5年度予備試験 憲法再現
1 Xには消極的表現の自由(憲法21条1項。以下法名を略す)としての取材源秘匿の自由が認められるか。
2(1)まず、報道の自由は国民の知る権利に奉仕するものとして21条1項で保障される。(2)判例は取材の自由を21条1項に照らし十分尊重に値すると解している。しかし、報道は取材、編集、発表の一連のプロセスによる表現行為であり、取材は報道の不可欠の前提であるから21条1項で保障されると解する。(3)取材源秘匿の自由が保障されないと取材、報道に対し萎縮効果が生じ、21条1項を没却する。そこで、取材源秘匿の自由も同条で保障されると解する。(4)したがって、Xが取材源を秘匿する自由は憲法21条1項で保障される。
3 人権保障と私的自治の調和から、私人間の争いにも憲法の精神が間接的に適用される。(三菱樹脂事件判決)
4(1)甲の立場からは、Xはフリーのジャーナリストににすぎず、取材源は「職業の秘密」にあたらないとの反論が考えられる。
(2)職業とは、人が社会生活を維持するために行う業務をいう。
(3)たしかに、Xは新聞社Aを退社し、B兼記者クラブへの入会、B県庁とB県警の記者会見い出席することが許されておらず、記者にはあたらない。
しかし、Xは自らの関心に応じて取材した内容をどインターネットの動画サイトに投稿し、閲覧数に応じた広告料を得ることで収入を得ている。そのため、Xは生業として、取材・編集・発表を行っているから、報道機関に類似する。また、Xは若者を中心にインフルエンサーとして認識されており、社会的にも報道機関類似の存在と認識されている。さらに、Xは自らの取材に基づくノンフィクションの著作1冊を公開しており、その意味でも報道機関類似の存在である。
従って、Xの職業は記者・報道機関に類似したものといえ、その取材源は「職業の秘密」にあたる。
5(1)甲からは、Xの取材の方法は社会通念上許容される範囲を逸脱しており、そのような取材は憲法の保護が及ばないとの反論が考えられる。(2)表現の自由は自己統治の価値を有し、民主主義社会において非常に重要な権利であることは判例も再三指摘している。しかし、それも無制限なものではなく、公共の福祉(13条)による制約を受ける。そこで、社会通念上著しく妥当性を欠いた取材には、取材源秘匿の自由が及ばないと解する(外務省機密漏洩事件判決参照)。
(3)たしかに、Xは乙の自宅まで押しかけて執拗な取材をし、乙の私生活上の平穏が害されている。また、「あなたのそのンな態度が世間にしれたら、エコロジー家具の看板にも傷がつく」と半ば脅迫じみた取材を行っている。
しかし、渋々ながら乙は任意に取材に応じているし、Xの投稿した動画は名前を仮名にして音声を加工し、守秘義務と損害賠償の危険を負う乙に不利益が及ばないよう配慮がなされている。外務省機密漏洩事件においては個人の人権を著しく害する手段による取材の取材源秘匿が認められなかったが、本件でXのした上記の取材は取材を成功させるための方便にすぎず、社会通念上著しく不相当とまでは言えないので判例の事案とは異なる。
またたしかに、マスコミ各社のあと追い報道に寄ってい甲の製品の不買運動が怒っているが、これは甲がSDGsを標榜しながら森林破壊が国際的な批判を浴びていたC国からの木材を輸入していたことによるのであり、甲に帰責性がある。また、Xは公益目的で取材を行っており、保護の必要がある。
したがって、甲の反論は認められない。
6(1)甲からは、民事訴訟において取材源秘匿の自由は認められないとの反論が考えられる。
(2)たしかに、刑事裁判においては迅速な裁判の要請と将来の取材の自由が妨げられるおそれの調整から、民事訴訟よりも取材源秘匿の自由は厳格に判断される。しかし、判例の事案では開示請求者と取材源の秘匿を主張するものに利害対立が無かった。今回の事案では、Xが取材源の秘匿を認められないことでXの将来の取材に萎縮効果が生じ、対して甲は利益を得るという利害対立が生じている。それゆえ、判例の射程は及ばない。甲の反論は認められない。
7 以上より、Xの取材源秘匿の自由が認められ、証言拒絶が認められる。
以上
自己評価…F
O 事実の摘示と評価する姿勢があった。
X 主張反論型の答案になっていない。権利と権利の比較衡量という基本的な姿勢が出来ていない。NHKの判決に触れられていないし、西山事件も規範があっていない。文句なしのFでしょう。