もう1つの元祖ARG『Majestic』②
ビデオゲームの大手エレクトロニック・アーツが2001年に発売した、月額課金型のARG『Majestic』を紹介する記事の第2回です。
今回は『Majestic』が具体的にどのようなARGであったかについて書いてみたいと思います。
前回の記事はこちら↓
そもそもどんなゲームなのか
『Majestic』は前回も書いたようにビデオゲームの大手エレクトロニック・アーツ(以下「EA」と表記)から2001年7月に発売されたオンラインゲーム型のARGです。
最初のプログラムは無料でダウンロードできますが(CD版も配布されてた模様)、プロローグであるエピソード0が終わったあとエピソード1以降に進むためには、毎月9.99ドル(9.98ドルという説もあり。どっち?w)を支払う必要がありました。
発売時にEAがどのようなゲームとしてアピールしたのか、テキストのようなものは見つけられませんでしたが、トレーラーは残っているため、現実で起こっているかのようなサスペンススリラー感を強く意識しているのが伺えます。
トレーラーの最後に流れる「It Plays You」(それをプレイするのはあなた自身だ)というキャッチコピーも、このゲームの目指すところをよく表しているかと思います。
基本的な構造
ゲームをインストールして立ち上げると、ゲームの基本的な画面である"Majestic Alliance Application"が立ち上がります。
このアプリケーションには、EAが作成した60以上のウェブサイトを検索できる専用の検索エンジンやフレンドリスト、AIM(当時もっとも人気のあったメッセージアプリ)などが統合されていました。
フレンドリストはゲームに登場するNPCだけでなく、初めてプレイする際に他のプレイヤーをランダムに選び、ゲームの進行状況に応じて他のプレイヤーに助けを求めるためのインスタントメッセージを送受信できるようになっていました。NPCとAIMを通じて会話することもできたようです。(といっても特定の単語に反応するだけのBOTだったようですが)
さらに"Majestic Alliance Application"に電話番号やFAX番号を登録することで、物語に応じてプレイヤーに電話やFAXが送られてくる仕掛けも備えていました。
ただ、例えば家にある電話にプレイヤーを脅すような電話がかかってきて、それを何も知らない家族が取ってしまったら大変なことになります。そこでプレーヤーは自分の望むレベルのリアリズムをコントロールするオプションがありました。
例えば完全な体験を望むのであれば、夜中に電話がかかってきたり、職場にファックスが送られたりするなど、一切の妥協なしに連絡を受け取ることになります。
一方、もっともコントロールされた状態に設定すると、電話は特定時間にしかかかってこず、音声の前にこれはフィクションであるとの注意が流れます。
ARGはどこまでをフィクションと明記すべきか問題は今でもよく議論になりますが、これは「迫真のごっこ遊び」をしたい人にとってはワクワクする設定項目だなと思います。
ゲームの進行
ゲームは完全にリアルタイムで進行します。物語の中での1日はゲームにおいても1日なのです。
進行が止まる状態が2種類あります。まずプレイヤーに提示された謎やパズルが解かれないと進まないパート。
ちなみにどのような謎やパズルだったか調べてみたのですが、残念ながら具体的なものを発見できませんでした。当時のIGNのレビューでは
「電話、Eメール、インターネットを駆使した複雑なパズル」
と書かれているので、ARGとしておなじみのトランスメディアな情報探索なのかなと思うのですが……
もう1つ進行が止まるタイミングはNPCの行動によるものです。たとえば物語の中でNPCが「明日電話する」と言ったら、明日になって実際に電話がかかってくるまで物語は進行しません。
ゲームクリエイターであるニール・ヤングはインタビューで
「毎晩ゲームに何時間も費やさなくても成功したと感じられるものを作りたかった」
と語っています。これは、彼が仕事や第一子の出産を控えているためにゲームの時間を見つけるのに苦労していたというバックボーンがあったと言われています。
しかし、結果的にプレイヤーのペースで進められないことが『Majestic』の不満となり、商業的な失敗の一因となるのですが、このれについては次回に詳しく述べていきたいと思います。
チュートリアルが突然止まる
ではゲームの序盤について紹介していきましょう。
『Majestic』のプレイヤーはゲームを立ち上げ、まずチュートリアルを見るのですが、なぜか途中でゲームが止まってしまいます。
そして、EAからのお詫びのメッセージを受け取ります。
ここで前提となるのが、このゲームは発売はEAですが、開発・運営はAnim-Xという会社が行っている、という設定です。
そしてPortland Chronicleへのリンクが貼られており、クリックすると火事の情報が掲載されているニュースサイトへと飛ばされます。
つまり、トランスメディア要素の強いサスペンス・スリラーのビデオゲームだろうと思って始めたつもりが、ゲームの外で起こった(ように見せかけた)事件によってそのゲームが中断し、実はビデオゲームの外に真の物語があるという構造です。
このラビットホールの誘導は、今みてもとても良くできていると思います。
火事の裏にうごめく陰謀
Portland Chronicleのニュース記事を入口に、Anim-Xの中心人物の1人が死んだことがわかり、当初失火もしくは放火と思われたAnim-Xの火事も単なる事故ではない可能性が見えてきます。
Anim-Xは、スケジュールの大幅な遅れで負債を抱え、EA社との契約も失う寸前だったのです。この火災は巧妙な保険詐欺を狙った結果、事故で1人が巻き込まれてしまったのではないか。地元当局は4人の行方不明の社員を追います。
しかしプレイヤーはさらなる情報を集めることで隠された真実に気づいていきます。
Anim-Xのスタッフは『Majestic』という陰謀をテーマにしたゲームを制作している間に、偶然にも知ってはいけない本当の陰謀を発見してしまったのです。プレイヤーは影の勢力からAnim-Xの生き残ったスタッフを守るべく、陰謀を解き明かしていくことになります。
Majesticのコンセプト
Majesticのコンセプトは、多くの陰謀論のプラットフォームとなった全国ネットのラジオ番組「Coast to Coast」にさかのぼるとのことです。Majesticの生みの親であるニール・ヤングが自身のインスピレーションの源として挙げているこの番組では、Majestic 12と呼ばれる秘密政府組織のメンバーであると主張する電話が紹介されていました。
Majestic 12については、日本のウィキベディアにも項目があります。
また、映画『ゲーム』(1997年)の影響も受けているとのこと。
『ゲーム』は初期のARGクリエイターのほどんどが影響を口にする作品です。ARG好きならぜひ一度見てみたください(2024年8月現在、U-NEXTなら配信で見れるようです)
5つのエピソード
『Majestic』は5つのエピソードで構成されていました。
エピソード0「Majestic」2021年7月4日(無料)
エピソード1「The Alliance」2021年7月4日
エピソード2「Control」2021年8月27日
エピソード3「「Visions」2021年10月4日
エピソード4「Disinformation」2021年11月16日
上で紹介したプロローグ後の具体的なストーリー展開はいろいろ調べたのですが、どうにも内容がわかりませんでした。
特にEAが『Majestic』のサービス終了と共にサイトなどの情報をすべて破棄してしまったため、現時点で断片的な情報すら見つけるのが困難になっています。
ちなみに無料でプレイできるエピソード0は最短で3日ほど、その後の有料の各エピソードは最短で6日前後で終わるボリューム感だったようです。
現実との境目
『Majestic』の魅力的な点の一つとしてよく挙げられるのは、既存の陰謀論や都市伝説を利用して世界観を深め、物語を拡張し、フィクションと現実の境界を曖昧にしたことです。プレイヤーが物語を体験する中で、プレイヤーはしばしばEAが作成していない実在のウェブサイトに誘導されました。
しかも単に外部の情報を使うだけでなく、いくつかの陰謀ウェブサイトと提携し、ゲームに関連する情報を掲載してもらう代わりに、Majestic Alliance Applicationの検索エンジンにそれらのサイトを含めました。
『Majestic』のもう一つの革新的要素は、ユーザーが作成したコンテンツを取り入れたことでした。『Majestic』はプレイヤーがゲームのサブキャラクターやイベントを肉付けすることを許可したのです。
ニール・ヤングによれば、2001年8月までに約380の『Majestic』ファンサイトが存在してたとのこと。
これに加えて、多くのプレイヤーがロールプレイを決め、ゲームをプレイしたりコミュニティスペースで交流する際にキャラクターになりきりました。
これらの要素はプレイヤーの没入感を呼び起こし、gamespy.comでは
「私たちのオフィスでの暇つぶしは、Majesticをプレイする男をからかうことだ」
と揶揄する記事すら生まれたそうです。
今回は『Majestic』の内容について書いていきました。
最終回となる第3回では『Majestic』がなぜ商業的に失敗したのか、またどのような部分が評価されたのかについて触れていきたいと思います。
※記事執筆の主要参考文献については第3回にまとめて記載します。
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