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「口を出すなら、金も出そう」早稲田クラファンのポテンシャル。
第二回となる「早稲田大学競走部駅伝強化プロジェクト」のクラウドファンディングが始まった。2025年の箱根駅伝では4位と躍進。友人のライター和田さん(福島生まれの早稲田OBで、福島出身の早稲田選手に関しては世界一詳しい)によれば、「花田監督の手腕や部員たちの頑張りもあるのですが、やっぱりクラファンが効いているんですよ」とのことだ。2023年に行われた第一回目では、2000万円を超える寄付金が集まり、戦力そのものの底上げに加え、主力選手たちの海外遠征費用としても活用された。和田さんも日本一のアクセス数を誇るヤフーニュースに記事を書いて後押ししている。
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クラファン開始直後に第一目標の500万円を突破し、もちろん最終目標は前回同様2000万円超え。これまで箱根駅伝に向けた大学のクラウドファンディングは他にも存在しており、先駆けとなったのは弘山勉(現スターツ監督)さんの動きだろう。筑波大のクラファンは「環境整備・競技継続」を中心に据えたものだった。
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NIKEのヴァイパーフライ登場でレースシューズの価格が一気に跳ね上がり、箱根を目指すにはどうしてもヴェイパーが必要となった。それまで上野のジュエンで安価に購入していた練習用シューズでは、強豪私立大には太刀打ちできない。2019年の箱根駅伝予選会前には筑波大ではメーカーからユニフォームサポートが打ち切られ、ウェアとジャージを揃えることすら困難な状況になった。そこで弘山さんがデサントのYさんに相談すると、彼は会社に黙って予選会出走メンバー用のウェアとジャージを提供した。26年ぶりとなった予選会通過が大きく報じられるとYさんは会社に呼び出され、「こっぴどく叱られながらも褒められた」という、ちょっといい話も残っている。
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話を早稲田に戻そう。早稲田が行うクラファンは、ウェアやジャージにも事欠いた当時の筑波大のような状況ではなく、瀬古利彦さんから脈々と受け継がれている「箱根から世界へ」という早稲田長距離魂をより高いレベルで体現するための取り組みだ。
毎年、ニューヨークシティーハーフ(NYCH)には上尾ハーフマラソンで日本人1・2位がNYCHに招待される仕組みとなっている。2023年の上尾ハーフの日本人1・2位は早稲田の山口智規と法政の松永怜だったはずなのに、リザルトを見ると早稲田の伊藤大志の名前もあった。
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「NYCH派遣は山口と松永でしょう? なぜ伊藤がいるの?」と早稲田と福島について詳しすぎる和田さんに尋ねると、和田さんは「西本さん、これがクラファンです」と教えてくれた。NYCH派遣は基本的に選手と監督・コーチやマネージャーの付き添い2名が対象だが、伊藤選手分の旅費・滞在費はクラファン資金から出ていたのだ。NYCHから1カ月後の織田記念では、伊藤選手が13分28秒67で自己ベストを2年ぶりに更新し、明らかに一皮むけた。まさにクラファンの即効性を感じるエピソードだった。「そうかあれがクラファンかあ」「そうですよ、これがクラファンです」と和田さんと顔を見合わせて大笑いしたことをよく覚えてる。
会食の場などで私が「箱根駅伝やマラソンが好きで国内外を飛び回っている」と話すと、たいていは早稲田出身の商社や代理店勤務のシニア男性が「我が早稲田は昔は強かったのに、最近は青学にやられっぱなしでいかがなものかな?」という“古豪マウント”を取ってくる。真面目に戦力分析を返すのも面倒なので、「あなたのようなOBが毎年100万円クラファンに突っ込めば、早稲田は優勝しますよ」と返すことにしている。日本では嫌味な話に聞こえるかもしれないが、アメリカの名門大学であれば、まったく普通の感覚だ。
今回の早稲田クラファンからは、アメリカのように「大きく儲けた人が大きく寄付をする」だけでなく、より多くのOBやファンが“声援だけでなく金銭的にもサポートをする”という新しい資金調達モデルの芽吹きを感じる。「早稲田大学競走部」ではなく「早稲田大学競走部駅伝強化プロジェクト」という名称も象徴的だ。「箱根駅伝」を大学の戦略スポーツとして取り入れる大学の多くは、駅伝を走る強化選手向けに推薦枠や奨学金を用意している。しかし名門古豪である早稲田では、推薦枠そのものが同じ競走部の中で限られており、長距離部門への割当が少ないため、他大学の充実した学費補助などに流れてしまう選手も多い。リクルーティング面で後れを取る状況を打開する意味でも、今回のクラファンは重要な役割を果たすだろう。
こうした「口を出すなら金も出そう」という発想を自然に取り込んでいるのが、アメリカの大学スポーツに深く根づく「ブースター文化」だ。母校に愛着を持つOBやファンが寄付をし、時には億単位の資金が集まることもある。その流れがさらに加速したのが、2021年にNCAAで解禁されたNIL(Name, Image, Likeness)による「ブースター・コレクティブ」である。大学が直接アスリートに報酬を支払うのではなく、ファンや企業が主体的に資金を出し合って選手をサポートし、リクルーティングや競技力向上に直結させる新潮流として注目を集めている。
今回の早稲田のクラファンは、そうしたアメリカ的な“OBやファンが主体的に選手を支える”動きを日本の大学スポーツ界に根づかせる一つの兆しといえる。「箱根から世界へ」というスローガンを掲げてきた伝統校が、クラファンを通じて具体的に海外遠征や強化策に投資し、成果を目に見える形で生み出している事実は大きい。もしも一部のOBの寄付や大学の予算だけに依存せず、より幅広い支援者からの資金が集まり、選手へダイレクトに還元されるようになれば、日本でも新たな大学スポーツの資金調達モデルが花開くかもしれない。そんな可能性を感じさせるのが、今回の早稲田クラファンなのである。
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ここまで読んでいただいてありがとうございます。誰にも頼まれたわけでもなく、このようなことを書くのは、会場であう早稲田大のみなさんは皆、感じがよい人ばかりだから。ぼくができる応援はこのクラファンをより多くの人に知ってもらうこと。
みんなも金も口も出すファンになろう。
金を出せないなら、せめてこの記事を広めてほしい。
誰かの目にとまることで、
いつか「億」の資金が集まるようなことがあったとしたら
それはそれで痛快だからだ。
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