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■ 其の145 ■ 軍艦と猫
🔣今日、「一冊の本」が届きました。
定期購読している朝日新聞出版のPR誌です。
その中で、はじめのエッセイが印象的だったので紹介します。
著者は小泉悠さん。ウクライナ戦争のコメンテイターとしてテレビでよくお見掛けする「軍事評論家」です。
🔣冒頭、次のように始まります。
てっきり家族と猫のお話だと思いました。
3年前から保護猫を飼っていたんですが、昨年、これが2匹体制になりました。雨の日に茂みで鳴いている生後間もない猫を、娘が見つけてきたんですね。衰弱しているので病院に連れて行ったら、160グラムしかなくて、生後2週間も経っていないとのこと。放っておいたら死んでしまうでしょうから、我が家で飼うことになりました。
🔣すると途中で、予想外の話題に移っていきました。
軍事を商売にしている関係上、猫の話がなんだか変なところに転がってきてしまいました。その勢いでもう少し話を続けますが、ロシアの軍艦には猫を乗せる伝統があります。軍隊はどちらかというと犬的な組織で、軍事警備なんかのために犬そのものを「装備」としていることも多いのですが、ここまで述べた通り、猫は明らかに軍隊の役に立たない。敵を見つけても「なんだこいつ」みたいな顔をしているだけであろうということは容易に想像がつきます。
まあ塹壕や艦内に巣食うネズミを駆除するために部隊が勝手に猫を飼い始めるようなことはあるようで、ロシア海軍の猫も元々はそうやって登場してきたようです。しかし、近代軍艦の時代になるとこういう習慣は多くの国で廃れていきました。英海軍では1970年代まで艦内で猫を飼っていたそうですが、これも半世紀前までの話です。そうした中でロシア海軍に猫が残ったのかは何故なのか。
やっぱり、ロシアの水兵たちも「他者」が欲しかったのではなかろうかな、と思うのです。最近、西側の海軍では原子力潜水艦でもイージス艦でも女性が珍しくありませんが、ロシア海軍は女性を戦闘配置に就けることを認めていないので、男だらけのホモソーシャルな社会です。こういう社会では2か月も3カ月も、時には本当に危険のある場所で勤務する。ロシア軍の宿痾(しゅくあ)である新兵いじめも横行する。そういう時に、自分たちとは利害関係をもたない何者かが「にゃあ」とか言ってその辺を歩いてうたら救いになるだろう、という気はします。