ワインコラム26:パブロフの犬になった話(前編)
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Ryoko☆Sakata
JR東日本の新幹線の座席、後ろポケットに「トランベール」という小冊子が入っている。各地の見どころやグルメ情報などが掲載されているが、最初のページの見開きに、著名人の旅に関するエッセイが載っている。
ひと頃沢木耕太郎がそのエッセイを担当していた。「深夜特急」の頃から沢木ファンだったので、新幹線に乗る時は必ず読んでいた。その後エッセイがまとめられ「旅のつばくろ」という1冊の本になったので、購入してじっくり読んでみた。
その中に津軽半島の龍飛崎(たっぴざき)への旅の話がある。
龍飛崎へ行くには、青森から津軽線に乗り、終着駅の三厩(みんまや)からバスで30分程かかる。龍飛崎から青森へ戻ろうとした沢木氏は、「往路と同じルートではつまらない」と書いている。
20代の夏、龍飛崎を旅した私はまったく同じこと、即ち日本海側を小泊まで行こうと思っていた。しかしその後、バスの走っている小泊までタクシーに乗った氏と違い、私は道の無い海岸沿いを歩いて向かったのだ。
今なら絶対選ばないであろう無謀な選択だった。龍飛崎の売店の主人に「1年に二人程歩いた人がいた。」と聞いたので、自分も出来ると思い込んてしまったのだ。
炎天下である。売店で買ったスポーツ飲料も1時間もしないうちに飲んでしまった。
海岸は左から山が迫っていて、歩ける幅は20〜50mくらいしかない。長さ100mくらいの弧を描いているので、遠くまで見通せない。
海まで5mほどの高さの崖が海に突き出ている所が1箇所あった。キャンバス地のショルダーバッグひとつだったので、たすき掛けにしてどうにか超えた。
最も辛かったのは、のどの渇きだった。
今までの人生であれほどの渇きに苦しんだのは、後にも先にも無かった。 2、3度、山から流れる小さな流れに出くわした。私はよつん這いになり、むさぼり飲んだことを覚えている。
(後編につづく)
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