■ 其の335 ■ 世界一やさしい依存症入門(松本俊彦著)を読んで、 10 須子祐樹 2024年12月12日 23:24 🔴なぜ〝 ハマる 〟のか? どんなふうに〝 治っていく〟のか? 精神科医の松本俊彦先生が書かれた依存症の本の中から、 印象的な話を抜粋します。 ■エナジードリンクなどカフェインについて カフェインがくれる元気は、どこからともなく魔法のように降ってわくものではありません。あくまで「元気の前借り」なのです。それも利子のついた借金です。借りれば借りるほど利子は利子はどんどん膨らんで、効果が切れると2倍、3倍の虚脱感が待っています。気付けば利子の返済に追われて、元気になるためというよりは、動けない自分を元の状態にするために飲んでいる。では、あっさりやめられるかというと、そうもいきません。急にやめるとドンと大きな虚脱感がやってきて、気力もなくなります。P22~23■アルコールについて 10代でお酒を飲むのは違法ですが、法律的なことを切り離して考えたとしても、若いうちからお酒を飲むのはあまり得なことではありません。何んといっても、アルコールは依存症になりやすい物質です。日本酒を毎日3~4合(1合は180ミリリットル)飲んだとすると、男性なら10年、女性なら6年で依存症になるといわれています。このことは、人が一生のうちに安全に飲めるお酒の量は決まっていて、お酒を飲んでいる以上、誰もが依存症になりうることを示しています。P49■ゲートウェイ・ドラッグとしてのタバコについて 僕は、精神科医という仕事上、覚せい剤を使った人を大勢見てきましたが、「タバコを吸ったことはないけれど、覚せい剤をやったことはある」という人には、ほとんど出会ったことがありません。おそらく、覚せい剤の結晶を熱して煙を吸う「あぶり」や、紙に巻き火をつけて吸う大麻など、煙を口から吸引するものに対する抵抗感がぐっと下がるためではないでしょうか。ひいては、違法薬物に対する心のハードルの低下を招いてしまうわけです。ニコチン依存症の僕がいうのも何だかなと思いますが、あんまりいいことのない薬物であることは確かです。P54■依存症になりやすい人、なりにくい人 環境や経験とは全く関係なしに、生まれつきドーパミンを出す機能の弱い人がいることも事実です。こうした人も依存症になりやすいといえます。たとえ子どもの頃にたくさんほめられたとしても、天然のドーパミンによる快感をあまり体験しないまま成長することになります。このような人が薬物による強烈な快感を体験すると、ほかの人とは比べものにならない勢いで引き寄せられてしまいます。P73~74■アルコール依存者の自助グループの誕生 アルコールに溺れた二人の人物が出会います。ビジネスマンのビルと、外科医のボブです。両者とも、アルコールの乱用のせいで仕事も生活もままならず、行きづまっていました。何とかお酒をやめたい。でも、やめられない。困り果てた二人は、ある晩、お互いの情けない過去を暴露し合いました。「俺たちって、本当にダメだな」「もう医者もみてくれないしな」「お前の気持ち、痛いほどわかるよ」┄┄とっくりと語り合い、気づくと空が白んでいました。飲んだくれのビルとボブが、どういうわけかこの晩はお酒なしに朝を迎えることができたのです。二人にとっては驚くべきことでした。 その後、毎晩のように語り合うことにした二人。語り合うことでお酒を遠ざけ、とうとう二人そろってお酒をやめることに成功しました。これは、医学史上の大事件でした。医師がお手上げした治療を、当事者たちがやってのけたのですから。しかも、「お互いの失敗を正直に話す」という実にシンプルな方法で。P80■著者自身がゲーム依存になった話 職場の仲間との飲み会でも「俺、明日の朝までにやらなきゃいけない仕事があるから、先に帰るわ」と居酒屋を抜け出し、ゲームセンターへ行っていました。 仕事を二の次にしたり、大切な人に噓をついたり。僕の中の「大事なものランキング」が揺らぎつつありました。これは本当にマズイ。いい歳をして情けない。だから「今日は500円でやめよう」などと心に決めるのですが、そうはならない。汗だくになるまで何度でもくり返しました。 それからしばらくして、僕はゲームをやめました。どうしてやめられたのかというと、それは、仕事がおもしろくなってきたからです。依存症の治療に自分なりの手応えを感じはじめ、僕の奮闘を認めてくれる人もでてきて、仕事への意欲が戻ってきたのです。リアルな生活のほうの風向きが変わってきたことで、自然と切り替えることができました。P108■SNSにまつわる話 親の中には、子どものアカウントをこっそり偽名でフォローしている人もいますが、僕はいかがなものかと思います。子どもがあえて親に言わないことまで知ろうとするのは、思春期の娘と一緒にお風呂に入りたがる父親のような、距離感を見失った行動だと感じます。親に内緒で何かをはじめるというのは、自我の目覚めでもあります。もし親に内緒にしていることが一つもない子がいたら、僕はそのほうが心配です。P117■心のストレスと食欲の関係 拒食が長くつづくと脳が縮むこともわかっています。僕たちの体の中で最もエネルギーを使うのは、脳です。脳に十分なエネルギーが送れないと、思考が正常ではなくなっていきます。物事を柔軟にとらえられず、やたら頑固になるのです。もっと進むと、その人が本来持っている知的な能力が発揮できない状態に陥ることもあります。P141■みせしめの逆効果 法律で禁じられた薬物を使ったことは、決していいことではありません。法の定めである以上、それを犯せば逮捕されるのは仕方のないことです。そうはいっても、ここまで辱はずかしめて、さらし者にする必要があるでしょうか。例えば、護送車のカーテンを通常はプライバシー保護のため閉じられているはずのものです。それが「どうぞ撮ってください」といわんばかりに開けられているのは、どうも不自然です。追いかけ回されて家へ帰れなければ、心も体も休まりません。ろくに知りもしない人に自分の過去を勝手にストーリー化されることも、耐えがたいことです。ましてや、治療中に騒がれることは、せっかくの回復を遠ざけてしまいます。派手に報道されればされるほど、本人だけでなく、家族も肩身の狭い思いをすることでしょう。ここまでするのは、過剰な「見せしめ」でしかないように思うのです。P198■依存症はなくならない 考えてもみてください。依存症として問題視されているものとされていないものの線引きって、どこにあるのでしょうか。現代では依存性物質とされているタバコは、かつて儀式や治療に使われるものでした。大勢の人が日常的に楽しんでいるアルコールが、違法だった時代もあります。大麻が違法とされる国もあれば、合法とされる国もある。ゲーム依存は問題になるのに、どれだけ本を読んでも問題にならないのはなぜでしょう? その時代、大人たちが気にくわないものを依存と称して突き放しているようなきらいさえあります。1日10時間以上勉巨して、勉強以外のことがおろそかになったとしても「勉強依存」とはいいませんしね。1980年代、あれほど多かったシンナー依存は、不良文化の衰退とともに激減しました。インターネットができればインターネット依存が生まれ、スマホが浸透すればスマホ依存が問題になります。 結局、「〇〇依存」と名前をつけて問題になるものの総量は、どんな社会でも、どんな時代でも、それほど変わらないのかもしれません。ある依存症がなくなったところで、別の依存症が生まれるだけ。だとしたら、何に依存しているかということよりも、根本にある生きづらさの方に目を向けて、それを生み出す社会のあり方を疑問視するべきです。P205~206河出書房新社 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #依存症 #松本俊彦 #アディクト #世界一やさしい依存症入門 10