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■ 其の317 ■ 一冊の本11月号 ≪1≫

📘今日は日曜ですが、仕事場に来ているので投稿します。
今日から連続六日投稿できることになります。そこで、朝日新聞出版の「一冊の本」11月号から抜粋してあげていこうと思います。今月号は読み応えがあり共感する箇所が多かったのです。

今日は文筆家の伊藤亜和さんです。
これは新連載で始まった、伊藤さんと作家のジェーン・スーさんによる往復書簡の一節です。

📕タイトルは、「似ている」は褒め言葉?      

 この「似ている芸能人診断」というのは、従来の診断のように名前を入力するというものではなく、ケータイのカメラで撮影した“自撮り写真”をサイトにアップロードし、しばらくすると「△%○○似」といったふうに診断結果が表示される、というものでした。堀木真希似だとか深田恭子似だとか、学校のみんなが診断結果を誇らしげに言い合っているようすを見て、私も話題に乗るべく、自宅に帰って早速診断サイトを開きました。
 当時はまだガラケーというやつで美肌加工などもなく、それでもなんとか可愛く写るように試行錯誤しながら何枚も自撮りしたのを憶えています。ようやく渾身こんしんの1枚が撮れ、ワクワクしながら写真をアップロードし、診断ボタンを押しました。診断中という文字が点滅しているあいだ、ドキドキしながら私は誰に似ているんだろう。やっぱり青山テルマとか、クリスタル・ケイとか出るのかな。でもこの前焼き鳥屋のおじさんに“あびる優だ!”って言われたからあびる優なのかな、でもあびる優がどんな顔かよく知らないや‥‥などと考えを巡らせていると、ついに画面に「診断完了!」という文字が。もうお分かりかと思いますが、おそるおそるスクロールした私の目に飛び込んできたのは
「80% 竹中直人」という結果でした。
 ショックでした。決して竹中直人がかっこよくないと言っているわけではありません。しかしそれでも、思春期真っただ中の女子にとって「竹中直人似です」と突き付けられることは、ほとんど死を意味すると言っても過言ではありませんでした。自分の精一杯の自撮りが4枚横に並べられ、左から徐々にぼんやりと竹中直人のはち切れんばかりのスマイルが合成されていく理不尽な光景が忘れられません。私はそっとサイトを閉じ、二度と顔診断などすまいと心に誓いました。同級生に「顔診断やった?」と聞かれてもかたくなに「知らない」「やってない」と口を閉ざし、流行はやりがおわるまで、必死にその話題から遠ざかろうと努力しました。自分が竹中直人似であることは墓場まで持っていこう。そう決心しました。                            

〔P13~14より〕


┄┄いい歳をした男のわたしでも、ウインドーガラスや大きな鏡に写った自分の
  姿をみて、えーっこんなハズはないと思うのですから、女子高生の心境は推
  して知るべしです。


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