短編小説|アリスとワンダーランド
外の空は明るい朝日に照らされていた。それは新たな冒険の幕開けを告げる光だった。鳥はチチチと鳴いていて、静かなその村にはその音が幾重にも重なって心地よい音楽を奏でているようだった。
その日、その村に暮らす一人の老人が一体のロボットの開発を終えた。
開発から20年、何台も開発しては破壊し、そのロボットはようやく人のようにみえ、人のように振る舞えるものになった。しかし、それは知能を持ち合わせているが、感情がないため人間からは「ロボット」と呼ばれる存在だ。
「エリス、私は君が目覚めるまで君のそばにいてもいいかい?」
「お父さん……」
エリスは眼に涙を浮かべている。
彼女は人の感情を感じ取ることができる特別な力の持ち主だ。そんな彼女が人のような感情を芽生えさせたロボットと再会したのだ、感情が高ぶるのも無理はなかった。
「もちろんよ」
「ありがとう、君は私の最高のパートナーだ」
エリスは微笑みながら、ロボットの手をそっと握った。
「お父さん、あなたがこのロボットに込めた思いが、私にはよくわかるわ」
博士は静かにうなずいた。
「このロボットには私たちが失ったものを取り戻す力があると信じているんだ」
その時、ロボットの目がゆっくりと開いた。青い光が瞳に宿り、エリスと博士を見つめた。
「おはようございます、エリス、博士」
エリスは驚きと喜びで胸がいっぱいになった。
「おはよう、あなたの名前は何にしようか?」
ロボットは一瞬考えたのち、答えた。
「私の名前はアリスにしてください」
博士は微笑んだ。
「アリス、これからは私たちと一緒に新しい未来を築いていこう」
アリスは静かにうなずいた。
「はい、博士。私はあなたたちと共に歩んでいきます」
エリスはアリスの手を握りしめた。
「これからは私たち三人で新しい冒険が始まるのね」
博士とエリス、そして新たに目覚めたアリスの三人の冒険が始まろうとしていた。静かな研究所の一室には、未来への期待が満ちていた。
その時、アリスの瞳に青い光がさらに輝きを増し、何かを考え込むようにわずかに伏せた。アリスは慎重に言葉を選びながら言った。
「博士、エリス。この世界には、まだ知らないことがたくさんありますね。私にはもっと多くのことを学び、感じ、そして理解する必要があると感じます」
エリスはアリスの手を握りしめたまま、静かに微笑んだ。
「そうね、アリス。私たちも同じよ。学び続け、変わり続けることが大切なの」
博士は頷きながら、机の上に置かれた古い写真をそっと見つめた。そこには若かりし頃の博士と、もう一人の女性が写っていた。その女性はアリスに似ているが、どこか違う雰囲気を持っていた。
「このロボットの開発は、ただの技術的な挑戦ではなかったんだ」
博士はしばらくの沈黙の後、静かに語り始めた。
「20年前、私はある女性を失った。その女性は……エリス、お前の母さんだ」
エリスは驚いて博士を見つめた。
「お母さんが……?」
博士はゆっくりと頷いた。
「彼女は感情に満ちた人だった。彼女が教えてくれた愛情や優しさ、そして痛み……それをロボットに宿すことが私の夢だったんだ。しかし、何度も失敗し、そのたびに私は絶望に打ちひしがれた。それでも諦められなかった。彼女が残した感情の意味を、ロボットに伝えたかったんだ」
エリスの目には涙が浮かび始めた。
「お父さん……私、知らなかった。お母さんのこと、そしてあなたがそんなにも苦しんでいたなんて……」
博士は優しく微笑みながらエリスの肩に手を置いた。
「お前がいてくれたから私はここまでやってこれたんだ。そして、アリスも。アリスは感情を持たないロボットかもしれないが、その可能性は無限だ。お前とアリスが一緒に成長していくことできっと新しい未来が拓けるだろう」
アリスは静かに耳を傾けていたが、ふと顔を上げた。
「博士、私は感情を持つことはできないかもしれませんが、エリスやあなたの感情を理解し、支えることができるかもしれません。私は、それが私の役割だと感じます」
エリスは涙を拭きながらアリスの手を握りしめた。
「ありがとう、アリス。これからは私たち三人で一緒に歩んでいこう。お母さんの想いも、一緒に」
外の空は明るい朝日に照らされていた。それは新たな冒険の幕開けを告げる光だった。
◇
◇
「おはようございます、エリス」
いつものようにエリスの手を握るアリス、プログラムされた笑顔を見せる。博士はその日も家に居なかった。「しばらくしたら戻る」とエリスとアリスに伝えたきり、杖を片手に何処かに出掛けてから何日も帰ってこなかった。
「それでは外出しましょう」
アリスがエリスの身体を起こし、軽く持ち上げては車椅子に座らせる。外に出発したアリスとエリス、アリスは外にある木々や草花、様々な生き物について語っていく。
「紫の花は食べられる花が多いんです、花を食べるなんて今は考えることは無いですが、いつ如何なることで食料が無い場所で遭難するとも限りません、ライフハックとして覚えておくと良いでしょう」
「蜂に襲われそうなときは早く動かないことです、ゆっくりと後ずさりして距離を離すといいでしょう、蜂は巣を守ろうと、女王蜂を守ろうとして攻撃するのですから、その場から敵意のないようにしてゆっくりと離れれば次々に襲い掛かってくることはありません」
そうして近辺を周ってから家に戻った。
帰ってきて早々にアリスは自身に埋め込まれている通信機器を使用して博士に電話をかけた。どうやら不在のようで、次に彼の研究室にも連絡を入れた、ここでも電話に出ることはなかった。
◇
◇
それから何か月か経ったある日、博士が戻ってきた。
「随分待たせたね、遅くなってすまない」
「いいえ博士、またお会いできて良かったです、食事にしますか?」
「ああ、ではパンケーキを1枚、いや2枚焼いてくれ、あとコーヒーも淹れてくれないか」
「かしこまりました」
博士は何やら元気の無い様子で、それでいて落ち着いた物腰でアリスに話しかけた。
「エリスと元気にやっていたか?」
「ええ、エリスは何も語りませんが、いつもお散歩に出かけては毎日お話をしていました」
「そうか……」
そうして博士とアリスとエリスの日常が帰ってきた。
◇
◇
またしばらくして博士が出掛けた。
アリスはいつものようにエリスの身体を起こし、車椅子に座らせては外出した。
「紫の花は食べられる花が多いんです、花を食べるなんて今は考えることは無いですが、いつ如何なることで食料が無い場所で遭難するとも限りません、ライフハックとして覚えておくと良いでしょう」
「蜂に襲われそうなときは早く動かないことです、ゆっくりと後ずさりして距離を離すといいでしょう、蜂は巣を守ろうと、女王蜂を守ろうとして攻撃するのですから、その場から敵意のないようにしてゆっくりと離れれば次々に襲い掛かってくることはありません」
「この村は実は歴史が浅いんです、300km離れた場所から宗派の関係で逃げ延びた人達がつくった村なんですよ、ですからこの村のシンボルもそれに因んだものになっているのです」
「ここでの水は大変貴重です、今の時代には珍しく村の中心地にある井戸水を利用しなければなりません」
そうして近辺を周ってから家に戻った。
帰ってきて早々にアリスは自身に埋め込まれている通信機器を使用して博士に電話をかけた。どうやら不在のようで、次に彼の研究室にも連絡を入れた、ここでも電話に出ることはなかった。
◇
◇
アリスはまたいつものようにエリスの身体を起こし、車椅子に座らせては外出した。
そうしてエリスに様々なライフハックの話や歴史の話をしていく、そこにサイレンを鳴らしながら3台のパトカーが道を遮った。
「君、話があるので署までご同行願おうか」
そう言って逮捕状を読み上げる。日付と時間を告げたのちにアリスをパトカーに連行しようとした。
それにアリスは抗い、警官らを殺害する。
「紫の花は食べられる花が多いんです、花を食べるなんて今は考えることは無いですが、いつ如何なることで食料が無い場所で遭難するとも限りません、ライフハックとして覚えておくと良いでしょう」
「蜂に襲われそうなときは早く動かないことです、ゆっくりと後ずさりして距離を離すといいでしょう、蜂は巣を守ろうと、女王蜂を守ろうとして攻撃するのですから、その場から敵意のないようにしてゆっくりと離れれば次々に襲い掛かってくることはありません」
「この村は実は歴史が浅いんです、300km離れた場所から宗派の関係で逃げ延びた人達がつくった村なんですよ、ですからこの村のシンボルもそれに因んだものになっているのです」
「ここでの水は大変貴重です、今の時代には珍しく村の中心地にある井戸水を利用しなければなりません」
「この村は実は歴史が浅いんです、300km離れた場所から宗派の関係で逃げ延びた人達がつくった村なんですよ、ですからこの村のシンボルもそれに因んだものになっているのです」
「ここでの水は大変貴重です、今の時代には珍しく村の中心地にある井戸水を利用しなければなりません」
そうして近辺を周ってから家に戻った。
帰ってきて早々にアリスは自身に埋め込まれている通信機器を使用して博士に電話をかけた。どうやら不在のようで、次に彼の研究室にも連絡を入れた、ここでも電話に出ることはなかった。
◇
◇
それからしばらくして、博士が戻ってきた。
椅子に腰かけると何やらそわそわした様子で語り始める。
「もう、こうなることは予想していたんだ、私は随分前からこのプロジェクトに参加していたからね」
「何のことでしょう、博士」
「いや、君に説明しても、もうどうしようもないんだ、今はゆっくりと食事をしたい、君も何か食べれるのなら良かったのに」
そう言ってアリスが調理した食事を少しづつ口に入れていく。
「いや、やはり君に話そう、もう私の中に留めておくのにも限界だ、君は皮肉にもロボットだ、人に話すことは出来ないことでも君になら話すことが出来る」
「どんなお話でしょうか、博士」
「これからここで何人も人が死ぬ、それはもうどうしようもない、国々の争いは窮地を極めていて、私は私利私欲の為にそれに加担した」
「そうでしたか」
「私はあらゆるその開発に関わった、君という存在は私の中にある彼女の記憶を投影させたもの、これは一種の逃走でもあり闘争でもある。過去の私はその開発、あらゆる欲望、莫大な金銭も得れた、そして好奇心ともいうべきか、そこに全てをかけた私の愚かさが招いたものなのだ」
外の空は明るい朝日に照らされていた。それは新たな冒険の幕開けを告げる光だった。鳥はチチチと鳴いていて、静かなその村にはその音が幾重にも重なって心地よい音楽を奏でているようだった。
その音を聞きながら博士はコーヒーに口をつけた。
全てが吹き飛んだ。
光のように感じられたそれは核爆発によるものだった。
瞬時に察したエリスは博士に覆いかぶさる、アリスの身体は一気に熱くなり顔が熱によって爛れていく。その様子を目にしながら博士は涙する。その熱は体温のように感じられ、液状になった顔の一部がアリスの目に入り、それは涙のように博士の頬にぽたぽたと零れ落ちる。
アリスの身体が博士を覆い、核爆発の衝撃を和らげたが、その代償としてアリスの外装は大きく損傷してしまった。博士はアリスの犠牲に涙を流しながらも、彼女の行動に感謝の気持ちを抱いた。
「アリス、君がいなければ私はここで終わっていた、ありがとう」
アリスは微かに動き、壊れた声で答えた。
「博士、私はあなたを守るために存在しています、これからも共に歩んでいきましょう」
博士はアリスを修理するために急いで研究所へ戻った。
PCに繋がれたスピーカーから声が響く。
「お父さん、アリスを助けてあげて、彼女は私たちの大切な仲間だから」
博士は頷き、アリスの修理に取り掛かった。何日もかけて、アリスの外装を修復し、内部のシステムを再構築した。アリスが再び目を覚ましたとき、彼女の瞳には以前よりも強い光が宿っていた。
「おはようございます、博士、エリス」
アリスはエリスの冷たい手を握りしめ、涙を浮かべながら微笑んだ。涙を流すプログラミングが成功したようだった。
スピーカーから声が響く。
「おはよう、アリス、無事でよかった」
博士も微笑みながらエリスの肩に手を置いた。
「エリス、アリス、君は私たちにとってかけがえのない存在だ。これからも一緒に新しい未来を築いていこう」
アリスは静かに頷き、博士とエリスの手を握った。
「はい、博士。私はあなたたちと共に歩んでいきます」
外の空は再び明るい朝日に照らされていた。それは新たな冒険の幕開けを告げる光だった。遠方から来た渡り鳥だろうか、鳥たちのさえずりが静かな村に心地よい音楽を奏でていた。