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健康な環境に関する権利 / 国連人権特別報告者によるレポート(その1)

先日のnoteの記事でも触れたように、今年12月には中国を議長国とする生物多様性条約COP15がカナダで開催され、2030年までに国際社会のあらゆるステークホルダーが取り組むべき生物多様性実現を目指すための行動目標が採択される予定です。
この目標の文案については、この間、文案を練るための作業部会等が何度か開催され、議論も大詰めを迎えています。

さて、こうした国際社会の議論の潮流の中、環境保全に取り組むために「人権」の尊重もまた重要であるというメッセージも、いろいろなところから出されています。

というわけで、今日は、国連の人権特別報告者*1(UN Human Rights Special Rapporteurs) による報告書を紹介*2 します。

今日紹介するレポートは、こちら(↓)からダウンロードできます。https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/32450/RHE.pdf

発行年月日がレポートの紙面ではすぐ見つけられないのですが、Introductionを読む限りでは、2018年に国連人権特別報告者に任命されたDavid R.Boyd博士による調査をまとめたもので、2020年1月にレポートの要約版が発表されたようです。

このnoteのトップ画像ではカットしましたが、レポートの表紙タイトルは、Right to a healthy environment -- good practicesとされており、安全で衛生的、健康的かつ持続可能な環境に関する人権への認識と実施についてのよい実践例が簡単にまとめられています。
また、ここでいう「Good Practice(良い実践例)」とは、健康な環境を手に入れるための手続き上の取り組み面と、健康な環境を享受するという際の実際上の両方の場面を意味する、としています。

目次の構成を見ると、以下の3つの領域に分けて整理しています。
1)法的な認識。
2)環境情報へのアクセス、意思決定に関する市民参加、また司法へのアクセスと言った手続き上の要素。
3)きれいな大気、安全な気候、健康かつ持続可能な方法で生産された食品、安全な水や適正な衛生へのアクセス、居住・就労・余暇などにおける汚染されていない環境、そして、健全な生態系と生物多様性といった実際上の要素。

III. Good practices in the implementation of the right to a safe, clean, healthy and sustainable environment
A. Legal recognition
B. Procedural elements
 1. Access to environmental information
 2. Public participation in environmental decision-making
 3. Access to justice
C. Substantive elements
 1. Clean air
 2. Safe climate
 3. Healthy and sustainably produced food
 4. Access to safe water and adequate sanitation
 5. Non-toxic environments in which to live, work and play
 6. Healthy ecosystems and biodiversity

P.5  https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/32450/RHE.pdf

このレポートではまず、各加盟国は、健康な環境に対する権利が明文化された国際条約に入っているか*3、憲法に明記されているか、憲法上ではなくとも国内法規定があるか、の3段階に分けて整理されています。
レポートによれば、国内法規定のある国は101か国もあるようですが、日本は、いずれの分類にも該当していないようです。

また、結論では、ここで挙げられたような健康な環境を実現するための権利は、環境に対する悪影響から最も影響をうける、脆弱な個人やコミュニティにとってこそ、大きな影響があるということを指摘しています。これは、紛争や貧困、自然災害などの困難に直面する人々や地域にも当てはまる、ある種、普遍的な見方でもあるのです(超訳)。

つまり言うまでもないことですが、環境を守ることは人権の実現にも貢献し、また、人権を守ることは環境の保全にも貢献するのです。

”Protecting the environment contributes to the fulfillment of human rights, and protecting human rights contributes to safeguarding the environment.”

P.46  https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/32450/RHE.pdf

また、興味深いのは、健全な生態系や生物多様性について触れた章、44ページの記載では、ボリビア憲法やエクアドル憲法のように「自然の権利(このレポートでは、the rights of non-human speciesとしています)」といった、(人間を対象とした)人権だけではとらえきれない考え方についても触れてある場所もありました。

筆者としては、このレポートももう少し丁寧に読み込んで、国家間の約束事項が決まった後は、それがどのように各地の現場で実施されていく仕組みになっていくのかといったことを考える時の参考にしていけたら、と思います。


今日は、まず、レポートの概要を紹介しました。
このレポートの紹介に続きがあるとしたら、もう少し中身にも触れたいと思います。…が、このレポートそのものは、そこまで大きなボリュームはありませんので、関心のある方がおられたら、ぜひ、ダウンロードして読んでみてくださいね★


*1 国連人権特別報告者とは何か、という点については、筆者は、こちらの国際法学会のサイトにまとめてある整理を基に理解しています。
*2 このnoteのタイトルには「その1」とつけていますが、「その2」があるかどうかはわかりません。
*3 ここで触れてある国際条約(International Treaty)とは、アフリカ憲章、オーフス条約、サルバドール議定書、人権に関するアラブ憲章、エスカス条約を指しています。

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