【アークナイツ考察】夕景に影ありて:ニアールの過去、遊侠の真意、シチボルの動機とスニッツ夫妻の行方(大陸考察の和訳)
【翻訳転載の許可エビデンス】
◆リンク
https://www.bilibili.com/video/BV1EG4y1s7Hu
◆作者様ID
克劳斯麦特
◆STAFF
制作:@克劳斯麦特
脚本:@yh小白兔 @炎圣人但丁 @无名404error 及び Ark Remake
美術:@艾尔居民
協力:@活尸化 @yh小白兔 @百夜言月 @RuinDeity
◆公開日:
2022‐9-24 19:05:00
【ネタバレ注意書き】
◆スクリーンショットの使用:
・オムニバスストーリー「戦地の逸話」
・オムニバスストーリー「赤松林」
・オムニバスストーリー「未完の断章」
・オムニバスストーリー「夕景に影ありて」
・サイドストーリー「遺塵の道を」
・サイドストーリー「マリア・ニアール」
・サイドストーリー「ニアーライト」
・サイドストーリー「狂人号」
・サイドストーリー「塵影に交わる残響」
・ローグライク「ファントムと緋き貴石」
・回想秘録・へラグ「命の行方」
◆プロファイルとボイスの抜粋:
・へラグ
・ムリナール
・ブレミシャイン
・耀騎士ニアール
大陸版先行情報のネタバレはありません。
【訳者の前書き】
中国語からの翻訳のため、いくつかの注意事項を書かせていただきます:
-原作者の注釈と訳した私の注釈を区別するために、私からの注釈は「*」マークを使用します。
-原作者の方の観点をなるべく忠実に再現したいと思いますが、術語の使用や表現は間違っている可能性があります。表現の違いについてご指摘いただければ修正します。
‐ビデオからの翻訳で、文章化して読みやすくするために軽く調整させていただいた箇所があります。
‐また他に何かあればマシュマロまで→https://marshmallow-qa.com/el_prv
序
2021年秋、サイドストーリー「ニアーライト」がアークナイツの大陸版に実装されました。物語は、大騎士領の夜の街で繰り広げられ、そこで古典的な騎士道の精神が再び輝きを放ちました。このロマンティックな旅がもたらした意義は、すでに冷たい鋼鉄の都と化しているカジミエーシュにとって大きなものでした。
すべてが一段落した後、事件に巻き込まれた人たちは、それぞれ新たな目的地に向かって旅立ちました。
商業連合会のために尽力してきたラズライトの二人ですら、血騎士の協力を得て無事脱出できたのに対し、ムリナールという男は大騎士領を出ても行く場所がありませんでした。彼の情熱は既に現実に打ち砕かれていましたが、それでも疑念は彼を駆り立て、一歩を踏み出させました。
長い間沈黙を続けていたため、彼は自分自身を見失ってしまっていました。その結果、私たちはこの「自分自身を取り戻す旅」を目撃することができました。
オムニバスストーリー「夕景に影にありて」では、繊細な文章と適度な感情表現によって、長年にわたるムリナールの憂鬱や失望、迷い、そして無力感が余すところなく、徹底的に描写されています。
細やかな人物描写があるにもかかわらず、文章は圧倒的な情報量を持ち、質に一切の遜色がありません。ムリナールの心の葛藤やシチボルの本当の動機を知りたい場合は、『現在』を読む前に、ニアール家の『過去』を知る必要があります。
埃被った歴史:ニアールの過去(The Light)
かつてテラで名を馳せた騎士の国、カジミエーシュは、シルバーランスペガサスの存在によって幾度かの戦争で隣国ウルサスを撃退し、不敗の地位を誇っていました。しかし、ウルサスの皇太子ウーマニ・イヴァノヴィッチが後に皇帝の座につくと、事態は大きく変化しました。
カジミエーシュが参加しなかった「四皇会戦」では、ウルサスは自らの窮状から脱することができませんでしたが、ガリアの遺産の一部を手中に収めることに成功しました。その後、皇帝の命によって、ウルサスは軍事を中心とした工業化に着手し、この選択が功を奏したことで、カジミエーシュとの力の差は急速に縮まりました。
その結果、後に行われたウカ戦争では、カジミエーシュは次第に主導権を失っていきました。さらに、四皇会戦でウルサスとリターニアが共に戦勝国だったため、第十次ウカ戦争では、リターニアがウルサスに協力することになりました。
連合軍は、カジミエーシュに大きなプレッシャーをかけました。カジミエーシュは東部戦線のウルサス軍に対抗しながら、南部戦線における要塞地帯からの、押し寄せるリターニアのプレッシャーにも耐え続けなければなりませんでした。南部戦線では、カジミエーシュが地理的優位性からまだ防御のプレッシャーを緩和できたものの、東部戦線の騎士団はウルサス軍の猛攻に対し全く歯が立ちませんでした。
騎士団の中で、シルバーランスペガサス以外は、わずかな攻撃でも壊滅するような危機的状況に陥っていました。大騎士領まで危機が迫ったとき、シルバーランスペガサスは奇襲を仕掛けました。
この斬首作戦は、元々ウルサス軍の司令部を壊滅させ、カジミエーシュに時間を稼ぐ作戦でしたが、パトリオットの支援により阻止され、さらにシルバーランスペガサスたちも敵の包囲網に閉じ込められる事態に陥りました。
この作戦は、元々必死の覚悟で実行されたものであり、改めて帰陣して防御体制を敷くことはほぼ不可能でした。シルバーランスペガサスを失ったカジミエーシュは一方的に虐げられ、次々と敗退し、手薄になっている大騎士領に危険が迫っていました。そんな中、ある騎士団に所属していたキリル・ニアールが登場しました。
彼は鋭い観察力を持ち、ウルサスの東から西への侵攻により、大騎士団領の東に多くの難民や貧民たちが集まっていることに気づきました。そこで、彼らを動員して戦闘に参加させることができれば、この危機を打開する可能性があるかもしれないと考えました。
緊急事態で再編成された騎士団は戦闘力にばらつきがありましたが、キリルのアーツのサポートもあり、人々は前線のプレッシャーに耐え、懸命に持ちこたえました。
しかし、前線のバランスが保たれたのは一時的なことに過ぎず、シルバーランスペガサスを失ってしまったら、カジミエーシュはゆっくりと死に向かうだけであることを、痛いほど知っているキリルは敵の包囲網にいる騎士たちの救出を決意ました。
生と死の試練を経て、七人の騎士が救出作戦に向かったものの、生き残ったのはキリルとラッセルの二人だけでした。一方で、シルバーランスペガサスの救出は成功し、三十九人の騎士を救出することができました。
しかし、キリルはまだ帰還するには早いと感じていました。このタイミングで、ウルサスの重装部隊は東部戦線の都市を占領するために本隊から外れていました。もしこのまま彼らを放置して、前線で本隊と合流させてしまったら、総崩れになっていたカジミエーシュの防衛戦線は再編するのに十分な時間を取ることができないでしょう。
キリルたちは、敵の包囲を突破し、散らばった戦力を集めつつ、ウルサス軍の行進を止める必要がありました。
東に向かって進撃しながら、彼らは敵軍三千人を殲滅しましたが、生き残った騎士はわずか七人でした。
改めて集めた兵力を再編した七人は、キリルの指揮下で溪谷を押さえ、三か月余りに渡りウルサスの重装部隊を足止めし、その作戦を大きく遅らせることに成功しました。
戦後、キリルはカジミエーシュの最も輝かしい太陽となりました。災厄から生き延びたカジミエーシュは必死に改革を求めており、長年特権を持ち優遇されていた貴族騎士たちはその矢面に立たされました。
1062年以降、カジミエーシュの改革派はブルジョア改革を推し進め、国民院と監査会の上下両院がカジミエーシュの発展を共にリードするようになりました。当時、最も影響力があったのはキリルとラッセルでした。権力の座に追い込まれたキリルは逃げ出すこともできず、じっくり考えた末、ラッセルと共にいくつかの法案を成立させることに働きかけました。
どんな結果が得られるかは未知数でしたが、カジミエーシュにとって変革が急務でした。1072年が迫る中、ブルジョア改革がほぼ完了し、キリルたちは、カジミエーシュにとって最も根深い階級問題に取り組み始めました。
予想通り、征戦騎士たちの第十次ウカ戦争での失敗は改革派にとって攻撃の的となり、騎士たちは再び特権を享受することができなくなりました。大きな過ちを犯したカジミエーシュ東部の騎士宗族はそれを受け入れるしかありませんでした。
しかし、このことは、南部戦線の要塞地帯を守っていた西部の騎士宗族の不満を引き起こしました。彼らは監査会との繋がりが薄く、第十次ウカ戦争でも過失がなかったため、このような知らせを聞いて、自分たちの「保身」を図ることに決めました。
国境の安全を切り札に、西部の騎士宗族は監査会と交渉し、決裂した後、パレニスカ家が率先してリターニアと合意しました。しかし、この計画が実行される前に、パレニスカ家全員がある「正義の味方」によって一掃されました。
ムリナール:遊侠の真意(The Ranger)
当然ながら、この遊侠こそが若き日のムリナールでした。彼はたった一人で叛乱の意図を持つ騎士宗族を粛清した後、合流を待つ潜入部隊の手がかりを掴み、リターニアの10年ぶりの陰謀を粉砕しました。
しかし、1072年は多難な年でした。「無光」事件の直後、退廃したウルサス貴族は国内の不満を対外に転嫁するために、突如として極東に向けて軍を派遣しました。さらに想定外だったのは、極東が果敢にウルサスに抵抗し、その反撃の狼煙がウルサス国内に上がったことです。
「敵の無防備な隙を突いて攻撃し、油断を誘って行動する」という言葉があるように、東部の征戦騎士たちはこれを都市を奪い返す好機と捉え、ニアール家の若き2人は反撃のタイミングで頭角を現わしました。
ムリナールと比較すると、スニッツは周囲から好かれている印象でした。彼は反撃作戦に参加する騎士団をうまく調整し、反撃戦線にいた騎士たちは彼を称賛していました。
一方で、ムリナールに対して、批判的な意見を持つ者は少なくありませんでした。公式的な騎士の資格を持つスニッツとは異なり、ムリナールは難民や傭兵と共に行動する「遊侠」でした。
トーランド一行との出会いは、その時期の出来事でした。彼らは互いを理解し、正規の騎士団ではなかったけれど、スニッツ夫妻と協力して大きな戦果を挙げました。
しかし、その栄光はニアール家の知人の間でしか認められず、でも遊侠たち自身はそんなことに気にすることはありませんでした。彼らにとって、ムリナールこそが彼らのニアールであり、正義を実践する情熱と信念の源でした。
カジミエーシュと比較して、ウルサスはまさに「屋根の雨漏りをしている時に、何夜も続く激しい雨に見舞われた」かのような有様でした。極東に軍を派遣したのは出来心だったからか、国内の組織構造が既に緩くなっているウルサスは血峰の戦いで惨敗を喫し、それは長く続く「大反乱」の引き金となってしまいました。カジミエーシュにとっては、失われた都市を奪還し、更に勝利に乗じて追撃する好機となるはずだったのです。
しかし、過去失われた都市を取り戻すことは、騎士たちに幻の栄光と尊厳をもたらすことができても、商人たちの関心を引付けることができませんでした。
カジミエーシュは無事に社会改革を終え、日々変化していく中で、ウルサスに奪われた都市の数々は国民院にとっても取るに足らない存在となっていました。
監査会の立場から見ても、確かにこれが千年に一度の好機かもしれませんが、カジミエーシュがこの機会を掴むことには大きなリスクが伴います。当時の監査会は、まだ多くの騎士宗族を完全に支配することができておらず、うかつに戦争を仕掛けると、今急速に進んでいるカジミエーシュの発展に悪影響を与える可能性があります。この表向きな理由とは別に、ニアール家の勢力拡大は、多くの騎士や商人から恐れられている理由もありました。
もしスニッツ夫婦が反撃作戦で大きな戦果を挙げ、更なる功績を残してしまえば、ニアール家の勢力拡大は監査会にとっても、商人たちにとっても好ましくない未来でした。
その結果、好機が巡ってきたにもかかわらず、両院はこの反撃戦を中止することに決めました。その後、スニッツ夫婦は大騎士領に帰り、しばらくは平穏な生活を送っていました。
しかしながら、平和な日々は常に尊いものでした。1076年頃、ヨランタは大騎士領でマリアを出産し、その直後、2人は何も言わず、静かな1077年のある夜にこの暖かい家を去っていきました。
無光の件以来、ムリナールは横暴な強者を抑え、善良な弱者を助ける義俠心に溢れる行動を続けていました。反撃作戦が止められたとしても、ムリナールはカジミエーシュ国内で歩き回るウルサス軍に対抗することを諦めませんでした。しかし、我が道を行く「遊侠」である彼も、兄夫婦がわけわからず国を離れていくのをただ見守ることしかできませんでした。
スニッツが去ってからの2年間、手紙がいつも届いていたため、みんなの心配は少しは和らぎました。ムリナールは、何かがおかしいと薄っすら察してはいましたが、少し安心できるようになりました。ところが、1079年の手紙を最後に、2人は完全に音信不通になりました。
1079年から1082年にかけて、ムリナールは遊侠としての旅を続けながら絶えずにスニッツ夫婦の行方を探していました。
黄金平原の手がかりが完全に断たれた後、ムリナールはようやく、スニッツ夫婦の失踪も、大騎士領が何度も自分を呼び戻そうとしていることも、今のカジミエーシュの態度を表していると気づきました。そして、その頃には、キリルも年を取り、誰かが面倒を見てくれる人、責任を取ってくれる人が必要な状況でした。
そう思いながら、ムリナールは大騎士領に戻りました。がっかりした思いを置いといて、彼はスニッツとヨランタがこのまま消えてしまうことにどうしても納得できず、監査会に説明を求めずにはいられませんでした。
しかし、恐らくこの全てを仕組んだ監査会は彼の質問に答えることがないでしょう。家族のためにも、ムリナールは大騎士領に残るしかありませんでした。
五年が経過し、1087年に入ると、一家の主であったキリルの健康状況は悪化する一方でした。幸いにもマーガレットは成長し、彼の世話をある程度分担することができるようになりました。
しかし、スニッツ夫婦の不在と騎士の特権の剥奪により、ニアール家の財産はキリル、マーガレット、そしてマリアの生活を支えるのに十分ではありませんでした。だからムリナールは会社に入り、冷たく心を閉ざしたまま、つまらない都会の一員として生きるしかありませんでした。
彼に他の選択肢があったでしょうか?確かに、ムリナールにとってこの簡単そうに見える問題を解決するには、選択肢は多数ありました。しかしながら、彼の信条に沿った選択肢は一つとして存在しなかったのです。
彼が軽蔑しているのは商業連合会と国民院だけではありませんでした。キリルと親しかったラッセルは、確かに彼に手を差し伸べたことがありましたが、すべての証拠が、スニッツ夫婦の失踪の件を裏で操っているのは彼女だと示しています。さらに、ラッセルはムリナールが最も許容できない権力者タイプの人物であり、ムリナールにとって彼女の善意など、到底信用できるものではありませんでした。
1087年以降の10年間、ムリナールは自らの誇りを捨て、平和だけを求めて過ごしてきました。しかし、彼が予期しなかったのは、商人や血筋だけの貴族が彼の弱点をつき、シチボルのお願いは、彼はどうしても叶えてあげられませんでした。
遊侠時代に怒らせた卑劣な権力者たちは、何よりもムリナールが為すすべもなく、仲間が死んでいくのを傍観するしかなかった絶望を望んでいました。これが警告であり、彼らにとってムリナールへの復讐以上の何物でもありませんでした。10年間にわたり大騎士領に身を置いた彼は、人々の命の綱が少しずつ、商業と娯楽等の見えない手に握られていく様をただ見つめることしかできませんでした。
社会は、理想を持つ人々にあるべき姿を認めさせ、あらゆるものを単に「価値」で評価し、彼らの多様性を徐々に削り落としていきました。この国は急速な発展の中で、かつて最も大切にしていた「精神」という根幹すら完全に捨て去ってしまいました。
しかし、ムリナールは、今を生きようとする人々に対して見て見ぬふりをすることができませんでした。彼は怒り、覚醒し、そして深い失望感に襲われ、やがっては、自分には誰もが納得できる答えを見つけることができないと気づいてしまいました。
キリルが書いた手紙は、とっくにムリナールの問題を指摘していました。ムリナールは、真の意味で正義の人でありながら、その善良さが彼の「正義」の足枷になっていたのです。
キリルは、カジミエーシュの変化について最も深い洞察を持っていたと言えます。彼は改革を進める中で、カジミエーシュに新しい風を吹き込むことができなかったことを痛感していました。新しい権力システムには、過去の残滓と新時代の問題が混じり合っており、社会の進歩とは正反対でした。
しかし、彼とラッセルの地位の高さによって、カジミエーシュにとって彼らは既に社会の安定を維持するための重要な役割を果たしており、年老いた彼にはもはや新たな変革を推し進めるエネルギーが残っていませんでした。
キリルの言葉は一見高圧的に感じますが、実際は前進すべき方向を示してくれているのではないかと考えます。もしムリナールが現状を変えたいならば、難民たちと一緒に現実離れした遊侠の夢を見続けるのではなく、体系的な抵抗勢力を作り上げ、十分な準備をしてから行動に移す必要がありました。
しかし、たとえ大規模な動乱を引き起こすことで「正義」と「公正」が本当にもたらされるとしても、勝手にすべての人の代弁者を気取って残酷な闘争を始めるというやり方は、ムリナールが道理を分かっていても自分を納得させることは到底できないでしょう。ーー彼の正義心は明らかに伝統的な騎士道とかけ離れているのです。
ムリナールは、そのやり方が正当であると認めることができませんでした。彼にとって、人を階級で区分し、他人の選択を代行し、「より良い方法」を選んで勝つ、勝たせることは身勝手に過ぎず、誰にもその資格がなく、自分の正義心に反するものでした。
キリルはムリナールからの返信を得られませんでしたが、ムリナールは何度も自問自答を繰り返し、自分自身の答えを見つけ出したと思います。彼の栄光は決して自分だけのものではなく、仲間にも共感してもらい、美しい信条に基づいて彼らの精神を満たすことを望んでいました。
だからこそ、ムリナールが大騎士領にいる間、仲間たちの怒りと失望は、彼自身以上に大きかったです。ムリナールが彼らを仲間として見ていること自体が、信頼と信用を表しており、彼らは一心同体の存在でした。ムリナールが進み続ける限り、誰もがその信頼を裏切ることがないはずでした。
しかし、ムリナールが今見せている無力と意気消沈は何だったんだ?これでも俺たちのムリナールか?というと、過去の仲間たちが失望していると同時に、この遊侠が与えてくれたものと彼が払った犠牲を裏切ったような罪悪感が芽生え、やがて自分自身への、そしてムリナールへの怒りを生んでしまったのかもしれません。
ムリナールはいつも自分自身のことを一般人と表現していますが、これは別にカジミエーシュの権力中枢にがっかりしたのではなく、ただ純粋に、彼自身がずっとそう考えているからだと思います。
リターニアの陰謀を砕いた時も、ムリナールは自分自身を救世主、ましてや高尚な人間だと決して思ってもいませんでした。彼のアーツが光の雨のように美しく輝いても、騎士の華やかさを表現しているわけではなく、彼をよく知る者ならきっと、それは彼の優しさや信念を反映しているものだとわかるでしょう。
彼の「沈黙」は、本当に自暴自棄に過ぎなかったでしょうか。彼はただ、自分が固く信じている道が、確かにカジミエーシュを変えることができないと悟り、だから再び誰かと気軽に約束を交わしたり、肩を並べて歩くこと、そして自信を持って遊侠を演じることが、できなくなってしまったのではないでしょうか。ニアール家の子孫はそれぞれ家訓に対して自分なりの解釈を持っており、あの送られることのない手紙にも、ムリナールは既に自分の答えを丁重に書き残していましたーー
騎士は苦難を打ち勝つために在る者ではなく、苦しみに耐え、弱者の苦難に寄り添うことを誓った人間でなければならないのです。
若かりし頃の夢には人生や時代の重みがのしかかるようになりましたが、過去、現在、そして将来にも変わらず、彼の剣はいつもそこにあります。
シチボル:浮生若夢(Life Like a Boat)
シチボルはパレニスカ家の家臣の息子でした。パレニスカはズウォネクを仕切る主な騎士宗族であり、カジミエーシュの南方領土を守る上で必要不可欠な役割を果たしていました。
前述の通り、当時の辺境騎士団は監査会と密接な関係を持っていなかったため、広大な領地と高い身分を持つ一族の中で育ったシチボルは、宗族への忠誠心が強い人間のはずでした。
さらに、パレニスカ家が当時カジミエーシュの裏切り者だったことは事実ですが、その動機は理解できないものでもありませんでした。第十次カウ戦争で南部戦線を守り切ったのに、いきなりわけわからない改革によって権力が奪われ、これは宗族の立場からすれば納得できるわけがないのです。
しかし、シチボルは生まれながらにして「正義」の人物だったようで、一族の反乱計画を知ったとき、真っ先に思いついたのはそれを阻止できる人を見つけることでした。
そんな中で、シチボルと若き遊侠との出会いはまさに運命でした。しかし、宗族の内情を理解していた彼は、この問題がこんなにも残酷な形で解決されるとは思ってもみませんでした。優しそうな光の中には揺るぎない決意が包まれており、彼の懇願は届かず、パレニスカ家は粛清され、生き残ったのはこの罪を告発したシチボルだけでした。本来であれば、シチボルはムリナールを恐れ、憎むのが当然でしたが、彼はそうしませんでした。あの悪を浄化する審判の雨は憧れの騎士像を照らし出し、彼はムリナールに強い憧れを抱くようになりました。
その後、独りぼっちになったシチボルは、ムリナールが率いる遊侠団に入隊し、共に戦うことにしました。彼にとって、「ムリナールの仲間」と呼ばれることは誉れであり、認められた証拠でした。なぜなら、「ニアール」はカジミエーシュの伝説であり、騎士の模範だからです。
シチボルはムリナールと一緒に過ごした長い間、完璧な騎士になるために日々努力し、ムリナールに一歩でも近づくために、そして将来、彼と共に騎士の高潔を守るために、片時も気を緩めませんでした。
しかし、シチボルが熱意と期待を持って進んでいた矢先に、あの遊侠が突然チームから離脱してしまいました。誰もが落ち込んでいた時でさえ剣を手放さなかった彼が、最初に現実に打ちのめされた人間になってしまうのかと思われて当然ですが、ニアール家の事情やムリナールのどうしよもなさについては誰もが理解していました。
そのため、シチボルは失望しながらも、ムリナールの選択を尊重し、ムリナールの代わりにこの道を貫くことを選びました。しかし、実際にこの道を進んでみると、彼の目に映ったのは競技場での騎士たちの殺し合いを応援し、喝采する人々の姿でした。
セリーナのような理想を謹んで守る人は、その身が粉々に砕かれても、波を引き起こすことがなく、彼らの知られざる誠実さは結局、権力者たちの時間つぶしのネタにしかなり得ませんでした。
シチボルはセリーナの件で、カジミエーシュとムリナールに失望し、また騎士団長の職に就いたことで、「騎士」という言葉にも失望しました。騎士の訓令の背後に潜む闇と汚さは、彼が信じていた「高潔さ」を完全に否定しました。だからこそ、彼は亡くなったセリーナのために、カジミエーシュの悲惨な現実を変えるために、戦争を引き起こすことで人々に真の「高潔さ」を思い起こさせることを決意したのです。
——この高潔な騎士は現実に歪められ、破滅へ向かっていってしまいました。「正義の騎士がカジミエーシュに追い詰められ、最後には滅びに向かった」、多くの人にとって、これが「シチボル」と呼ばれる男の人生かもしれません。
この中に何か問題があるでしょうか?もちろんあると思います。確かにマーガレットのような最も理想主義的な騎士道を信じ、そのために努力することは尊敬に値すると思います。しかし、正当性と合理性は決して同じではありません。
彼に一歩たりとも先へは進むことができないようにしたのは、カジミエーシュ社会そのものではなく、カジミエーシュ改革の背後にある意味とその後の影響が元凶でした。
カジミエーシュのブルジョア改革が完了するまで、完全な生産ラインがありませんでした。ストルミコボ村のような場所は珍しくなく、至る所は皆そうでした。自然経済に基づく伝統的な農業は、古い時代の特徴であり、現代社会ではこのような場合はまずます少なくなっています。だからこそ、ミェシュコ工業はストルミコボ村に高値を付けたのです。改革後、カジミエーシュのほとんどの農村は軽工業や手工業に転換し、人々は騎士との相互依存関係に頼ることなく、より自由に価値を生み出すことができるようになりました。
一方で、軍事面では、現在の監査会は領内全域の騎士団を確固と掌握しています。20年以上前の東部戦線の崩壊状態や南部の反乱とは異なり、現在の監査会は南部でもあらゆる動きを監視できるようになりました。「征戦騎士たちは「貴族」という政治的身分を失い、代わりにカジミエーシュ監査会直属の征伐兵器と化した」という言葉には、別の意味も含まれています。
カジミエーシュの騎士団は、以前のような結束力を欠くばかりか、各自が利益を追求する緩やかな組織ではなく、組織化・制度化された軍隊となっています。
過去の征戦騎士が「騎士」の側面を重視し、所謂の「貴族」とされたのであれば、現在の征戦騎士はより「征戦」の側面を重視し、軍人として、命令に従うのは当然のことです。
軍隊に規律がなければ、それは制御不能な「脅威」となり、その目的は善意であろうと悪意であろうと、国の安定を脅かす大きなリスクになります。さて、シチボルが一体どんなカジミエーシュを望んでいたのか、振り返って考えてみましょうか。
彼が探し求めたのは、自分と同じく騎士道精神を厳守する高潔な人々でした。
彼が望んだのは、人々が自分たちを守るために立ち上がった犠牲者に憧れ、しかばねを越えてさらに突き進むことでした。
彼が夢を見たのは、カジミエーシュの騎士が国境を越えて、より多くの人々を災難から救うことでした。
シチボルは、過去のマーガレットと比較しても、その思想と信念の強さは勝りこそすれ決して劣りませんでした。マーガレットが「度し難いトン・キホーテ」ならば、彼はまるで「どんな時代にも適合しない体制的なイデオロギーの擁護者」です。
騎士道精神の原点は、結局のところ貴族文化であり、その本質は「上位者が下位者を守る」美徳にあります。マーガレットの進んだところは、彼女が「騎士」を求めるのではなく、「騎士道精神」を求める点にあります。元々階級的な身分に重点を置いた名誉を軽視し、騎士道精神を特定の貴族階級だけのものではなく、普遍的なものとして広めようとしました。そのため、騎士道精神は一般人にも届くものになり、遥かに遠いものではなくなりました。
一方で、シチボルが行った全ての行為は、騎士そのものを守るためのものでした。彼は確かに伝統的な騎士の中で最も純粋で高潔な部類に入るでしょう。しかし、この時代にはもはや「騎士」を求めていませんでした。
彼が途方に暮れた被災者を救うために手を差し伸べたのは、自身が騎士である自覚が彼をそうさせたのです。「騎士たるものは弱き者を守るべき」という騎士道精神に基づく善意、その出発点は貴い騎士の身分にあり、彼は身を屈めることができるだけで、本質は上からの施しに過ぎなかったのです。
ムリナールについての解読を振り返ると、シチボルはいつもムリナールに対して英雄同士が惜しみ合うような感情を抱いていましたが、実際には二人はまるで別世界の住人でした。ニアール家に生まれたムリナールは、多くの騎士を知っているため、「騎士」とはどのようなものかについてより現実的な理解を持っていました。
したがって、ムリナールは遊侠になることを選び、一方、シチボルは理想の騎士になることを誇りにしていました。二人の方向性は微妙に重なっていますが、その目的は完全に異なっていました。
しかし、シチボルがこの時代の現状を全く把握していなかったかというと、むしろ彼は誰よりも明確にその現状を理解しているはずでした。騎士団の団長になった彼は、監査会の手段を知らないわけがなく、精通していたに違いがないでしょう。
多くの人が、シチボルが一か八かの勝負に賭けていると思っているかもしれませんが、実は彼は今回、必ず目的を達成できる自信を持っていると思います。なぜなら、彼はただ1つ答えを求め、そして自分を苦しみから解放するだけですから、これは彼が過去に経験した何よりも遥かに簡単なことだと思います。
一番始めに、シチボルはゲイル工業を巻き込むためにマレック氏の息子の名前を使って契約書を偽造しました。このプログラムには多くの労働力が必要であるため、街に集まってくる感染者は、後の計画の駒になってもらいました。
十分な感染者が街に入った後、ゼノが抗議活動を起こした時点で、シチボルはタイミングを見計らって暴動を引き起こし、そして、この暴動が征戦騎士の街入りの口実となりました。この陰謀はロジック的に完璧であり、シチボルを知的な頭脳派として評価することができるでしょう。
さらに彼は、ムリナールが助けた老人を偶然死なせてしまったこともあり、これによって私たちは彼のことを「手段を択ばない偏執的な人物」として認識することもあるでしょう。
しかしながら、この計画の裏には想像を絶する複雑な葛藤があります。シチボルは最初から、ムリナールがゲイル工業の内情を知っていることを考慮したと思います。
預けた剣を取りに行く約束があるため、ムリナールは必ずロックヴィル村に滞在することになります。そこで、彼は自然にゲイル工業の問題や、市内に集まる大量の感染者による事件、そしてそれに続く展開に気づくことになるでしょう。
シチボルは、ムリナールに会った後、トーランドにも事前の注意を促しました。トーランドなら必ず自分の言葉をムリナールに伝えると信じていたからです。
もちろん、ムリナールはズウォネクの伝統をよく知っています。故に、シチボルの配下にいる征戦騎士の動きは必ず彼の疑念を招くことになります。これらの行動は最初からムリナールをズウォネクに引き寄せるために行われたもので、彼がズウォネクに着いた時、シチボルは最後の手がかりを差し出してくれました。
軍の情報を流したことは、彼こそが一連の出来事の主犯であることを十分に語っています。彼は始めから、自分自身を阻止させるためにムリナールを引き付けたのです。もし本当に計画を成功させたいのなら、最初からムリナールを避けるべきでした。
この計画は最初から最後まで、シチボルが友人たちに抱いていた信頼に満ちていました。しかしこの信頼は本来、苦楽を共にした仲間たちをこのような形でつなげるものではないはずでした。
多くの人は、シチボルがムリナールに復讐心を抱いていると思っているかもしれません。シチボルは、ムリナールが自分の愛するセリーナを見殺しにしたことを受け入れられず、彼に答えを求める必要があったという考えでしょうかね。確かにその点は正しいですが、シチボルの復讐心はそれほど単純なものではないと思います。
彼はムリナールが廃墟に入ったのを見たとき、心の底に緊張を感じることなく、むしろ喜びを感じたのではないでしょうか。この行動は、ムリナールが変わらず、彼の最も尊敬する人物であることを証明してくれたからです。
彼が求めたのは、ムリナールがなぜ自暴自棄になってしまったかの答えです。彼はセリーナの死因をよく知っており、ムリナールが唯一彼女を救うことができる人でありながら、最もあり得ない人でした。もしムリナールが両院に入ることを約束すれば、彼は当然のように大きな権力と高い地位を手に入れることができ、それによって、セリーナを救出することもできるようになります。しかし、それは彼が本当に屈服したことを意味し、あの遊侠も消えてしまうでしょう。
シチボルにとって、遊侠はセリーナを救うために消えたなら、その結末を受け入れてムリナールに感謝できますし、セリーナが遊侠の信念を守るために死んだなら、その結末にも耐えられます。ただ、彼が最も受け入れられないのは、両方を同時に失うことでした。
彼は戦争の名においてムリナールに剣を抜かせたのは、自分がもうこの時代にふさわしくないことに気づいたためで、もはや自分と共に歩む人はいなくなったと気づいたためでした。
トーランドの言う通り、彼はただ絶望の中で、些細な希望を持って死にたかっただけで、少なくとも、自分がずっと信じてきた人の手で死にたかったのでしょう。
彼らはかつてこの場所で出会いました。夜明けの時、まるで夢から覚めたばかりのように、青年たちは自信に満ちていました。
いまや彼らはここで闘いを繰り広げ、光の雨が降り注ぐ中、孤影を落とす騎士は絶望の淵に沈みました。二十年の月日は如夢幻泡影。既に封印された在りし日の記憶はシチボルにとって残り僅かな慰めとなっていました。この時代に置き去りにされた彼は、最後にムリナールに伝えられたのは、ただ一声の嘆きだけでした。
交わる真実:栄光の行方(Trend of Glory)
2人の物語が埋めたのは過去の空白だというのなら、最後にシチボルがムリナールに伝えた情報は未来の展開を示してくれたものでした。明らかなことに、カジミエーシュの次の段階の物語はリターニアに直結するに違いないと思います。
シチボルの行動が合理的でないことはわかっていますが、彼の見聞や軍事情報の内容から、リターニアが再び野心を見せ、動き出そうとしていることが伝わってきます。さらに重要なのは、スニッツ夫妻がなぜリターニアに現れたかのことです。
この点に関して、皆さんは冒頭のタイムラインの整理における空白の部分に気づいていましたか?
「塵影に交わる残響」のイベント中、このような歌詞が出ていました。この歌詞は一見何の変哲もなく地味ですが、実は裏に非常に重要な情報が隠されています——
この曲は、「双子の女帝が権力の座についた」ことを称えるために現れたもののため、それはつまり、1078年が巫王が死去した年であることを示しています。
そして、ムリナール15年の経歴から、スニッツ夫妻がカジミエーシュを離れたのはちょうど1077年だということがわかります。これはあまりにも偶然ではないでしょうか?その他にも、注意を払うべき細かいところがたくさんあります。例えばスニッツとヨランタは、わざわざ深夜に出発することを選び、彼らが去るときには、全身武装した征戦騎士に護衛されていました。また、スニッツ夫妻が最後にマーガレットに言い聞かせた言葉から見ても、彼らは明らかに最初から戻れないことを知っていました。これらの情報から、これは交渉の下の軍事行動であり、ムリナールは騎士ではないため、マーガレットと同じように二人を見送るしかできませんでした。
これが、ムリナールがこのことを忘れられず、何度も監査会に答えを求めた理由でもあります。
その後、スニッツ夫妻は送られてきた手紙で、故意に向かい先を偽装し、北風と雪原についての記述はウルサスに向かっているような錯覚を与えました。
スニッツ夫妻が去った後、監査会はニアール家の姉妹たちの面倒を見るようになったのは、ラッセルとキリルの友情によるものだけでなく、監査会が主導したこの行動のせいでニアール家に借りができたことを示しているのではないでしょうか。
今となって、大騎士長ラッセルは「ニアーライト」のイベントで口にしたこの言葉が、単に「騎士の信仰」を守るという名誉ある理由だけでなく、スニッツ夫妻と監査会の交渉の結果と見てもいいかもしれません。
現時点の情報から判断すると、スニッツとヨランタの失踪は、巫王の死と密接に関連している可能性が非常に高いと考えられます。
最後にムリナールの手に渡された手紙には、一滴のインクが滲んでいました。最終的には口を閉ざすことを選んだとしても、これはスニッツが机の前で躊躇したことを示唆しているかもしれません。
だからシチボルの主張は実際に正しくはありません。スニッツとヨランタは巫王の討伐に直接参加した可能性すらあり、彼らは家族と引き離される苦痛に耐える選択肢を自ら選んだわけです。
暴君であった巫王の侵略行為とは異なり、現在のリターニアの双子の女王は平和を推進することに力を入れており、これがカジミエーシュがこれまで平和的に発展することができた重要な理由の一つでもありました。
しかし、一部の選帝侯にとって、現在の女王は彼らの計画の障害となっており、状況は悪い方向に向かっています。
スニッツとヨランタの沈黙は、リターニアの事態がますます激化することにつれて、もうすぐ持続できなくなるでしょう。二人は再び人々の前に姿を現さなければならないかもしれません。ニアール家の一員として、リターニアと深い縁のある遊侠として、再び動き出したムリナールは、これから起きることの中でどのような輝きを放つのか、楽しみにしていきましょう。
◆同じ作者様のカジミエーシュシリーズ考察:
・ニアー・ライト:
・マルキェヴィッチとチャルニーについて: