Other Sides of The Float 制作ノート
「東京地下ラボby東京都下水道局 2021」に参加し、SFプロトタイピングという手法で、未来の下水道について考えた。およそ2ヶ月かけて都市と下水道の可能性を探り、「Other Sides of The Float -2070年の海上都市と下水道-」という作品を制作した。作品の内容は、以下のnoteやwebサイトに掲載されている。
東京地下ラボで行った成果報告会のプレゼンの様子はこちら。
このnoteでは、制作中に考えていたことを裏設定も含めてメモしておきたい。
コンセプト
作品のコンセプトは主に、以下の2つである。
・(メイン)自立分散型社会に、市民はどうやって関われるか
・(サブ)現実の都市と仮想都市(=メタバース)は、どう関わり合えるか
(メイン)自立分散型社会に、市民はどうやって関われるか
この作品に登場する海上都市は、役所などの中央機関を持たず、市民が自ら運営や管理を担う。下水道を含むインフラも、分散型システムを導入している。
そんな都市で、市民はどう振る舞うことになるか/べきか。中央機関に従うことなく自らが主体的に関われることは、一方で主体的に関わらなければならないことを意味する。関わり方についても、自分勝手に動けばいいわけではなく、中央機関による統制がない分お互いが協調し合わなければならない。協調を重んじるばかりに、互いの動きを抑制し合う事態にもなりかねない。
市民それぞれの動きが化学反応を起こし、全体として豊かなコミュニティとなるためには、市民同士が時に繋がり時に自立して行動するような、柔軟な関係を構築することが鍵となる。
インフラについても分散型システムだと、設備の拡張がしやすく交換も容易というメリットがある。一方で、設備が都市の至る所に存在するということは、至る所でトラブルが起こりうることも意味する。トラブルが起きた場合は、市民が自ら修理に当たらなければならない。これは、メタボリズムの建築にも通じる部分があるだろう。
以上のように、自立分散型社会の利点や問題点を自分なりに考えて、それらを提示するシーンをストーリーの中に盛り込んでいる。
(サブ)現実の都市と仮想都市(=メタバース)は、どう関わり合えるか
作品には、前述の海上都市のほかにメタバースも登場する。メタバースが将来どのような形態になるかは未知数だが、このストーリーのメタバースでは、多くのユーザー達が自ら手を加えていき、最終的に現実の都市に並ぶような規模のコミュニティになっていることを想定している。
現実の都市とメタバースを比較したときの違いとして1つ挙げられるのは、メタバースの方がボトムアップ型アプローチで改変しやすいことである。現実の都市を拡張したり変更したりする場合には、役所や大企業がリーダーシップを取りながらトップダウン型アプローチで行なわれることが多い。現実の都市は一度出来上がってしまうと再び壊すことが難しいため、あらかじめ都市計画を十分に検討することが求められる。
一方メタバースはデジタルデータで構成されるため、比較的修正が容易と思われる。そのため、ユーザーが考案したプランをとりあえず形にしてみて、ダメだったら別のプランを試していくような、トライアンドエラーを繰り返すことができる。このようなボトムアップ型アプローチで一人ひとりがコミュニティの発展に関わっていき、自立分散型社会を形成していくことに、メタバースは現実の都市ひいては本作品の海上都市よりも適しているといえる。
メタバースは将来、仮想空間における都市いわば仮想都市と呼ばれるようになるかもしれない。そうなったときに、仮想都市は現実の都市とは独立して存在するのか。それとも、現実の都市での活動をサポートする補助的役割に終始するのだろうか。いや、どちらでもなく仮想都市が現実の都市と同じような立ち位置を獲得し、両者がそれぞれの性質を生かしながら相互に作用し合う未来があり得るかもしれない。そんなシーンを、ストーリーの中に盛り込んだ。
制作手順
作品は、3Dアニメーション・グラフィック・文章で構成されている。2ヶ月間の中でどのように制作したか、メモしておきたい。
⓪ ワークショップや下水道施設見学を通して、作品のコンセプトを考える。
① 作品のストーリーを練って、文字に起こす。
② 作品の舞台となる世界や建物の3Dモデルを、Rhinocerosで作る。
③ 3DモデルをUnityに移し、ストーリーに基づいたアニメーションを作る。(+ BGM制作)
⓪は割とすんなりと決まって、ストーリーの大まかな流れは12月中に思いついた。本格的にストーリーや舞台を考え始めたのは、1月に入ってから。①と②は、行ったり来たりしながら同時並行で進めた。③はラスト1週間かけて制作した。
スキル面で大きな経験になったのは、ストーリー作りとUnityでのアニメーション作り。共に初めてだったので、何から手をつければいいかわからなかったが、ネットで検索したり本を見ながら手を動かしたら、意外と作れるものだなと感じた。ちなみにBlenderも少し勉強してキャラも自作しようかと思ったが、さすがに時間が足りなかったので、今回はUnity Asset Storeから素材をいただいた。
裏設定集
作品のメインの目的は、未来の下水道・都市に関する一つのアイデアを提示することだった。そのメインの目的とはズレるために、ストーリーの中で直接言及していないような設定もいくつか盛り込んでいるので、ここでネタばらししておきたい。
フロートIとフロートM
ストーリーの世界に存在する海上都市には、2060年代後半に建設された前期10都市(フロートA~J)と、2070年時点では建設中の後期16都市(フロートK~Z)がある。具体的に登場するのは、前期のフロートIと後期のフロートM。
ストーリーの中で、フロートIの西方にフロートMが建設されているとしたが、これらのイニシャルはI=今治、M=松山をもじっている。そのようにした理由は、今治や松山の面している瀬戸内海が内海だからである(もちろん瀬戸内海が個人的に好きなのもある)。海上都市はどうしても海面変動の影響を受けやすいため、比較的波が穏やかな内海に建設することが望ましいと考えた。ちなみに、ストーリー後半に登場するVTOWNのGOは、瀬戸内海対岸の”呉”市をもじっている。
フロートIの建物たち
ストーリーの世界には10の建物が登場するが、そのうち4つは過去の自分のアイデアの流用(駅・アイ氏邸など)、3つは新しく考えたもの(カイト邸・ユウ邸など)、残りの3つは18世紀の「幻想建築」からの引用となっている。
球体に3つの階段がついている建物はルドゥ、円柱の上に球/ピラミッドが載っている建物はブレの作品を模している。幻想建築を引用したのは個人的趣味だが、現実空間に建つことのなかった建物が仮想空間に現れる様は、ちょっとワクワクする。
VTOWN
ストーリー後半、ユウとGOが会ってキューブを同期させた場所は、VTOWNという名のメタバース。VTOWN = Virtual Townという意味もあるが、さらにVoronoi Townという意味もある。VTOWNの平面図は、下の写真のようにボロノイ図になっている。
おわりに
以上、作品の中に直接現れてこないような、コンセプトや制作手順そして裏設定について、ひと通り文字に起こしてみた。未来の海上都市や下水道に関する具体的なアイデアは、作品の中に記載しているので、ぜひそちらをご覧ください。