見出し画像

日本国旗を用意せよ

画像1

日本選手権長距離女子10000m。日本記録を更新して優勝した新谷仁美選手は計測掲示版の前で記念撮影することになった。手に日本国旗をたずさえてやってきて、国旗を広げるなりこう言った「なにこれー。西本さん、わたしブサいんだけどー」「ホントだ!これはすまない!」周囲は笑いにつつまれたが、確かに似顔絵は想定外だった笑

駒沢陸上競技場で行われたOTTセンゴのあと、朝から片付けまですべてやりきった主要スタッフと夕食をとっていたときのこと。OTTセンゴ片付けが終わった後に集まった100人近くいたボランティアの方々に「この中で大阪の日本選手権に行く人?」と聞いたところ、その場にいた3分の2が手を挙げたことにもびっくりしたという話から話題はいつしか翌週に行われる日本選手権長距離に。そこで「誰か新谷選手に日本国旗を投げ入れてくれないか?」というアイデアを切り出すことにした。

2019年の春。ドーハで行われたアジア選手権。メディア担当ディレクターからは、3位以内に入った選手たちは、国旗を背負ってウィニングランをする。そういう通達があった。

このように、多くの選手たちが日の丸を背負ったが、ひとりだけそれを拒否した選手がいた。それが新谷選手だ。

画像2

スタートから同時に先頭をひきつづけるも終盤に前に出られて銀メダル。そして酷暑の中ながらシーズンベスト。褒める要素はたくさんある。彼女は1位となった選手を称えると、足早にミックスゾーンへと去っていった。

画像3

シーズンベストで銀メダル。悪くない成績だとはいえ、彼女にとっては負け試合。ミックスゾーンで記者の質問に強い語気で答えると足早に去っていった。

今年、筆者にはひとつだけ心残りなことがあった。それは新谷さんに日本国旗を渡しそこねたこと。いや、厳密に言うと「ホテルに置き忘れたこと」である。2020年1月の日本記録を狙ったヒューストンハーフマラソン。唯一現地に行く日本人メディアということもあって、日本陸連の畔蒜さんに日本国旗を借りることにした。「そういう理由ならぜひ」と日本陸連も快く国旗を貸し出してくれたのだけど、その大事な国旗をゴールにもっていくのをすっかり忘れていたのだ。ヒューストンでは日本記録は狙ってはいたとはいえ、優勝までは想定してなかった。それが、優勝と日本記録もセット。優勝者だけが許される「日本国旗を背負ってのウィニングランをヒューストンで」という絶好の機会は筆者のポンコツな心がけのせいで実現しなかった。

「結果がすべて」と言い切る新谷選手だけに、笑顔で日の丸を背負ってくれるタイミングは「記録と順位」がそろったときでもある。新谷選手から「日本選手権10000mは日本記録で優勝を狙う」ことを聞かされていたとき、「国旗のリベンジは長居で」と考えたのだ。ただ、グラウンドレベルにいるカメラマンとはいえども、選手と直接触れ合うことは、このコロナ過では許されることではない、幸い、OTTスタッフたちが国旗を準備し、投げ入れるということになった。

それから1週間後。日本記録と優勝で舞い上がって、すっかり日本国旗のことなど忘れていた筆者の目の前に新谷選手が本当に日本国旗を手に現れたときはびっくりした。

画像4

ヒューストンじゃなくて、こっちで良かった。こっちのほうが、日本中のたくさんの人に見てもらえたから。

ここから先は

0字
ツイッターや「今日の一枚」では掲載するタイミングをうしなった写真やテキスト、これからやってみたいことなどを、ここでこっそりとはじめています。ちょっとびびって月10回と書いてますが、一日10回更新する日もたまにあると思います(笑)情報誌のようなことを期待している方はやめておいたほうがよいかも。ツイッターやオープンなネットとは違ってクローズドかつバズらない場を作ろうと思います。

月刊 EKIDEN NEWS

¥700 / 月

月刊といいながら、一日に何度も更新する日もあります。「いつかビジュアルがたくさんある陸上雑誌ができるといいなあ」と仲間と話していたんですが…

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます!いただいたサポートは国内外での取材移動費や機材補強などにありがたく使わせていただきます。サポートしてくださるときにメッセージを添えていただけると励みになります!