no.19 発案 ― コンポーズ(構築) Ⅰ
すべては発案から始まる
具体的なプロダクションは着想したアイディアをうまく伝えることから始まるといっても過言ではない。
アイディアを実現するために、昨今のさまざまなテクノロジーを駆使するにしても、多くの場合、特にプロダクションの最終段階では、人々が一緒に働く組織を活用する必要がある。
また、アイディアのプレゼンテーションは、協力してくれる人的資源を獲得するだけでなく、プロダクションを実行するために必要なお金やその他の資源を得るためにも必要だ。これらの資源を確保するためには、必要なネットワークを構築することが重要。そしてこのためにも、アイディアのプレゼンテーションは避けられないプロセスである。
世界的なデザインコンサルティング会社 IDEO の経営者 David Kelly と Tom Kelly は、著書「Creative Mindset」の中で、日本、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカの 5 か国の消費者 1,000 人に対し次の質問を行いその回答の調査を行ったと書いている。「上記の5カ国のうち、最もクリエイティブな国はどこだと思うか?」
その結果、日本が1位になった。日本が10%ポイント以上2位を引き離し1位になった(㉘) この結果は何を意味するのだろうか? (ちなみに、日本人1000人の回答だけを見ると、圧倒的にアメリカがNO.1だった。)
寿司、箸、着物、襖(ふすま、障子)などが、外国人にはクリエイティブなプロダクツに見えるのだろうか…それとも日本のアニメや漫画の影響で、今人気が高いのだろうか? 原因はわからないが、これらの質問の結果を見る限り、日本人の創造性や独創性は誇れるものだと思う。
では、なぜ、近年日本には世界をリードするプロデュースや革新的なビジネスが少ないのだろう?
近年日本人が比較的多く受賞しているノーベル賞の研究に基づく革新は、今後の日本の産業のエネルギーとなるだろうか?
日本の1人当たりの国内生産(GDP)は 2000年以降低迷している。(2000年の2位から2021年には27位に低下)。それは、ここ数年日本で生み出された本当に世界に貢献できる驚くべき製品やサービスがほとんどない、ということの現れかもしれない。
このような状況を見ると、日本でオリジナル商品が作りにくい理由の一つとして、日本人はある程度アイディアを出すことは得意だが、それを第三者に伝えていく過程で、それがしぼんで弱くなってしまうということがあると思う。その結果として良いアイディアを実現するために必要な協力者の組織を形成することが困難になる。
どうしてなのか? それは他の人種に比べて、多くの日本人には人をリードするエネルギーが不足しているからかもしれないし、あるいは、日本人には恥を極力避ける文化があり、その文化がプロデューサーを人前に出さないようにしているからかもしれない。
多国籍企業での私の経験では、日本人はドキュメント(書面によるレポート)に必要なロジックとデータを整理することが比較的苦手なようだ。おそらくその主な理由の1つは、言語能力、特に最近では国際語である英語の能力だろう。英語でのプレゼンテーションとなると、引っ込み思案になる日本人も多い。
国際的なライフスタイルの実践者としても有名な日本人の大橋巨泉は、彼の著書「巨泉」に次のように書いている。
しかし、どこに問題があったとしても、アイディアを提示しないとプロダクションは始まらない。 「それは私が前に上司に説明したことです」「それは私が以前考えていたのと同じアイディアだ」など、提示されたアイディアについて自分が以前考えた、ということを誇りに思って言う人もいる。
しかし、彼ら自身が十分なプレゼンテーションをしていなければ何も始まらない。それをしないとプロデューサー失格なのだ。 「提示」なくして「実現」はありえない。
このように、個人から複数人まで、アイディアや意見を伝えることが、何かを実現するために必要なこと。このプロセスにはリーダーシップが必要だ。このテキストでは、プロデュースと並行して、ビジネスのリーダーシップとマネジメントの概念について説明する。そして、ここで強調したいのは、プレゼンテーションから実現に至るプロデューサーの活動全般が、このリーダーシップによって支えられているということだ。
実現<コラボレート>の章で言及するように、有名なビジネス書「エグゼクティブの機能」で、チェスター・バーナード(現代経営理論のマスター)は、「企業体は、以下の存在によって確立され、定義される」と言っている。
① 共通の目的
② この目的を理解するためのそこで働く人々の間のコミュニケーション
③ この目的を達成したいという協力的な意志
である。
このバーナードの言葉でもわかると思うが、2つの段階、目的の構築<Compose>と目的の伝達<Communicate>は、このステージ、発案の骨格でもある。
そして、リーダーとしてリーダーシップを発揮するためには、まず第一に、企業と人をどこに導くべきかを明確にすることが必要。プロデューサーには、この目的を明確に構築する必要があるのだ。
そして次にリーダーはそれを自信を持って複数の人にわかりやすく説明する必要がある。
目的の構築(コンポーズ)… ストーリーメイキング
コンポーズ、「構築する」とは、まず最初にプロダクションの目的を言葉で表現し、説得力のある一貫したストーリーを作成することである。
このストーリーを作るために、プロデューサーは、テーマを設定する際の期待についてと、どこで戦うかの決定に至るまでのプロセスを説明する必要がある。
また、それを実現するためのアイディアとクリティカルコア:この実現の鍵となる要素、勝つ方法をストーリーに形作ることである。
どこでプレーし<where to play>、どのように勝つか<how to win>のストーリーを作り、それを人々にとって明確で理解しやすいものにするのだ。
その際、第三者がイメージしやすいようにプロデューサー自身の経験を盛り込んでストーリーを充実させることもお勧めだ。論理だけで主張するのではなく、抽象的になりすぎないように実際の話をするようにしよう。物語の本質を説明するたとえ話やことわざを使用することもできる。実際のプレゼンテーションの前には、このストーリーを書き物にすることをお勧めする。この作文はきっと後で役に立つだろう。
スターバックスのハワード・シュルツ氏は、カフェスタイルのコーヒーショップのアイディアを発表するとき、次のような話をしたのではないだろうか。スターバックスがコーヒー豆の小売のみの事業だった初期の頃、自分のアイディアを関係者に知らせる必要があったはずだ。
これらのストーリーを主要なパートナーに提示し、彼らのフィードバックに耳を傾ける。あなたがしなければならないのは、あなたの話をして、相手から率直な意見を聞くことだ。
ストーリーの検証
第15週の「創造は推移的」では、ワラスの準備期、孵化期、啓示期、というアイディア作成プロセスに触れた。そして今説明しているこの段階では、ワラスのプロセスの最後、実証期における検証が重要なのだ。
このプレゼンテーションでは、ストーリーの一貫性と、そのストーリーが第三者の視点から見ても実質的な意味を持つのか、それとも単なるプロデューサーの独善的なものなのかについて、主要なパートナーの意見を聞く必要がある。
また、その前に、書いたストーリーを数日間寝かせておくのも良い考えだ。その話に論理的な欠点がないかどうかを、日を置いて検討するのだ。
・話が楽観的すぎないか?
・話の流れに不合理なドグマや飛躍はないか?
・物語の根拠となっている仮説が間違っているとしたら、どのようなことが考えられるだろうか?
・ 組み立てられたストーリーどおりにいかない可能性のある障害は何か?
など。
そして、自分の論理と結論を裏付ける社会的および経済的データと、それを否定する可能性のあるデータに注意を払い、それらを積極的に収集して検討する必要がある。
そして、アドバイスしてくれる人に真摯に相談してほしい。
そのようなデモンストレーションが適用された後にも、物語が永続的な生命力で生き残れるということが重要だ。
参考文献:
㉘ 「クリエイティブ マインドセット」トム・ケリー&ディビッド・ケリー著(日経BP社)
㉙ 「巨泉 人生の選択」大橋巨泉著(講談社)