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福祉国家の高齢化は、資本主義国家の中の社会主義部門が拡大していくことを意味する。国家体制は事実上の社会主義国家へと変貌していき、社会主義国家のように持続可能ではない。
考えてみると高齢者の生活はかなり社会主義的と言える。
なぜかといえば、収入は年金で一定しており、若い世代に比べて支出の多くを占める医療費は国家によってかなり補助されているからだ。
また、65歳以上の50人に1人は生活保護を受給している。これはほかのどの世代よりも多い。
高齢者の支出は少ない
全体的に高齢者は消費を減らす傾向があり、また、給与収入は減っていく傾向がある。
支出のうち保険医療費が顕著に増える一方で、交通費、教育費は減少する傾向にある。
また、世帯支出は、50代をピークに減少していく
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高齢者は収入が少ない
生活保護の収入は13万円程度、70歳の厚生年金+国民年金は20万円程度だ。高齢者の収入は全体の収入と比べると、かなり平等な分布になる。
高齢者は休日が多い
また、70-74歳の就業率は2012年から増加傾向にあるが、75歳以上の就業率はほとんど変化がない。
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つまり高齢者は
支出が少ない
収入は少なく、収入格差も小さい
休日が多い
という性質を持つ。
この性質は、70歳に比べれば、90歳のほうが顕著だ。
つまり超高齢者の方が、より支出が少なく、収入が少なく、休日が多い傾向にあると推定できる。そしてこれから日本は超高齢者が増えていくことになる。高齢者の高齢化が問題になるのだ。
さて、支出をもう一度みてみよう。
医療費は、高齢になるほど高額になるが、自己負担率と保険料の合計は、75歳以降、ほとんど変化しない。
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これは社会主義国家に住む労働者の生活と似ている。
社会主義国家では、給与収入は少なく、収入格差が小さい。
支出もそれに応じて控えめになる。
医療費などの社会保障費は安価ないし無料だった。
休日は多かった。(ソ連の休日は24日から45日とかなり長めだった)
つまり僕らは資本主義国家の中に、高齢者が住む社会主義国家を作り出している。
高齢化率が7.1%だった1970年にはこの資本主義国家の中の社会主義国家はあまり問題にならなかった。
しかし、高齢化率が29.3%であればどうだろうか。また、2040年には約35%まで上昇すると推定されている。
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政府の中の社会主義部門はどこまで拡大可能だろうか。
最近では、全世代社会保障の名のもとに、資本主義国家の中の社会主義部門は拡大されていく傾向にある。この社会主義部門の拡大をさらに加速させようとしているわけだ。
社会主義国家を維持する方法
さて、社会主義国家はどのように低収入、低格差、低消費と安価な社会保障、多くの休日を維持していたのだろうか。
1.強制収容所の無償労働(初期ソ連、北朝鮮)
2.資源輸出(後期ソ連)
3.国債発行(ユーゴスラヴィア)
4.友好国家の支援(キューバ)
5.資本主義部門の導入と拡大(中国)
5を除いてどれも持続可能な仕組みではない。
確かに北朝鮮の強制収容所は続いている。確かに北朝鮮は国家としての体裁を維持している。だが福祉国家を維持するために強制収容所を開設する、と提案したら、民主主義国家では政治的生命を失う。
資本主義部門の拡大は確かに持続可能性がある。だがそれは、福祉国家を解体することに繋がる。
資本主義に晒された社会主義国家では、平均寿命が低下する傾向がある。というか、ユーゴスラヴィアに関しては内戦が少なくとも10年続いた。ソ連は1991年の崩壊に際して女性の平均寿命は3.3年、男性の平均寿命は7.2歳短縮した。
ユーゴスラヴィア全体の寿命を比較することは難しいが崩壊を1992年とする。
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ボスニアは少なくとも劇的な寿命の短縮を迎え、モンテネグロ、セルビアも寿命の短縮を見せている。
キューバに対するロシアの支援に関しては、情報が断片的で、影響もまだはっきりとはしない。全貌を伺い知るにはしばらく時間がかかるだろう。
増える高齢者と肥大していく資本主義国家の社会主義部門を維持する方法
1.徴税
税金を増やして社会保障を維持するのは一つわかりやすい。消費税増税、資本課税などだ。ただ、徴税をすればするほど経済は冷え込む傾向にあるから、社会主義部門を支える資本主義部門が縮小してしまう。
資本主義部門が縮小すれば、社会主義部門を維持するだけの資源を輸入、生産することができず共倒れになる。
2.国債発行
MMT(現代貨幣理論)では通貨発行権を有する国家は通貨発行を制限されないから、という主張だ。
しかし通貨を無限に発行できるからと言ってインフレにならないわけではない。
MMTは国債を0にすることを目的に緊縮経済を行うのは間違っていて、インフレや実体経済、人的資源の活用を目的として財政政策を行いましょう、という考えだ。
だから、国債を無制限に無限に発行できるわけではない。適切な規模がある。そして現行の全世代型社会保障を無制限に拡大すれば、人的資源や実体資源が不足し、インフレとなり、必要な人的資源や実体資源を社会主義部門に確保できなくなり、社会主義部門が維持できなくなる。
3.強制
無償労働を強いる方法は、実は少し行われている。
児童に対して、進学に対してのメリットを示して、介護支援を行わせる。
たしかにこの規模を拡大することで、短期的には実体経済に影響を与えず、介護リソースを確保することができる。
だが、この制度の問題点は全国で一斉に実施しなければ、子供を産み育てる世代は、そうした地域から抜け出していく可能性がある。そして現時点でこれだけ批判を受けているものを強引に進めるのは難しいだろう。
4.社会主義部門の縮小と、生産性の増大:コインの裏表
資本主義国家の中の社会主義部門を持続的な形で拡大するには、社会主義部門を縮小するか、経済全体の生産性を高める、というのが現実的な方法だろう。
社会主義部門の縮小は、年金受給年齢の繰り上げや、高額療養費を含めた医療費自己負担率の増加、生活保護受給条件の厳格化などになる。
言葉にするのは簡単だが、実現は政治的に困難を伴う。
生産性を上昇させるには、資本に投資するしかない。つまり、いったん社会主義部門に回す分を資本主義部門に回して設備投資を促す、という方法だ。
これは実際には社会主義部門の縮小と同義となる。
将来的な成長率を高めるための投資を国債発行で賄おうとしても、国債発行は前述したように、無限にできる方法ではないし、限度を超えた発行は債務危機をもたらして将来的な経済成長率を低下させる。
つまり、生産性の向上と社会主義部門の縮小は、原則として同じコインの裏表なのだ。(原則ではない例:社会主義部門を縮小したお金で超巨大大仏建立 実体資源が浪費され、生産性は向上せず、超巨大大仏だけが残る)
5.社会主義部門を団塊世代と共に切り離す
団塊ジュニア世代が、エリート過剰生産の状態であったのに反乱がおきなかったのは、団塊世代が全共闘などで闘争した世代で、そのむなしさを感じていたのではないかと考えることができる。
闘争をした世代の下の世代がおとなしく、そのさらに下の世代は闘争の虚しさを知らないために、無謀な戦いに関与していく、この流れをピーター・ターチンは「父と子サイクル」と名付けた。
貴族の人口減少は,下からの成り上がりもあり,問題を解決するには不十分で,さらに世代が変わって悲惨な経験を知らない若者が貴族層の中心となるという不穏な状況が生まれたということになる.ここからターチンの循環の議論が始まる.ここではセキュラーサイクル(文字通りには百年サイクル,ターチンは200〜300年ぐらいの周期を考えている)の中の「父と子のサイクル(1周期40〜60年)」が取り上げられている.
団塊ジュニアの子供世代には名前がついていない。
これは人口ピラミッドのこぶが消失してしまったからだろう。
ただ、この世代、つまり今の20代は、社会保障の継続性を信じていないかもしれない。そして闘争を恐れていないかもしれない。
また、氷河期世代は全体に未婚率が高く、貯蓄の中央値が少ない。
通常であれば、30代より40代の方が貯蓄が多いはずだが、下図の通り、単身世代では30代の方が貯蓄の中央値が多く、二人以上世帯でも30代と40代で貯蓄の中央値が殆ど変わらない、という世代間格差がある。
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団塊の世代はいまだに政治的影響力があるが、氷河期世代は内部でも格差が大きく、また闘争を今まで嫌っていたこともあって、政治的なまとまりに乏しい傾向がある。
団塊の世代の多くが寿命を迎えその政治的影響力を失い、氷河期世代が高齢者になろうとする2040年ごろに、社会保障の削減を求める声が最も大きくなるかもしれない。皮肉な話だが、この時期に氷河期世代の独身男性(同世代男性の約30%)の半数以上が死亡している可能性がある。
氷河期世代に、2005年の米国で中年に起きた絶望死が起きるのではないかと心配している。絶望死は米国では以下のように起こった。
そして2005年、中年より若い世代でも絶望死が増え始めた。30代と40代のアメリカ人の死亡率は、彼らの両親世代の死亡率よりも速い勢いで増加した。本来であれば加齢の影響があるためその反対であるはずだが、高齢世代の死亡率が若い世代よりも低いという奇妙な状況が生まれた。ケースとディートンはこう指摘する。「親が、成人した我が子が死ぬのを見るなどということはあってはならない。物事の順序が違う。子が親の葬式を出すべきであって、逆であるべきではないのだ」
実際の人口以上に、氷河期世代は集団内の際による結束力の乏しさと寿命の短さによって社会保障=社会主義部門を維持するための政治力を発揮できない可能性がある。
これは政治的には達成が一番容易で、一番ありそうなシナリオだと思う。実際、政府は2024年になって75歳以上の医療費自己負担対象の拡大や、年金制度の再構築を議論しはじめた。
理想的な解決策:1973年に時間を遡って老人医療無償化を導入させない。
高齢化率の増加は予測できたし、高齢化と年金、安価な医療費自己負担が資本主義国家の社会主義部門を拡大していくことも予測できたわけだから、1973年に高齢者医療無償化を導入するべきではなく、一律3割負担にするべきだった。実際、当時の官僚や自民党の政治家は特に賛成していなかった。
実際、ほとんどの行政官がこの構想に反対であった。自民党の大部分もかなり冷淡であり、そのため主計局との交渉においてもこの提案はあまり後押しを得ることができなかった。そして最後には福田大蔵大臣が園田に連絡して諦めるように頼んだのである。
ただ、その時には僕は生まれてなかったから、法制化に反対できなかった。
1973年に戻って老人医療無償化の中止を主張することはできない。
本当は1973年に遡ってやめさせたいのだが、51年前には生まれていなかったので今、主張するしかない。
現実的な解決策:可能な限り早く、社会主義部門を適切な規模に縮小させる
これは早いほど、自己負担割合を適切な規模に維持でき、多くの人が継続的に適切な医療を受けられる可能性を高める。
医療の多くは、継続性、つまり薬を飲み続けること、悪くなった時に病院に受診できることを前提として効果が確かめられている。
年金や生活保護の適切な金額も判断は難しいが、少なくとも配られるお金の価値が一定したほうが良いのは確かだ。ある年は1.5年分の生活費が年金として受け取れるけど、別の都市にはインフレのせいで0.5年分の生活費にしかならない、となったら、老後の人生設計が大きく崩れることになる。
永続性を前提とすると、生産性が増大しない限りは、社会主義部門は適切な規模まで削減され続けることになる。
生産性を増大するためには、国債によって生産性増加を試みることは、将来的な生産性低下のリスクを有することから、社会主義部門への支出を減らし投資するのが望ましいだろう。
生産性上昇の利益は、早くに投資した方が長期的な利益が大きい。
勿論、適切な規模で、という但し書きはつくが。
将来に氷河期世代に降りかかるであろう急激で乱暴な社会保障費の削減を予防するためにも、今社会保障費を適正な規模に保ち、生産性向上に充てることが望ましいんだ。
まとめ
・高齢者は支出が少なく、収入が少なく、格差が小さく、休暇が多い。
・まるで社会主義国家の労働者のようだ。
・高齢化が進行した福祉国家は、社会主義部門を内部に抱える資本主義国家と言い換えることができる。
・社会主義部門=年金・医療介護費は、年々拡大している。
・これは、日本が少しずつ社会主義国家になっていくことを示唆する。
・社会主義国家は持続可能な政治体制ではない。
・資本主義の適度に再導入することで、福祉国家の持続可能性が高まる。
・氷河期世代が高齢者になったときに大規模な社会保障の削減が起こるかもしれないし、そのように準備しているように思われる。
・本当は1973年に老人医療無償化に反対するべきだった。
・そんなことはできない。
・医療も年金も短期的な最高出力を維持するより、長く適切な規模で持続することに価値がある。
・今から社会主義部門=年金・医療介護費を適切な規模に保ち、生産性を高める投資を促そう。