駅伝と留学生
今年(2023年)の全国女子駅伝は本当に面白かった。最後まで目が離せないとはこのこと。現地では競技場のスクリーンにNHKの実況中継が流れておりレースの行方を追うことができる。スクリーンと少し遅れて流れてくるラジオ中継をスマホで聞き、小林祐梨子さんの解説を聞くというのが例年の観戦スタイル。今年はそこに強力なコンテンツが加わった。選手勧誘のために都大路におとずれていたマラソン博士こと森岡芳彦さん(城西国際大監督)が隣にすわって、気づいたことを次々と教えてくれる。という、お好きな人にはたまらない時間となった。
スタートから大分東明高校の奥本選手が飛び出すと、選手の背景やランニングフォームから、これから予測されることが次々と的中していく。奥本から脱落していく選手には「あの選手にはこういう練習が必要ですね」とスマホから映像を探し出してクロカンコースの映像を見せてくれる。長年女子選手の指導をしているだけに、我々とは見えている世界が違う。
おそらく奥本選手が狙っていたのは、新谷仁美選手がもつ区間記録18分52秒だろう。1-2年を過ごした興譲館高校時代は1年時から1区を走り10位。2年時は9位。3年目となる2023年は興譲館の大先輩・新谷仁美超えを意識した1年を過ごしてきたはずだろう。新谷さんに一度聞いたことがある。「あの記録を出すにはどう走ればいいんですか?」と。新谷さんの答えはこうだ。「スタートから全力でいかないとたどり着けない領域なのです」と。数々の記録をもつ新谷さんにとっても都大路1区の記録は特別なものであるらしい。「あまり駅伝やロードレースを観ることはないんですけど、都大路の1区は必ず見ちゃうんですよね」と。
レースは事前に「60秒差であればアンカーで逆転可能」という神村学園監督の発言があったことで、神村学園アンカーカロラインが何秒差で襷をもらうか?というのが焦点となった。序盤に留学生を起用してトップをとった仙台育英高校は60秒差をはるかに上回るセイフティーリード1分20秒差でアンカーへ。
まもなく西京極へ。というタイミングで競技場のスクリーンはNHKの実況中継を終了し(会場音声と放送音英の音がループしちゃうから)競技場内は一瞬静寂につつまれる。会場全体が固唾をのんでマラソンゲートを見つめるこの瞬間がたまらなく好きだ。
仙台育英の選手が入ってきた瞬間に場内はワッと湧いた。放送が中断した1分弱の間にカロラインがその差を一気につめてきたからだ。しかし、少し遠い。競技場では1周と100m、500mを走る。惜しいところまで詰めたが逃げ切れるだろう。しかし、残り400mとなったところで、カロラインがさらにブーストがかかったようにみえた。50mほどあった差がどんどん詰まっていく。
第4コーナーをまわったところでついに並び、1秒差でフィニッシュ。両校の力を出し切った素晴らしいレースとなった。
X(Twitter)に写真をあげると、両校を称える反応がたくさん届く一方で、そのシーンだけを切り取り「留学生を使うなんて」という恒例のステレオタイプな返信も一定数届いた。そもそも仙台育英高校も序盤に留学生をつかっていることを知らない。X(Twitter)がバカ発見器と言われる所以か。
どの駅伝でも「留学生を使うこと」について一定数の反応があるが、本当に理解力不足な意見だと思う。日本に来ることのできるケニア・エチオピアの留学生は選ばれしトップエリートの卵のような選手たちで、(ケニア・エチオピア人だから脚が速いわけではない。)彼ら彼女らとともに練習したり、レースで競ったりすることで、極東にある島国の日本の長距離レベルというのは周辺東アジア諸国にくらべてとてつもなくレベルが高いものになっている。
極東の島国日本においては、駅伝があることで、オリンピックや世界陸上にでなくとも、海外に武者修行に飛び出さずとも、世界(レベル)と戦えるという機会がある。同じ陸上でも他種目だとなかなか難しいはずだ。
今年も自身の記録に挑戦する高校生たちを見届けたあと、新谷さんはこういうツイートをした。
高校駅伝が終了すると大会実行委員から来年度から「留学生は男女ともに3kmの区間に限定する」という発表があった。
ここには2つの側面があると思う。
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