Dr.ヒロのおさらい心電図No.9~AVNRT vs. AVRT~
Q:波形な~んだ?
▶X/Twitterに公開:2023/10/22
https://x.com/ekagemaster/status/1715887942034751812?s=20
R-R間隔が3マス未満ですから,心拍数>100bpmの「頻拍」で,これが動悸を引き起こした原因だと考えるのがスムースかと思います。あ,ちなみにボクは,心電図の描かれる方眼用紙で5mmサイズの太線枠を“マス”と呼んでます。
しかも,QRS幅が正常(狭い)ので,いわゆる海外風に言いますと,
Narrow (QRS-) Complex Tachycardia(QRS幅の狭い頻拍)
と表現されます。“QRS”を省略した「narrow complex tachycardia」という名称は,われわれ日本人にはあまり馴染みがないですよね。このNCTの鑑別はボクも大好きで拙著でも何度か取り上げています。
【参考】熱血講義!心電図~匠が教える実践的判読法~
著者:杉山裕章,小笹寧子(執筆協力)
出版社:医学書院,発売日 : 2019/3/1,ページ数: 392
《3章》narrow QRS tachycardiaセミナー開講~“ASAPメソッド”で考えるクセを
◆Amazon:https://bit.ly/3JIyljQ
◆楽天ブックス:https://bit.ly/46Ma5HA
◆Yahoo!ショッピング:https://bit.ly/46zvjbq
R-R間隔がレギュラーですので,心拍数を計算すると162bpmとなります。“150±30bpm”ですので,心房粗動(AFL)も一度は考えますが【下記参考】,独特のギザッとした波形の印象はなく,ツルッとした(滑らか)フォルムですと「発作性上室頻拍」(PSVT)として良いでしょう。
まずはここがスタートです。
【参考】Dr.ヒロのおさらい心電図No.7
https://note.com/ekagemaster_hiro/n/n76ab06be20ba
主な心拍数から考えるセンスというのは誰しも持っておくべきセンスですが,PSVTの場合は「200±50bpm」つまり150~250bpmが該当します。
PSVTの約90%は房室結節を回路内に含むリエントリーを機序としており,
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)と房室回帰/リエントリー頻拍(AVRT)がその大半を占めます。
名称に関しては,以下のまとめで頭を整理しておいて下さい。
今回もこの両者の鑑別が問題です。さて,一体どっちなのでしょうか?
日本語名だと長いので以下では略称で示します。
リエントリー回路に房室結節を含むため,PSVTは多くのケースで房室伝導遮断薬で停止します。この例はベラパミル(商品名:ワソラン)にて頻拍停止が得られました。停止後の心電図も示しておきます。II,III,aVF,V4~V6に軽度のST-T変化を認める以外には大きな異常はありません。
今回の問題では,「AVNRT vs. AVRT:どっち?」が問われており,心電図検定などの試験でもしばしば問われる内容のようです。循環器専門医にとっては必須だとしても,個人的には多くの医療者にとって必要な知識かと言われると「?」な気もしますが・・・皆さんはどう思いますか?
(注)SVT正診率は専門医でも決して高いとは言えず(文献的には7割程度),それはP波の存在や位置の認識に“揺れ”が出るからだと思います。
ただし,“心電図を楽しむ”という観点では最高の話題なので解説を続けましょう。
頻拍時(SVT:上室頻拍)と停止後(洞調律)の波形を見比べつつ,P波に注目します。今回の例では,II(,III,aVF)に頻拍時に小さいs波のようなポッチが形成されており,これは「偽性s波」(Pseudo s wave)と呼ばれます。
この所見がある場合,まず第一にAVNRTを考えます。これは,房室結節二重伝導路である速伝導路(fast pathway)と遅伝導路(slow pathway)で,前者を逆行,後者を順行する「通常型」(Slow-fast type)という接頭語をつけて下さい。
同様の意義を持つものとして,V1で見られる「偽性r波」(Pseudo r wave)の方が有名でしょうか(「r」ではなく,「r'」と称されることもあります)。
心電図検定などでは,普通この段階でAVNRTと診断してOKだと思いますが,実臨床では注意が必要です。なぜならば,今回の例もそれに近いですが,もともと洞収縮波形からr'波に近い成分を持つ人もいるからです。下壁誘導についても同じで,最初からs波がある場合には診断根拠にはなりません。
なお,あまり知られていませんが,aVRでも「Pseudo r(r') wave」が見られることがあり,実はV1より感度・特異度が高いとする報告があります。この例でもあるようなないような・・・です(笑)
正解:房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)
【診断基準】ほか
についてまとめました!
P波については,今回のように見える(visible)な場合とQRS内に埋没して全く見えないケースがあることに注意して下さい。
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)を特徴づける所見としては,II/III/aVFの偽性s波,V1/aVRの偽性r(')波が有名でしたが,他にもいくつかの心電図所見が知られています。
2019 ESC guidelineを熟読してまとめてみましたので,参考にしてみて下さい。
(偽性s波やV1偽性r(')波の感度がさほど高くない点に注目です)
もちろん,どの所見もオールマイティではないので,個々の所見の有無を総合して判定することが最も重要かと思っています。
最後におまけのオマケを述べて終わります。ESCガイドラインの記載以外にボクが参考にしている所見があります。
①心拍数(レート)
②ST低下度(mm)
③aVRのST上昇
です。統計学的には有意にはならないようですが,やはりAVRTよりもAVNRTの方が遅い傾向があると思います。これはslow pathwayが含まれるためで,心拍数(レート)100~150bpmのゾーンだとAVNRT頻度が高まります(今回は該当しませんが)。
②については,Jaeggi ET(AJC 2003)の報告でAVNRTの場合はST低下が軽い傾向(<2mm)にあります。ただ,もともと小児を対象にした検討であることに注意が必要です。成人例への外挿も実際に検討されていますが,心筋虚血や左室肥大(LVH)が併存する場合には該当しないことにも注意です。
今回の例も既存のST-T変化が頻拍時の波形を修飾している可能性があると思われます。
さらに,頻拍時心電図でaVRのST上昇がAVRTで見られやすい(AVNRTでは少ない)ことも必ずもチェックするようにしています(Zhong YM,2006)。
上室頻拍(SVT)のハナシをし出すと,いつまでも止まらなくなりそうなので,今回はこの辺でお開きに。では,また!
by えかげますたぁ|Dr.ヒロ|杉山裕章
X/Twitter:https://twitter.com/ekagemaster
note.com:https://note.com/ekagemaster_hiro
List of My Works:https://note.com/ekagemaster_hiro/n/n3d55c7d6b22e