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第14停留所:ギャラティックオニオンランド
バス停がある。
「バス停があるね。」
由美子と私は二人でそのバス停を見つめて立ち止まった。
私たちの少し先に見慣れないバス停があった。
「ねぇ、私たちそんなに飲んだっけ?」
私が問いかけると由美子は間髪入れずにいやいやと答えた。
暗い住宅街のバス通り。
点々と着いている街灯の明かりとは全く違う淡い光を放つそのバス停。
お酒に酔っている私たちにそのバス停は現実に存在している物なのか、幻覚を見ているのかしっかりと判断がつかなかった。
淡い光を放つバス停が存在するわけない。
「ねぇ、ちょっと近くに行って見てみようよ。」私が言うと由美子は、
「あんたも好きだねぇ、まぁこんなんほっとけないよね。」と歩き始めた。
淡く光るバス停。まぎれもなくそこにあるバス停。
触れる。光っている。意味が分からない。
「何なのこのバス停。ギャラクティックオニオンランドとか書いてあるけど……わけわからない。京子、これどういうこと?」
由美子はバス停のあちこちを見ながら触りながら私へ問いかけた。
「いやいや私が聞きたいよ。誰かのいたずらなのかな。」と返答すると聞きなれない音が聞こえてきた。
ラッパだろうか、歌声だろうか、不思議な音を出しながら何かがこちらへ向かってくる。
「ポコチャカポコチャカ」「らるらりた~」などの音を出しながら、バスのような乗り物がゆらゆら左右に揺れながらこちらへ向かってくる。
意味が分からない。
私はその物体を見続けたまま由美子の肩を叩いた。
「ん?なにあれ!?意味わかんない!?意味わかんない!?飛んでんの!?」由美子も驚いていた。
バスのような不思議な乗り物はそのまま私たちの前でやってきて止まった。
「あーあー、聞こえますか?」
突然不思議な乗り物から声がして私たちは身構えた。
「こんばんは、ようこそ。このバスはギャラクティックオニオンランド行きのバスです。」
意味が分からない。
「このバス停の名前がギャラクティックオニンランドなんだから、もうこのバス終点じゃん?循環バスなの?」由美子は冷静に突っ込んだ。そういう所ホントちゅき。
不思議なバスは驚いたのか少し上に伸び「えぇっ!?」と声を上げた。
そして「この世界のバスのルールにはそういうものがあるんですか?」と私たちに問いかけてきた。
「そうだけど、そもそもあんたは誰?何者?何が目的なの?なにしてるの?家は?住所は?日本についてどう思う?好きな物は?私はお酒が好き。」由美子はバスへと問いかけた。途中からどうでもいい事挟むの昔からちゅき。
「ぼくはリルン。ギャラクティック星人です。地球へは生き物の幸せパワーをもらいに来ました。僕たちの作った遊園地へ連れていくバスを走らせています。家の場所は言えません。ごめんなさい。日本はアニメやゲームの文化が素晴らしくてとても素敵だと思います。生物の笑顔や幸せな表情が好きです。お酒いいですよね。」とバスは答えた。
あ、こいつイイやつっぽい。私はこのリルンという不思議な奴に好感を感じた。
「あ、あ、え?ありがとう。」由美子は色々と自分で問いかけておきながら全てに対し答えられて戸惑っていた。自分から仕掛けておいて引いちゃう所も面白くてちゅき。
戸惑っている由美子を横目に私は問いかけた。
「遊園地に連れて行ってくれるとか、生き物の幸せパワーをもらいに来たってどういうこと?」
まるでどこかで聞いたことのあるような話に私は少し恐ろしくなった。
「はい。僕たちの遊園地へ遊びに来てもらって楽しんでもらって、その際に発生した幸せパワーを少しもらうということです。そのパワーは僕たちの生きる力となります。」リルンは淡々と答えるとさらに言葉を続けた。
「願い事を叶える代わりに命をもらうとか、絶望のどん底へ落とすようなことはしませんので安心してください。日本にはそのようなアニメがあって発想力が凄いし、内容登場人物たちの心情の描写、それぞれの思いのぶつかり合いに感銘を受けました。あれは名作と名高いのも納得できます。あ、本当に同じようなことはしません。安心してください。」
「あ、あのアニメ見たんだ。」思わず私は口から言葉が出ていた。
「貴方もあのアニメを見たんですね。なら不安になるのもわかります。でも命も、絶望に落ちることもありません、ただ、少し筋肉痛になるかもしれませんね。」とリルンは説明を続けてくれた。
筋肉痛とはいったいどういうことだろうかと思っていると、
「筋肉痛ってどういうこと?まさか笑いすぎて腹筋が筋肉痛になるとかぁ?」由美子が腕を組みふざけた悪い顔をリルンへと向けると、
「笑いすぎるのもあるでしょうし、いろんなアスレチック・アトラクションがあるので他の部位も筋肉痛になるかもしれません。普段運動をしていなければなおさらですね。」とリルンは真面目に答えた。
由美子は腕を組みながら眉毛をあげて目を開いたりニッコリしたり、ふざけた質問に真面目に答えられてどうしようもなくなっているような、おめめをぱちぱちしながらこちらを向いた。表情豊かなところもちゅきよ。
「僕が思うに」リルンが言うと私たちは改めてバスを見据えた。
「すぐに逃げ出さないお二人は今僕と一緒に行ってみたいという心情だと思います。やはりお酒に酔っている大人を誘うのは来てくれる確立が高いですね、幸せパワーの回収効率も高そうです。」とリルンは続けた。
効率的なエネルギー収集方法を確立している。
地球という星の日本にやってきて、アニメや文化などいろいろな事を学んでいるギャラクティック星人、とても頭がよく信じきって騙されるかもしれない。また不安がよぎった。
「なんでさ、子供たちじゃダメなの?そっちの方がめちゃめちゃパワーたまるんじゃない?こんな話せるバスとか居たらそもそも大興奮で幸せ~になるんじゃないの?」と由美子が問いかけるとリルンは「そ、それは……」と少しもごもごした。
やはり何か裏があるのか、信じてはいけない存在だったのか。
そもそも言葉が通じる時点で騙してきている可能性は高かった。
この後の返答次第では逃げ切れるかわからないが逃げるしかない。
不安と覚悟の中、リルンの返答を待った。
「あの……、」リルンは言いづらそうに話をつづけた。
「子どもは夜にしっかり寝ないと体に悪いと学びました……。だから夜に僕たちみたいな存在が現れて寝れなくなったら可哀そうですし、せっかく寝かしつけた親たちの努力を無駄にしたくないんです。」
こいつマジで良いやつだな。いい人レベルが天を貫いている。
説明しているバスのフロント部分がしょんもりした表情をしているようにも見えた。
「だったら昼間に子供に会うのはダメなの?」と私は聞いた。
「昼間はなんでか力が安定しなくてバスが爆散しちゃうんです。この前もカウントダウン後に爆散しちゃって、お子さんの服の袖をやぶいてしまいました……。」しょんもりした表情がさらにしょんもりし、バスもしおしおしてきた。
リルンは心優しい存在なのかもしれない。
「だからこうして夜に疲れ気味で酔って判断力が鈍っている大人の人を誘っているんです。僕の仲間がこの方法で何度か幸せパワー分けてもらっていました。おかげさまで僕たちは元気で過ごせています。感謝しています。」
仲間も含め賢い。とても賢い。
自分たちだけの都合を押し付けるわけでなく、こちらへの配慮をしながらも利益を得えている。
私はとても感心していた。
「ねぇ、リルン。」由美子が優しい声で話し始めた。
「ちょっとトイレ行きたいからさ、もう帰っていいかな?」
お前マジかここでそれ言える?もーホントちゅき。
「あ!ごめんなさい!長く引き止めちゃって!車内にもトイレありますが使いますか?」リルンはシャンと体制を正すと扉を開いた。
「ありがとう!そしたらちょっと借りるわ!」由美子は颯爽とバスへと乗り込んだ。
「わー!すごい!何これふっしぎ~!」バスの車内から由美子のはしゃぐ声が聞こえた。
ここで私も乗り込んだらそのままギャラクティックなんとかランドへ連れていかれるのだろうか。信用できる存在だが勝手に連れていかれるのは嫌だな。
「安心してください。あなたも乗り込んだら勝手に発車するなどはありませんから。同意なく行くのはルールに反しています。」
こちらの心が読めるのか、リルンは私を安心させるような言葉を言ってくれた。
「心配してくれてありがとう。優しいのね。」私はリルンへお礼を言った。
「はー沢山出てすっきりじゃわい。」トイレから出てきた由美子の満足そうな声が聞こえた。ちょっとだけ品がない所もちゅきよ。
「ねぇリルン?ギャラクティックオニオンランドは美味しい食べ物とかもあるの?」ハンカチで手をふきながら由美子はリルンへと訊ねた。
「はい。日本の料理もありますし、地球の様々な国の料理もあります。お酒ももちろん。ほかにも僕らが食べているギャラクティックオニオンキノコのソテーや、ギャラクティックオニオンクラゲ、ギャラクティックオニオンスープなどおすすめの料理もあります。」
「そうなんだ。よし、行こう。京子行くよ乗って!行くでしょ?」
あんたって子はホントもうだいしゅき。
行かないわけないじゃない。
「私も行く!」はっきりと宣言し急いでバスに乗り込んだ。
リルンのバス車内は不思議な空間で、外からは想像がつかない程とても広い空間が広がっていた。
リルンは急な展開についていけてないのか「えぇ?あぁ!?」と情けない声を出し「ありがとうございます!」と戸惑いながらもお礼を言うと扉を閉めた。
「ギャラクティックオニオンキノコとかマジ美味しそうじゃない?」
キラキラした瞳で私を見つめてニコニコしている由美子は、昔から変わらずずっと大好きな天真爛漫なお嬢ちゃんだ。
「私はギャラクティックオニオンスープが気になるな。」
私の顔もほころんでいたと思う。
「最早幸せが溢れ出ていて僕たちも助かります。では出発します。」
リルンがそう言うとバスは賑やかな音を立てて夜空へと舞い上がって行った。
ギャラクティックオニオンランド一体どんな所か凄く楽しみだ。
その後、京子さんと由美子さんはギャラクティックオニオンランドではしゃぎすぎて全身筋肉痛に苦しんで、二人でジムに通うか今悩んでるんだって。
また来てくれる約束もしてくれたよ。
二人とも凄く幸せそうだったなぁ。
♯バス停オムニバス
♯架空路線バス