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no.14 着想 ― コントリビュート(貢献)

貢献に必要な能力

達成指向


貢献のアイデアを開発する段階では、どんな逆境でもテーマの実現を達成しようという強い願望が必要だ。それは達成指向力である。
 
これが原動力であり、頑張る意欲であり、こだわりでもある。先ほど説明したアイデア開発のフォーマットを活かすには、蓄えたエネルギーを発火させる「やってみよう!」というチャレンジ精神が必要なのだ。
 
ウィリアム・スミス・クラーク博士が残した有名な言葉「Boys be ambitious!(少年よ、大志を抱け)」のように、それは野心である。
 

思考力


もう一つは、熟考する能力だ。
これは前述の達成指向力に関係している。
 
宮崎駿監督によるアニメ映画「風立ちぬ」をみたことがあるだろうか? (㉑) 映画は、堀越次郎の実話と、堀辰雄の小説「風立ちぬ」の物語をミックスして作ったフィクションだ。
 
映画の中盤に、三菱重工で飛行機の設計をしている次郎と上司の黒川が、日本海軍に飛行機を採用してもらうための飛行試験を行うシーンがある。
テストは、飛行機がどれだけの対空速度に耐えられるかを確認することだった。順調な飛行の最後に、パイロットは機体の高度を非常に高く上げ、そこから急降下させて最高速度に挑戦した。その際、速度の衝撃に耐えきれず、機体は空中でバラバラに分解してしまう。パイロットはパラシュートで脱出し無事だったが、次郎たちのチームが熱意と期待を込めて取り組んだ試験は失敗に終わった。
その夜、雨が降る試験場で、機体の残骸を拾い上げて確認していると、上司の黒川が次郎に「失敗の原因は(当初気になっていた)垂直尾翼の取付金具にあるのか?」と尋ねた。
その時次郎は「失敗の原因はもっと広く、深く、遠くにあると思う。 」と答える。
 
映画のこの台詞は唐突で、最初はよく分からなかった。というわけで、わたしはまた映画を見に行ってきた。そして、宮崎監督が彼の映画のハイライトシーンで言いたかった言葉が「広く、深く、遠く」であることに気付いたのだ。このセリフを入れることで人間の思考力の尺度を言いたかったようだ。
 
それらは、

  • 広く: 興味のある領域を広げ、巨視的に見て、考え、理解する能力

  • 深く:関心のある主題を掘り下げ、その根底にある要素を探求する能力

  • 遠く:自分の歴史、過去の現実、事件の原因を振り返り、未来への流れを読む力。さまざまなシナリオの想定である。

この 3つの要素について、もう少し詳しく見てみよう。

マクロな視点


 
マクロな視点とは鳥瞰的に、空から風景を眺めるような視方である。
 
小さな昆虫が周囲を見廻すミクロビューの対極にある。
 
株式会社ピーチ・ジョンの元社長である野口美香は、著書の中で次のように述べている。
 
「組織で成功する方法は、働きながら働くことの意味を考え、可能な限り大きな視点から自分自身を俯瞰することです。」
「私がしているこの仕事はこの部署でどんな意味があるのだろうか?」
「私が所属しているこの部署は、会社内で何を意味するのだろうか?」
「私がいる会社は、業界で何を意味するのか?」
「日本におけるこの産業とは?」
「日本は世界で何を意味すべきなのか?」 (㉒)
 
このように広い視野で全体を見ることができれば、自分のやるべき仕事の本質や果たすべき役割が明確になり、きちんと仕事をして自分の役割を完璧に果たせるようになる。 それができる人は、自然と会社で出世できると彼女は言う。
 
同様に、幕末の有名な思想家である吉田松陰の言葉に次のようなものがある。
 
自分自身だけでなく、自分が働く分野も向上させようとする意思は、その心のスケールを世界全体を包み込むほどに広げます。
まず、競争相手に敬意を払う必要があります。
人に会うたびに、その人に固有のスキル、才能、知識を認識する必要があります。
そうすれば、3年か5年、またはそれ以下で、そういった文化の組織は他の組織とは比べものにならないほど大きく発展すると思います。 (㉓)
このようなマクロな視点から物事を見ることはまた、貢献という考えをさらに強くすることができる。プロデュース全体に強力な視点を与えてくれるのだ。
 

より深く考え、基礎を掘り下げる


 
今私たちは、何も考えずにでも生きていける時代だ。
人生の表面的な楽しみを持ちたいだけなら、考えることが苦痛になることもあるだろう。また、ゲームやSNSなどを通じて、さまざまな刺激に瞬時に反応できるのであれば、深く考えることが生活の中でますます遠ざかっていく。
 
しかし日本にはこの深く考えることから生まれた文化がある。例えば、茶道や華道、能や俳句の世界など、先輩方は精力的に取り組んでいる。彼らはこれらの芸術に焦点を当て、将来の日本の世代が、洗練された人種として残るための崇高な価値を生み出した。
たとえば、世界をリードする自動車メーカーであるトヨタの勝利の秘訣は、絶え間ない改善である。
トヨタの従業員は、ひとつの問題を深く掘り下げ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、と自問自答することで、製品の品質とサービスを改善し、拡張すると言われている。トヨタは、問題の根本原因に焦点を当て、それを改善し続けることを企業文化にした。
この深く掘り下げていくという基本的な考え方が、イノベーションへの力にもつながるのだ。
 

将来のシナリオを描く力


変化のスピードはますます速くなり、一人一人の欲求や行動は多様化している。そして、未来を予測することは困難だ。
米国で有名なアイス ホッケー プレーヤーのウェイン グレツキーは、次のように述べている。「私はパックが今どこにあるか、から、次にどこに向かっているかに焦点を当てており、これは優れたプレーヤーが試してみるべき重要ポイントだ。」(㉔)
(※パック:球技のボールに相当するアイスホッケーの試合球)
 
アイスホッケーのようなゲームは、相手チームが 1つしかなく、明確なルールに従ってプレイされるため、将来を想定する要素は限られている。しかし、一般的な現実の状況、特にビジネスはより複雑だ。この急速な変化の向かっている地点をどのように見つけることができるだろうか。見つけることは不可能だが、想像することはできる。
 
仮説を立てることから始めよう。仮説なので、実現するかどうかはわからない。
つまり、動きやトレンドを見ていかないと、仮説が正しいかどうかわからないということだ。しかし、イメージング、仮説の構築はプロデュースに欠かせない作業だ。
仮説を立てる力を身につけるにはどうすればよいだろう?
一筋縄ではいかないが、歴史を学ぶことである程度身につけることができる。
世界的ベストセラー『サピエンス全史』『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリは、著書『ホモ・デウス』の中で、人類が未来に創り出す新しい社会を生き生きと描いている。
彼自身も歴史家であり、過去を研究することで革新的な未来像を描くことができたのだ。
 
一般的に、プロデュースしようとするときは、このように仮説を立てることから始めるのが理にかなっているのだ。そしてこのトレーニングを行うことで、「貢献」のアイデアを生み出す思考力も鍛えることができる。