最善を、最善を、最善を尽くして
たぶん、そんなに多くの人が観ていない時間帯に放送されたフジテレビの「週刊フジテレビ批評」はスポーツを観るのが好きな人たちにはぜひおすすめしたい内容でありました。
毎年、「あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド」という本を作っています。大手町から箱根湯本・芦ノ湖までの地図をベースに生観戦を楽しみやその年ならではの切り口を盛り込んで作っている本。近年は「この地図が一番使えるから箱根駅伝を走る前に、自分が走る区間は熟読しておくように」と、監督から選手に手渡されるようになったこともあって、作り続けることに対して責任もうまれてきました。
今年は開催すら危ぶまれた箱根駅伝。沿道観戦の自粛を呼びかけることによって、ようやく開催までにこぎつけることができました。一方で頭を悩ませたのが2021年度版のこと。ぼくらの本が「沿道への生観戦を煽る」ことになってはならない。と考えたのです。そこで頭に浮かんだのは「もっとテレビを楽しめるものにしよう」ということでした。箱根駅伝を知る唯一の媒体である(ラジオもあるけど)日本テレビの箱根駅伝中継が例年よりも、綿密な準備をして放送に望んでくるはず。そこで箱根駅伝の初代総合演出である田中晃さんに箱根駅伝中継という切り口で徹底的に解説してもらいました。現役のディレクターに話を聞くよりも、始めたころから変わらないこと、そして放送技術によって変化していったことに田中さんが一番敏感にとらえているはずだ。そう考えたのです。田中さんの視点をもとにできあがった「あまこま2021」は例年のおばか騒ぎとは一味違うものが作ることができました。2021年の箱根駅伝中継を前に田中さんはこのようなコメントを残してくれました。(クリックすれば読めます)
田中さんと雑談していると、「放送人」という言葉がでてきます。記者やライター、ファンや関係者とも違う「放送人」という言葉の背景にはジャーナリズムとは違う責任の重さみたいなものを感じます。あるとき「君も放送人じゃないか」と田中さんに言われたときはとてもうれしかった。
前段がちょっと長くなりました。東京オリンピック・パラリンピックが近づいてきた中、「いま、田中さんはどういうことを言うだろう?」と気になっていただけに、今回の週刊フジテレビ批評は「俺得」な番組でした。聞き手も旧知の生島淳さん。生島さんと筆者は田中晃マニアであったりしますので、ツボが近いだけに生島さんの質問の背景もよくわかる。そういうこともあって、「俺得」だったのです。
すでに放送は終了してて、フジテレビオンデマンドで後日観ることができるようなのですが、対談終盤のグッっときたところを友達に読ませるために書き起こしたものをこちらにもおすそわけしておきます。
スポーツ中継の役割について
観る人は実況アナウンサーも選べないし、制作の志も選べないんですよ。
とういうことは、どれだけの責任と役割が送り手にあるかという。
そのことを理解してやらなければならないということ。
いい換えるとスポーツの権利をとったものが
そのスポーツを成長させる。文化として大きくしていく。
そういう役割と責任が間違いなくあると思っています。
配信と放送について
私、出身は日本テレビですけれども次はスカパーにいきました。
スカパーでチャンピオンズリーグを長くやってフジテレビさんと組んでやってきました。それなりにチャンピオンズリーグという優れたコンテンツの価値を伝えてきたつもりなんですけども配信事業者に移っての何年か。非常に残念な期間だったなと思いますね。残念ながらチャンピオンズリーグの価値がどうでしょう。少なくなったといいますか価値が下がったんではないか。
スポーツ実況について
WOWOWのテニス中継はインプレー中は一言も発しない。そういうことを徹底したらどうだろうか?みたいなことを去年からトライをしていますね。
そういうことって実況アナウンサーとしてどうですか?話している途中であってもいいんです。ここで(沈黙)集中するじゃないですか。要するにボールに集中しますよね。アウトオブプレイになってから喋ればいいわけです。
よりよい中継をすべき義務があって、よりよいコメンタリーを届けなければならない。いい実況アナウンサーにやっぱりやってもらいたいですからね。
NHK出身の方、民放出身の方。いや、出身じゃないな。民放に所属している現役の方にもチャンスがあります。WOWOWは受け入れています。(実況アナウンサーは)もっともっと準備して心して放送すべきですよね。
一回しかない生放送を担当するんですから。
東京オリンピック・パラリンピックについて
コロナウィルスの状況がおさまらないなかでオリンピック開催について、非常にアゲインストな風が吹き荒れている中でそれでも開催にむけて、最善を、最善を、最善を尽くしてなんとかギリギリまで努力をしつづけてほしいと。それだけの努力をする価値が間違いなくオリンピックとパラリンピックにあると信じてますね。
特にパラリンピック。これがあるとないとでは日本社会の将来がずいぶん変わるなあと思っています。パラリンピアンのパフィーマンスを観てですね。たくさんの子どもたちや若い人たちがインスパイヤされるはずなんですよ。そのインスパイヤされた子どもたちや若い人が日本の社会を20年先、いやもっと先かな。社会を作っていく。そのときに多様性を尊重する寛容さを大切にする。健常であろうと障害があろうと、どんなマイノリティーであろうとみんな、それぞれが自分の個性を発揮できるという社会がとてもいい社会なんだと。そうなるためにパラリンピックをぼくはホストするんだ。というように思っています。そのために招致したんだと。パラリンピックについては思ってますね。それがないということは。そういった社会。成熟した社会が50年遅れるんじゃないですかね。
我々はスポーツとかエンタテイメントを伝えて人々の心を楽しく人生を豊かにするという仕事をしています。そのエンターテイメントやスポーツを通じて社会がよりよくなっていくためには、やはり多様な価値観。意見が違う人を尊重するとか多様な価値観、多様な存在をリスペクトするということがなかったらエンタテイメント、文化は死んでいくと思うんですね。つまりWOWOWはそれがベースになかったらWOWOWの企業としての存在が危うくなってくる。だから企業の実業として多様な価値観が尊重される社会に貢献するんだというのは社業として取り組んでいきます。実業として取り組んでます。
東京オリンピック・パラリンピックにのぞむ放送人に対して
実況を担当します。このコロナという状況で開催される。これだけアゲインストな風が吹いているなかで開催したときに、アナウンサーは何を言うべきか。このことに対して。大変むずかしいですよね。大変むずかしいんだけど、そこから逃げちゃいけないね。しっかりそのことをいまから考えて。ましてや無観客の大会となったとき、テレビを通じてしか観ることができないんですよ。その試合を担当する局の役割と責任はとてつもなく大きいですよ。生半可な中継はするなよ。と思いますね。頑張ってください。
どうでしょう。早朝からどえらく濃い話をしてるな。という内容です。来週にはフジテレビオンデマンドで全編出てくると思うのでそちらをぜひ。
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月刊 EKIDEN NEWS
月刊といいながら、一日に何度も更新する日もあります。「いつかビジュアルがたくさんある陸上雑誌ができるといいなあ」と仲間と話していたんですが…
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