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ワインコラム21:九郎判官義経から江戸とフランスのリキュールへドガチャガドガチャガ

落語にはお酒の出てくる話が数多くある。
ちょっと挙げてみても、「禁酒番屋」「試し酒」「二番煎じ」「お直し」「青菜」等々。中でも「青菜」は、夏らしい風情が感じられて好きな話だ。

あらすじを言えば、ひと仕事終えた植木屋が、屋敷の主人に、お酒をご馳走になる。主人が、奥様に菜のおひたしをリクエストすると、勝手から戻ってきて「旦那様、鞍馬から牛若丸がい出ましてその名を九郎判官」。主人は「義経にしておけ」。そのココロは、奥様が「・・・名を九郎・・・」=「・・・なをくらう(菜を食らう)・・・」と、菜が無いことをかくし言葉で伝え、それに答えて「よしつねにしておけ=よしておけ」というわけである。

その言い回しを気に入った植木屋が、長屋に帰っておカミさんと知り合い相手に“ドガチャガ”やってみるが上手くいかず、落語的なオチで終わるという話である。
上手い人の話を聴くと、夏の庭の風景が目に浮かぶようだ。

植木屋がご馳走になっていた酒は「なおし(柳蔭)」と言っていた。
調べてみると、「味醂と焼酎を合わせたもの」とある。昔の人も、甘みのある酒を冷やして飲んでいたらしい。冷やすといっても冷蔵庫の無い時代は、井戸や川の水で冷やしたのであろう。落語の中で主人が言っていたように、暑い中外で仕事をしていて体が熱を持っていた植木屋には、それほど冷えていなくても気持ちの良い冷たさだったのだ。

そういえばフランスには、「ピノー・デ・シャラント/Pineau des Charentes」というリキュールがある。正確には、ヴァン・ド・リキュールというカテゴリーになる。ボルドーの北、コニャック地方のリキュールだ。 

味醂と焼酎ならぬ、ぶどう果汁とコニャックをブレンドしたもので、甘みと酸味のバランスが良い。わかりやすく言えば梅酒に近い。少し甘いので、冷やすと旨さが際立つ。夏はソーダ割りも良い。
フランスでは、食前酒の仲間に入る。確かに、甘いと言っても食後酒の甘さには敵わない。とは言え、日本人には食後酒として十分通用する。

あの植木屋に、冷やしたピノー・デ・シャラントを出したら、どんな感想を漏らすだろうか。


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