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崖っぷち、大人留学スタート!

こんにちは!
ツアーガイドのFujikoです✨
ちょうど13年前に書いたスペイン留学のブログ「不惑のハポネサ」。
ディレクターズカット版で25回のシリーズでお送りします。
当時は映画業界で働いていました。ツアーガイドとは異業種ではありましたが、異文化交流ということは共通していますね。
アメリカ大学留学時に出会ったスペイン語を続けたいという思いと、スペイン映画をより深く知りたいという思いから、2011年1月から7月までスペイン・マドリード市に留学しました。
では、どうぞ!


2010年11月、Fujiko、40歳。

東京国際映画祭という大イベントを終えたばかりで、魂が抜けたような放心状態から、少しずつ回復していました。2か月近く、毎日終電で帰るような仕事漬けの日々でしたが、映画祭が終わってからは、朝定刻に家を出て、残務整理をして、定時に帰宅する日々が続きました。たまには仲間と飲みに行ったり、映画を観たり。そんなふうに、ゆっくりと充電しているような毎日です。ずっと望んでいたはずの開放的な時間。でも、ふと疑問が湧いてきました。

「このまま、この生活でいいのだろうか?」

私は映画が好きで、国内の2つの国際映画祭で13年間も働いてきました。週末や夏休み、冬休みも返上して打ち込んできた仕事です。家族からは「また仕事?」と言われ、温泉や外食などの家族行事からも疎遠になっていました。大好きで天職だと思っていた仕事でしたが、振り返ってみると、まるで100メートルの全力疾走を13年間続けていたような気がします。心も体も、疲労感でいっぱいでした。


再び留学に目覚める

そんな時、自問自答が始まりました。

「もし80歳まで生きるとしたら、40歳からの残りの人生をどう過ごしたい?」

その答えは、「20代で諦めた夢を40代で実現させる」でした。様々な国を訪れて、悔いのない人生を送りたい。そんな想いが湧き上がってきたんです。

子供の頃から世界を旅することが夢で、20代でアメリカの大学に留学しました。必修科目でスペイン語を専攻したことがきっかけで、そのリズムや発音の魅力にどっぷり浸かるようになりました。当然、スペイン語圏に留学したいという気持ちが強くなっていきました。でも、当時は経済的な理由で、その夢を断念せざるを得ませんでした。それでも、その悔しさはずっと心の片隅にあり、時々思い出しては胸が痛んでいました。

それから20年が経ち、「このモヤモヤを吹き飛ばしてやる!」と急に思い立ち、スペイン語を猛勉強しました。でもまた、疑問が湧いてきます。

「でも、勉強して何になる?」

そんなある日、日本での洋画公開状況の資料を見ていた時、スペイン映画の公開本数の少なさに驚きました。2008年に日本で公開されたスペイン映画は、たったの4本。ペドロ・アルモドバル監督や『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル監督作品以外は、ほとんど公開されていない状況でした。それに比べ、スペインでは日本映画が19本も公開されています。日本の年間製作本数は450本、スペインは380本。そのデータから、両国の公開状況のバランスの悪さが見て取れました。

「もしかしたら、スペインにはまだ埋もれている秀作があるかもしれない」と、長年映画祭で働いてきた経験が私の心を揺さぶりました。どうせスペイン留学を考えるなら、「埋もれた秀作を見つけて日本に紹介したい。そのためにスペイン映画を研究する」という目標を掲げ、助成金や奨学金を申請してみようか、というアイデアが浮かびました。

でも、また自問自答です。

「でも、研究して何になる?キャリアアップ?自己満足?映画祭の仕事を続けた方が無難じゃない?家のローンはどうするの?」


リスクを覚悟して、留学を決意

もちろん、40歳を過ぎてからの留学のリスクは百も承知です。特に私はフリーで扶養してくれる家族もいません。リスクは倍増です。日本を半年間不在にして、帰国後どうするのか。拠点を日本だけに限定しない"ノマド生活"にも憧れはあります。でも、その状態で本当に自分が望む仕事ができるのか、不安もありました。

でも、頭と心がパンパンに詰まった状態でこのまま過ごし続けるのは、耐えられませんでした。初期設定を見直し、メモリーを増設しない限り、限界が来ている自分がいました。自己責任、家族への責任、社会人としての責任。リスクは小さくないけれど、もっと攻めの姿勢で仕事に向き合いたいと思ったんです。

一か八か。私はスペイン留学という勝負に"のる"ことにしました。


¿Tiene un bocadillo de camalero?(カマレロ入りのボカディーヨはありますか?)

そして2012年1月上旬、私はマドリードに到着しました。

到着早々、スペイン人たちから「イカリングのボカディーヨ(スペイン風サンドイッチ)はもう食べた?」と聞かれました。どうやら、マドリードではイカリングのボカディーヨが有名らしいです。

イカリングのボカディーヨ。実はこれでもミニサイズ。
普通サイズだとアゴが外れるくらい大きな口を開けないと食べきれない。

「なんで海のないマドリードでイカリング?」と不思議に思いながらも、その情報を頭の片隅に保存。極めつけは、日本大使館の関係者からも同じことを言われたんです。そんなに有名なのか、と興味が湧き、有名店に足を運ぶことにしました。

マドリードはスペインの首都で、国土のちょうど中心に位置しています。海沿いの都市バルセロナやバレンシアから海産物が運ばれてくるため、市内の市場には新鮮な魚介類が並んでいます。


スペインはヨーロッパ南西イベリア半島に位置する。
人口約4,719万人(2011年1月)、面積50.6万平方キロメートル(日本の約1.3倍)。


私が訪れたのは、「サン・ミゲル市場」の近くにある、イカリングのボカディーヨ専門店でした。

マドリード市中心に位置する夜のサン・ミゲル市場。終日観光客で賑わっている。

スペイン語がまだおぼつかない私にとって、注文するのは一大チャレンジです。そこで、NHKラジオ講座で覚えたフレーズを思い出し、勇気を振り絞ってこう言いました。

「¿Tiene un bocadillo de camalero?(カマレロ入りのボカディーヨはありますか?)」

20代の若い店員さんは一瞬固まり、ぶっちょう面で「Sí, un momento(はい、少々お待ちください)」と言ってくれました。愛想はないけど、客の注文を手際よくこなすその姿に、私はなぜか惹かれてしまいました。

出てきたボカディーヨには、パン粉ではなく小麦粉を軽くまぶして揚げたイカリングだけが挟まれていました。野菜がないサンドイッチなんて、栄養バランス悪いなあ、なんて思いながら一口食べました。

シンプルな味だけど、塩味がちょうど良いイカリング。それをビールで流し込み、また一口、モグモグ。


言い間違いが生んだ笑い話

帰宅して、今日の出来事を同居しているスペイン人女性に報告しました。

「カマレロ入りのボカディーヨを食べたんだよ!」と言うと、彼女は驚いた顔をしました。発音が悪かったのかと思い、ゆっくりと繰り返してみても、なかなか理解してもらえませんでした。そこで、イカリングが挟まれていたことを説明すると、彼女は「ああ、camaleroじゃなくてcalamaresね!」と。

そうです。私は「bocadillo de caramales=イカリングのボカディーヨ」ではなく、「bocadillo de camalero='店員'入りのボカディーヨ」を注文していたんです!これで店員さんが一瞬驚いた理由も分かりました。

同居人の彼女は、スペイン人らしい質問をしてきました。

「¿El chico es guapo?(彼は格好よかった?)」

私は笑いながらこう答えました。

「Es muy guapo y está rico(格好良かったし、'店員入りのボカディーヨ'は美味しかったわよ」

スペイン語がまだうまく話せなくても、冗談くらいは言える!
そんなふうに、自分のちょっと恥ずかしい失敗を笑い飛ばすことができました!


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