5年度 予備試験 労働法再現
第1 設問1
1 A社は、本件誓約書に基づき、Bに対し海外研修費用の返還を請求することができるか。①本件誓約書がAB間の労働契約の内容になっているか。②本件誓約書は賠償予定を禁じた労働基準法16条に反しないか が問題となる。
2(1)本件誓約書は労働契約の内容となっているか。
(2)労働契約は労使の合意によって定まるのが原則である(労働契約法3条1項)。もっとも、労働者と使用者には力関係に格差があるから、労働者の自由意思による合意があったか否かは慎重に判断すべきである。
(3)A社は、本件誓約書の内容をBに説明した上dほ冥して提出するように求め、Bもその内容を理解した上でこれに署名してA社に提出しているから、Bの自由意思に基づく「合意」があったといえる。したがって、本件誓約書はAB間の労働契約の内容となる。
3 Bは海外研修が終了し、帰国後6ヶ月で自己都合により退社しており、「帰国後60ヶ月以内に自己都合でA社を退職する場合」にあたるから、「海外研修費用の全部または一部を変換する」債務を負いそうである。
4(1)しかし、本件誓約書は賠償予定を禁じた労基法16条に反して無効ではないか。
(2)同条の趣旨は、賠償予定を禁じることで、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)を守り、もって労働者の生活の安定を図ることにある。だとすれば、基本給や賞与に及ばない損害賠償を予定した条項は、上記趣旨に反さず有効と解される。
(3)まず、Bは海外研修中にA社の業務に従事することは求められていないが、2ヶ月に1回程度のオンライン研修への参加は求められていたこと、本件誓約書で海外研修中は学業に専念する義務を課されること、海外研修中は職務に従事する場合と同額の基本給と賞与が支給されることを考えると、A社がBに支給した海外研修費用はA社とBの労使の立場を離れた個人的な金銭の貸し借りではなく、労働契約の内容としてBに支給されたものといえる。
(4)そして、Bが支給を受けた海外研修費用は渡航費、大学院の学費及び寮費などの海外留学に必要な経費の実費精算である。本件誓約書の賠償予定の部分はその実費精算の部分のみに及び、基本給や賞与には及ばない。そのため、労基法16条の趣旨は及ばず、同条に反しない。
5 よって、A車の訴えは認められる。
第2 設問2
1 G社に対する請求
(1) Fは、G社に対し、職場環境配慮義務違反(労働契約法5条)を理由として、民法415条1項による損害賠償を請求することが考えられる。
(2) 労働契約法5条により、使用者は、労働者が働きやすい環境に配慮する義務を負う。この職場環境配慮義務は不法行為上の注意義務であると同時に、労働契約に付随する信義則上の義務である。
(3) G社は、FがDからストーキング等の被害を受けていることを相談されても、Fが注意すればいいだけだと考え、Fが主張するDの行為についてさらに調査をしたりFの職務場所の変更を検討したりするなどの対応をとっていない。G社がA社のホテル以外にも複数の清掃業務受託先を持っていたことも考えると、G社がFの職務場所を変更するのは容易だったと言える。また、G社はFに対しA社の相談窓口への相談をすすめることもしていない。そのため、G社がFの働きやすい環境に配慮したとは言えないので職場環境配慮義務違反がある。
(4) また、G社の義務違反によって、Fは恐怖と苦痛を感じて退社せざるを得なくなり、損害が発生している。損害とG社の義務違反に因果関係が認めらえっる。
(5) したがって、Fの請求は認められる。
3 A社に対する請求
(1) Fは、A社に大して民法715条1項の使用者責任による損害賠償を請求することが考えられる。同条の要件は①使用関係の存在②「事業の執行について」③被用者に一般不法行為が成立すること④免責事由のないこと である。
(2) ア A社とDは直接の使用関係にないので、DがA社の被用者といえるかが問題となる。
イ 親会社であっても、労働者の労働条件を具体的かつ現実的に決定することができる場合は使用関係が認められると解する。
ウ A社はDを雇用するE社の親会社であり、DはA社のホテルでリネンを配達する業務に当たっていた。そのため、A社はDの労働条件についても具体的かつ現実的に決定する権限があったと言え、使用関係がみとめられる、
(3)Dのストーキングは休日にFの自宅周辺でも行われているが、Dは業務時間中にFと二人きりになる状況を作り、肩や腰を触るなどしているから、Dの不法行為は外形的に「事業の執行について」なされたと言える。
(4)被用者Dについて、一般不法行為がせいつしている。
(5)たしかにA社はコンプライアンス相談窓口を設置している。しかし、G社がFにこの窓口の利用を進めることもなかったし、Fが退職後に利用しても、A社はえ社及びG社に事実関係を確認して両者とも問題となる事実はないと回答したらそれ以上の対応をしていない。そのためこの相談窓口が機能していたとはいいがたく、A社に免責事由が認められるとはいえない。
(6)よって、Fの訴えは認められる。
以上
自己評価…C
× 裁判例を読んだことがなかった。均等法に触れられなかった。
〇 一応それらしいのは出来た。裁判例とは結論違うけど、問題意識はなんとなくあってる。
まわりも出来てなそう。C位は取れるのではないか。