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もう1つの元祖ARG『Majestic』③

最終回となる今回はARG『Majestic』の失敗の原因と、評価ポイントについて書いてみたいと思います。
1回目と2回目の記事はこちら


伸び悩んだ課金ユーザー

ゲーム開始時のエピソード0には80万人のプレイヤーが興味を示したようですが、実際に課金してエピソード1をプレイし始めたのは7万人あまり、そして第1シーズンの最終課金者は1.5万人に留まりました。『Majestic』の累計赤字は500万~700万ドルに達したと言われています。
2001年11月、EAは『Majestic』の低迷を切り抜けるために、デラックス版のパッケージを発売しました。価格は40ドルで、『Majestic』のアプリケーションと第1シーズンの全サブスクリプションが付属していました。しかし、残念ながら状況を改善するには不十分でした。

『Majestic』パッケージ版
ebayより

2002年初頭にEAは『Majestic』を4月に終了し、第2シーズンはないことを発表しました。
では、なぜこれほどの失敗となったのでしょうか。

自分のペースでできないことの苛立ち

サービス終了後にEAのジェフ・ブラウンは、ゲームのペースがゲーマーにとって問題だったと指摘しました。
「プレイヤーは自分のペースでプレイしたいのに、Majesticはゲームのペースでプレイさせました。プレイしたいと思っていた多くの人々は、メールや電話を待たされることを強いられました」
前回説明したように、例えばキャラクターが3日隠れると連絡があった場合、プレイヤーはそのキャラクターからの続報を最低でも3日待たなければならなかったのです。

『Majestic』ゲーム内の動画
Majestic the forgotten EA game(The KyloRylo)より

特にプレイヤーがやることの中心が比較的単純なタスクとパズルだったため、やるべきことがあっという間に終わってしまって、あとはゲームの進行をひたすら待たなければならないのは苦痛だったようです。
また、パズルの難易度が高くないのに、ゲーム側がプレイヤーにヒントや解決策をあまりにも早く教えてしまい、挑戦感を失わせているというのも不満につながっていました。

前回述べたように、ゲームのクリエイターであるニール・ヤングはこのような構造を意図的に作っていました。
リアルタイムに進行するゲームプレイのアイデアは多くの人々の想像力を掻き立てましたが、多くのゲーマーは、各セクションでやることが足りないと感じており、次のストーリーの瞬間が起こるのを常に待っている状態でした。逆に『Majestic』に毎日時間を割けないプレイヤーは、数日間プレイを逃すとゲームについていくのが大変になると不満を述べました。

こういった問題はリアルタイムに進行するARGでは大なり小なり発生する危険を孕んでいますが、ARGが生まれたばかりの2001年にはまだそういった進行コントロールのノウハウも少なく、また有料だったことがその不満に拍車をかけたのではないかと思います。

その他の失敗要因

ゲームが月額課金され、エピソードが順次追加されるような形態のゲームはまだ一般的ではありませんでした。
2001年の時点で提供されているのはほとんどがMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGであり(EAも『ウルティマオンライン』を1997年からスタートさせていました)、MMORPG以外のジャンルで月額課金されたものはほぼなかったと思います。そのMMORPGですらも一般に浸透したのは2004年の『World of Warcraft』以降です。

更に元祖ARG『The Beast』や、ARGの原型と言われる『Ong's Hat』(1980年代後半~1990年代)などの作品が無料で体験できたこととも比較され、不満に繋がりやすかったようです。

また、リリース日も不運でした。なぜなら「9.11」の攻撃がエピソード2の開始直後に発生したからです。
EAは9月12日に
「最近の国家的悲劇を考慮し、ゲーム内のいくつかのフィクション要素がこの時期には適切でないと感じています」
と述べ、『Majestic』を1週間停止しました。
ゲームは翌週には再開されましたが、この中断はゲームに大きなダメージを与えました。多くのプレイヤーにとって「9.11」が起こったことの後ではゲームのストーリーが現実を思い起こしすぎたからです。
『Majestic』を絶賛していたあるレビュワーは10月に次のような文章を追加しました。

アップデート(2001年10月1日):
この記事を再投稿して、『Majestic』についての新たな感想を述べたいと思います。私はもう『Majestic』をプレイしていません。1カ月前に私が今年最高のゲームだと言っていた『Majestic』は、今では信じられないほど間抜けで愚かに思えます。理由はお察しの通りです。1カ月前には、キャラクターに怒鳴られたり命を脅かされたりする個人的な電話を受けるのはクールに思えました。今は……怖いとしか思えません。

Review: Majestic (part 2) - Suite101.com (archive.org)より

肯定的な評価

しかしながら、『Majestic』が時代を先取りした革新的な要素を持っていたのも事実です。

2001年のE3で『Majestic』はオリジナルゲーム部門で最優秀賞を受賞しました。(ちなみにゲームの実際の制作チームではなく、『Majestic』内の架空制作チームであるAnim-X名義で表彰されたそうです。こういった演出は粋でいいですね)
また2002年のGDCでは「Game Innovation Spotlights」の1つに選ばれました。

今の視点で見ても、有料課金によるマネタイズ、物語と交流のハブとなるMajestic Alliance Applicationの提供、真夜中すら電話がかかってくるリアルタイム性、プレイヤーのロールプレイを認める等々、注目すべきポイントは多いと思えます。
今回の記事で、少しでも多くの人が『Majestic』という作品を再評価し、今後のARGの参考にしてくれると嬉しいです。

主要参考文献

※①~③すべてに共通の参考文献です

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