【Wine ワイン】2016 Nemea Agiorgitiko Cavino
昨日はオリンピック最終日。仕事帰りにというふと目に止まったギリシャワインを購入。
オリンピック発祥の地"オリンピア"のあるペロポネソス半島"ネメア"産のワインでブドウ品種"Agiortiko"単一で作られるギリシャでも重要なワインの一つ。
オーク樽の魅惑的な香りが楽しめるワイン。
■Producer (生産者)
Cavino カヴィーノ
■Country / Region (生産国 / 地域)
Nemea / Peroponnese / Greece
ネメア / ペロポネソス / ギリシャ
■Variety (葡萄品種)
100% Agiorgitiko アギオルギティコ
■Pairing (ペアリング)
Moussaka ムサカ(ナスのスライス、ジャガイモ、挽肉、トマトソースを順に重ねた上にベルシャメルソースをかけてオーブンで焼いたもの)
■プロフィール
ギリシャはこの20年間、世界から注目を集めている。2000年のEU改革以降、国家財政は危機に瀕し、ブドウ栽培が衰退したことで生産量が減少する中、200を超す土着品種が生き延び、産地の風土を映す個性的なワインが生産されているところが、専門家から注目を浴びた理由だ。1970年代にギリシャワイン・インスティテュートが、高品質ワインの生産に向けて開始したギリシャの固有ブドウ品種に関する研究で、まずアシルティコ、アギオルギティコ、クシノマヴロ、サバティアノ、ロディティスといった品種にスポットライトが当てられ、これらの品種の特徴と、乾燥、強風、高い気温などのギリシャに固有な気候風土との関連性が明らかになり、醸造においても、近代的醸造方法の導入によるマストの酸化防止や赤ワインの適切な醸し、国際品種とのブレンドの可能性などに関する詳細な研究が行われた。この結果、酸化したアルコール度の高いワインは姿を消し、国際市場に通用するモダンでクリーンなワインが生まれた。
1980年代にフランスで教育を受けた栽培家と醸造家が帰国し、ギリシャワインの新時代を牽引していくことになる。また、高品質ワインの生産に向けたEUと国内の資本により、ブターリとクルタキスのように歴史の長いネゴシアンが設備投資を行い、地価の安い地方に多くのワイナリーが造られた。現在ギリシャには、約1,300のワイナリーがあるが、グローバルなビジョンを有する新世代の生産者は、サヴァティアノ種から造られる松脂(マッヤニ:松の樹からとれる天然の樹脂)入りのワイン、Retsina レッツィーナを忘れ去り、輸入された国際品種に頼りすぎることなく、長い歴史を有する固有品種に注力した。生産国としての規模は小さく、ブドウ栽培面積は61,500ha(2018年)、ワイン生産量は2,500.000hℓ(2018年)で、このうちPDOワインは約20%。PGIワインが約62%を占める。ギリシャのワイン産地の多くが丘陵地にあり、乾燥した気候とあいまって収量が低くなることから、全体の平均収量は1ha当たり約46hℓと非常に低い。小規模生産者が多いこともギリシャの特徴で、18万軒ある栽培農家の中で、31.4%が0.2ha以下、64%が0.5ha以下の畑しか所有していない。2ha以上の畑を栽培する農家は7,000軒しかなく、フランスの平均面積である9ha以上を所有する生産者は50軒にとどまっている。輸出の割合は生産量の約13%で、大半が瓶詰めワインである。輪出金額は8.260万ューロ。世界市場では、コストパフォーマンスの良さでも注目されている。主要産地は、北部ではマケドニア地方のアミンテオ、ナウサ、ドラマなどで、クシノマヴロがよく知られている。中央部のテッサリア地方、中央ギリシャ地方のヴィオティア、アッティカなどでは、ロディティスとサヴァティアノが知られていたが、近年はソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネやシラーなど国際品種も導入されている。ペロポネソス半島中心部にあるマンティニアからは、エキゾチックな白ワインのモスホフィレロが生まれ、ネメアは赤ワインのアギオルギティコで有名な産地。エーゲ海の島々では何といっても、火山島のサントリーニのアシルティコと、サモス島、リムノス島で産する甘口のマスカットが知られる。クレタ島はギリシャで最大の島で、リアティコ、コチファリの赤ワインのほか、ローヌ品種の栽培も盛んとなっている。世界的に人気が高い品種は、サントリーニ島が原産のアシルティコ、ギリシャ北部地方から産するクシノマヴロ、ペロポネソス半島のモスホフィレロ、ネメアのアギオルギティコ、全土から産するマラグジアなど。優れたワインは全体にアルコール度の低い抑制されたスタイルに仕上がっている。
■歴史
先史時代ワインはギリシャの文化と4000年以上にわたり結びついてきた。ギリシャには先史時代からブドウが自生していたとされ、近年の考古学的発見により、東マケドニアのピリッポイで、紀元前4千年代後半にブドウ栽培とワイン造りが行われていたことが証明された。(2007年Antiquity Journal アンティクイティ・ジャーナル)紀元前3000年代にはクレタ島やサントリーニ島でワインが取り引きされていた証拠も見付かっている。メソポタミアやエジプトからギリシャに伝わったとされるワイン用ブドウは、陸路でトラキア地方に最初に入ったものもあれば、航海術にたけたフェニキア人によってクレタ島周辺にもたらされたものもあった。
紀元前20世紀以降に、クレタ島にミノア文明が起こり、ここでワインが造られていたことを示す、世界最古のワイン用圧搾機や容器が出土している。
同じ時代に、サントリーニ島を中心とするキクラディック文明が栄え、ワインは交易品の中心としても食品としても重要な役割を果たした。紀元前1700年頃にサントリーニ島の火山は大噴火を起こし、現在のようなカルデラ地形のサントリーニ島とその他の小さな島に分かれた。紀元前15世紀にペロポネソス半島東部に興ったミケーネ文明は、ギリシャ南部とエーゲ海を支配し、ここでもワインは主要産物となった。
■都市国家の形成
紀元前8世紀半ばから、アテナイ(現在のアテネ)、スパルタ、テーバイ、コリントスなどのギリシャの都市国家(ポリス)が形成され始め、ギリシャ西南部、エーグ海の島々、アナトリア半鳥の西海岸に広がった。それぞれのポリスは対立関係にあったが、共通のギリシャ語を話す民として、自らをヘレネスと呼び、他民族と区別した。毎年オリンピアで開催された祭典には全ギリシャ人が参加してスポーツ競技などを行ったが、これが現代オリンピックの原型とされる。また、古代ギリシャ人はギリシャ神話を共有し、酒の神ディオニュソスは特に北部で崇拝された。ディオニュソスは後にローマ神話でバッカスと呼ばれるようになった。紀元前1000年から300年の古代ギリシャでは、ワインは宗教的な儀式でも重要な役割を果たした。
紀元前8世紀、ギリシャ対トロイ戦争と伝説的なオデッセウスの冒険の物語「イーリアス」と「オデュッセイア」を描いた古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスによれば、エーゲ海北部のレムノス、トラキア、トロイの間で交易されていたワインの量は膨大で、有名な産地のワインは何百年にもわたって熟成したという。ギリシャ本土でも、「仕事と日」に詳細なブドウ栽培技術を著したヘシオドスが、自らブドウを栽培していたヴィオスタなどの産地から高品質ワインが造られていた。アルカイック期(紀元前700〜480年頃)には、アッティカ、ナクソス、ロードス島は大きなワイン産地となっていた。このころ、陶器造りの技術の発達によりアンフォラが造られて、それまでワインの海上輸送に使われていた動物の皮の袋にとって代わった。アンフォラにワインを詰めて、松脂で封をして運搬したため、ワインに松脂の香りが移ったことがレッツィーナの起源となった。また、産地を偽った不正ワインを防止するため、ワイン法が発達したといわれる。紀元前6世紀には、キオス島、レスボス島などの東エーゲ海の島々がワインの品質でも交易でも大きな発展を遂げた。古代ギリシャ人はワインの健康にもたらす影響を知っており、哲学とも結びついていた。「symposia シンポジア」と呼ばれる社交行事では、ワインを飲みながら哲学的なテーマを話し合った。その場でワインをサービスしたのが「oenochooi エノホイ」と呼ばれ、ソムリエの原型だった。当時はワインを水で割って飲むのが通例で、エノホイはそれを「kantharos カンタロス」、「kvlix キュリク」と呼ばれる杯に注いだ。
ギリシャにおける人口の増加、社会的対立などが要因となって、各ポリスは地中海沿岸全域への植民地建設を進めた。紀元前500年末までには現在のスペイン南部、フランス南部、イタリア南部に植民地が建設されていた。ここにギリシャからワイン用ブドウが持ち込まれ、大農園がひらかれた。最大規模の植民地はイタリア南部とシチリア島一番を含むマグナ・グラエキアだった。
紀元前6世紀以降、東方で権力を強めたペルシャ帝国が、ギリシャ北部への影響力を強めてきたため、アテナイとスパルタを中心とする古代ギリシャの連合軍との戦争が起こり、最終的にはギリシャが勝利するが、この対ペルシャ戦争の過程でアテナイが強大化してギリシャの覇権を握る。
アテナイが繁栄した紀元前5世紀から4世紀後半にかけては、アテネを中心にパルテノン神殿を含む多くの文化遺産が建造され、哲学の分野ではソクラテス、プラトン、アリストテレスらが登場した。三大悲劇詩人と呼ばれるアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス、喜劇詩人のアリストファネスなど著名な作家による悲劇、喜劇が演じられた。この時代は古典時代と呼ばれ、後のローマ文明にも大きな影響を与えた。
■ヘレニズムの時代
紀元前4世紀中頃までに、アテナイに代わってスパルタ、テーバイへとポリス内での覇権は移行していった。このころ、北方にあった古代マケドニア王国が権力を増し、紀元前338年にアレキサンダー大王率いるマケドニア軍がアテナイ・テーバイ連合軍を破ってギリシャの覇権を掌握した。マケドニア王を盟主とするヘラス同盟の下で、各ポリス間で平和条約が結ばれた。
アレキサンダー大王は、ペルシャ帝国を征服するとさらに西へ向かい、ヨーロッパから西アジアに至る大帝国を打ち立てた。アレキサンダー大王はブドウ栽培とワイン生産を奨励し、大王が遠征する先には必ずギリシャの島々のワインが船で届けられて、兵士達の士気を挙げるとともに衛生環境の悪い土地でも飲料を確保することを可能とした。大王の死後62世紀にわたって、古代ギリシャ文明と古代オリエント文明を融合したヘレニズム文明が各地に拡散し、後にギリシャを征服した古代ローマにも影響を与えた。ギリシャ文化の伝播とともにブドウ栽培とワイン醸造の技術は広まり、ブドウを天日干しにしてから発酵したり、香りの良い植物やハーブで香り付けしたりするなどの新しい技術も登場した。大王の急逝後、後継者争いにより、帝国はマケドニア、エジプト、シリアの3つに分裂する。
■ローマ時代
紀元前146年から紀元324年までは、勢力を拡大するローマがギリシャを支配した。ギリシャは衰退していたとはいえ高度な文化芸術とともにワインの栽培・醸造の技術を有していたため、ギリシャにやってきたローマの有識者達はそれらを享受し、ギリシャ神話にも大きな影響を受けた。
■ビザンチン時代
4世紀になると、ローマ帝国は衰退して西ローマ帝国と東ローマ帝国に分裂した。東ローマ帝国は、首都コンスタンティノーブル(現在のイスタンブール)の古代ギリシャ時代の植民地名ビュザンティオンにちなんでビザンチン帝国とも呼ばれる。7世紀以降になると東ローマ帝国はギリシャ人の占める率が高くなり、帝国の公用語もラテン語からギリシャ語に替わるなど、ギリシャ文化を継承していく。
476年に西ゴート族による侵略で西ローマ帝国が滅亡した後も、東ローマ帝国は領土を拡大し人口も増えていき、ワイン(特に甘口赤ワイン)はキリスト教の聖餐(せいさん)の儀式に使われるなど、重要な地位を占め続けた。
しかし、広大な帝国であるが故に、スラヴ民族、アラブ民族らの侵入による抗争が絶えず、11世紀にはイスラム教のセルジュクトルコの脅威が増大し、これに対抗するためローマ法皇に援軍を要請したことから、聖地エルサレム奪回を旗印とする十字軍遠征が始まった。1453年にオスマントルコによって首都コンスタンティノーブルが陥落し、ギリシャはオスマン帝国の支配下となる。
■他国による支配
12世紀から17世紀にかけて、ヴェネツィア共和国はイオニア海、エーゲ海からクレタ島へと勢力を拡大し、一時はペロポネソス半島にも到達した。ヴェネツィアやフランク王国の商人によって交易されたクレタ島、キクラデス諸島及びモネンヴァシアのワインは、その品質と長期熟成能力の高さにより、世界各国で高い評価を受けた。これにより、エーゲ海のワイン産業は繁栄したが、オスマントルコがギリシャ本土からエーゲ海へも支配力を拡大し、敗れたヴェネツィアは撤退したため、ワインの交易も廃れた。オスマントルコは、イスラム教徒にはアルコールの飲用やブドウ栽培・ワイン醸造を禁じたが、支配下のギリシャ人には税金を課す代わりに製造を認めていた。税金を支払わない場合は、ブドウ畑は没収または破壊されたりした。ギリシャ本土では、マウント・アトスやメテオラに代表されるキリスト教の修道院が所有する畑が多かったため、ワイン用ブドウ栽培が継続され、ギリシャ固有のブドウ品種が保持された。
■近代
1821年にギリシャ独立戦争が始まり、ギリシャがオスマン帝国から独立すると、ブドウ畑とワイナリーの再構築が始まり、ドイツやイギリスからの資本参加による大規模で近代的なワイナリーも設立され、これらのワインはすぐに輸出先を見い出した。20世紀初頭には栽培面積が200,000haに達したが、フィロキセラ及びいくつもの戦争、それに続く内戦(1946〜49年)による政治的混乱、国外への移民者の増大、国土の荒廃でワイン産業は落ち込んだ。ワイン産業の現代化が起きたのは、終戦後から1970年代にかけてのことだった。しかしこの当時はまだレッツィーナ、マヴロダフネ、サモスのワインが主な輸出ワインで、その他は高いアルコール度かつ濃厚な色調のワインがブレンド用としてヨーロッパ各地にバルクで輸出された。協同組合とブターリ、ツァンタリのような巨大な個人企業が設備投資を行うようになったことでワインの品質は向上し、ネメア、ナウサ、マンティニアなどのワインが輸出されるようになった。1971年にフランスを手本にした原産地呼称制度が導入され、ギリシャワインは本格的なワイン生産国として歩み出した。
20世紀最後の10年間で、「新ギシャワイン・リバイバル」と呼ばれる動きが起き、小規模な生産者が、土着品種と国際品種のワイン造りを、輸出向けに洗練させた。フランスを中心にヨーロッパの大学で学んだ醸造家たちが帰還し、彼らから学んだ造り手たちが現代的な栽培や醸造を広める中で、新世代の生産者たちはギリシャが古代から詩る個性豊かな土着品種の魅力を再発見し、それに可能性を見い出した。2019年からはマケドニアを中心とする北部ギリシャワイン生産者協会(Association of Wines of Northern Greece)の提唱により、11月1日が「クシノマヴロの日」(Xinomavro Day)に定められ、料飲店でのバイザグラス・プロモーション等の活動が行われている。21世紀に入ると、ワイン観光も盛んになり、高品質なワインに対する国際的評価が高まった。
長い歴史と個性豊かな地方文化を持つギリシャにはユネスコによる多くの世界遺産や無形文化遺産が存在するが、2018年にサントリーニの伝統的ワインブドウ栽培が、ギリシャのワイン産地として初めて無形文化遺産に制定された。今後、世界遺産への道が開かれる可能性もあると期待されている。
■気候風土
産地は北緯35〜41.5度に広がっている。北緯35度はチュニジア、モロッコに等しく、北緯41度はイタリアのサルデーニャ島、中国の新豪(しんきょう)ウイグル自治区に相当する。この産地の広がりがギリシャワインの多様性を生んでいる。地中海の島々や海に面した地域は暑すぎると思うかもしれないが、標高の高さや傾斜の強い斜面の畑、常に風が道を吹き抜ける海洋性気候が気温の高さを緩和している。
土壌は、北部が一般的に深くて肥沃(ひよく)な砂質ローム層で、保水力がある。南部は表土が薄く、石灰岩の量が多い。鳥部は有機物が少なく、火山岩や砂地土壌が一般的で、保水力が高い。ギリシャの気候のベースは地中海性で、沿岸部と島にはこれがよく当てはまるが、北部のマケドニアや中央ギリシャ、ペロポネソス半島では、大陸性気候の影響を帯びている。マケドニアでもアミンテオは最も冷涼な産地の1つで、冬は積雪もあり、スキー場もある。ナウサやラスピニ、ネメアはやや温暖で、エーゲ海の島々は非常に暖かく、畑の韓度と高度の組み合わせによって、各産地のテロワールの違いが生まれている。気候上の分類では、アミンテオ、ジツァ、マンティニアを山岳部、ナウサ、ドラマ、ネメアを大陸部、パンガイオン、ハルキディキ、トリフィラを沿岸部、ケファロニア、バロス、サントリーニ、ロードス島を島部と分けている。2019年はギリシャの殆どのワイン産地で、ブドウ生育期を通じて均一な降雨量が得られたおかげで、乾燥が抑えられ、同時に7月から8月に熱波が無かったため、ブドウ畑は非常に健全に保たれた。ここ数年の早い収穫に比べると標準的な収穫のタイミングとなり、過去20年で最高の品質と言われるヴィンテージとなった。ただし、エーゲ海地方は例年より収穫が早かった。この年のワインの特徴の一つは、ギリシャらしいフレッシュな酸が豊富なことで、長期熟成にも適している。
■地方料理と食材
ギリシャ料理は2010年に、イタリア料理、スペイン料理、モロッコ料理とともに「地中海の食事」として、ユネスコ無形文化遺産に登録された。歴史的・地理的要因により、トルコ料理との共通性も多い。東西南北に広がりのある国土ではあるが、ほとんどの地方が地中海エーゲ海と接しているか近い距離にあるため、地中海性気候から生まれる、ワイン、オリーブオイル、トマトといった共通の食材があり、魚介類も豊富であるため、地域性が余り強くない。味付けはオリーブオイルとレモンの酸味を利用して、シンプルに素材の良さを楽しむ傾向があり、ニンニクやトウガラシはあまり用いられない。主食はパンだが、米を使った料理も多い。山岳部が多く平野部が少ないため、山羊や羊の肉や乳製品が多い。ギリシャの代表的なチーズ、Feta フェタは、羊あるいは山羊の乳から造られ、食塩水中で熟成させるために強い塩味がある。そのまま、またはサラダに入れたり、焼いたりして食べる。ギリシャヨーグルトは牛乳から造るが、水分を取り除いた濃厚なタイプが多い。ギリシャでは、Meze メゼと呼ばれる何種類もの前業を少量ずつ食べながらワインを楽しむ習慣慣があり、Tzatziki ザジギア (きゅうり入りヨーグルトのディップ)やTaramosalata タラモサラダ(ボテトと魚卵のディップ)などのディップ類や、オリーブ、Saganaki サガナキ(フライパンでチーズを焼いたもの)、Dolmadakia ドルマダキア(米や肉などの具をブドウの葉で包んだもの)などが代表的。Filo フィロはギリシャ語の「葉」に由来する非常に薄いパイ生地で、これを使ったSpanakopita スパナコピタ(ホウレン草のパイ)やTiropita ティロピタ(チーズのパイ)もある。
魚介類もシンプルに焼いてオリーブオイルとレモンで食べることが多く、タコのローストや、カラマリ(イカのリング掲げ)のような揚げ物も一般的。
Moussaka ムサカ(ナスのスライス、ジャガイモ、挽肉、トマトソースを順に重ねた上にベルシャメルソースをかけてオーブンで焼いたもの)は代表的なギリシャ料理の1つ。ピタパンにロースト肉の薄切りを挟んで食べるSouvlaki スブラキは、ファストフードとして人気がある。
■主なブドウ品種
ギリシャは土着品種の宝庫であり、約300の品種が存在する。ワイン生産量の90%を土着品種が占め、国際品種は約10%にとどまっている。白はサヴァティアノ、赤はアギオルギティコが最も多く、構成比は白が約62%、赤が約38%となっている。
[白ブドウ]
Aidani アイダニ
優雅でフローラル。酸味と円みを帯びたテクスチャー。サントリーニ島で厳格なアシルティコとブレンドされて柔らかい味わいにする。
Assyrtiko アシルティコ
気温が高くなる地域でも高い酸を維持することができる品種で、透明感と気品のある香味をもったワインとなる。比較的果皮が厚いため、乾燥に強く、病害虫に対する抵抗力も高い。広い地域で栽培されているが、特にサントリーニ島を中心とするキクラデス諸島の主要品種であり、アシリ、アイダニとブレンドされることが多い。
Athiri アシリ
新鮮でエレガント、中程度のアルコール度。ミディアムボディでソフトな酸味。エーゲ海の島々、ハルキディキ、ペロポネソス半島などで栽培。アシルティコにブレンドされることも多い。
Dafni ダフニ
クレタ島のヘラクリオン県で栽培されている白ブドウ。一時は絶滅の危機にあったが、辛口の高品質ワインとして復活。ダフニはギリシャ語で月桂樹(げっけいじゅ)を意味し、この品種のワインにもベイリーフや柑橘類を思わせるアロマがある。
Debina デビナ
レモンの香り、高い酸味、低いアルコール度でライトボディ。スティルワイン、辛口、中甘口のスパークリングワインなどに仕込まれる。
Kidonitsa キドニツァ
「キドニ」とはマルメロ(西洋カリン)のこと。マルメロ、桃の香りとほのかなミネラル風味。ソフトでジューシーな味わい。
Malagousia マラグジア
熟した桃、アプリコット、わずかに青い風味。フレッシュで力強さもある独特な香りの構成。酸味は中程度で、エキスが濃厚。オークで熟成して、熟成に耐えるポテンシャルもある。西ギリシャのナフバクトスが起源。
Monemvasia モネンヴァシア= Malvasia マルヴァジア
ペロボネソス半島から突き出た小島で、島そのものが中世の要塞(ようさい)であったモネンヴァシアが名前の起源とされるが、現在そこには既に畑はなく、ほとんどがキクラデス諸島のパロス島とシロス島のみで栽塔されている。風に強く、柑橘類とミネラルのアロマ、新鮮な酸が特徴。
Moschofilero モスキフィレロ
バラの花びら、シトラスなど新鮮なフルーツの香り。フレッシュで、酸味豊か、アルコール度は中程度。ペロポネソス半島の中西部の高地とアルカディア、メッシニア、アカイア、涼しい標高600〜700mのマンティニア高地でも多く栽培されている。
Muscat マスカット(= White Muscat = Muscat Blanc a Petits Grains)サモス島の代表的な品種で、ロードス島、ケファロニア島、パトラスなどでも栽培されている。香り豊かなバラの花びら、熟したフルーツとベルガモットの風味。芳醇で濃厚。オークで熟成すると、新鮮さを保ちながらスパイシーな風味。
Plyto プリト
クレタ島の品種で一時は絶減の危機にあったが、灌漑を含む近代的栽培によって復活した。暑い気候でもレモンのようなさわやかな酸が特徴で、よりボディのあるヴィディアノなどとブレンドされることが多い。
Robola ロボラ
高品質の、香り豊かで新鮮な品種。デリケートでシトラスとミネラルの香り。バランスがよく、ミディアムボディ。イオニア諸島のケファロニアで成功し、イオニア海のレフカス、イサカ、コルフなどの島々や、プレペザでも栽培している。
Roditis ロディティス
ピンク色の果皮、熟したメロンと蜂蜜の強い香り。さわやかで、ソーヴィニヨン・ブラン的なレモンのような後味。エギアリアの高地、アノ・ジリア、アカイア、ビルガキ、マムッシア、カラミアス地方の標高400〜850mに偏在。イオニア海の島にも散在する。
Savatiano サヴァティアノ
果実が濃厚で、強い香りがあるが、ジューシーでバランスがとれている。高山や樹齢の高い樹は香り高く、優雅。松脂ワインで知られるレッツィーナの主要品種。アッティカと中央ギリシャのヴィオティア、エヴィアが主要栽培地。
Sideritis シデリティス
パトラスに近いアカイアの海岸地域が原産。スパイシーな風味と強い酸味があり、ロディティスと混酸される。
Thrapsathiri スラブサシリ
クレタ島の最も重要な品種の1つで、非常に乾燥に強い。桃やメロン、フローラルのアロマがあり、酸とアルコールは中程度。まろやかな味わいだが重いワインにはならない。ヴィラナとブレンドされることも多い。
Tsaoussi ツァウッシ
緑がかった色をもつケファロニア地方の特産。収量が豊富で、他品種とブレンドされることが多い。
Vidiano ヴィディアノ
優雅でフローラル、熟したストーンフルーツの香り。エキスとミネラルあふれるミディアムボディ。比較的新しい品種。
Vilana ヴィラナ
クレタ島の白品種の中でも重要な品種の1つ。ジャスミンのような花やスパイシーなアロマをもち、アルコールはやや高めに:なるが、酸とのバランスがとれたさわやかな味わいのワインになる。
[黒ブドウ]
Agiorgitiko アギオルギティコ
オークで熟成すると、深い色調を呈し、赤系果実の濃縮された個性と複雑な香りが出る。豊かなボディと熟したタンニン。早めに瓶詰めすると中程度の酸味の新鮮な味わいのワインになる。主にネメア地域で栽培されている。標高450〜650mの高地で生産されたものが特に良質。
Amorgiano アモルジャーノ
ロードス島の特産。マンデラリアと同種。
Avgoustiatis アヴグスティアティス
ペロポネソス半島西部でのみ栽培されている希少な品種。濃い赤紫色を呈し、熟れた赤い果実や地中海のハーブが凝縮したアロマが特徴。タンニンとアルコールは中程度。生産量が非常に小さいため、他の品種とブレンドされることが多い。
Fokiano フォキアーメ
主にエーゲ海の島々で栽培されている品種で、辛口と甘口の赤ワインとなる。ホメロスが賞賛したイカリア島のプラムニオス・ワインはこの品種で造られていたとされる。
Kotsifali コチファリ
淡い色調、高いアルコール度、酸味は中程度。赤系果実の香り。クレタ島のアルハネスで栽培。マンデラリアとブレンドされることが多い。
Krasato クラサート
カルディッツァとラプサニで植えられ、クシノマヴロ、スタヴロートとブレンド。
Lemniona(Limniona)レムニオナ
絶滅寸前から蘇った品種で、非常に色が濃く、赤い果実やミネラルの凝縮感をもったワインとなる。高品質ワインを生む次世代のスター品種と目され、ギリシャ全土で栽培が始まっている。
Liatiko リアティコ
中程度の色調、香り豊かで、中程度の酸味。天日干しすると酸味と凝縮度が増し、パワフルになる。クレタ島の品種。甘ロワインの原料となるが、辛口を造るためにマンデラリアやコチファリとブレンドされるにともある。
Limnio リムニオ
古代からの品種で、ホメロスが最初に言及した。新鮮なセージや月桂樹と実の小さなフルーツの香り。中程度のタンニンとフルボディ。レムノス島の原産ブドウだが、アギオ・オロス、北エーゲ海に面したハルキディキ半島で多く生産されている。
Mandelaria マンデラリア
ギリシャで最も色調の濃い品種だが、ボディや香りはあまり強くない。酸味とタンニンは豊富で、ブレンドに使うことが多い。クレタ島、サントリーニ島、バロス島、ロードス島などで生産されている。
Mavrodaphne マヴロダフネ
淡い赤色、ほのかなタンニン、シルキーな味わい。主にパトラスで生産され甘口、辛口、酒精強化ワインなどが造られる。ケファロニアでも栽培。
Mavroudi マヴルディ
西ギリシャのカラヴリタで絶滅しかけ蘇った品種。黒に近い濃い色が特徴。中央ギリシャのヴァシリコでも栽培されている。
Mavrotragano マヴロトラガノ
サントリーニ島原産で、色が濃く、凝縮された香り、豊かな味わいと優雅なタンニン。絶滅の危機から復活し、近年、人気が上昇している。
Messenikola Black メッセニコラ・ブラック
テッサリアのプラスティラ湖周辺でしか栽培されていない希少な品種。色が薄く、ソフトなタンニンがあり、バランスが良い。シラー、カリニャンとブレンドされることが多い。
Negoska ネゴスカ
グーメニサの特産。クシノマヴロより収穫時期が早く、渋味も少ないのでプレンドされる。
Thiniatiko シニアティコ
マヴロダフネの希少なクローンの1つとされる品種。イオニア諸島のケファロニアで栽培され、濃厚な赤ワインとなる。
Viahiko グラヒコ
最も冷涼なギリシャ北西部の品種。淡い色調、赤いベリー、緑の葉や甘いスパイスのアロマ。アルコールは低めだが、高い酸ときめ細かいタンニンがある。
Volidza ヴォリッザ
原産はペロポネソス半島東部のカラヴリタ。絶滅の危機から蘇り、エギオのイノフォロスで植えられている。ブラックチェリーやマッシュルームの香り。
Xinomavro クシノマグロ
ギリシャを代表する赤ワイン用品種。明るいルビー、しっかりとした酸味とタンニンが骨組みを備え、長期熟成能力の高い赤ワインとなるが、高品質ロゼワインやスパークリングワイン、甘ロワインにも使われる。「Xino クシノ」は「酸」「Mavro」は「黒い」の意味。
■ワイン法と品質分類
1981年にEUに加盟したため、EUのワイン法に従った原産地呼称制度に移行した。2008年と09年のEUワイン法改正により、4つのカテゴリーに分けられる。80%前後はPDOとPGIに属している。
PDO(Protected Designation of Origin プロテクティッド・デジグネーション・オブ・オリジン
)EUの規定に則した原産地呼称をもつエリアのワインで、PGIより厳しい品質基準を備える。官能評価による品質チェック、規定範囲内のブドウ使用、醸造方法などが定められている。
PGI(Protected Geographical Indication プロテクティッド・ジェオグラフィカル・インディケーション)テーブルワインのカテゴリーの中で、特定の原産地名を付記できるワイン。「トラディショナル・アペレーション」のワインはこのカテゴリーに含まれる。地理的表示、ブドウ品種、ヴィンテージを表記できる。規定原産地内で収穫されたブドウを85%以上使用すること。PGIワインは、下記の3つのレベルから成る:
①PGI Regional Wines リジョナルワイン
ギリシャの9つのワイン・リジョンの内、イオニア諸島以外の8つのリジョンがPGIリジョナルワインを生産できる。
PGI Aegean Sea エーゲ海地方
PGI Epirus イピロス
PGI Thessalia テッサリア
PGI Thrace トラキア
PGI Crete クレタ島
PGI Macedonia マケドニア
PGI Peloponnese ペロポネソス半島
PGI Central Greece 中央ギリシャ
ワインのタイプはPGIによって異なるが、赤、白、ロゼのドライ、ミディアム・ドライ、ミディアム・スイートまで含まれる。各リジョン内のPDO地区を含むブドウ栽培地区で収穫されたブドウを用い、そのリジョン内で醸造されなければならない。
②PGI District Wines ディストリクト・ワイン
PGIディストリクト・ワインは、ギリシャの各ディストリクト(以前は県だった行政単位。県の一部だったものもある)で生産されるワイン。各ディストリクト内で収穫されたブドウは、当該ディストリクト内で醸造されなければならない。(過去の行政区画の変更などにより、隣接するディストリクトにあるワイナリーが、当該ワインを生産することを許可されている場合もある)。2020年現在、37のPGIディストリクト・ワインがある。
③PGI Area Wines エリア・ワイン
PGIエリア・ワインは、地理的表示の中で最も限定された範囲内で生産され、品質に関する規定も最も厳格となる。ほとんどのワイン・エリアは単一のディストリクトの中にあるが、ワインエリアの範囲が1つの村で、それが2つのディストリクトにまたがる場合は、ワイン・エリアも同様となる。現在、58のPGIエリア・ワインがある。
Varietal wines ヴァラエタル・ワイン
テーブルワインの中で、同一品種を75%以上使用し、ー定基準を満たしたワインは、品種名とヴィンテージを表記できる。
Table wines テーブル・ワイン
3つのいずれにも当てはまらないワインで、ヴィンテージ、品種、統制原産地名をラベルに表記できない。
Traditional Designation トラディショナル・デジグネーション
上記の格付けとは別に、ギリシャの歴史的な価値をもつと認められたワインに表記される。南地というより、歴史的な製法や品種との関連性が強いカテゴリー名の位置付けとなる。すべてのレッツィーナとヴェルデアがこのカテゴリーに含まれる。
Retsina レッツィーナ
長らくギリシャワインのイメージとなってきた松脂(マツ科マツ属の木から分泌される天然樹脂)の香りが付いた白ワイン。古代ギリシャのアッティカ地方で、ワインの劣化を防ぐため、アンフォラの口と蓋の間に松の樹脂を塗って密封したことから、松脂の特別な芳香がワインに付き、これがレッツィーナと呼ばれるようになった。現代のワイン醸造では、松の樹脂をティーバッグのような袋に入れて醸造している。強烈な香りのために、ギリシャワインのイメージを低下させてきた側面もあるが、近年は、ベースワインに高品質な白ワインを用い、松脂の香りも穏やかで、エレガントな味わいをもったモダンタイプのレッツィーナも少量ではあるが造られるようになっている。
もとは松脂の産地、アッティカ地方でサヴァティアノから造られたが、各地に広まり、ロディティスも使われている。現在15のPGIが存在する。PGI以外のレッツィーナはテーブルワインとなる。ギリシャ以外の国で同じ醸造方法で造ったワインはレッツィーナを名乗ることはできない。
PGIをもつレッツィーナの中で、下記の3つはPGIディストリクト・ワインに位置付けられている。
Retsina Attiki レッツィーナ・アッティキ
Retsina Viotia レッツィーナ・ヴィオティア
Retsina Evia レッツィーナ・エヴィア
その他下記の12のレッツィーナは、PGIエリア・ワインに位置付けられている。
Retsina Mesogia
Retsina Koropi
Retsina Markopoulo
Retsina Megara
Retsina Peanea
Retsina Pallini
Retsina Pikermi
Retsina Spata
Retsina Thebes
Retsina Yaltra
Retsina Karystos
and Retsina Chalkis.
Verdea ヴェルデア
イオニア海にあるザキントス島の伝統的ワイン。酸が強く、シェリーのような酸化したフレーバーをもつ。緑がかった色調で、イタリア語のVerdeが語源となっているのは、この島が数世紀にわたってヴェネツィアの支配下にあったため。ヴュデア1992年に承認されたPGIとしての正式名称は、Verdea,Traditional Designation of Zakynthos トラディショナル・デジグルーション・オブ・ザキントス
Vin liastos ヴィン・リアストス
甘ロワイン造りのために遅摘みのブドウを1〜2週間天日干しする。この干したブドウ(liasta)からできたワインを、ヴァン・リアストスと呼ぶ。非常に糖度が高く、発酵に3カ月位かかることもある。
■ワインの産地と特徴
ギリシャの地理的地方区分は北部のトラキア、マケドニア、イピロスと、中部のテッサリア、中央ギリシャ、ベロポネソス半島、及びイオニア諸島、エーゲ海の島々、クレタ島の9つの地方に分けられる。これは、ギリシャの行政的な区分とは若干異なる。以下の主要ワイン産地の説明及びブドウ栽培面積、ブドウ生産量は、地理的な区分に基づく。
Thraceトラキア地方
■プロフィール
ギリシャの中では、最も東側に位置し、トルコ及びブルガリアと国境を接する。東ローマ帝国の時代にはマロネイアとアヴディラが高品質ワインの産地として知られていたが、その後のオスマン帝国時代にはトルコ系住民が多く住むようになったため、ワイン産業は衰退していた。近年になって、ツァンタリ社がマロネイアにワイナリーを設立したことで、トラキアに新しいワインの時代が到来した。現在のところまだPDOは存在しないが、マロニアとアヴディラで、地元品種マヴルーディに他の産地の品種や国際品種をプレンドするなど、興味深いPGIワインが造られるようになっている。
■歴史
古代ギリシャのトラキア地方は、現在のギリシャ領トラキアから東はイスタンブール、北は現在のブルガリア中部までを含む領域で、独自の文化をもつトラキア人が住んでいたが、南のギリシャから強い影響を受けつつ発展した。6世紀からはトラキア地方にもギリシャの植民地が建設されたが、その後ペルシャやマケドニアの支配下を経て東ローマ帝国の一部となった。トラキアの東端にあるビュザンティオンが東ローマ帝国の首都となったことから、この地方の重要性は高まったが、オスマン帝国の時代になると、この地方には多くのイスラム教徒が居住するようになった。バルカン戦争と第ー次大戦を経て、エヴロス川以西はギリシャに割譲された。
■気候風土
全般的には温暖で湿度が高く、夏季に雨の多い地域が多いので、ブドウ栽培に適する地区は限定されている。ロドピ山脈は北からの冷たい風を防ぎ、エーグ海からの影響が厳しい寒さを和する。マロネイアは、エーゲ海から約4kmの地点だが標高350mにあるため気温が低く、良い酸と美しい色調をもったワインが生まれる。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培画積1,371ha
ブドウ生産量13,827t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
ズミアティコ
マスカットオブ・アレキサンドリア
ロディティス
[黒ブドウ]
マヴルーディ
パミディ
リムニオ
カベルネ・ソーヴィニヨン
Macedonla マケドニア地方
■プロフィール
マケドニア地方はギリシャで最も北に位置する地方で、西はピンドス山脈から東のトラキア地方との境界までを含み、面積も多様性も大きいため、行政的には東部中央部西部に分けられる。中心都市のテサロニキはアテネに次いでギリシャで第2の都市(人口約100万人)。大きな港をもつ、経済的にも文化的にも重要な都市で、南東ヨーロッパの交易の中心となっている。
マケドニア地方では、食品生産と織物製造とともに、観光業も主要な産業となっている。豊かな農地では米、コムギ、豆、オリーブなど、多種多様な食糧や商品作物が育てられていて、ブドウ畑もそれらの中に点在している。かつてはブターリ、ツァンタリなどの少数の大きな生産者や協同組合が造る手ごろな価格のワインが主流だったが、近年はこれらの大きな生産者も、多くの小規模ワイナリーとともに中高級ワインを生み出している。PDOワイン以外にも、注目産地が登場しており、マケドニア東部のエーゲ海沿岸のカヴァラと内陸に入ったドラマは、1990年代以降、ボルドーブレンドの赤やアシルティコとソーヴィニヨン・ブランをブレンドした白でギリシャのモダンスタイルを確立し、高級市場向けにシフトしている。カヴァラはマケドニアのほかの産地にはない果実の明るさと温もりをもっている。いずれも国際品種が注目されているが、アギオルギティコやマラグジアなど、他の産地の品種にも取り組んでいる。
■歴史
ギリシャのマケドニア地方は、アレキサンダー大王の出生地を含む、古代マケドニア王国の領域の大部分を占めている(ギリシャの北に降接するマケドニア共和国は1991年に旧ユーゴスラヴィアから独立してできた国で、この国がマケドニアという名称を使うことにギリシャは強く反対している)。
マケドニア東部には、数多くの東ローマ帝国時代の建造物が残されている。また、中部のアトス半島には、女人禁制の男子修道院による自治区であるアトス自治修道士共和国(通称:アトス山)も存在している。
■気候風土
マケドニア地方は山地が多く、標高の高い畑もあるが、エーゲ海沿岸には広大で肥沃な土地が広がっている。アミンデオンのある西部ではテッサリアとの間のピンドス山脈に連なる山間部が多く、ここにギリシャで最も高いオリンポス山(2,917m)がある。高山性気候で、降雨量は他の地方よりやや多く、夏の平均気温が24℃と他の地方より低めで冬には降雪がある。ナウサ、ダーメニサのある中央部と東部は、西部はど高い山はないため海からの影響が強くなり、主に地中海性気候となる。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積6,683ha
ブドウ生産量73,907t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
ソーヴィニヨン・ブラン
シャルドネ
[黒ブドウ]
クシノマヴロ
モスコマヴロ
シラー
■主要なPDOワイン
Naoussa ナウサ
ナウサはギリシャを代表する高品質赤ワインのアペレーションの一つで、黒ブドウXinomavro クシノマヴロ単一品種による長期熟成タイプの赤ワインが造られている。「Xino クシノ」は「Acid」、「Mavro マヴロ」は「Black」の意味。酸が強く、タンニンが多い。ピノ・ノワールやネッビオーロとの類似性を指摘する声もあるが、遺伝的には独立していて、ナウサが原産とされる。ヴェルミオ山の北東斜面、標高200〜500mに畑が広がる。砂地の軽い土壌から若飲みタイプのワインが造られ、粘土石灰質土壌からは長期熱成タイプのワインが生まれる。典型的なスタイルは中程度の濃さの色で、ミディアム・ボディだが酸が高く、しっかりしたドライなタンニンがある。良質なクシノマヴロは複雑性と深みがあり、ギリシャの辛口赤ワインの中で最も長期熱成能力の高いワインの1つとされる。熱成したワインはしばしばバローロと開違えられる。伝統的に大型の古樽(こだる)で熟成されてきたが、新樽バリックで熟成するワインも登場している。
Amynteo アミンテオ
ナウサからみてヴェルミオ山の北西に位置する。標高は650mに達し、近隣の山脈から冷たい北風が吹き下ろし、ギリシャで最も寒い産地の1つ。冬季は冠雪が残る。昼夜の気温差の大きな山岳性気候が、5つの湖があることで緩和されている。ここもクシノマヴロ単一品種の赤ワインが主体。ナウサよりさらにがっしりしたタンニンと骨格を備え、クシノマヴロの個性をよく表現している。有機成分が少なく水はけの良い砂質土壌には、フィロキセラが生息できず、自根の古木が残っている。クシノマヴロの香りを生かした、ロゼのスパークリングワインやスティルワインを手掛ける生産者が多い。スパークリングはシャルマ方式が大半だが、一部瓶内二次発酵方式のものもある。ロゼ人気と相まって輸出市場でも好評だ。PDOとして、赤のスティルワインと、ロゼのスティル及びスパークリングワインが認められている。
Goumenissa グーメニサ
広大なマケドニア平野の北東部にあるグーメニサでも、クシノマヴロが栽培されているが、通常はネゴスカ(最低20%)とブレンドされる。温暖な気候の影響を受けて、よりソフトでフルーティなタイプに仕上がる。
Slopes of Meliton スロープス・オブ・メリトン
エーゲ海に突き出したハルキディキ半島にあるシソニアのメリトン山の斜面に広がる産地。ボルドー大学のエミール・ペイノー教授のコンサルティングを受けたドメーヌ・カラスによって創設され、発展したアペレーション。白赤ともに造られるが、白ではロディティス、アシリ、アシルティコ、赤ではリムニオに加えて、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランなどのボルドー品種も栽培している。
■Epirus イピロス
■プロフィール
イピロス地方はギリシャの北西部に位置し、西はイオニア海に面し、東にはピンドス山脈がある。北はアルバニアと国境を接している。15世紀からワイン造りが行われてきた歴史があり、他の地方に比べて生産量は少ないが品質の高いワインを産する。主要産地はイオニア海に近いジッァとメツォヴォで、近代的なワイナリーが建設されている。栽培品種は他の地方に比べるとそれほど多様ではなく、白のデビナが最も重要な品種。メツォヴォは標高1,200mとギリシャで最も高い標高にある。カトア・アヴェロフの畑に、1963年、ギリシャで初のカベルネソーヴィニョンが植えられた。ボルドーの赤品種やトラミネールで成功を収めている。ほかにシャルドネ、リースリングなどの国際品種もイオニア海沿岸を中心に栽培されている。
■歴史
古代イピロスを統治したモロッシア王朝はアキレウスの末商とされ、格式あるドドナの神殿・神託所をもつ重要な地区だった。紀元前4世紀にイピロス王アリュバースの姪オリュンピアスがマケドニア王ピリッポス2世と結婚し、アレクサンドロス大王を生むなど、マケドニアと親密な関係にあったが、紀元前2世紀にローマにより占領された。アドリア海沿岸部はローマやヴェネツィアの交易地として繁栄し、アドリア海沿岸とビザンティウムを結ぶエグナティア街道の建設(紀元前2世紀)によりさらに繁栄した。
ローマ帝国の東西分裂後、15世紀には、ヴェネツィア人が治めるイオニア諸島を除くギリシャ本土がオスマン帝国の支配下となった。18世紀になるとオスマン帝国の力が衰え、ギリシャが独立した後もイピロスはオスマン帝国領にとどまった。20世紀初頭に第一次、第二次バルカン戦争の結果、イピロス南部がギリシャ領として認められる一方、アルバニア公国の独立が承認され、イピロスの北部はアルバニア領として残ったため、「北イピロス」のギリシャ人たちは独立を主張して、激しいゲリラ戦となったが、最終的には北イピロスはアルバニアに統合された。その後、第二次世界大戦(対イタリア・ドイツ)とそれに続くギリシャ内戦でもイピロスを含むギリシャの山岳地番はレジスタンス活動の中心として激戦地となったため、多くの住民が海外へ移住するなど、人口が減少した。1980年代から、ギリシャが北イピロスに対する領有権を取り下げ、アルバニアとの間の戦争状態が終結された。
■気候風土
イピロス地方はそのほぼ全域が山岳地帯で、東部を走るピンドス山脈はバルカン半島から続くディナル・アルプス山脈に連なる。最高峰は北部にあるスモリカス山(2,637m)で、ピンドス山脈の最高地点でもある。ブドウ畑は標高700m以上に広がる。西側にある温暖なイオニア海からの影響が厳しい寒暖の差を和らげている。土壌はある程度石灰質の混ざった粘土質。山の斜面の畑はやせて水はけが良く、標高の低い場所はより肥沃な土壌。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積719ha
ブドウ生産量4.713t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
デビナ
トラミネール
シャルドネ
リースリング
トラミナー
[黒ブドウ]
カベルネ・ソーヴィニヨン
ベカリ
ヴラヒコ
■主要なPDOワイン
Zitsa ジツァ
アルバニア国境に近いジツァは、イピロスで唯一のPDO。辛口と半辛口の軽快なスパークリングワインで知られる。白ブドウのデビナは、フレッシュでエレガントな、柑橘類や青リンゴのアロマが特徴。デビナのワインは通常アルコールが低めで11.5%を超えることはまれだが、酸が高く、中程度のボディとアロマの凝縮度をもったワインとなる。
■Thessalia テッサリア
■プロフィール
テッサリア地方はギリシャ本土の中央に位置し、西にはピンドス山脈があり、北東部のマケドニアとの境界にはギリシャの最高峰オリンポス山(2,917m)がそびえ、東はエーゲ海に至る。多くの都市の中心にあることから、常に文化的経済的交流の中心となってきた。テッサリア平原の肥沃な土壌はブドウよりも穀類や綿花などの商品作物に適しているため、ブウ栽培は主要産業とはなっていない。
■歴史
テッサリア地方の歴史は古く、紀元前2500年頃の新石器時代の遺跡があり、ミケーネ文明の遺跡が見付かっている。紀元前4世紀にはテッサリアは軍事的な強国となり、ペルシャ戦争ではペルシャ側について戦ったが、マケドニアがペルシャに勝利したため、以後数世紀にわたってテッサリアはマケドニアの支配を受けた。ローマ帝国に征服されると、テッサリアはマケドニア属州の一部となった。ローマ帝国の東西分裂後は、東ローマ帝国に属したが、その後も近代に至るまでテッサリアは多くの民族や国家の争奪の舞台となった。1821年にギリシャ独立戦争が始まり、1932年にギリシャの独立が列強とオスマン帝国に承認されるが、テッサリアは当初その領城には含まれなかった。テッサリアの帰属はギリシャ王国とオスマン帝国との間の紛争事項となった。1881年、テッサリア全域はオスマン帝国からギリシャに割譲された。
■気候風土
テッサリア地方は周囲を高い山によって囲まれた盆地状の中央にテッサリア平原が広がっている。テッサリア地方北東部のマケドニアとの境界には、ギリシャの最高峰であるオリンポス山(2,917m)がそびえる。テッサリア西方にはイビロスとの境界であるピンドス山脈があり、そのテッサリア側には2,000m級の山岳が広がる。北部の奇岩群があるメテオラには、修道院群があり、特異な風景と宗教的文化的重要性からユネスコの世界遺産に指定されている。イオニア海に注ぐギリシャ第2の大河アヘロオス川を始め、河川が多く土壌が肥沃で、夏の降水量も多いためテッサリアは「ギリシャの穀倉地帯」と呼ばれている。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積3,909ha
ブドウ生産量43.911t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
アシルティコ
ロディティス
サヴァティアノ
パティキ
[黒ブドウ]
リムニオ
リムニオナ
カベルネ・ソーヴィニヨン
シラー
■主要なPDOワイン
Rapsani ラプサニ
ラプサニは、この地域で最も重要なアベレーション。テッサリの東岸のオリンボス山の驚から、クシノマヴロをクラサート、ストラヴロトとブレンドし、樽で熟成している。北部の厳格なクシノマヴロと違って、より親しみやすいバランスのとれた個性で、将来の可能性を秘めている。
Messenikola メセニコラ
カルディツァ地方のブラスティラ湖東北岸にある約95へクタールの小さなPDOだが、メセニコラ・ブラック(70%)にカリニャン、シラー(合計30%以上)をブレンドした高品質な赤ワインが造られている。
Anchialos アンヒアロス
テッサリアのヴォロス港に近く、ロディティス(最低80%)とサヴァティアノから白ワインが造られる。
■ Stereá Elláda(Central Greece)中央ギリシャ
■プロフィール
中央ギリシャは、ギリシャ本土の中央にあり、東に並行して位置するエヴィア鳥(クレタ島に次いで2番目に大きな島)、アテネのあるアッティカ県、西はイオニア海に面したエトリア=アカルナニア県を含む広大な地方。アッティカのメソギア地域のように、平地の肥沃な畑から、レッツィーナを含む日常消費用ワインが大量に造られてきた。レツィーナベースとなるブドウ品種サヴァティアノは、依然としてギリシャの品種別栽培面積で最大の約10,000haを有する。1980年代になると、新世代の生産者達が新たな産地や品種に興味を抱き、より高品質なワインの生産が始まっているが、現時点ではまだPDOは存在していない。
■歴史
アッティカ県の南端にあるアテネはギリシャの首都であり、歴史上最も重要な位置を占める。都市国家の時代はアテナイと呼ばれ、紀元前5世紀頃に全盛期を極めて領土を拡大したが、その後スパルタやコリントスのペロポネソス同盟に敗れて覇権を失った。アテネ(アテナイ)の語源についてはギリシャ神話で、女神アテナの名に由来するとされる。古代ギリシャの建築で最も重要とされるアテネのパルテノン神殿は紀元前5世紀中頃に建てられたもので、建築のみならずギリシャ彫刻の最高水準を示すものともいわれる。元々はアテナ女神を祭る神殿であったが、歴史の変遷とともに、キリスト教やイスラム教の神殿として使われた時期もあった。古代アテナイにおいて、アッティカ半島南部のラブリオ(旧名:ラウリウム)は銀鉱山として知られた。また、大理石の主要産出地であった。
■気候風士
広大な中央ギリシャは、気候も地勢も多様で、造られるワインのスタイルも多岐にわたっている。イオニア海に近い西部は降雨量が多い。中央部は標高の高いピンドス山脈が走り、山地の占める割合が多く、冷涼な気候。東南端には最大のワイン産地であるアッティカがあり、その北西側にあるベオティアも大きなワイン産地である。この地区の北部には標高の高い山が多いため、北からの冷たい風が遮断され、アッティカのメソギアやベオティアの平野部は温暖で乾燥している。山間部には松やモミの植生がある。土壌は、西部はローム質で東側にかけては石灰質の構成比が高い。エヴィア島は、標高の高低差が大きく、暑く乾燥していて非常に風が強いというサントリーニ島との共通点が多いため、アシルティコ、マラグジアなども栽塔されている。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積11,312ha
ブドウ生産量113,446t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
ロディティス
サヴァティアノ
アシルティコ
マラグジアなど
[黒ブドウ]
アギオルギティコ
カベルネ・ソーヴィニヨン
メルロ
シラーなど
■ lonian Islands イオニア諸島
■プロフィール
アドリア海の南部にあるイオニア諸島は、ギリシャの西岸に沿って浮かぶ7つの小さな島々を含み、ギリシャの西側の国境を形成している。ケファロニア島が3つのPDOを有する最も重要なワイン産地で、ザキントス島とコルフ島に興味深い産地が点在する。ザキントス島は伝統的アペレーション、ヴェルデアを有する。
■歴史
イオニア諸島は紀元前9世紀頃まではギリシャ人が居住していたとされるが、古代ギリシャ時代には辺境の地だった。その後マケドニア王国、ビザンチン帝国、オスマン・トルコ、ヴェネツィア、イギリスなど、歴史的に支配者の交代が繰り返された。主要な島が7つあることから古代ギリシャ語で「7つの島」と呼ばれた時代もあるが、現在の名称はイタリア語のイオニア諸島(Isole Ionie)が元となっている。
■気候風土
ケファロニア島はペロポネソス半島と共通性の多い山の多い地形で、土壌は多様性がある。アイノス山の周辺は石灰質が多く、ロボラにミネラリティとエレガントさを与えている。リクスリ付近は粘土質が強く、モスカテラ、マヴロダフネ、ミュスカが栽培されている。PDOの産地は島の中央から南部にあり、最良の畑は標高300〜800mに広がる。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積1,744ha
ブドウ生産量8,289t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
ロボラ
モスカテラ
ミュスカ
ツァウッシ
スキアドプーロ
[黒ブドウ]
マヴロダフネ
■主要なPDOワイン
Robola of Cephalonia ロボラ・オブ・ケファロニア
ケファロニア島はペロポネソス半島と共通性があり、半山岳地帯となっている。高貴品種ロボラで造るロボラ・オブ・ケファロニアは、この地域で唯一の辛ロワイン。レモンのようなフルーティさと酸味を帯びながら、ミネラル風味とエキス分を含む白ワインとなる。アイノス山の周辺は石灰質が強く、ロボラのワインにミネラリティとエレガントさを与えている。リクスリ付近は粘土質が強く、モスカテラ、マヴロダフネ、マスカットなどが栽培されている。
PDOの産地は島の中央から南部にあり、最良の畑は標高300〜800mに広がる。
同じケファロニアの甘ロワインのアペレーションは下記の2つ
Muscat of Cephalonia マスカット・オブ・ケファロニア
果粒の小さいホワイト・マスカット種は一時は絶滅の危機に瀬したが、現在はケファロニア島全域で甘口白ワインが造られている。島の南西部で天日干ししたブドウから造られるワインは凝縮度が高い。
Mavrodaphne of Cephalonia マグロダフネ・オブ・ケファロニア
マヴロダフネから造られる赤のフォーティファイドワイン。酒精強化せずに造られるスティルワインも注目されるが、アペレーションは名乗れない。
■ Peloponnese ペロポネソス半島
■プロフィール
ギリシャ本土の最南端であるペロポネソス半島は多くのアペレーションを抱え、近年になって注目度が増している。ペロポネソス半島最大の都市は西ギリシャ地方に属するパトラスで、メッシニアコス湾に面した南西部の港湾都市カラマタが第2の都市。東北部のコリントスには赤ワインの重要産地ネメアがある。中部の地方首府トリポリ、東北部のアルゴス、南東部のスパルタなど、ギリシャの中でも歴史の長い都市が存在する。ギリシャの主要なブドウ畑の約半分は、この半島のアカイアとコリントスにある。
■歴史
古代からの長い歴史をもつ地域が多く、ギリシャに18ある世界遺産のうち3つ(バッサイのアポロ。エピクリオス神殿、アスクレピオスの聖地エピダウロス、ミケーネとティリンスの古代遺跡群)がペロポネソス半島にある。
何千年にもわたるワイン造りの歴史の中で、この地方が全盛期を迎えたのは、ここで造られるマルヴァジアのワインが世界中に輸出された中世の時代だった。近代になってからは、第二次大戦後にパトラ、マンティニア、ネメアなどの主要産地が築かれた。
■気候風土
ギリシャ本土とペロポネソス半島の間は、コリンティアコス湾とサロニコスワン(エーゲ海)に挟まれたコリントス地峡でつながっている。地峡の幅は約6kmで、1893年に両側の湾をつなぐコリントス運河が建設されて船の往来が可能となった。
半島北端のアカイア県にあるパトラは、地中海性気候で夏の最高気温は30℃前後で冬も温暖。海岸部は夏の間は晴天が続くが、標高の高い地区は雨量が多い。中央部のマンティニアは非常に乾燥した気候で、ギリシャの中でも早くからオーガニック農法による栽培が始まった。ミケーネに近いネメアは、地中海性気候と大陸性気候を併せもち、冬は暖かく、夏は涼しく、昼夜の温度差が大きい。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積12,518ha
ブドウ生産量119,599t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
モスホフィレロ
ロディティス
アシルティコ
モネンヴァシア
[黒ブドウ]
アギオルギティコ
カベルネ・ソーヴィニヨン
メルロ
シラー
■主要なPDOワイン
Nemea ネメア
単一品種から造る赤ワインとしてはギリシャで最大のアペレーションであり、北部のナウサと並んで、赤ワインの最重要産地の1つ。アギオルギィティコから力強くフルーティなし。ワインが生まれ、へラクレスがネメアに住む恐ろしい獅子を退治した神話にちなみ、ヘラクレスの血とも呼ばれる。アギオルギティコは、かつてネメアがAgios Georgios アギオス・ゲオルギオス(聖グオルギオス、英語ではSt. George)と呼ばれていたことにちなんで名付けられた。
ネメアPDOの標高は250〜850mに広がり、標高によって個性が異なる。標高600m以上の最も傾斜が強く日照量が多い地区の土壌は石灰質を多く含み、品質の高いワインが多く生まれる。最も標高の低い谷底部の肥沃な土地のブドウはしばしば酸を欠き、甘ロワインに仕込まれる。セミカーボニック・マセレーションを用いたチャーミングなヌーヴォーもPDOを表示できる。1990年代後半以降、ネメアはハイテクを備えたワイナリーの投資が相次ぎ、醸造施設や畑の植え替えが進められている。
Mantinia マンティニア
ペロポネソス半島の中心部にあるマンティニアは、岩を多く含む粘土質のやせた土壌で、標高600m以上の冷な畑で栽培される、果皮がピンク色のモスホフィレロを主体にアスプルデスをブレンドしたエキゾチックな白ワインが造られる。フラワリーで、アロマティック、シトラスと新鮮なフルーツの香りがあり、アルコール度は控えめ。ライトな辛口のスティルワインはアペリティフとしても人気が高い。アロマテイックでスパイシーなスパークリングタイプもある。スキン・コンタクトから生まれるグリ・ド・ノワールもある。この産地では、国際品種にも意欲的に取り組んでいる。
Patras パトラス(現代ギリシャ語表記ではPatra)
ペロポネソス半島北部の海沿いにあるパトラ周辺に位置するアペレーション。パトラスPDOは辛口自ワインのアペレーションで、果皮がピンク色のロディティスから、香り高い白ワインを産む。この地域には、下記の3つの甘口ワインのアペレーションもある。
Muscat of Patras マスカット・オブ・パトラスとMuscat of Rio Patras マスカット・オブ・リオ・パトラスは酒精強化を施されることが多く、マスカット・オブ・パトラスとマスカットオブ・リオ・パトラスはデザートワインとなる。リオはパトラの東部のエリア。
Mavrodaphne of Patras マヴロダフネ・オブ・パトラス
黒ブドウのマヴロダフネから造られる力強く、複雑な香りをもつ甘ロワイン。酒精強化をして、ヴァン・ドゥー・ナチュレルのスタイルで醸造され、オーク樽で何年も熟成される。
Monemvassia-Malvasia モネンヴァシア・マルヴァジア
モネンヴァシアはペロポネソス半島南東端の沖にある小島で、マルヴァジアやマルムジーの語源とされる。この地域が原産で、エーゲ海の島々にも広まった歴史的な甘ロワイン「Malvasios Oenos マルヴァジオス・オエノス」は、ヴェネチアによりヨーロッパ各地に運ばれ珍重された。この復活バージョンと言えるのが新しいアペレーション、モネンヴァシア・マルヴァジアで、モネンヴァシアを主体としてアスプルデス、アシルティコ、キドニツァなどを用い、最低2年間の酸化熟成を経た甘ロワイン。
Aegean Islands エーゲ海の島々
■プロフィール
エーゲ海地方は主に北部と南部に分けられ、北部の主要な島は、北からリムノス島、レスボス島、キオス島、サモス島、イカリア島で、この地方で最大の島であるレスボス島は、クレタ島とエヴィア島に次いでギリシャで3番目に大きな面積をもつ。エーゲ海南部には、キクラデス諸島とドデカネス諸島がある。キクラデス諸島南端に位置するのがサントリーニ島(ティーラ島(Thira)とも呼ばれる)で、ギリシャ本土からは東南へ約200km離れている。紀元前1700年頃の大噴火により形成された、カルデラ地形の外輪山に当たるのがサントリーニ島。カルデラ湾を見下ろす断崖の上に立つ白壁の家々と、海と空の青さが強いコントラストを描く景観で、世界的に知られる観光地の1つとなっている。エーゲ海は甘口ワインの宝庫でもあり、リムノス島、サモス島でマスカット種から最上級の甘口ワインが造られている。
■歴史
エーゲ海の島々は紀元前5000年頃から既に交易の拠点として発展を始めていた。ワインは常に重要な交易品であり、リムノス島、レスボス島を始め、この地域の島々で造られる甘ロワインは特に珍重され、非常に高価な値段で取り引きされた。サントリーニ島のアクロティリでは、紀元前1700年頃の大噴火で火山灰の下に埋もれていた遺跡が1967年に発見され、高度な文明をもつ市街地が存在したことが証明された。出土品の中にはワインのアンフォラや機織り機、青銅器の加工に用いた道具などが他国との交易品とともに発見された。ローマ帝国に続く東ローマ帝国の時代までは比較的平穏で、ヴェネツィア共和国による支配の時代にも交易で栄えたが、オスマン帝国の時代になるとキリスト教人口が激減するなどで衰退した。エーゲ海南部のキクラデス諸島は元々ギリシャの領土で、オスマン帝からの独立とともにギリシャ領に復帰したが、ドデカネス諸島は第二次大戦後にイタリアから割譲された領土。エーゲ海北部はバルカン戦争の結果1913年にギリシャ領に復帰した。
■気候風土
エーゲ海北部は地中海性気候で、夏の平均最高気温は30℃を超えない。レスボス島の年間降水量は670mmと南部よりも多い。火山性の肥沃な土壌で、ぶウとオリープが多く栽培されている。エーゲ海南部のサントリーニ島は非常に乾燥した地中海性気候。ブドウ生育期は常に強い風が吹き、年間降水量は約370mmと非常に少なく、病害虫の発生リスクは極めて低い。ブドウの収量の低さは世界有数で、収穫期も雨が降らないため、凝縮したブドウをさらに天日干しすることで、非常に濃厚な甘ロワインができる。夏の最高気温は30℃位で、ブドウ以外の農産物も優良な品質で知られる。特にサントリーニのトマトは有名でPDOに指定されている。ほかにファバ(黄色いエンドウ豆)などの豆類や海産物も豊富。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培画積5,477ha
ブドウ生産量30,600t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
アシルティコ
アシリ
アイダニ
マラグジア
モネンヴァシア
[黒ブドウ]
マンデラリア
カベルネ・ソーヴィニヨン
■主要なPDOワイン
Santorini サントリーニ
ワインの独自性という点で、サントリーニ島は群を抜いている。PDOサントリーニは、アシルティコ100%またはアシリ、アイダニとのブレンドで造られる白ワインで、Vinsantoを除いては極めて辛口の白ワイン。火山性土壌をベースにした砂地の畑には有機物が少なく、フィロキセラの害がなく、自根のブドウ樹が生き延びており、平均樹齢は50年を超える。強風に耐えるため、地を選うようなバスケット状クールーラ(Koulouraと呼ばれる)に仕立てる。キレの良い酸があり、柑橘系の香りとミネラル風味を備えるブドウは、ステンレスタンクか樽で醸造される。
Vinsanto ヴィンサント
PDOサントリーニの中で、伝統的に天日干しのブドウで造られる甘口の白ワインは「Vinsanto」と呼ばれる。ブドウの糖度は370g / ℓ以上で、24ヵ月以上の樽熟成ヴィンサントが義務付けられている。イタリアトスカーナのVin Santoよりも早く、中世にベニスの商人がサントリーニのワイン(Vino di Santorini)として売ったことから、この名前が定着したとされている。
Nychteri ニキテリ
「Nychta」はギリシャ語で「夜」を意味し、良く熟れたブドウを夜間に収穫し、夜が明ける前に圧搾して造ったワインは、キレのある酸をもった透明感のある味わいとなり、伝統的にニキテリと呼ばれている。PDOサントリーニの辛口白ワインの中でも、ややアルコール度数が高く(13.5%以上)、3ヵ月以上樽熟成される。
Muscat of Limnos マスカット・オブ・リムノス
リムノス島はエーゲ海北部でワイン生産が行われる2番目に大きな島。
Muscatof Limnos マスカット・オブ・リムノスはマスカット・オブ・アレキサンドリア種を天日干しして樽熟成した甘ロワイン。
Samos サモス
マスカット・ブラン(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン)から、酒精強化によるヴァン・ドゥー・ナチュレルや、天日干ししたブドウを樽で寝かせるヴァン・ナチュラルメント・ドゥーなど様々なタイプの甘ロワインが造られている。
Paros パロス
キクラデス諸島の中央にあるパロスは、モネンヴァシアで造る白ワインと、マンデラリアとモネンヴァシアのブレンドで造る赤ワインが認められている。
Rhodes ロードス
ロードスでは、主にアシリと少量のマラグジアとアシルティコで造る辛口の白ワインと、マンデラリアで造る赤とロゼが造られる。
Muscat of Rhodes マスカット・オブ・ロードス
マスカットから造られる甘口のアペレーション。
■ Crete クレタ島
■プロフィール
クレタ島は、ギリシャ最南端の地中海に浮かぶ同国最大の島。エーゲ海の南縁をなし、島の北側(エーゲ海側)の海はクレタ海、南側はリビア海とも呼ばれる。東西の長さが260kmであるのに対して、南北の幅は広いところで60km、狭いところ(イエラペトラ付近)で12kmほどという、細長い形状の島。面積は8.336㎢で、ギリシャ最大の島であり、地中海ではシチリア島、サルデーニャ島、キプロス島、コルシカ島に次いで5番目に大きな島。最大の都市は中部にある首府イラクリオで、この町は歴史上Candia カンディアとも呼ばれた。西部のハニアが第2の都市。
主要都市は北岸(クレタ海側)に集まっており、南岸(リビア海側)に位置するのはイエラペトラのみ。
■歴史
クレタ島では紀元前2700年頃から紀元前1400年頃まで、ヨーロッパ最初の文明(青鋼器文明)であるミノア文明が繁栄し、ギリシャ神話にも登場する。クノッソス宮殿を始めとする壮麗で高度な技術をもつ建築物、絵画・彫刻などが残された。この文明が崩壊したのはサントリーニ島の大噴火が原因だと推測されている。ローマ帝国による支配で、紀元前27年に現リビアのキレナイカ地方とともにキレナイカ属州となった。ローマ帝国の東西分裂後は東ローマ帝国が領有を継承した。824年、イベリアのイスラム教徒が侵入し、Candia カンディア(現在のイラクリオン)を建設した。以降961年に東ローマ帝国に奪還される。1204年、十字軍に参加していたヴェネツィア共和国により征服され、ルネサンス文化が伝えられた。
■気候風土
クレタ島は山岳部が多く、最高峰はイディ山(2,456m)。島の大部分は温暖な地中海性気候で冬の気候も穏やか。サマリア渓谷など美しい自然の景観をもち、地中海の代表的な観光地でもある。島の南側の沿岸部は北アフリカからの熱い風のために夏季の最高気温は30℃から40℃に至ることもあるので、畑の大半は北部にあり、標高の高い場所でブドウが栽培されている。山間部では11月から5月にかけて降雪がみられ、山頂は1年を通じて雪を戴いている。土壌の大部分は粘土質と石灰質。
■ワイン生産量(2018年)
ブドウ栽培面積6,185ha
ブドウ生産量53,369t
■主要ブドウ品種
[白ブドウ]
ヴィラナ
マルヴァジア
マスカット
[黒ブドウ]
コチファリ
マンデラリア
リアティコ
■主要なPDOワイン
Sitia シティア
クレタ島東部ラシティ県にあるワイン産地。歴史的に小粒で引き締まったリアティコ種のブドウから赤ワイン(辛口、甘口、酒精強化ワイン)が造られてきたが、現在は平均標高620mの高地で辛口白ワインも造られている。収量が低く、生産量は小さいが、凝縮した風味を持つ個性豊かなワインができる。
ブドウ品種は、辛口赤ワイン:リアティコ(80%以上)、マンディラリア。甘口、酒精強化赤ワイン:リアティコ100%。白ワイン:ヴィラナ(70%)、スラプサシリ(30%)。
Malvasia-Sitia マルヴァジア・シティア
ラシティ県で天日干ししたブドウから造られる甘口白ワインと酒精強化の白ワイン。ブドウ品種は、アシルティコ、スラブサシリ、アシリ、リアティコ(合計85%以上)とマスカット・オブ・スピナス、マルヴァジア・ディ・カンディア・アロマティカ(合計15%以下)。24ヵ月以上の樽熟成が必要。
Handakas-Candia (Candia カンディア)ハンダカス・カンディア
クレタ島北岸中部のイラクリオン県全域にわたる大きな産地で標高は700mに達する。Handakas-Candiaは、イラクリオン周辺の古代の地名。冬は柔和で夏は涼しい気候が特徴。ブドウ品種は、辛口白ワイン:ヴィラナ(85%以上)を主体に、ヴィディアノ、アシルティコ、アシリ、スラブサシリを合計15%まで使用可能。辛口赤ワイン:コチファリ(70%)、マンデラリア(30%)。
Malvasia Handakas-Candia マルヴァジア・ハンダカス・カンディア
天日干ししたブドウから甘口白ワインと酒精強化の白ワインが造られる。ブドウ品種は、アシルティコ、ヴィディアノ、スラプサシリ、リアティコ(合計85%以上)とホワイト・マスカット、マルヴァジア・カンディア・アロマティカ(合計15%以下)。リリース前にオーク樽で24ヵ月の熟成が義務付けられている。
Dafnes ダフネス
イラクリオン県の中央部と北部の山麓に広がるワイン産地。リアティコから造られる甘口赤ワインは長期熟成能力の高さから歴史的に高い評価を受けてきた。現在は辛口赤ワインも造られている。ブドウ品種は、甘口・辛口ともリアティコ100%。
Archanes アルハネス
イラクリオン県中央から北部にあるワイン産地で、中心に古代からの聖地ユタ山があり、クノッソス宮殿を始めとする古代遺跡・旧跡も多い地区。コツィファリとマンディラリアから辛口赤ワインが造られている。
Peza ペザ
イラクリオン県の中央から少し北側にあり、ブドウ畑は標高300mより上に限定される。マンディラリアはペザではマンディラリと呼ばれ、荒々しい特徴を和らげるためにコツィファリとブレンドされる。伝統的なブレンド比率はコツィファリ75%、マンデラリア25%。辛口赤ワインの他に辛口白ワインも造られている。
参考資料 日本ソムリエ協会教本、隔月刊誌Sommelier
最後までお読み頂きありがとうございます。
なお、この記事のスポンサーは『あなた』です。ご支援お待ちしています。
#ワイン #wine #vin #vino #vinho