【2024年大統領選】投開票まで1か月 討論会後の最新情勢(2024年9月)
こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、11月5日の投開票日まであと約1か月となったアメリカ大統領選挙について、最新の情勢を分析します。
9月10日に行われた大統領選討論会では、民主党のハリス氏と共和党のトランプ氏が初めて対決しました。ハリス氏がやや優勢だったという見方がある一方、両者とも決定打は得られませんでした。
民主党では、ハリス氏への候補交代から2か月以上が経過しました。候補交代後は支持層の結集が見られましたが、現状はどうなっているのでしょうか。
ハリス氏に迫られているトランプ氏は、大統領選をどう戦っていくのでしょうか。最新の情勢について考えます。
最新の世論調査結果
全米調査 ハリスvs.トランプの接戦続く
米大統領選は州ごとに割り当てられた538人の選挙人を争う選挙制度のため、全米レベルでの得票数は結果と直接関係しませんが、全体の情勢を概観するため、全米での世論調査を見ていきます。
全米レベルの支持率は、直近1か月で大きな変化が見られません。ハリス氏が平均値では上回っていますが、最大3ポイント程度の差しかなく、接戦が続いています。
直近の出来事としては、9月中旬に2度目のトランプ氏暗殺未遂事件がありましたが、支持率平均の推移からも、選挙への影響は確認できません。
暗殺未遂事件が2度目であり、1度目と比較すると世論への衝撃が少なかったことや、党派的に分極化した世論では暗殺未遂の衝撃が支持率の変動に繋がりにくかったためだと考えられます。
激戦州調査 7州で接戦続く
大統領選では、50州のうち激戦となる一部の州以外は大半の結果が固定されています。激戦州は、最大でも10州程度、最も狭く定義すると4~5州程度に収まります。
今回の大統領選では、次の地図でベージュブラウンに塗った7州が激戦となっています。
グループに分けると、地図の右上にある「ラストベルト3州」(左からウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州)、地図の南側にある「サンベルト」(左からネバダ州、アリゾナ州、ジョージア州、ノースカロライナ州)となります。
今回の選挙では、ラストベルト3州を獲得すればその時点でほぼ確実に勝利できるため、ラストベルトの選挙結果に注目が集まっています。ただ、この3州全てで勝利する候補が一致するとは限らず、サンベルトの情勢にも目を向けることが必要です。
州ごとの情勢は後ほど分析しますが、ラストベルトとサンベルト、それぞれで接戦が続いています。ミシガン州では民主党、ノースカロライナ州では共和党がやや優位に選挙戦を進めている可能性がありますが、激戦の範囲内といえるでしょう。
政策と候補者イメージ
政策争点で優位に立つトランプ
共和党・トランプ氏は、主要な争点において優位性を持っています。経済や雇用、インフレ、移民・国境管理など、世論の関心が高い争点では、トランプ氏のほうが信頼される傾向があります。
次に示すのは、世論調査でどの争点を最も重視するか尋ねた結果です。
インフレ対策や雇用などの経済政策、移民・国境管理政策が世論の関心を集めています。これに続いて、中絶問題、犯罪対策などが重視されています。
それぞれの争点で、トランプ氏とハリス氏のどちらを信頼するか尋ねた結果は、次の図のようになっています。
経済政策、移民政策などの主要争点では、トランプ氏を信頼すると答えた人が多くなっています。中絶権や人種をめぐる問題などではハリス氏が信頼されていますが、争点別の優先度を考えると、政策争点では概ねトランプ氏が優位に立っていると評価できるでしょう。
候補者の資質ではハリス優勢
これに対し、人柄などの「候補者としての資質」では、民主党・ハリス氏が上回っています。次に示すのは、候補者として求められる資質について、具体的にどちらが上回っていると思うか尋ねた設問の結果です。
基本的には、ハリス氏がトランプ氏を上回っています。「頭脳が明晰」では9pt、「情緒が落ち着いている」では32pt、ハリス氏が上回っています。トランプ氏は、「信念のために行動する」という項目でのみ上回っています。
撤退したバイデン氏は、年齢面での懸念から認知機能など候補者資質でもトランプ氏を追いかける展開で、年齢に伴う衰えは、民主党員の中でも懸念が高まっていました。
候補の交代で、候補者資質の面ではハリス氏が明確に上回るようになったといえます。政策争点でトランプ氏が、候補者資質ではハリス氏がそれぞれ上回る状況の中、選挙戦は残り1か月の最終盤に突入します。
パンデミックだった4年前との決定的な違い
2020年の大統領選は、新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミックの中で行われました。当時との社会状況の違いは、選挙の争点にも大きな影響を与えています。
次に示すのは、2020年当時に行われた世論調査の結果です。
世論調査では、重視されている争点が「経済」と「COVID-19対策」の2トップになっていました。
支持者間でも重視する項目に偏りがありますが、経済では共和党のトランプ氏が一定の信頼を得ていましたのに対し、コロナ対策では「消毒液の注射」発言やトランプ氏自身の感染などの非科学的な振る舞いにより、民主党のバイデン氏が信頼を得ていました。
さらに、コロナ対策で国境が封鎖されていたことから、南部国境からの不法移民流入が一時的に激減し、当時は不法移民が主要な争点から外れていました。共和党が強い争点だった移民・国境管理政策の有無も、今回と4年前の選挙で大きく異なる点です。
2020年は、政策争点でも民主党と共和党は互角、候補者の資質でバイデン氏が上回る状況でした。今年は、パンデミックが収束したことにより、政策争点ではトランプ氏が明確に上回る状況となっている点で、4年前とは決定的に違う選挙戦となっています。
激戦州の情勢
ラストベルト3州の情勢
ミシガン州は、過去の選挙結果や人口動態、世論調査の結果から、3州の中では最も民主党が優位だとみられています。
白人労働者が多い一方で、大都市・デトロイトを中心に若年層や多様な人種の有権者が居住しています。今年も世論調査の結果から、最も民主党・ハリス氏の勝利に近い激戦州だと考えています。
ペンシルベニア州は、天王山=選挙人の過半数にあたる「270人目の州」となる可能性があります。世論調査の結果からは、ハリス氏とトランプ氏の一進一退の攻防が続いている様子がわかります。
2022年の知事選と上院議員選挙では、民主党が勝利しました。これらの選挙結果からは、イメージ戦略などの空中戦よりも、実地での選挙活動(地上戦)が重要な可能性が伺えます。選挙まで1か月の時点では、結果を見通すことは困難です。
ウィスコンシン州も、同様に選挙結果を現時点で見通すことは困難です。ただし、これまでの選挙結果からは民主党にとって厳しい選挙となる可能性が考えられます。
世論調査ではハリス氏が有利になっていますが、農村部の人口が多く、農村部に住む共和党支持の有権者を世論調査が上手く捉え切れていない可能性があります。
サンベルト4州の情勢
ネバダ州は、ヒスパニック系の人口が多い州です。中心都市のラスベガス郊外に在住するブルーカラー労働者が多く、非大卒の人口割合が相対的に多いことでも知られています。
近年、非大卒有権者で共和党支持の有権者が増加する傾向があります。そのためネバダ州では、人種・年齢的に多様ではありますが、共和党が勢いを増しています。今回の選挙でも、接戦が続いています。
アリゾナ州は、メキシコとの国境に位置します。近年は、中心都市・フェニックスの成長とともに民主党が勢いを見せています。今回の選挙では、ハリス氏が担当している移民・国境管理政策が主要な争点となり、2020年よりも苦戦する可能性があります。
ジョージア州は、中心都市・アトランタで黒人や若年層の有権者が増加し、急速に民主党が支持率を伸ばしています。ハリス氏への候補交代で民主党が支持層を再建したことで、今回の選挙でも接戦が予想されており、270人目の州=天王山になる可能性もあるとみています。
ノースカロライナ州は、中心都市・シャーロットを中心に人口が増加し、いずれは民主党優位の州に転換するとみられていました。しかし、農村部の人口が厚く、都市部の民主党傾斜以上に農村部が共和党に傾斜しており、2008年のオバマ元大統領以来、民主党は大統領選で勝利できていません。
そのため、ノースカロライナ州は共和党優勢とする見方が大勢でしたが、知事選の共和党候補・ロビンソン氏が「黒人のナチ」など不適切な発言を過去に繰り返していたことが発覚し、共和党は知事選での勝利を事実上放棄しています。同時に行われる知事選での醜態が、最終局面での数万票差に影響する可能性は視野に入れる必要があります。
ひとまずノースカロライナ州は、今回の選挙でも、得票率の差は±5pt未満に収まる激戦となる可能性が高いものの、共和党がこれまで通り勝利を掴むことができるかは不透明な情勢です。
今後の展開について
残り1か月の選挙戦は、ハリス氏とトランプ氏が接戦のまま投開票日を迎えることになります。どちらが勝利するかを読み切ることは、当日になっても難しいでしょう。
世論調査では、平均値でわずかにハリス氏が先行する結果となっていますが、民主党からは2016年と同様に世論調査がトランプ氏を過小評価することへの懸念がすでに出ています。
これについて、筆者は一部の世論調査がトランプ氏を過小評価していることは間違いないものの、平均値が大きく偏っているかは判断しきれない状況だと考えています。
しかし、世論調査がトランプ氏を過小評価している可能性がある以上、平均値がそのまま結果になると考えない方がよいことは確かです。