3Dプリンターで建物の立体地図をつくる
学校で3Dプリンターを買う計画があります。
単純に考えれば3Dプリンターでは3Dモデリングで作ったものを印刷します。
でも、本校には視覚障がいを併せ持つ児童生徒もいるので、3Dモデリングよりも「立体地図を作れる」という話を聞いて目が輝いた先生が何人もいました。
3Dプリンターが到着する前に制作方法を調べておかなくてはいけません。
立体地形図なら、国土交通省国土地理院が提供する「地理院地図」の3Dデータを使ってつくることができます。
データのほしい地域を表示させ、「ツール」→「3D」で大きさを指定すると、簡単にSTL形式やOBJ形式のデータをダウンロードして、3Dモデリングソフトに取り込むことができます。
このような感じです。
それだけでも利用価値は高いのですが、Googleマップを見慣れていると、建物の立体地図も作ってみたくなります。
作り方を調べてみました。
PLATEAU(プラトー)
PLATEAU は、国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデルの設備・オープンデータ化プロジェクトです。
全国主要都市のCityGML形式の建物の立体データを利用することができます。
PLATEAUの名称はフランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神分析家フェリックス・ガタリの共著による評論集『千のプラトー』に由来するそうです。
プラトーはフランス語で台地を意味するそうです。
英語のプレートと関係ありそうです。
心理学でプラトーと言えば高原状態ですよね。
東京23区は3Dモデリングソフトに取り込めるOBJ形式のデータが公開されています。
しかし、うちの県の主要都市はOBJ形式のデータがないので、変換しなくてはいけません。
公式ではSafe Software社のFME Formを使って説明されています。
でも、FME Formは教師は無料のようですが、学生では4か月無料です。
お金がかかってはうちの学校では使えません。
無料でできる手段を探してみると、
・CityGMLtoOBJを使う
・PLATEAU SDK for Unityを使う
の2つの方法がありました。
最初はインストール不要で簡便なように見えるCityGMLToOBJを使おうと思いましたが、自分には変換元のGMLファイルの選び方がわかりませんでした。そこで、PLATEAU SDK for Unityを使うことにしました。
本稿では、これを使って3Dプリンターで印刷する前まで説明していきます。
Unityのインストール
Unityは、Unity Technologiesが開発・販売しているゲームエンジンです。
自分は前任校(7年くらい前)のときにiPadアプリの開発に使える環境を調べている中でUnityの名前は知っていました。
でも、「若い時なら教材アプリ開発をやったかもなぁ。」と他人事に思いながら今まで手を出していませんでした。
個人では無料、学生・教育関係者も無料で使えます。
日本は「ユニティ・エデュケーター・プラン」の対象国になっているので、自分も教育関係者向けUnityに登録しようとしましたが、「School name」に学校名を入力しようとするとローマ字入力の変換の位置がずれてしまい、「ぎなた読み」みたいになってしまいました。
「First name」のところに仮に学校名を打ってコピペしました。
県名まで入れると登録済の学校名が出てきます。
Appleの教職員割引で登録するUNiDAYSもそうですが、自分の学校より先に自分が知っている学校が登録されていると敗北感があります。
〇〇先生、早いなぁ。
学校が登録されるまで最大7営業日かかるそうなので、とりあえず個人プラン(無料)で登録しました。
Unity hubからUnityをインストール
Project PLATEAUが提供するこちらのマニュアルに従って進めました。
2024年8月15日時点ではUnity 2022.3.42f1が最新のLTSになっています。
そのままインストールを進めました。
「Unityプロジェクトの作成」では「3D」が無かったので、「3D(Built-In Render Pipeline)」を選択しました。
「PLATEAU Unity SDK の導入」では「PLATEAU SDK for Unity v3.0.0 alpha」のtgzファイルを使い、特に問題なくインストールができました。
3D都市モデルのダウンロード
次に、3D都市モデルをダウンロードします。
ブラウザでPLATEAU VIEWを開きます。
都市を検索し、建築物モデルをクリックします。
ここでは福島県郡山市を選択してみます。
それにしても、福島県は県庁所在地の福島市と、IT導入で先進的だと思っていた会津若松市のデータが無いのか・・・。
右側の「移動」(左から2つめのボタン)をクリックすると選択した都市を鳥瞰する位置に移動します。
「オープンデータを入手」をクリックすると、一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会が運営する「G空間情報センター」の、選択した都市のページが開きます。
CityGML(v3)をダウンロードします。
2GBほどあるので気長に待ちます。
ダウンロードが終わったらZIPファイルを解凍しておきます。
3D都市モデルのインポート
いよいよUnityで都市モデルをインポートします。
マニュアルで順番通りにやっていけば、できました。
緑のボタンの色が暗く見えるので、生きたボタンなのか不安になりますが、仕様です。
あと、初めての時は、「インポート範囲」は1マスにした方がいいです。
OBJ形式に吐き出すとメッシュごとに分かれて出力されるので、複数マスを選択すると大量のファイルができてしまい、探すのが大変です。
最初は1マスにして、理屈がわかってから複数マスに広げたほうが良いです。
「地物別設定」はそのままでも大丈夫ですが、今回は建物データだけあれば良いので、不要なものはチェックを外した方が処理が速くなりそうです。
「モデルをインポート」をクリックすると、インポートが始まります。
私のメインPC(13世代Corei7、メモリ16GB、SSDのノート)でも6分かかりました。
1人1台端末だともっとかかるでしょう。というか、CityGMLファイルをダウンロードしたら空き容量がすぐにいっぱいになってしまいそうです。
共用パソコンでUnityを使うのが現実的です。
インポート中は左カラムに「インポート中」と表示されていて、左下にも処理状況が表示されたり、中央に何度かプログレスバーが表示されたりもしますが、フリーズしていないか心配になります。
タスクマネージャーを表示されておくと、CPUやメモリの使用量が変化して処理が進んでいるのがわかるので、精神的に落ち着けるかなと思います。
生徒にはこの待ち時間で何をさせようか・・・。
ただ、タスクマネージャーを前面に出しておくと、インポートが終わってもUnityのウインドウに変化がありません。
CPUやメモリの使用率が下がったらUnityのウインドウをアクティブにして、終わったかどうか確認する必要があります。
OBJ形式でエクスポート
エクスポートもマニュアル通りに進めることができました。
3Dプリンターで印刷するためにはOBJ形式で出力します。
エクスポートはすぐに終わります。
建物のデータは「bldg」を含むobjファイルです。
buildingの略でしょうか。
LOD0は高さ情報が無いので、今回は使いません。
LOD1は箱モデルです。高さ情報が入っているので、立体になります。
LOD2は屋根と窓が再現されていますが、公開されている地域が限定されています。
この地域ではLOD2が無いので、LOD1を使います。
「56400249_bldg_6697_op_LOD1.obj」ですね。
Tinkercadにインポートして台座を付ける
本校では3DモデリングにTinkercadを使っているので、Tinkercadに取り込んでみます。
インポートします。
「56400249_bldg_6697_op_LOD1.obj」を選択します。
取り込まれました。90度傾いて取り込まれます。
「ボックス」で台座をつくり、グループ化して完成です。
(90度回転させました)
2ブロックだとどうなるか。
郡山駅前の2ブロックを取り込んで、つなげてみました。
もう少しブロックを増やして周囲の建物が増えると、福島県で一番高い建物のビッグアイの高さ(133m)が相対的にわかりそうです。
9ブロックつなげてみました。ビッグアイはやっぱり高いですね。
建物が多いと栄えている都市のように見えます。
「あの建物は何だろう?」と、新たな発見がありそうです。
ちなみに郡山駅前はLOD2形式なので、屋根の形も再現されています。
STL形式にエクスポート
「エクスポート」で「.OBJ」か「.STL」を選択すればダウンロードできます。
本校で購入する3Dプリンターは単色なので、「.STL」が良さそうです。
ちなみにTinkercadの3Dプリンターの一覧には無いメーカーでした。
ダウンロードしたファイルをスライスソフトに取り込めば、印刷できるはずです。
3Dプリンターが来たら、早速試してみたいと思います。
一抹の不安
さて、これで建物の立体地図をつくる目途が立ったのですが、2つ不安があります。
フィラメントをどれだけ使うのか
スライスソフトに取り込めば使うフィラメントの重さは概算できますが、値段は買った人にしかわかりません。
消耗品としてある程度の量のフィラメントを買ってはもらいましたが、無尽蔵に使えるわけではないことは知らせないといけないかなと思います。
誰がUnityの操作をするのか
Unityはアカウントが必要です。
また、校務用パソコンは許可されたソフト以外インストールができないので、共用パソコンを使わなくてはいけません。
そうすると何が起こるのか。
「やり方教えてほしいから来てくれますか?。」
「どのパソコン使うの?。不便だ。」
「待ってる間、自分の仕事やってきます。」
「面倒くさい。」
「やってもらった方が速い。」
結局ほとんど自分がやる羽目になるのではないかと思います。
せっかく導入できるのですから、無駄にならないように活用したいと思います。
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