医学部地域枠ハッキング、もしくはマタイ効果
マタイ効果とは、富めるものは時間と共にさらに豊かに、貧しいものは時間と共にますます貧しくなることである。「持っている者にさらに与えられ、持っていない者からは取り上げられる」に由来する。
さて、医学部地域枠は、マタイ効果の興味深い一例となる。
地域枠の地域くんと、全額自費の全額くんの人生を比較して眺めてみよう。
地域くんは地元の医学部がある都市に在住し、実家から自転車で通学可能とする。修学資金として月15万円を貸与されると仮定する。
実家暮らしの平均費用である、3万円を消費するとする。
そして残りの12万円をつみたてNISAと成長投資枠(オールカントリー)に投資して、平均利回り9%/年で運用するとする。
全額君は、他の地方都市から進学しており、大学生の平均的な生活費である13万円を消費するとする。
単純化するため、学費・入学金は無料(祖父母からの支援がある、と仮定しておく)とする。また留年はしない。
地域君は、12万円を毎月運用し、6年間で1140万円の貯蓄がある。
全額君は、15万円を毎月消費し、6年間で1180万円を消費している。
この時点で、資産/借金には、2320万円の差がある。
これを2種奨学金、月12万円の貸与で賄った場合、これに2.5%の利息が付くと計算すると864万円の借金を背負うことになる。(3万円は親の支援、ないしアルバイトと考えよう)
これがざっくりスタート地点になる。
地域君はこの1140万円だけを利回り9%で運用し続ける。
(話を単純化するため、20年の間に稼いだお金は全て消費したと仮定する)
その結果、20年後に6389万円の資産を運用している。
全額君は年間約27万円の返済を20年間続けることで、借金を完済する。
(話を単純化するため、20年の間に稼いだお金は全て消費したと仮定する)
20年の間に、資産の差は6389万円と、およそ3倍に拡大する。
今のところ、国立大学医学部地域枠には所得制限がない。
なので、どれだけ裕福でも、地域枠を使うことができる。
実際、開業医の子息が地域枠、というパターンは散見された。
研修地域の縛りはある。
これを卒後即破る場合、返還利息が10%の一括返済を求められることから、6年間、15万円で利率10%で借り続けた場合、1472万円の返済が必要になる。
一方で、オルカンで利回り9%で運用した場合、1140万円が手元にあるわけだから、これを売り払うとして、残りの返済額は332万円になる。
ここで全額君が卒業時に864万円の借金を抱えていたことを思い出そう。
奇妙な話だが、一括返済が必要という違いはあれど、月の貸与額が3万円多いにもかかわらず、返さなければならない借金は、地域君と比べた時に、全額君の方が2倍以上多いのだ。
勿論投資にはリスクがあるし、利回りは不安定な部分もある。
ただ、地域枠の縛りを即座に破るという選択肢を選んだとしても、地域君の方が経済的に有利な立場にいることに関しては、何か調整が必要なように思う。