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リベラルはフリーライダーに弱い仕組みを提案しがちである。

 以前現在の高齢者優遇となる保険制度は、なしくずしてきに決まったと書いた。
その流れは、1970年代に地方自治体が老人医療無償化を行い、続いて東京都の革新派都知事、美濃部亮吉が老人医療の無償化を東京都で行うことを決定した。

 しかしその財政負担に耐え切れず、各自治体が国庫によって無償化を賄うことを提案し、1973年に老人医療費支給制度が創設され、それが修正されつつも引き続いて現代に至った。

 他にも、大学の学費や給食費を無償化する、もっと原理的に言えば共産主義というのがマルクス主義の「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」というスローガンも、フリーライダーの存在を前提としていない。

 しかし、狩猟採集社会や、地方の持続可能な共同体の研究からは、いかにフリーライドをさせないか、フリーライダーが増長する前に罰するか、という制度が、共同体を持続させるうえで重要であると語られる。

 

 なぜこの観点が抜けているのだろうか。
 リベラル派は相互扶助的な内的規範をあまりに内面化しているから、自分や他者がフリーライドする可能性があるという発想に思い至らないということだ。
 もう一つの可能性は、自分がフリーライドするために制度を設計して利益を得ようと考えているからだ。

 そこまで人間が邪悪とは思えず、多くの人は前者なのではないかな?という気もする。確かに育ちが良い人たちに囲まれていれば、フリーライダー的なふるまいが規範によって抑えられることは大いにあり得るからだ。

 ただ、困っている人を助けようと活動していれば、その中に一定の確率でフリーライダー、ないしテイカーが混じることは感じ取れるはずだ。慈善活動の持続は、フリーライダーを早いうちにフリーライダーではなくすことや、フリーライダーの新規流入を防ぐことにかかっているからだ。

 そして、フリーライダーは共同体が大きければ大きいほど発生しやすい。
例えば10人のサークルで、毎回食事会で財布を忘れてくる人がいれば、誰かが注意するか、食事会をしなくなるだろう。
 参加者が100人のパーティーだと、そのような人はそもそも支払っていないことが認識されないことがある。つまり、会費を支払わずに帰ってしまう人だ。だからこそ大規模なパーティーは事前に参加費を徴収したりするわけだ。

 社会保障費もこれに似ている。
実際、もともとは自治体の中での老人医療の無償化だった。
村の中で始まった場合、その規範というか、村が稼いだお金を使っている、という意識が強かったはずで、必要な医療を受けるために使っていたのではないかと推測する。実際、使いすぎる人がいれば、村の誰かから注意される、というのも時代背景を鑑みれば、あったのかもしれない。

 しかし、都が管轄するようになれば、フリーライダーは当然生まれるだろう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40287.html
 現在は、後期高齢者医療制度は、2030万人が加入しており、医療費の5割が公費(国4都道府県1市町村1)、つまり国や都道府県のお金を使い、4割が74歳までの被保険者が加入している保険組合からの後期高齢者支援金で、1割が高齢者の保険料に起因している。
 これを言い換えると
10%が高齢者自身の保険料
20%が国庫負担
5%が都道府県の負担
5%が市町村の負担
40%が75歳までが加入している保険組合からの支援金
となる。

 これだけ負担者がばらばらになると、誰のお金をどのように使っているか、という意識は限りなく薄くなり、感覚としてはどこからかお金が出ている、と感じるようになるだろう。
 もっとシンプルに、市町村が負担するとか、保険組合が負担する形にしたほうが、どれだけ医療費がかかっているかを、政策担当者や被保険者が実感しやすかったように思う。というか昔はそうで、自治体や保険組合が負担していた。しかし負担が大きすぎて、自治体は国に支援を仰ぎ、保険組合は解散していった。
 実際、保険組合は1992年かr2021年までの間に、1827組合から、1387組合まで減っている。 だいたい25%減ったわけだ。

 費用負担が実感しやすかった結果として、各自治体はこれは続けられないだろう!と異議を申し立てるのではなく、責任と負担を分散することで対応しようとした。
 そのため、このように支払い担当者が分散する形になってしまった。

 少なくとも限られた保険料を有効に使うためには、相互に監視する仕組みが必要に思う。
 監視をする場合、責任の所在は分散されるより集中された方が良い。
その方が切迫感を持って、その過剰が確認できるし、監査請求も可能だからだ。

 少なくとも、保険制度がうまく使えば幾らでもお金を組みだせる富のポンプなんかじゃないことは、そのポンプを握っている人たちには、実感してほしいのだけど。

 まとめ


・リベラルはフリーライダーの存在を無視しがち

・共同体の維持には、フリーライダーを改心させるか、排除するか、罰するのが不可欠

・日本の健康保険制度は、危機に陥るたびに、責任をより大きな共同体に分散することで持続してきた。

・責任が分散するたびに、フリーライダーが生まれやすくなる。

・現行の監査制度は、フリーライダーの監査、懲罰、排除に十分な機能を有していない。

・富のポンプを止めろ。



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