スペインと映画の出会い
こんにちは!ツアーガイドのFujikoです✨
13年前に書いたスペイン留学ブログ「不惑のハポネサ」を、25回のシリーズで別バージョンでお届けします。映画業界で働いていた頃の体験をお楽しみください!
■あれは確か・・・🎥
高校3年生のときの話。
男女共学校に進み、毎日が楽しいだろうと期待していたのだが、予想に反して勉強漬けの日々が待ち受けていた。その生活は刺激がなく、単調でつまらなかった。
子どもの頃から平凡に生きることが苦手だった私は、腹痛をおこしたフリをしては学校をさぼり、映画館で古今東西の映画を観まくっていた。
そして・・・そう、あれは確か平日の午後。
地元の単館系映画館の50席ほどの劇場で、私の頭は何か新しいものに出会ったときに得られる刺激を過剰摂取したような状態になった📽️ペドロ・アルモドバル監督の映画『神経衰弱ぎりぎりの女たち(Mujeres al borde de un ataque de nervios)』を観てしまったからだ。
映画は、主人公のペパが何年も付き合っていたアマンテ(愛人)から別れを突然告げられたシーンから始まる。
妊娠の心配も重なり、ペパの苛立ちは極限まで達していた💥
愛人の新しい彼女、愛人の本妻、ペパの女友だちと、愛に狂った女たちをブラック・ユーモア満載で描き出した作品だ🎞️
スクリーン全体にこれでもかと広がる主張の強い色たち🎨ドラッグ、セックス、ロックの快楽と退廃に満ち溢れたアルモドバル映画に私はショックを受け、そして夢中になった。
若かりし頃のアントニオ・バンデラスも出てるのー💛
それまでは、ハリウッドのクラシック映画やオードリー・ヘップバーンがお気に入りだったのだが、人間の欲望を恥じらいもなく素直に描いているアルモドバル映画にそれまで体感したことがない「カッコよさ」を感じた✨
あれは映画であり特別な世界、というのはわかっていたが、それでも舞台となったスペインという国に興味を持つきっかけとしては十分すぎるほどだった。
■La movida madrileña(モビーダ・マドリレーニャ)🎶
アルモドバル監督が映画監督としてデビューしたのは、1980年代前半だ🎥
1975年にフランコ政権が崩壊し、転換期にあった80年代のマドリードで「La movida madrileña(モビーダ・マドリレーニャ)」という文化運動が起きる。
体制時代に抑圧されていたあらゆる表現や欲望が噴出した社会現象であったと歴史的にも評価されている。
マドリードの夜は若者たちで溢れ、革新的な活動は映画だけでなく、音楽、写真、絵画、文学の領域でも盛んになった🎶
「アンダーグラウンド」「カウンターカルチャー」といった性格を持つこの運動は、スペイン国内に広がりを見せていった。
アルモドバル監督は、この運動のアイコンの一人とされている📽️デビュー作である『ペピ、ルシ、ボム、その他大勢の女の子たち』(1982)は、その流れの中から生まれたアングラ的要素の強い映画で、多くの若者たちの支持を集めた。
当初は既存の評論家たちから注目されることは少なかったが、次々に発表されるアルモドバル作品の人気は一層高まり、無視できない存在へと成長していった。
そして、あの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』が登場する。
■ごヒイキではないが好きな映画館🎦
映画関係者ウケが決して良いとは言えなかったアルモドバル監督のデビュー作を初めて上映したのは「Golem(ゴーレム)」という映画館だった。
当時は「Aphaville(アルファービレ)」という名前だった。
マドリードの中心地から少し離れたスペイン広場や大学などが隣接するエリアにある単館系の劇場だ。
「モビーダ・マドリレーニャ」が学生や若者を中心とした文化運動であったため、この立地には納得がいく。
周辺にはシネコンや映画書を取り扱う専門書店「8 1/2(オーチョ・イ・メディオ)」がある。
国営映画館「Cine Doré(シネ・ドレ)」があるちょっと怪しい地区とは違い、文化の香りが漂う場所だ📚治安も比較的安全なところで、「Golem(ゴーレム)」はハリウッド系以外の外国映画をスペイン語字幕で上映しており、コアな映画ファンが通う映画館になっている。
スペイン映画を研究していた私には、外国映画を上映するこの映画館を訪れる機会はあまりなかったが、是枝裕和監督の『奇跡』を上映すると聞いたときはそうはいかなかった。
是枝監督作品のほとんどを観ていた私は、ようやく「Golem(ゴーレム)」を訪れる理由ができたわけだ。
すでに公開3週目で、観客は10人程度だったが、このような日本映画をスペインの映画ファンに届けてくれる映画館があるということに感慨深いものがあった🎬
アルモドバル監督の映画をきっかけに私がスペインを訪れたように、是枝作品を観たことがきっかけで、日本を訪れるスペイン人がいるかもしれないから――。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?