フィンランドから届いたメッセージ。ありのままの自分で生きていくために必要な「ナチュラル・ウェルビーイング」とは
フィンランドといえば、森や湖といった自然豊かな生活や、仕事中もコーヒーを飲む時間を確保するゆとりがある、そんなイメージがありますよね。
そもそも、フィンランドの人はみんな、ゆっくりとリラックスすることを意識して生活しているのでしょうか。
そんな問いをもっていた時に、フィンランドの湖水地方Saimaa(サイマー)在住でsaimaaLifeの設立者、Mari Pennanen(マリ ペンナネン)さんにオンラインインタビューをする機会をいただきました。
saimaaLifeは、360度VR(バーチャルリアリティー)の技術を使って、美しいフィンランド湖水地方の景色や、サイマーでの自然と密に結びついたMariさん自身の生活の様子を世界中の人々に届けています。
彼女は2人の子どもたちと一緒に自然に囲まれた生活を送りながら、”ナチュラル・ウェルビーイング(Natural Well-being)”を提唱しています。
自分自身の整え方、リラックスして過ごす時間がもたらすもの、そしてフィンランドと日本をつなぐ架け橋としての今後の展望など、ご本人の言葉でお届けします。
Mari Pennanen(マリ・ペンナネン)
2児の母。2011年saimaaLifeを設立。
観光業に従事した後、生まれ育った自然豊かなPunkaharyu(プンカハリュ)に戻り、現在もPuruves (プルヴェシ)湖のほとりの心地よい小屋で家族と共に過ごしている。
畜産農家の娘だったことから、幼いころから自然や農場から食物が食卓に並ぶまでの過程を見て育つ。それが人生のなかで最も美しく意味のあることだと感じており、子どもたちにも自然と人間とのつながりを尊重することを伝えている。
お気に入りのリラックス方法は薪割りとサウナに入ること。
私がめざしているナチュラル・ウェルビーイングとは
現代に生きる私たちにとって、生活のスピードが早いということは良い面でもあり、また、そうでない面もあります。
スローライフもトレンドのようになり、その生活が良いとも言われていますが、それが目的となるのではなく、バランスを取ることが私は一番大事だと考えています。
自分にとって心地よいリズムを感じ、自身に問い、対話していくことが大切なのだと思います。
そんな私も、かつて観光業で働いていた頃はストレスの多い毎日に心身ともに疲れ果て、ボロボロになったことがあります。
特に、精神面がひどかった。
そのときに、働く母として、生活と仕事のバランスをとることをまず考えたのです。
いまでは「疲れ果てる」ということはもうありません。
自分を調整するとはどういうことなのか、生活の質を保つことがどれだけ大切であるかを理解し、自分の子どもたちにも日々伝えています。
私がめざしているナチュラル・ウェルビーイングとは、頭と体と心をそれぞれに合った方法で調整していくことです。
「自然の中」で調整することもそうですし、その人が無理なく「自然に」行えることも大切です。
自分でバランスが取れるよう、自然や森のリズムを活用して、頭と体と心を整えるのです。
saimaaLifeでは、私のストーリーと学術的なものを組み合わせてナチュラル・ウェルビーイングのプログラムを作成しています。
休息することも、働くことも、人生の中の“ひとかけら”
私も日本について学ぶようになり、フィンランドと日本がどこか似ていると感じる時があります。
例えば、日本では「仕事をしなければいけない」=「休んではいけない」という思考の癖が存在しているように感じています。それは、フィンランドにもよくみられたことで、10年前の私もそうでした。
しかし、いまの若い世代の人たちが働き出すようになってから、変わってきたように思います。
私たちは働くために生まれてきたのではないく、生きるために生まれてきた、ということに気づき始めました。
人生=仕事ではなくて、人生を構成する1要素として仕事があり、休息がある。
何もしなくてもいい、そういう時間があってもいいのです。
私はsaimaaLifeの主宰者であり、2人の子どもの母親でもあります。
新聞で読んだのですが、日本では「母親になる」ことに、まだまだ保守的であるように見受けられます。「働く」と「母親になる」が共存していない。
働きながら母親になるということが、日本はまだ難しい環境であると私も理解しました。
フィンランドでは政府の制度として、働くもよし、母親業に専念するもよし、個人と家族のライフスタイルに合わせたサポートシステムがあります。(※フィンランド大使館サイト)
母親になることでキャリアチェンジをしなければならない、ということもありません。
最初は母親業に専念し、その後、仕事に戻るというのが最近のフィンランドでも一般的です。そして、母親になったからといって、キャリアをあきらめるということもありません。
日本とフィンランドはシステムに違いがあるのかもしれませんね。
感情を表現することを学校で学ぶフィンランド
ナチュラル・ウェルビーイングの状態でいるためには、自分の感情を表現することがとても重要な要素になってきます。
なぜなら、感情(Emotion)は、病気やさまざまな不調と関連しているからです。
先ほどの母親像の話もそうですが、本来の自分を押し殺して、自分の感情を自分の内側に溜めこむことは、さまざまな不調や問題を生み出してしまうのです。
フィンランドでは、私たちの世代(40代)以降から現在までは、子どもの頃から学校で感情を表現することを学んできました。教師には、各々の裁量で多様な手法を用いて、感情表現スキルを生徒たちに伝えることが認められています。(※編集部注)
すべての感情を表現するということは、子どもたちが健やかに成長していくために必要なことです。学校システムの中で、自分と他者のさまざまな感情に触れ、その感情を処理する方法を学んでいるのです。
私の例でいうと、以前の仕事で燃え尽き、心身ともに疲弊していましたが、いまでは完全に健康を取り戻しています。その理由の1つは、自分の感情を表現し、その感情を処理できたことです。
私の心の中にある羞恥心、哀れみ、怒りに気づき、それが鬱状態を引き起こしていたのだと気づくことができたのです。
(※編集部注)
ソーシャル感情スキルという分野で、フィンランドでは学校教育のなかに必須でとりいれられています。(参考論文:岩竹美加子著「フィンランドの教育、日本の教育」 P.18「自分への配慮、日常生活のスキル」)
日本でいわれている非認知能力は評価を伴うので、フィンランドでの感情スキルとは似て非なるものがある、とMariさんとの対話でも感じました。
「Just Be」
「ナチュラル・ウェルビーイングの到達地点はどこなのですか?」といった質問をいただくことがあります。
「ナチュラル・ウェルビーイングの状態に到達した」とあえて定義するとしたら、それは「Just Be」=ありのままの状態であることを自分で認識できたり、感じられたりするときだと思います。
とは言え、それはとても難しいことです。
自分自身を受け入れることができないという人もいるでしょう。
でも、自分を受け入れられないままだと大きな問題が生じます。だからこそ、学ぶのです。自分は大丈夫、と思えるように。
感情を表に出すということは、性別を問わず、人間のもつ本来の能力なのです。
だから、胸の中にしまったままにするのではなく、引き出していくことに集中し、取り組んでいきたいのです。
私は完璧を求めてなんていません。人は誰でもたくさんの間違いするし、完璧な人間なんでいないのです。
かくいう私も、時には、完璧にしようと一生懸命がんばってチャレンジして、疲れ果てることだってある。だけど、その後で、自分自身の心の声がいうのです。「今のわたしで充分だわ。わたしベストを尽くしたわ。」って。
そして、「Doing」に焦点をあてるのではなく、「Being」に切り替えて、バランスを意識しながら過ごすということも大切です。
人によって、自然の中での過ごし方も、時間を感じる速度も、ナチュラルであることそのものの捉え方も、感じ方がそれぞれ違います。
だからこそ、自分にとって、それにどんな意味があるのか、どんな価値があるのかを感じてください。
私のめざす道は、まだ旅の途中です。これからも自分自身の経験を通じて、このナチュラル・ウェルビーイングを伝え広めていきたいと思っています。
ひとりひとりの「Just Be」を ナチュラル・ウェルビーイングのひとつの到達地点として、人びとを助け、サポートをしていきたい。
そのために、私自身が今のナチュラル・ウェルビーイングな生活を維持していくことも大切な目標です。
そして、最後になりますが、今秋、日本でもワークショップができるようにエラマプロジェクトと準備を進めています。
日本のみなさんとお会いできる日を楽しみにしています。
(モノローグここまで)
インタビューを終えて
最初にMariさんにインタビューをするお話をいただいたとき、真っ先に私が質問してみたいと思った内容は、「フィンランド人は日本人に比べて休息をとることが上手なのかどうか」というものでした。
当日のインタビューでは、彼女が提唱するナチュラル・ウェルビーイングを軸に、フィンランドと日本の母親像、学校教育システムにまで、話が広がりました。そして、私の率直な疑問や質問にMariさんはひとつひとつ丁寧に、ゆっくり考えながら、誠実に答えてくれました。時間が経つのを忘れるくらい、私はどんどん彼女の話と彼女のマインドに惹かれていったのです。
フィンランド人だからとか日本人だからとかの前に、大事なのは自分はどうありたいのか、なのではないでしょうか。
人は一人では生きていけない。だからこそ、自然との調和、人のぬくもりや感情に触れることで、自分自身をありのまま、認めてあげよう。私はそんなメッセージを受け取りました。
とても聡明で、チャーミングで、まわりの人を温かくしてくれるMariさん、あなたとの出会いに感謝します。ありがとうございました。
イベントのご案内
フィンランド在住のMariさんとオンラインでお話ができるイベントを開催します!(ガイドと通訳がありますので言語の心配はありません)
【オンライン】フィンランド湖水地方の秋体験ツアー
〜フィンランドの森に豊かな暮らしはあるのか?〜
開催日時:2021年10月25日(月)20時30分~22時
以下のページからお申し込みください。
https://elama.be/workshop/finland-extour/
フィンランドの基礎知識を学び、湖水地方の自然を堪能した後で、Mariさんへの質問タイムもあります。自然の中での暮らし、都会から田舎に移住すること、子育てのこと、ストレスと向き合うこと等々、なんでもOKです。
みなさまのご参加をお待ちしています!
Interview & Text by あいすか(Cheer up girls★かあちゃんライター)