ワインコラム15:1994年5月、銀座で・・・
私の父は、酒の飲めない人だった。
私が子供の頃冷蔵庫に、栓をした飲みかけのビールが入っていたので、練習をしていたのかもしれない。しかし私はそれ以降、父が酒を飲んでいる姿を見たことはない。弟もビール1杯で、真っ赤になってしまう。
それに加えて、父方の親戚は堅い職業が多い。従兄や伯父たちのほとんどは、学校の先生か公務員だ。こんな環境の中で育った人間が、飲食業に就いたことに、親戚の間で軽いざわめきが広がったかもしれない。
最初は、ボルドーやスペインワインも有る、普通のワインバーだった。しかし、開店して1年もたたないワイン会で、衝撃の出合いがあった。取引きのあるインポーター主催のワイン会でのことである。
2、3種類飲んだ後、その日のメインと思われるワインのグラスを、鼻に持ってきた時、私の感覚は揺さぶられた。あまりの官能的な香りに、大げさでは無くめまいがしたほどだ。味も申し分なかった。この世界に、これ程の酒があろうとは想像もしていなかった。
ワインの神髄に触れた気がした。
それが、デュジャック〈Dujac〉のクロ・サンドニ〈Clos Saint-Denis〉である。デュジャックは、その頃徐々に知られつつあったブルゴーニュワインの名手で、クロ・サンドニはモレ・サンドニ〈Morey Saint-Denis〉村の特級畑だ。
この日を限りに、私のワイン人生は変わってしまった。ワインリストに、少しづつブルゴーニュワインが増える代わりに、他の地方のワインが消えていった。衝撃のワイン会の後も、何回となくブルゴーニュワインは私に感動を与えてくれた。
酒を飲んで、時々アチコチぶつけたりする事を差し引いても、飲める体で良かったと思う。
勿論飲めなければ、別の愉しみがあるのだろうが。
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