新型コロナウイルス感染症の話がどうしても噛み合わない理由
新型コロナウイルス感染症はいつの、どんなデータと知識で語るかによって認識が異なってくる。
理解を共通化するには、年表で簡単に振り返り、どの時点の知識で話をしているかをお互いに共有すると良い。
2019年
武漢市で新型コロナウイルス感染症が発生
2020年
動脈硬化リスクと加齢、肥満が重症化リスクと判明する。基本的には感染力の強く、重症化リスクのある肺炎と認識された。障害の主体は肺だが、血栓やリンパ球減少などの合併も報告され、剖検例で血管炎の機序も想定されたが、意義ははっきりしなかった。
2021年
デルタ株が流行しmRNAワクチンが普及した。ワクチン非接種者と動脈硬化リスク、肥満が重症化リスクだった。若い人でも重症化することがあった。ここまでは厳密な感染対策をすれば抑え込めるウイルスと期待できていた。
2022年
オミクロン株の流行、弱毒化が話題になった。この頃からワクチンの感染予防効果が減弱した。免疫回避能の向上、重症化率の低さ、感染対策の長期化による効果減弱から、最早感染をコントロール抑制することをあきらめる国が続出した。
同年末に中国で起きた白紙運動は、最終的に中国政府に強権的なロックダウン政策を諦めさせた。
認知症を持つ高齢者が誤嚥性肺炎を合併するパターンが多かった。
子供が感染するようになった。
一度感染すればしばらくは感染抑制効果があると信じられた。
マスメディアはこの時期までは新型コロナウイルス関連の情報をよく取り扱っていた。
2023年
五類移行に伴い、感染対策が弛緩する。
データの集計も簡略化される。
感度の低い抗原検査が主流となる。
世界各国でコロナ後遺症(long COVID)が話題になり始める。世界各国で徐々にコロナ後遺症や新型コロナウイルスの病態が解明されてきた。
2024年
変異の頻度は劇的に加速した。
新型コロナウイルス感染症は様々な臓器に慢性的な障害をもたらすことが明らかになった。
あくまでも概観だが
脳→持続する認知機能障害及び精神疾患のリスク増加、睡眠障害、味覚嗅覚障害
免疫系→免疫抑制
肺→呼吸障害
心臓→心筋梗塞のリスク増加、心筋炎
骨→骨粗鬆症
筋肉→労作時の筋炎
自律神経→体位性頻脈症候群
膵臓→糖尿病のリスク増加
血管→内皮細胞障害、血栓リスクの増加
などだ。
特に認知機能障害と精神疾患リスク増加、免疫抑制、易疲労感が若い世代で問題になることがわかった。
後遺症の発症リスクは感染を繰り返すほどに増加する。
後遺症の重症度も再感染を繰り返すほどに増加する。
そして一年以内の再感染率も徐々に上昇している。
感染予防とウイルス粒子を吸い込む量を減らすことが感染予防と後遺症予防に有効そうであると考えられるようになってきた。
新型コロナウイルス感染症について話をするときは時期、国、そして上気道炎・肺炎について語るか、後遺症について語るかでそれぞれ前提が変わってくる。
2020年の認識か、2021年の認識か、2022年の認識か、2023年の認識か、2024年の認識かで話がかみ合わなくなる。
また、急性期の症状に着目するか、後遺症(Long COVID)の話が主体かでも、異なってくる。
mRNAワクチン接種はそれなりに普及しているが、感染が何度も蔓延している欧米か
当初厳格なロックダウンで感染を防いだが、国民の殆どが不活化ワクチンしか接種しておらず2023年以降感染が蔓延した中国か
国民の8割(ただし、高齢者主体で小児は少ない)がmRNAワクチンを接種し、2022年までかなり感染を抑制し、徐々に感染が蔓延しつつあるが感染の実態把握が難しくなってきている日本か
でもかなり違う。
新型コロナウイルスは主に高齢者に影響を与えるウイルスだと認識している人は、恐らく2022年、日本のオミクロン株流行期の死亡率を用いて話をしているはずだ。
日本は2022年まで感染を抑え込み、mRNAワクチンを国民の多くに接種し続けた稀有な国だ。そのためにコロナ後遺症患者は少なく、後遺症はあまり認識されていない。
初期から感染をあまりコントロールができていなかったが、研究機関の資金が潤沢で、データ収集の努力を継続的に続けている英国、米国はコロナ後遺症に関する有益なデータを公開している。
しかしこうした知見の殆どは日本語で理解しやすい形では共有されていない。
これが知見がアップデートされない最大の理由だ。
新型コロナウイルスについて話をするときは
どこの国の
何年の
急性期・慢性期どちらのデータをもとに
話をしているかを確認し、前提条件を共有しよう。
この年表が少しでも共通の理解を促す助けになれば良いと思う。