカバーへの熱意はあると思っとる これからもアンダーカバーの活躍に目が離せんのう!

高橋盾氏とヤン・シュヴァンクマイエル氏

出典:図録 LABYRINTH OF UNDERCOVER 25 year retrospective
RIZZOLI社 UNDERCOVER JUN TAKAHASHI
国書刊行会 シュヴァンクマイエルの世界 ヤン・シュヴァンクマイエル




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