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【Wine ワイン】2018 Montes Outer Limits Pinot Noir
【Wine ワイン】2018 Montes Outer Limits Pinot Noir
モンテス社が新規開拓した風が吹き荒ぶサパヤールの単一畑から造るピノ・ノワール
フレッシュさと複雑性の調和が心地よい。
取扱なし
■Producer (生産者)
⁃ Montes
■Country / Region (生産国 / 地域)
⁃ DO. ZAPALLAR / Aconcagua / Chile
■Variety (葡萄品種)
⁃ 100% Pinot Noir
■Pairing (ペアリング)
⁃ Asado アサード(BBQ)
■プロフィール
チリは「3Wの国」といわれる。すばらしい天候Weatherに恵まれ、コロンビア、コスタリカと並び"南米3C"と称される。きれいな女性Womenがいて、おいしいブドウ酒Wineの産地として名を馳せているという3つのWである。
2019年のチリワイン輸入量(ボトル) は前年を少し下回る591万ケースだった。これにバルクで輸入して日本国内でボトリングする製品を加えると630万ケース(前年比10.5%源)になる。前年に続き国別輸入量で第1位を維持している。
チリワインの輸入増加は2007年から始まった。そのきっかけは2007年9月3日に日本とチリの二国間で発効された経済連携協定に基づく関税率の通減だった。これは2019年4月1日に相互の貿易にかかる関税を無税にしようとするもので、毎年、関税率が通減されていく協定である。ワインもこの恩恵にあずかったのでチリワインは他国産ワインより安く輸入できて、しかも年々安くなった。
2019年4月以降、チリワインにかかる関税はゼロになった。ところがそれより2ヶ月前の2019年2月に日欧EPAが結ばれてヨーロッパワイン(EUワイン)の関税もゼロになったので、チリワインとヨーロッパワインに関税差がなくなった。けれども関税のかかるアメリカ、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンなどのワインより有利な立場にある事は変わりない。
チリワインのもつ優位性はそれだけではない。ブドウ栽培にうってつけの自然環境に恵まれていることだ。
チリは南アメリカ大陸の西海岸にあり、その国土は南端がパタゴニアの南氷洋、北端はアタカマ砂漠でその南北の隔たりは4,274kmにも及ぶ。その反対に国土の東西はとても狭い。最も狭いところはわずか90km、最も広いところでも380kmしかない。ブドウ栽培地域は国土のちょうど中間部分、南緯27度から39度までのおよそ1,400kmに広がっている。
中央部では古くからブドウはもとよりさまざまな果樹栽培が盛んで、ドールやデルモンテなど米国大手食品企業の果汁工場がパンアメリカン・ハイウェイに沿って軒を連ねている。
隣国アルゼンチンとの国境は6,000m級の山々の連なるアンデス山脈。古くは硝石、 近年は銅など豊かな鉱物資源がこの国の経済を支えてきた。また、 国土の西側はとても長い太平洋の海岸線である。南氷洋から北に向かって流れるフンボルト海流は冷たい寒流で、真夏でも海水浴ができない。人々は砂浜に集まって甲羅干しするだけだ。そのかわりたくさんの漁場に恵まれており、サーモンなどチリ産の魚介類は日本全国のスーパーの魚売り場の定番になっている。
■歴史
16世紀〜19世紀
(鉱山富豪がワイン産業のスポンサー)
チリのブドウ栽培は16世紀半ば、スペインのカトリック伝道者が聖餐用ワインを造るためパイス種を植えたことに始まる。Francisco de Aguirre(フランシスコ・デ・アギーレ)のブドウ畑がチリ最初のものとされる。
1818年にスペインから独立したチリは、 硝石などの鉱物資源をもとに経済成長を遂げる。いわゆる鉱山富豪が続々誕生し、彼らがワイン産業のスポンサーになってチリワインの新しい時代が始まる。
チリ政府はサンティアゴに農事試験場(キンタ・ノルマル・デ・アグリクルトゥラ)を開設しフランスからClaude Gay(クロード・ゲイ)を招聘した。ゲイは1830年にヨーロッパからカベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、リースリングなどの苗木を輸入し、キンタ・ノルマルの実験畑に植えた。パイスに代わるワイン用ブドウの栽培を企図したのである。クロード・ゲイの試験栽培に触発されたSilvestre Ochagavia(シルベストレ・オチャガビア)は、1851年に渡欧し、1852年、フランスから大量にブドウの苗木を輸入し、マイポ・ヴァレーのタラガンテに植え付けた。その時輸入されたのはすべてボルドー品種だった。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、 カベルネ・フラン、マルベック、カルメネール、そして白品種ソーヴィニヨン、セミヨン、ミュスカデルである。同じころ、 これとは別にドイツのリースリングもほんの少し持ち込まれている。甘口ワイン全盛の時代だったからだ。19世紀半ばのブルゴーニュワインは、 まだ田舎のワインだったのでピノ・ノワールとシャルドネはチリに輸入されていない。またチリでは長らくスパークリングワインを飲むことが稀だったのでシャンパーニュへの関心は薄かったようだ。
この品種構成が後に大きな問題を生むことになる。1980年代から1990年代にかけて世界的に広がったヴァラエタルワインブームは、カベルネ・ソーヴィニョンとシャルドネの2品種が主役だった。 チリには大量のカベルネ・ソーヴィニョンはあったが、シャルドネがまったくなかった。だからセミヨンやソーヴィニヨンの樹を切ってそこにシャルドネを接ぎ、何とか需要に見合うだけの生産量を確保しようと躍起になったのである。
19世紀後半にはブドウの苗木だけでなく、栽培・醸造技術者もフランスから招聴し、本格的なワイン造りを始めた。
当時の鉱山富豪は、ワインや醸造機器はもとより豪勢なシャトーやゲストハウスまで気にいったものはすべて輸入した。
現在、チリの大手ワイナリーがホテルやオフィスとして使用している建物の建築様式や家具調度は、当時のフランスそのもの。まさに鉱山が生み出したバブルの時代であった。
19世紀末にはフィロキセラ禍にあえぐヨーロッパのワイン生産地から、醸造家や栽培家がフィロキセラの被害のないチリに続々と移住してきた。そして彼らの造ったワインを、ワインが枯渇し始めたヨーロッパに向けて輸出した。1889年のパリ万国博覧会ではチリワインの品質は大いに評判になった。
20世紀〜1980年代
(生産過剰、荒廃から復興へ)
20世紀に入るとイタリアから大量生産に適した栽培技術(パラール=棚栽培)が導入され、灌漑設備(フラッド灌漑)も整って増産体制が固まった。南部のパイスはコンセプシオン近郊の非灌漑地(セカノ・インテリオール)で株仕立て(エンバソ)されていたが、マウレやイタタなどの平地で棚栽培フラッド灌漑(用水路、ため池の設営)で生産されるものが主流になった。ちなみにチリのヴィニフェラ種栽培面積は、1875年の44,000haから1900年頃には80,000haに増加している。一方、ヨーロッパの栽培地では台木に接ぐ技術が導入されて、ワイン生産が徐々に復興し、チリワインを必要としなくなった。消費不振で生産過剰に陥ったブドウ農業は、新植禁止という事態になる。1960年代後半から1980年代初めに至るまでチリのブドウ農業は深刻な生産過剰問題を抱え、ブドウ価格はほとんどただ同然になってしまいブドウ栽培から離れる人が多かった。1974年の栽培面積は106,000haだったが、1994年には54,000haまで減少している。この減少理由は、南部のパイスとムスカテルの畑40,000haに松やユーカリを植えたからだ。
1979年にスペイン・カタルーニャのミゲル・トーレスがクリコ・ヴァレーに土地を購入してステンレスタンクやオーク樽などの新しい醸造機器を設置し、フレッシュ&フルーティなワインをチリのプドウで造ってみせた。そうこうするうちに農産物の価格引き上げ策が効を奏し、1980年代半ばになってようやくワイン産業に活気が戻った。
フィロキセラ禍もなければ秋雨の心配もないチリでは、19世紀半ばの状態が手つかずのまま連綿と引き継がれたのである。畑の新陳代謝はプロヴィナージュ(成木の枝を誘引して土中に埋め、発根したら切り離して新株を得るフィロキセラ禍以前の伝統手法)で行った。
ともかくこうしてチリワインは、1985年以降、最も遅く国際市場に参入した。そして先述のような、競って新品種シャルドネを植える動きが生まれるのである。ワイナリーでは、 発酵槽として使っていたラウリ(チリ原産の木)の大樽を撤去してステンレスタンクを新設・増設する突貫工事をしながら、その傍らでワイン造りを同時進行させる。しかし、でき上がったワインは値段が安く品質の良いものだった。
2000年代
(適地適品種の考え方で新しいワイン造り)
1990年代に入ると、先駆けの大成功を目の当たりにした人達が次々とワイン造りに新規参入してきた。これには、それまでワイナリーにブドウを販売していた栽培者が自前でワインを造るようになったケースと、新しく土地を買いプドウを植えたまったくの新規参入者の2通りがあった。
チリワイン産業は21世紀を目前にして、新しいステージを創造しなければ国際市場で生き残ることができないという大きな課題に直面していた。そこで、 「シンプルでジャムのようなヴァラエタルワイン」と言われる状態から、 付加価値のあるプレミアムワイン造りへと舵を切ったのである。
余談だが、残念なことに日本におけるチリワインに対する印象はヴァラエタルワイン全盛時代で止まったままだ。
2007年から日本向け輪出が大幅に増えているといっても、その中味は1990年代に活躍した低価格ヴァラエタルワインの復古品が主役で、日本の料飲店関係者や消費者には進化したプレミアム·チリワインの存在がきちんと知らされないままになっている。
チリワインの新しいステージはテロワール(テルーニョ)をコンセプトにしたワイン造りをすることだった。テロワールが土と空(気候)と人為という3つの要素で構成されるとするならば、チリがそれらをはっきりと意識してブドウ畑の選定と耕作に取り組んだのは最近のことである。1980年代にPablo Morande(パブロ・モランデ)が先鞭をつけ、1990年代に開拓ラッシュになった海岸近くのカサブランカ・ヴァレーは、 絶対量の不足していたシャルドネの生産適地を冷涼地に求めたという意味で、 その走りだったと言えるだろう。
ともかく、平凡なヴァラエタルワインから脱却し、新鮮な果実味と複雑味を備えたワイン造りを目指して、チリの生産者は先を競って具合のよい傾斜地を探し、 涼しい風の吹きこむ土地を見つけて、 そこをブドウ樹で埋め尽くしてきた。そして10年以上が経過したいま、 その樹がようやく最良の生産樹齢に達し、興味深いワインを産み出している。
■気候風土
チリは南北に細長い国で、東側をアンデス山脈、太平洋岸に海岸山脈が走り、 その中間部が広い平地になっている。冬の数カ月だけ集中して雨が降り、晩春から夏の終わりまでは乾燥している。典型的な地中海性気候で、最も暑い月の日中の気温は30℃に達する。夜になると夏でもかなり涼しくなる。昼夜の気温差は、海岸沿いのブドウ畑で15℃~18℃、アンデスの麓の畑では20℃以上にもなる。
セントラル・ヴァレーの雨は冬に降るだけ。ここでの耕作には灌漑用水が欠かせない。だから耕作地は河川の流域に限られた。チリの河川はみなアンデスから太平洋へ向かって東西方向に流れる。流路の短い急流が何本も走る。マイポ・ヴァレーにはマイポ川、 アコンカグア・ヴァレーにはアコンカグア川、コルチャグア・ヴァレーにはティングイリリカ川という具合だ。いずれも夏には干上がって川床が刻き出しになる。同じ南米大陸を流れる川でもアンデス山脈の東側を悠然と流れる大河アマゾンやラプラタとは対照的だ。
■伝統的な灌漑の方法
それぞれの耕作地には古くからアンデスの雪解け水を引き込むための灌漑用水路がある。
チリの伝統的な灌漑の仕方は、 雪解け水を貯めて(あるいは川から引きこんで)畝間に流すナチュラル・イリゲーションである。アンデスからの水の供給量が不足している地域や、水がほとんど来ないカサブランカ・ヴァレーなどでは、井戸を掘って水を確保し、 ドリップ・イリゲーション(点滴灌漑)で水の浪費を防いでいる。
ブドウ樹が水を必要としているかどうかを確認するために、樹間に1mほどの深さで管を通し、その部分の湿度を定期的にチェックする。 あるいはカリカタ (畝間に掘った土壌分析のための穴)を掘り、土質を分析するとともに有効な灌水量の調査も進めている。そして最近では、乾燥の烈しい斜面の畑を除けば、自然のままに任せて灌水をしないドライファーミングの畑が増えてきた。 灌水するにしてもその時期と給水量に十分な注意を払っている。一般に収穫の1カ月前には完全に灌水を中止する。給水によるブドウ果粒の水ぶくれを避けるためだ。
■ブドウ成熟期の涼しさの確保
チリで水の確保とともに重要なことは冷気、ブドウ成熟期の涼しさである。
チリのみならず南半球のブドウ栽培地は、北半球のそれに比べいったいに緯度の低いところに位置している。いや、寒さや雨による栽培リスクを避けるためにわざわざそういう土地を選んでブドウ畑を拓いたといった方が正しい。緯度が低いと日射角が鋭くなり日射量が多くなる。日射量が多いと紫外線も強い。ブドウは強い紫外線に抵抗して果皮を厚くする。厚い果皮にはポリフェノールが豊富に含まれる。だからチリワインは冷涼地のブドウ(ピノ・ノワールやシラー)で造ったものでも色の濃いものが多い。
涼しさはどこにあるのか。ひとつは万年雪を被ったアンデスの山々から風が吹き下ろす山麓·斜面の畑、 もうひとつは太平洋を流れるフンボルト寒流で冷やされた海風の吹きつける海岸に近い畑である。アンデスの麓と海岸山脈の斜面は異なる理屈であるけれども涼しいという共通項を持っている。
冷涼地の開拓は、1982年に始まったカサブランカ・ヴァレーを皮切りに、サンアントニオ・レイダ、リマリ、コルチャグア・コスタ、マウレ・コスタなどが続いた。一方、マイポ、カチャポアル、コルチャグア、マウレなどのアンデスの麓の畑では急斜面を切りひらいてブドウ畑が延びていった。さらに、秋雨のリスクはあるけれどもセントラル・ヴァレーより涼しい南部ビオビオにもブドウ畑は広がった。
近年はクール・クライメット(冷涼な栽培環境)の枠を超え、これ以上の条件ではブドウ栽培ができない、究極の栽培環境(エクストリーム・ウェザー、アルティメット・クライメット)を求める栽培家が増えている。
ウアスコ・ヴァレー
アタカマ沙漠の南端、海岸から20kmほど内陸に入ったロンゴミジャにブドウ畑をひらいた。camanchaca(カマンチャカ)と呼ばれる冷たい海霧がウアスコ川沿いに侵入するので、沙漠地帯でもブドウ栽培が成立する。ウアスコ産の個性的なソーヴィニヨン・ブランが人気。
エルキ・ヴァレー
南緯30度、アンデス山中の標高2,200mにひらいたアルコワスのブドウ畑。シラー、ガルナッチャ、マルベックなどを植栽している。紫外線の強い高地なのでトゥーリガナシオナルの適性も試されている。
コスタ
アコンカグアからマウレに至る海岸山地の山中や海に面した斜面にひらいたブドウ畑。朝は海霧に覆われ、冷たい海風が直接に吹きつける。サパヤル、ロ・アバルカ、サント・ドミンゴ(以上アコンカグア)、パレドネス(コルチャグア)、エンベドラド(マウレ)。ここでは主にピノ・ノワールが栽培されている。また、リカンテン(クリコ)の、スパイシーなマルベックやカベルネ・フランも注目されている。
オソルノヴァレー
最南部のD.O.アウストラルに広がる湖水地方のラゴ・ランコ、リオ・ブエノにひらいたブドウ畑。オソルノ山は富士山を思わせる容貌で“チリ富士”と呼ばれてすそのいる。裾野には渓流や温泉がある。ラゴ・ランコは丘陵地で涼しいが年間降水量は1,800mmもあって、日本と同じように収穫期にも雨が降る。シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ピノ・ノワールを栽培している。2018年6月、オソルノよりさらに南にあるチロエ島にアルバリーニョなどが植えられ、これがチリ最南端のブドウ畑になった。
■土壌の特徴
次に土地の成り立ちや土壌組成の特徴をみる。地質学的にみると、今から1億年前~8000万年前にナスカ・プレートが南米プレートにぶつかって南米プレートの下に滑り込んだ。その衝撃で地震や造山活動が活発になり、その結果としてアンデス山脈が形成された。海岸山脈(沿岸山脈)はアンデスの山々よりはるかに低い丘陵だが、その成り立ちはアンデスより古い。アンデス形成以前の海岸山脈は幾つかの島であり、現在のチリの国土は水面下にあったと考えられている。
セントラル・ヴァレーは、2つのプレートの衝突によって隆起して陸地になり、そこにアンデスの造山活動で降ってきた火山を 岩や灰が堆積し、その上に河川の運んだ砂利や粘土が層を成してできあがった。また、海岸山脈はアンデスのように南北にきれいに連なった山々ではなく、褶曲、隆起、陥没を繰り返し、あるものは伸び、あるものは縮み、 あるところでは川に浸食されて、まったく混沌として無秩序な形になってしまった。だから、その斜面はじつに多様で、ところによってさまざまな方角を向いている。たとえばアパルタなどの有名な畑のあるコルチャグア・ヴァレーは東西に伸びる海岸山脈の斜面にある。アパルタは海岸山脈の南向き斜面(南半球では南向き斜面が涼しい)に拓いた畑である。
そういう成り立ちからアンデスの麓は主に火山性土壌や崩積土、中央部の平地は肥沃な沖積土、海岸山脈側は砂が多く痩せた古い土壌、石灰質土壌などが支配的になっている。
■チリにフィロキセラの被害がない理由
ブドウの生育期間(発芽から収穫まで)を通じて乾燥状態が続くからボトリティスやベト病など菌類の病気に置らないこともチリのブドウ栽培の特徴だ。またチリにはフィロキセラの被害もこれまでのところない。だから北米品種の台木に接木する必要がない。これまでブドウ樹はプロヴィナージュで植えてきた。チリではムグロンと呼ぶ(フィロキセラ禍以前のヨーロッパでも行われていた)増植法である。しかし、隣国アルゼンチンのメンドーサがそうであったように、 水田のようなナチュラル灌漑からドリップ・イリゲーションに切り替えると、フィロキセラの現われる危険性が高まると言われている。だからチリでは、いつ何時、フィロキセラの棲息が確認されても良いように保険の意味合いで北米台木に接木をして新植する畑が増えている。
北米台木との接木を採用する理由は他にもある。ひとつはNematoda(ネマトーダ)(ネコブセンチュウ)という害虫対策だ。ネマトーダは根に大小の虫こぶをつくって時に根を腐らせることもあるが、フィロキセラのような強い感染力(繁殖力)はない。もう一つは最近の土壌分析で明らかになったことだが、ヴィティス・ヴィニフェラの根は怠情で地表近くに水分があるとそこに居座り、地中深くまで入り込もうとしないことだ。それに比べると北米品種の根の多くは地中深くまで伸びて深層のミネラル分を吸収する。だからそれぞれの地層に適合した北米品種の台木を選んで接木する。ちなみに現在、台木品種は数多く販売されているが、 いずれも北米原産のヴィティス・リパリア、ヴィティス・ルペストリス、ヴィティス・ベルランディエリのうちの2種を交雑したものである。リパリアは比較的根の浅い性質、ルベストリスは乾燥に耐え根が深い性質、ベルランディエリは乾燥と石灰質土壌に強い性質がある。これらの中から土壌構成に合わせて台木を選ぶようだ。
蛇足をひとつ。1990年代にカリフォォルニアのブドウ樹が台木を使っていたにも関わらずフィロキセラの被害に遭って改植を余儀なくされた。当時、 カリフォルニアではAXRという台木を使っていた。AXRはA=アラモンとR=ルペストリスの交雑種であり、アラモンはヴィティス・ヴィニフェラだ。このアラモンの性質が新種のフィロキセラに弱かったというわけだ。
チリにフィロキセラの被害がない理由を聞くと「東をアンデス、西を太平洋、北をアタカマ砂漠、南を南氷洋に囲まれているチリは自然の要塞でフィロキセラを寄せ付けない」と説明されることがしばしばある。だが、 フィロキセラの棲むメンドーサとは、毎日たくさんのトラックが往来しているから、いつでもフィロキセラは侵入できるはずだ。だからこの説明には無理がある。それでも、 ともかく今のところチリにはフィロキセラの被害の報告はない。そしてチリの農業省農牧庁SAG=Servicio Agrícola y Ganadero Departamento Protección Agricola(セルビシオ・アグリコラ・イ・ガナデロ・デパルタメント・プロテクシオン・アグリコラ)の植物検疫は非常に厳しく、新品種を外国から輸入する際には検疫所で2~3年かけてウイルスチェックなどを行うことが義務付けられている。
■主なブドウ品種
2018年のチリのブドウ栽培面積は137,191ha。赤ワイン用品種100,960ha、白ワイン用品種36,230ha。 チリで栽培するワイン用ブドウ品種は86種になった。主なブドウ品種の栽培面積は次の通り。
品種名 面積(ha)
Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニヨン 41,099
Sauvignon Blancソーヴィニヨン・ブラン 15,383
Merlot メルロ 11,844
Chardonnay シャルドネ 11,242
Carmenère カルメネール 10,647
Pais パイス 10,237
Syrah シラー 7,668
Pinot Noir ピノノワール 4,144
Malbec マルベック 2,340
Carignan カリニャン 858
■カベルネ・ソーヴィニヨン
カベルネ・ソーヴィニヨンが全体の30%を占めている。これにその他のボルドー品種を加えると6割強の占有率になる。
マイポ・ヴァレーが主産地で、プエンテ・アルト、 ピルケ、プイン、アルト・ハウエルなどアンデスの麓の斜面に位置する畑が有名だ。ことにマイポ川北岸のプエンテ・アルトからはチリを代表する赤ワインが生産されている。
■ソーヴィニヨン
チリにはソーヴィニヨン・ブランではなくSauvignonasse(ソーヴィニヨンナス)=Sauvignon Vertが多かったので、ラベルには「ソーヴィニヨン」とだけ表示される時期があった。その原因は19世紀半ばにボルドーから苗木が輪入された時に遡る。当時からセミヨンにSauvignonasse(ソーヴィニヨンナス)=Sauvignon Vertが混ざって植えられた。1990年代のチリ産ソーヴィニヨン・ブ
ランは、トロピカルフルーツの香りのものが多かったが、涼しい畑で栽培する生産者が増えて野菜っぽい香りのするソーヴィニヨンブランが主流になり、このところはグレープフルーツの香りのものに移っている。北部のカマンチャカ(冷たい朝霧)の影響を受ける塩性地のものは塩っぽいミネラルが特徴だ。
■カルメネール
カルメネールはボルドー品種で、19世紀半ばにボルドーからカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなどと一緒に持ち込まれた。受粉の時期が低温になるとすぐに花震いをおこしてしまうこと、熟期がとても遅いなどの理由で、ボルドーでは栽培が途絶えてしまった品種である。
ところが天候の良いチリでずっと生き続けた。ただチリではそれを長らくメルロだと思っていた。初めてカルメネールが発見されたのは1994年11月24日のことだった。フランスのブドウ学者Claude Vallat(クロード・ヴァラ)が、当時のチリで栽培されていたソーヴィニヨンのほとんどがソーヴィニヨンナスだと主張し、1991年に初めてソーヴィニヨン・ブランのクローンをチリに紹介した。俳せてクロード・ヴァラは、 チリのメルロの一部もメルロであるかどうか疑わしい。 カベルネ・フランではないかと持論を述べた。
ヴァラの薫陶を受けたフランス人ブドウ学者
Jean Michel Boursiquot(ジャン・ミッシェル・ブルシクオ)がマイポ・ヴァレーのビニャ・カルメンの畑に出向き、「カルメネール」と結論付けた。当時、カルメンのエノロゴだったAlvaro Espinoza(アルバロ・エスピノサ)
は早速そのブドウでワインを造った。しかし、 農業省農牧庁SAGのワイン用ブドウ品種リストに「カルメネール」はなかったのでラベル表示することができず、アルバロは「Grand Vidure(グラン・ヴィデュール)1994」として市場に紹介した。
1996年になってようやくSAGはカルメネールを認証しラベル表示を許可した。しかし、当時のカルメネールは、しっかり畑で熟させていなかったのでピーマンのような青い香りを持っていた。その後、畑でメルロとカルメネールの植え分けが進み、カルメネールの栽培法もヴィンテージを重ねるごとに理解されるようになった。
カルメネールの特徴は色素の濃さにある。語源のCarmine(カルミン)は「深紅色の」という意味。香りの成分がしっかり熟すまでにとても時間のかかる品種で、早いうちに摘むとメトキシピラジンの青い香りが残る。しっかり成熟したブドウを摘むと熟した果実、さらに樽熟成によってコーヒーやチョコレートのような香りになる。 口に含んだ時の味わいには、やわらかくて丸いタンニンと凝縮した果実味が感じられる。
ペウモ(カチャポアル)、ロス・リンゲス、アパルタ(コルチャグア)、サン・フェリペ(アコンカグア)などのブドウ畑でチリを代表するカルメネールが生産されている。
■メルロ
カルメネールの進展の一方で、メルロが等開視されてきた。かつてメルロとカルメネールが混植・混同されていた時代のチリのメルロは、熟した果実にパプリカのニュアンスの加わったバランスの良いワインだった。しかしカルメネールを分離独立してからというものジャムのような香味のワインになっている。近年栽培適地を求め、メルロはセントラル・ヴァレーから北のリマリ・ヴァレーやエルキ・ヴァレー、 あるいはカサブランカ・ヴァレーなどの冷涼地に移動している。
■シラー
チリの新品種の中ではシャルドネに次いでシラーが大きな栽培面積を確保している。初めはコルチャグア・ヴァレーなど比較的暖かい産地に植えられることが多かったが、 最近はサンアントニオ・ヴァレーなど冷涼地で栽培されるクール・クライメット・シラーが注目されている。北部ローヌのシラーのようにロダンドン(胡椒の香り)の含有量が多く、引き締まった味わいが特徴。ただ、冷涼地のシラー栽培は緒に就いたばかりで、大方の畑は温暖なエントレ・コルディリュラスにある。
■ピノ・ノワール
ピノ・ノワールも着実に栽培面積を広げている。 新しく冷涼地を拓くとソーヴィニヨン・ブラン、 シャルドネなどの白品種とともに必ずピノ・ノワールが植えられている。ブルゴーニュの醸造家をコンサルタントに招いて栽培・醸造の両面から改善の取り組みが進んでいる。チリのピノ・ノワールは味わいが軽快でも色は濃くアロマに強さがあるのが特徴だ。海風が直接吹き込むサン・アントニオ・ヴァレーなどで育ち素晴らしい酸味をもっているが、日射量には低緯度特有の強さがあり果皮が厚く、色素が濃くなるからだ。
ピノ・ノワールはブルゴーニュのような海から遠く離れた内陸の畑で連綿と栽培されてきたブドウである。しかしチリのピノ・ノワールは海風と海霧の影響を強く受けているので、風味にもおのずとそうした特徴が表れている。
■パイス
チリのブドウ畑はパイスとともに歩んできた。しかし21世紀を迎えると年々歳々、栽培面積が減少した。マウレ・ヴァレーには零細なパイスの栽培農家が多く、 彼らの経営を守るために行政が幾つかのワイナリーにパイスの再生策を委嘱した。その結果、パイスで造った素晴らしいスパークリングワインや、軽快な赤ワインが誕生している。 ことに、 ながらく放置されてきた非灌漑地のパイスは、 樹齢が古くなり自然に収量がおちて品質が向上している。また、野生化したパイスを収穫してワインを作る動きもある。ブドウ樹はブドウ科のつる性落葉植物である。人がブドウを栽培するようにせんていなり、特定の仕立て方と剪定方法が採用されて現在のブドウ畑が出現した。しかし剪定せず天然のままにおけば、ブドウ樹はつるを伸ばし灌木に寄り添って日の当たるところで実を結ぶ。マウレの海岸山地の中に放置されていたパイスが野生化し、水場近くの灌木に寄生して実をつけている。樹に梯子をかけて収穫している。
■カリニャン
栽培面積わずか858haのカリニャンが話題になっている。2009年11月に12ワイナリーがVIGNO(ヴィーニョ)=Vignadores de Carignan(ヴィニャドレス・ド・カリニャン)を結成し、ヴュー・カリニャンのラベルに共通のロゴマーク「VIGNO」を表示して販売したからだ。このグループは2020年6月末現在、16ワイナリーを数えている。
VIGNOの製造基準は、 D.O.マウレ・ヴァレーのカリニャンを65%以上使用したワインであること。そして、①樹齢30年以上のブドウを使用、②灌漑をしていない (ドライ・ファーミング)畑で株仕立て(エンバソ)であること、③マウレ・ヴァレー(カウケネス、メロサル、サウサル、ロンコミージャ)のブドウであること、④木、セメント、アンフォラ、 ガラスの容器で24ヵ月以上熟成したもの、 が必要条件である。
1939年イタタ・ヴァレーの大地震でカウケネスのブドウ畑のパイスが壊滅した。1940年以降、パイスに代わる新品種がフランスから導入され新植された。 大量生産の時代ゆえ、持ち込まれたのは収穫量の多いラングドックのカリニャンだった。戦後の混乱と1970年代の動乱、 それに続くヴァラエタルワインの全盛期に、 カリニャンはすっかり放置されていた。その結果、年を経て老いた樹はほんの少しの実しか付けなくなった。ところがそれをワインにしてみるとすばらしい品質だった。こうしてVieux Carignan(ヴュー・カリニャン)を売り出すVIGNOが誕生した。
■ワイン法と品質分類
チリのワイン製造に関するルールは法NO.18455
(1985年。アルコール飲料の生産に関する規則)に定められ、それに沿って1986年に農業省令N0.78が制定された。それによるとワインは、
・ヴィティス・ヴィニフェラのブドウ果汁を発酵させたものに限る。
・ワインの製造工程でアルコール、 蔗糖などの糖類、 人エ甘味料を使用してはならない。ワインはブドウ果汁の糖分だけで造らなければならない。
・ワインのアルコール分は11.5%以上でなければならない。と、定義されている。
また、スパークリングワインEspumoso(エスプモーソ)は、密閉容器中の二次発酵で得られた炭酸ガス(20℃で3気圧以上)を有するワイン。ボトルもしくはタンクで二次発酵をうながすとき(licor de tiraje リコルデティラへ) に蔗糖、licor de expedición : リコルデエクスペディシオンワイン、ブランデーなどのスピリッツを加えることができる。最終製品の残糖分の量で次のように分類できる。
• Brut Nature(ブルット・ナトゥレ)
3g/ℓ未満
• Extra Brut(エクストラ・ブルット)
0~6g/ℓ
• Brut(ブルット)
12g/ℓ未満
* Seco(セコ)またはDry
12~21g/ℓ
* Demi Sec(デミ・セック)またはMedium Dry 21~50g/ℓ
• Doux(ドゥー)
50g/ℓ以上
ワインの原産地呼称Denominación de Origen(デノミナシオン・デ・オリヘン)
(D.O.)とワインの品質表示は1994年に農業省令N0.464が規定され、1995年5月26日付官報で公告された。SAGはこの省令に定められた原産地呼称、 品質規定などを保護監督し、輪出ワインの品質保証·統制を担当する。
チリの原産地呼称D.O.ワインにはフランスのA.O.C.のような収穫量の制限や栽培品種の特定、熟成期間などの醸造法等に関する規制がない。
州はさらに県Provincia(プロビンシア)に分割され、県はさらに市町村Comunas(コムナス)に分けられる。 ワインの原産地呼称D.O.にも別表で示したように県、 市町村単位で細分化されたD.O.がある。しかしそれぞれのD.O.の関係は、A.O.C.のようなピラミッド型の品質階層ではなく、栽培範囲の大小を表しているに過ぎない。


■義務付けられているラベル表示の項目
ワインのラベルには次のことがらを表示することが義務付けられている。
①ワインの種類(赤ワイン、 白ワインなど)
②製造者(瓶詰者) 名と所在地
③ワインの容量
④アルコール含有量
⑤PRODUCE OF CHILEなど原産国がCHILEであることの分かる語
さらに次のことがらは必要な条件が満たされたときに任意でラベル表示できる。
⑥ワインの原産地呼称D.O.
当該産地のブドウを75%以上使用し、 消費者に供することのできる容器(瓶、 BIBなど)にチリ国内で詰めたワインに限る。
D.O.ワインには次の品質表示を加えることができる。
Superior(スペリオール)
香味に独自性が認められる場合。
Reserva(レセルバ)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも0.5%以上高く独自の香味がある場合。
Reserva Especial(レセルバ・エスペシアル)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも0.5%以上高く、独自の香味があり樽熟成したワイン。
Reserva Privada(レセルバ・プリバダ)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも1%以上高く、独自の香味がある。
Gran Reserva(グラン・レセルバ)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも1%以上高く、独自の香味があり樽熱成したワイン。
⑦ブドウ品種名
当該品種が75%以上使用されているものに限る。2品種もしくは3品種をアサンプラージュした場合、いずれの品種も15%以上使用し、使用比率の多い順に左から右に並べて表示できる。
⑧ワインの収穫年
当該生産年のワインを75%以上使用しなければならない。
⑨生産者元詰Embotellado en OrigenまたはEstate Bottled
自社ブドウ畑と醸造·瓶詰設備が当該D.O.内にあり、 醸造、瓶詰、保管が一貫して自己の設備内で完結している
場合に限る。醸造協同組合の場合は組合員の栽培したブドウで生産され組合の醸造所で瓶詰めされたワインに限る。
⑩残糖量に応じたワインのタイプの表示
Seco/Sec/Dry 残糖分4g/ℓ未満。ただし総酸度(酒石酸換算)が残糖分を2g/ℓ以上上回っている場合
は9g/ℓまでの残糖分を許容する。
Semi seco / Demi sec / Medium Dry 4g / ℓ以上
12g / ℓ未満。総酸度が2g / ℓ上回る場合は18g / ℓ未満。
Semi dulce / Moelleux / Medium Sweet 18g / ℓ以上45g / ℓ未満。
Dulce / Doux / Sweet 45g / ℓ以上。
11.EUは原産地呼称ワインの製造基準を産地名、品種名、生産年とも「85%以上使用」としている。 そのためSAGの指導監督のもと、 輪出向けチリワインはすべて「85%以上使用」している。
■チリの食文化と料理
食べものとチリワインの関係について考えてみよう。イタリアやフランスのように古くからワインが食卓に上っていた国では、今でも地場のワインと食材や調理理法は密接に関連している。地場ワインが輸出市場に売り出されて、その味香は市場の要求に合わせていくらか変わったけれど、ブドウ品種は未だに土地固有のものを保持している。行政がワインの原産地呼称を統制する際、そこにブドウ品種を含めているからだ。
ところが、チリの先住民にワイン飲酒の文化はない。ワインは大航海時代以降、キリスト教の伝道者とともにやってきたものだ。その後、スペインから移民が来て先住民の食と融合し、それにドイツ人などの移民が加わって現代チリの食文化が成立した。この間、チリの大方の家庭の食卓にワインはなかった。人々は専らピスコなどのアグアルデンテ(蒸留酒)を飲んだ。チリ中央部のブドウ栽培地ではブドウ果汁で造った甘いChicha(チチャ)(濁りワイン)が好まれた。ワインを食事とともに楽しむ家庭や飲食店は極めて限定的で、その白ワインは酸化して茶色くなり、赤ワインはどろどろとして舌に重く蒸れた匂いがした。これがGusto Chileno(グスト・チレノ)(チリ人好み)だった。
米国から炭酸飲料が入って来てワイン消費量が激減したので、チリワイン産業は輸出市場に目を向ける。グスト・チレノでは売れないから米国の好みを聞き、イギリスの好みを聞き、日本の好みを聞いて新しいチリワインを準備した。つまり新しいチリワインは初めからチリ料理と切り離されていたのである。
21世紀になって首都サンティアゴには、ようやくワインと料理を楽しめる飲食店が現れ始めた。フランス料理やイタリア料理から始まって、徐々にチリ料理や先住民の料理にワインを合わせる店も生まれた。ワイナリーの中にはレストランを併設して、料理との組み合わせを提案するところも現れた。家庭の食卓にワインが上る機会も増えている。
国土の西側半分が太平洋に面しているので、チリではどこでも魚介類が豊富だ。ペルーと並んで有名なCeviche(セビーチェ)は魚介類のレモン果汁和えのことで、チリではCorvina(コルビーナ)(イシモチ、ニベ)やReineta(レイネタ)(シマガツオ)など白身魚を使うことが多い。海草のCochayuyo(コチャジュジョ)。使ったセビーチェは、塩味のミネラルの強い白ワインとの相性が抜群だ。ほかには、マチャ貝(チリホッキガイ)にパルメザンチーズを掛けて貝ごと焼いたMachas a la Parmesana(マチャス・ア・ラ・パルメザナ)
、高級魚Congrio(コングリオ)
(チリアナゴ)の切り身のスープのCaldillo de Congrio(カルディージョ・デ・コングリオ)
などがチョロある。Choro(チョロ)(ムール貝)、Erizo(エリソ)(ウニ)、Loco(ロコ)(アワビに似た貝)、Ostra(オストラ)(カキ)なども人気がある。
チリの伝統的な家庭料理で最も有名なのはEmpanada(エンパナーダ)という具の入ったパンで、薄皮はスペイン由来、中身の具は先住民族アラウカノのPinu(ピヌ)(挽肉に妙めた玉ねぎとスパイスをまぜたもの)を詰めたものだ。地域によっては魚介類やチーズを入れたエンパナーダもある。
またチリ料理にはアラブ風のスパイスやハーブを使ったものがある。これはスペインがムーア人に占領されていた頃の名残で、スペインからの開拓者が持ち込んだものと思われる。
Choclo(チョクロ)(トウモロコシ)を使った料理は先住民由来のものだ。代表的なものはPastel de choclo(パステル・デ・チョクロ)(トウモロコシのグラタン)やHumitas(ウミタス)(クリーム状にしたトウモロコシにバジルを加えトウモロコシの葉で包んで蒸したもの)で、とても甘い。
冬は温暖で霜もなく夏は乾燥しているチリ中央部は、アンデスの雪解水で灌漑された畑でさまざまな果樹や野菜を栽培している。新鮮で味の濃いフルーツや野菜は食卓を彩るだけでなく、収穫期の異なる北半球にも輸出されている。アボガドの栽培地が急拡大し、アコンカグアではぶどう畑と水の取り合いになっている。収穫後の現金化の早いアボガドが優勢だ。
牛、豚、鶏などの飼育も盛んで、アルゼンチンと同様、チリでもAsado アサード(バーベキュー)をよく食べる。
チリでは余りスパークリングワインを飲まない。隣のアルゼンチンやブラジルとの大きな違いだ。その代わりの食前酒はPisco Sour(ピスコ・サワー)だ。ピスコはワインを蒸留した酒で、ピスコ・サワーはそのカクテルである。レシピは飲食店や家庭によって様々だが、一般的な作り方は、ピスコ、レモンジュース、グラニュー糖、卵白をミキサーに入れて攪拌し、冷蔵庫に入れて冷やす。とても簡単だ。
■ワインの産地と特徴
チリのブドウ栽培地域は大きく分けると北部、中央部、南部の3つに分けられる。 その長さは1.400kmにも及ぶため気候条件や土壌に大きな違いがある。現在、原産地呼称D.O.に認定されている地域を北から順に紹介する。
■D.O.アタカマ Atacama
第3州が該当しサブリージョンにD.O.コピアポ・ヴァレーとD.O.ウアスコ・ヴァレーがある。Pisco(ピスコ)という蒸留酒を造るためのモスカテル種を栽培している。ウアスコはアタカマ砂漢南部に位置しているが、海沿いはフンボルト海流の影響でカマンチャカという海洋性層積雲(曇り雲、むら雲と呼ばれる下層の雲で、地表近くでは濃い霧になるが、雨を降らせることはない)に覆われ、日中、太陽光を浴びると雲の上部から蒸発してしまう。すると冷たい海風が吹いてくる。この海風がウアスコ川に沿って内陸に入り込むため、海岸寄りの川沿いは比較的冷涼だ。近年、海から20kmの河岸段丘にブドウ畑が拓かれソーヴィニヨン・ブランなどが栽培されている。
■D.O.コキンボ Coquimbo
第4州が該当する。サブリージョンにはD.O.エルキ・ヴァレー、D.O.リマリ・ヴァレー、D.O.チョアパ・ヴァレーがある。緯度が低く日照は強い。しかしアンデス山脈が太平洋側に突き出して東西の幅が狭いため冷たい海風が吹き付けている。かつては生食用ブドウの栽培地だったが、近年、冷涼地を求める栽培者が押し寄せ、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーなどの畑が急速に増えている。
D.O.アコンカグア・ヴァレーより500kmも北に位置する(南半球ではふつう北が暑い)D.O.リマリ・ヴァレーやD.O.エルキ・ヴァレーが新しいブドウ栽培地として脚光を浴びているわけは、海岸に近いので海霧(カマチャカ)と海風によって涼しさが確保されているからだ。港町ラ・セレナとその内陸に広がるD.O.エルキ・ヴァレーは、カリフォルニアのサンフランシスコとナパヴァレーの関係に似ている。午前中のラ・セレナはいつでも霧に覆われた港町である。霧は夜のうちにエルキ・ヴァレーの奥深くまで忍び込み、朝日が差し始めると徐々に退いていく。だから比較的暑いエルキ・ヴァレーの内陸部にはカベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネールが、涼しいヴァレーの入口付近にはソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールの栽培が適している。エルキ・ヴァレーを上り詰めたアンデス山中のアルコワス(標高2,200m)にチリで最も標高の高いブドウ畑がある。
D.O.リマリ・ヴァレーはリマリ川を挟んで南北に広がるが、リマリ川北岸の地形は大きく波打つ丘陵地で、リマリ川南岸は平坦な地形である。リマリの海岸沿いにはタリナイという名の丘陵はあるが標高が低く、海風を遮ることができない。冷たい海霧(カマンチャカ)と海風が内陸部まで直接に吹き込んでいる。いずれもサン・アントニオ、レイダと同様の海岸山脈由来の非常に痩せた土壌である。しかしリマリの土壌には石灰質が多く含まれている。
D.O.チョアパ・ヴァレーはアコンカグアからリマリまでの500kmに及ぶ海岸近くの広大な土地である。しかしブドウ畑はほとんどない。この辺りはアンデスの山並みがグッと海に迫り出して適当な耕作地がないばかりか、植物が育つには寒すぎる。生えているのは背の低い高山植物だけである。
■D.O.アコンカグア Aconcagua
第5州全域が該当する。サブリージョンはD.O.アコンカグア・ヴァレー、D.O.カサブランカ・ヴァレー、D.O.サンアントニオ・ヴァレー、 D.O.マルガマルガ・ヴァレーの4つがある。
D.O.アコンカグア・ヴァレーはアンデス山脈の麓から海岸に向かうアコンカグア川沿いの平地。周囲を1,500〜1,800mの山々に取り囲まれた比較的なだらかな地形である。穏やかな地中海性気候で、夏季の最高気温30℃、平均気温は14℃。夏の気温日較差は15〜20℃と大きい。ブドウの成熟にはもってこいの条件である。日照量は申し分なし。曇りの日は希で1年のうち240〜300日は晴れ。カベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネール、シラーなどのしっかりした赤が中心。
D.O.カサブランカ・ヴァレーは、周囲を標高400m程度の丘陵に囲まれた傾斜地である。海岸山脈の西側にあるため、午後には冷涼な海風が吹きぬけ気温が下がる。また朝には霧がたちこめる。遅霜の被害の大きい年があり生産量が安定しない。夏季の平均気温は25℃、年間平均では14℃。1990年代にチリで初めて開拓された冷涼な畑で、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ワール、シラーが栽培されている。
D.O.サン・アントニオ・ヴァレー(サブゾーンにD.O.レイダ・ヴァレーがある)は、海岸山脈の西側で太平洋に面した斜面である。冷たい海風が直接吹きつける。ここに1990年代後半からブドウ畑開発ラッシュがやってきた。爽やかな酸味とミネラルの要素をもつ白ワインや繊細なピノ・ノワールで頭角を現してきている。ソーヴィニヨン・ブランも増えている。従来、海岸山脈の山中や内側にブドウ畑が拓かれてきたのだが、このところ注目を集めているのは、ロ・アバルカ、サント・ドミンゴなど海岸山脈の海側に面した寒風の吹きすさぶ斜面の畑である。
■D.O.セントラル・ヴァレー Central Valley
首都州、第6州、第7州にまたがる広大なブドウ産地。チリのブドウ栽培はこのセントラル・ヴァレーで始まった。伝統的にはボルドー品種とパイスが栽培されてきたが、最近はテロワールの特徴に合わせた新品種の栽培が盛んだ。マイポ川流域とランカグアおよびクリコ周辺には大規模ワイナリーがあり、南のD.O.マウレ・ヴァレーの栽培家はそれらのワイナリーにブドウを供給してきた。これらの栽培家が独立し、海外から移住してワイン造りを始めた生産者とともにMOVI(Movimiento de Vinateros Independientes モビミエント・デ・ビニャテロス・インデベンディエンテス)という生産者団体を組織している。雨量は年間300mm未満と極端に少なく、耕作には灌漑が必要だ。
D.O.マイポ・ヴァレーは、首都州(RM州)にある原産地呼称。西側に第5州(アコンカグア)が入り込んでいるため首都州には海がない。ブドウ栽培の歴史は古く、マイポ川流域にブドウ畑が集積している。東端は標高1,000m、西端は標高500mで東から西に向かってなだらかに傾斜している。温暖で穏やかな地中海性気候。アンデスの麓の気温日較差は20℃に達する。カベルネ・ソーヴィニヨンが栽培面積の50%以上を占める。サンティアゴのマクールやプエンテ・アルト、ブイン、ピルケなど有名な畑が多い。
D.O.ラペル・ヴァレーは第6州の原産地呼称。D.O.の西側を海岸山脈が南北に走る。海岸山脈の標高は500m未満で際立った高い山がなく、カチャポアル川とティングリリカ川が合流してラペル湖となり、そこからラペル川となって太平洋に注ぐ。海岸山脈は標高600m、東端は標高1,000m。サブゾーンが設定され、北側のカチャポアル川流域がD.Oカチャポアル・ヴァレー、南のティングイリリカ川流域がD.O.コルチャグア・ヴァレーである。
D.O.カチャポアル・ヴァレーは西側に大きなラペル湖があるため海風の影響が少なく、ペウモのカルメネールなどしっかりした赤ワインの産地として知られている。またアンデス山脈側のレンゴはカベルネ・ソーヴィニヨンが有名だ。
D.O.コルチャグア・ヴァレーは、伝統的にカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロが栽培され、近年はシラーやカルメネールが続いている。中央部のアパルタ丘陵には有名なワイナリーが集まっている。アンデス山脈側はチンバロンゴやロス・リンゲスが有名だ。また近年はブドウ畑が冷涼な沿岸部(パレドネスなど)に広がり冷涼気候を好むソーヴィニヨン・ブランの栽培が増えている。D.O.クリコ・ヴァレーは第7州の北側一番で、D.O.テノ・ヴァレーとD.O.ロントゥエ・ヴァレーの2つのサブゾーンがある。東からアンデス山脈、中央平地、海岸山脈が比較的きれいに並行して南北に延びている。ブドウ畑はマタキト川とクラロ川に挟まれた中央平地と海岸山脈寄りに多い。やや湿潤な地中海性気候で太平洋高気圧の影響を受ける。気温の日較差は15℃前後。カベルネ・ソーヴィニヨンの古木が多い。
D.O.マウレヴァレーは第7州の南側一帯。チリ最大のブドウ産地で、ここも西側から海岸山脈、中央平地、アンデス山脈の順に東西になだらかに傾斜した地形である。気候はやや湿潤な地中海性気候。冬の雨は多めで年間降水量は735mm。その後は日照に恵まれ高温乾燥の天気が続く。年間平均気温は14℃、1月の最高気温は32℃、気温の日較差は15〜18℃。D.O.トゥトゥベン・ヴァレーにあるカウケネス産カリニャンが有名だ。
■D.O.サウス South
第8州のD.O.イタタ・ヴァレー、D.O。ビオビオ・ヴァレー、第9州のD.O.マジェコ・ヴァレーという3つのサブリージョンで構成される。降水量が多いので多くの畑は灌漑を必要としない。灌漑地域は全体の約10%である。パイスの栽培が多くワインのほとんどが国内消費用に向けられている。
D.O.イタタ・ヴァレーはパイスとモスカテル・デ・アレハンドリアが主だったが、近年、シャルドネなどの栽培が広がってきた。
D.O.ビオビオ・ヴァレーも海岸山脈の東側斜面を中心にピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ゲヴュルツトラミネールの栽培が増えている。
新しい栽培地D.O.マジェコ・ヴァレーの冷涼湿潤な気候に注目してシャルドネを新植し、フレッシュで複雑味のあるワインが誕生している。
■D.O.セカノ・インテリオル Secano Interior
クリコ、マウレ、ビオビオ、イタタの非灌漑地で栽培したパイスとサンソーに適用される呼称。4地域のブドウは単独でもブレンドしてもよい。またパイスとサンソーは単独でもブレンドしてもよい。このD.O.名が適用されるエリア(村名)は、別表に太字で記載した。
パイスとサンソーは、SAGのラベル表示のできるブドウ品種別表に入っていない。その救済策としてこの呼称があった。ところが2018年からこのD.O.セカノ・インテリオルの適用される地域で収穫したパイスとサンソーであれば、D.O.マウレのように地名D.O.を表記してもよいことになった。
■D.O.アウストラル Austral
2011年に新しく認定された原産地呼称で、スール(南)よりさらに南に位置するためアウストラル(南極)と名付けられた。D.O.カウティン・ヴァレーとD.O.オソルノ・ヴァレーというサブ・リージョンがあり、シャルドネ、ピノ・ノワールなどが栽培されている。オソルノの湖水地方ラゴ・ランコやリオ・ブエノには、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングも栽培されている。2018年6月、オソルノよりさらに南に位置するチロエ島にアルバリーニョなどが植栽された。まだD.O.に認定されていないが、ここがチリ最南端のブドウ畑である。
■新しい原産地呼称表示の採用
チリの原産地呼称は北から南に向かって国土を行政区分(州)に沿って水平に切ったものだ。しかし、このように国を北から南に向かって州ごとに水平に区切って産地を区分しても、そこで生まれるブドウとワインの特徴の説明にはならないことが、新しいブドウ畑の開拓とテロワールという考え方の導入によって明らかになった。
D.O.リマリ・ヴァレーと、D.O.ビオビオ・ヴァレーは距離にして1,000km以上も離れているが、栽培品種やワインには共通項が多い。ところが東西にわずか50kmも離れていないD.O.マイポ・ヴァレーとD.O.カサブランカ・ヴァレーでは栽培品種もワインも大きく異なる。また、D.O.マイポ・ヴァレーにあるアルト・マイポ(アンデスの麓の傾斜地)とイスラ・デ・マイポ(平地、マイポ川氾濫の跡地)は隣り合っている地区だが、そこで造られるワインのスタイルは大きく異なる。アルト・マイポのワインはその南にあるD.O.ラペル・ヴァレーのアルト・カチャポアル(アンデスの麓の傾斜地)のワインと似ている。
つまりチリワインの産地区分は北から南に向かって国土を水平に切断して分けるより、気候の特徴(あるいは土壌の組成)に沿って東西に垂直に区分した方が土地の共通項がはっきり見えてくる。
2011年に従来の原産地呼称表記に付記する格好で二次的な産地表示ができるようになった。それはブドウ産地を地図上で垂直に分けたもので、西から東に、以下のように3つに分けた。
①Costa コスタ(海岸に面した畑、コースタル)
②Entre Cordilleras エントレ・コルディリェラス(海岸山脈とアンデス山脈の間、つまり中央部の平地)
③Andes アンデス(アンデス山脈側の斜面、ヒルサイド)
今後はこの改訂に沿って、「D.O.マイポ・アンデス」や「D.O.ラペル・コスタ」などとラベル表記されたボトルが市場に出てくることになる。
それぞれの表示には当該産地のブドウが85%以上含まれている必要がある。ただ、チリのワイン生産者の中には、すぐにはこのラベル表記を採用しないと言うものが多い。
以下、3つの新しい原産地呼称の特徴をまとめた。
■コスタCosta
チリの海岸線は南北4,000kmを超える長さがある。その海岸には南極海からフンボルト寒流が流れている。沿岸の海水は真夏でも冷たく、人々は砂浜で日光浴はするが海水浴は水温が低すぎてできない。この冷たい海から内陸に向かって吹く海風がブドウ畑に及ぼす影響はきわめて大きい。コスタは、チリワインに多様な広がりをもたらしたと同時に、かつては思いもよらなかった新しいスタイルをチリワインに提供したといえる。また、コスタは冷たい海と涼しい海風の影響をきわめて強く受けているだけでなく、土壌にもカルシウムなど海洋性の要素を多く含んでいるのが特徴だ。コスタのブドウから生まれるワインには、ミネラルや塩味が強く感じられ、心地よいシャープな酸味を伴っている。コスタの栽培品種は、世界的に人気のあるソーヴィニヨン・ブランをはじめ、シャルドネ、ピノ・ノワールといった冷涼地に適した品種が主体になっている。また、独特の香味をもつ冷涼地シラーや冷涼地メルロも注目を浴びている。コスタの海風の冷たさは尋常ではない。だから同じコスタでも、①海に面した斜面で海風が直接吹き付ける、②海岸山脈の内部、③海岸山脈の東側(コスタ・インテリオル)の三地域で涼しさに大きな違いが生まれる。ことに最近のコスタにおけるピノ・ノワールの栽培にはこれが大きく影響しており、③に比べて①や②の畑で収穫するピノ・ノワールの品質の高さに注目が集まっている。
■エントレ・コルテディリェラス Entre Cordilleras
コルディリェラは山のことで、エントレ・コルディリェラスは2つの山脈の間という意味だ。アンデス山脈と海岸山脈の間に位置する平坦で肥沃な地域を指している。ボルドーのアントル・ドゥー・メール(こちらは2つの大河に挟まれた平坦な地域)に似た呼称だ。南北に走る2つの山脈がエントレ・コルディリェラスと、コスタ及びアンデスとの境界線になっている。
チリの農業はエントレ・コルディリェラスで始まった。地中海性気候で肥沃な沖積土壌に恵まれたこの地域は、ブドウ栽培のみならず小麦や果樹などチリ農業を支える中心的な耕作地である。基本的には平坦な地形で殊に南のD.O.クリコ・ヴァレーやD.O.マウレ・ヴァレーに向かうと広大な土地が広がるが、そのすべてが平地というわけではない。海岸山脈の一部にはD.O.コルチャグア・ヴァレーのように東西に横断するものがあり、さらにはアンデスから太平洋に向かって東西に流れる幾筋もの河川がその流路に河川敷と河岸段丘を形成している。これらがエントレコルディリェラスに小さな起伏と複雑に入り組んだモザイク状のテロワールを形成している。チリを代表する赤ワインの多くはエントレ・コルディリェラスで造られている。そして、エントレ・コルディリェラスのブドウはチリワイン生産の約60%を占めている。
そのありようは北部と南部ではずいぶん違ったものになっている。たとえば北部のD.O.コキンボ(サブリージョンにD.O.エルキ・ヴァレーやD.O.リマリ・ヴァレーがある)ではアンデス山脈と海岸山脈が接触していて中間の平地がほとんどない。だからこの地域のエントレ・コルディリェラスはプニタキだけである。プニタキは伝統的にピスコ(ブドウで造る蒸留酒)用ブドウを生産してきたが、近年、シラーやカルメネールの栽培で注目されている。
そのすぐ南のD.O.アコンカグアで2つの山脈は左右に分かれはじめるので、ここから本格的なエントレ・コルディリェラスが始まる。D.O.アコンカグア・ヴァレーでは中央平地のパンケウエとオコアがエントレ・コルディリェラスだ。アコンカグア川に沿ったこの地域は、チリで最も古いブドウ栽培格地のひとつである。ここではカベルネ・ソーヴィニヨンをはじめシラー、メルロ、プティ・ヴェルドなどが栽培されている。
アコンカグアからさらに南に進むと、マイポ、ラペル、クリコ、マウレといったチリワインの主産地D.O.セントラル・ヴァレーに至る。それぞれの地域にアンデスから太平洋へと流れこむ大きな河川がある。
■アンデスAndes
チリとアンデス山脈は一体不可分の関係にある。地図帳を開けば一目瞭然だ。そしてチリの文化はアンデスの山々がもたらしたものといっても過言ではない。ワインとブドウもその一部である。アンデスの山々がチリの国土に及ぼす気象上の影響はきわめて大きい。たとえば、早朝にアンデス山中で形成された冷気の塊が、朝日とともに山間から麓へと吹きおろす。山の麓に拓かれたブドウ畑はそのおかげで比較的涼しく風通しもよい。さらには遅霜の降りる心配もない。日中は強い日差しを受ける斜面も日が落ちると急激に冷えるので昼夜の気温差が大きくなる。こういう理屈を昔の人々はすでに知っていて開拓当初からアンデスの麓にブドウ畑が拓かれた。雪解け水を使えば畑も簡単に灌漑できた。彼らはこの山から毎朝吹き降ろす風をEl Laco(エル・ラコ)と呼んでいた。
D.O.エルキ・ヴァレーは内陸に向かうほど(アンデスに向かうほど)標高が高くなり降水量が少なくなる。これはエルキの南に位置するD.O.リマリ・ヴァレーも同様だ。ここには海岸山脈とアンデス山脈の中間に位置する平地がない。D.O.セントラル・ヴァレーではアンデス山脈で形成された冷気が驚にあるアンデスのブドウ畑に吹き降りてくる。この地城一帯でチリを代表する赤ワイン、白ワイン、スパークリングワインが生産されている。アンデスの土壌は崩積土(斜面の麓に溜まった土壌)や火山性土壌で構成されているが、これには岩石や小石が多く含まれている。土壌中の有機物はとても少ないが水はけはよい。標高の高い畑では深く伸びたブドウの根が直接に地下水層を振むことができる。アンデスに位置するブドウ畑は、その標高や斜面の向いている方向、あるいはその斜度などによって産みだすブドウに大きな違いが生まれる。しかし共通しているのは凝縮した品質の高いブドウになることだ。
参考資料 日本ソムリエ協会教本、隔月刊誌Sommelier
最後までお読み頂きありがとうございます。
なお、この記事のスポンサーは『あなた』です。ご支援お待ちしています。
#ワイン #wine #vin #vino #vinho #おうち時間 #宅飲み
【Wine ワイン】Montes Outer Limits Syrah
■Producer (生産者)
⁃ Montes
■Country / Region (生産国 / 地域)
⁃ DO. ZAPALLAR / Aconcagua
■Variety (葡萄品種)
⁃ 100% Syrah
■Pairing (ペアリング)
⁃ Asado アサード(BBQ)
■プロフィール
チリは「3Wの国」といわれる。すばらしい天候Weatherに恵まれ、コロンビア、コスタリカと並び"南米3C"と称される。きれいな女性Womenがいて、おいしいブドウ酒Wineの産地として名を馳せているという3つのWである。
2019年のチリワイン輸入量(ボトル) は前年を少し下回る591万ケースだった。これにバルクで輸入して日本国内でボトリングする製品を加えると630万ケース(前年比10.5%源)になる。前年に続き国別輸入量で第1位を維持している。
チリワインの輸入増加は2007年から始まった。そのきっかけは2007年9月3日に日本とチリの二国間で発効された経済連携協定に基づく関税率の通減だった。これは2019年4月1日に相互の貿易にかかる関税を無税にしようとするもので、毎年、関税率が通減されていく協定である。ワインもこの恩恵にあずかったのでチリワインは他国産ワインより安く輸入できて、しかも年々安くなった。
2019年4月以降、チリワインにかかる関税はゼロになった。ところがそれより2ヶ月前の2019年2月に日欧EPAが結ばれてヨーロッパワイン(EUワイン)の関税もゼロになったので、チリワインとヨーロッパワインに関税差がなくなった。けれども関税のかかるアメリカ、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンなどのワインより有利な立場にある事は変わりない。
チリワインのもつ優位性はそれだけではない。ブドウ栽培にうってつけの自然環境に恵まれていることだ。
チリは南アメリカ大陸の西海岸にあり、その国土は南端がパタゴニアの南氷洋、北端はアタカマ砂漠でその南北の隔たりは4,274kmにも及ぶ。その反対に国土の東西はとても狭い。最も狭いところはわずか90km、最も広いところでも380kmしかない。ブドウ栽培地域は国土のちょうど中間部分、南緯27度から39度までのおよそ1,400kmに広がっている。
中央部では古くからブドウはもとよりさまざまな果樹栽培が盛んで、ドールやデルモンテなど米国大手食品企業の果汁工場がパンアメリカン・ハイウェイに沿って軒を連ねている。
隣国アルゼンチンとの国境は6,000m級の山々の連なるアンデス山脈。古くは硝石、 近年は銅など豊かな鉱物資源がこの国の経済を支えてきた。また、 国土の西側はとても長い太平洋の海岸線である。南氷洋から北に向かって流れるフンボルト海流は冷たい寒流で、真夏でも海水浴ができない。人々は砂浜に集まって甲羅干しするだけだ。そのかわりたくさんの漁場に恵まれており、サーモンなどチリ産の魚介類は日本全国のスーパーの魚売り場の定番になっている。
■歴史
16世紀〜19世紀
(鉱山富豪がワイン産業のスポンサー)
チリのブドウ栽培は16世紀半ば、スペインのカトリック伝道者が聖餐用ワインを造るためパイス種を植えたことに始まる。Francisco de Aguirre(フランシスコ・デ・アギーレ)のブドウ畑がチリ最初のものとされる。
1818年にスペインから独立したチリは、 硝石などの鉱物資源をもとに経済成長を遂げる。いわゆる鉱山富豪が続々誕生し、彼らがワイン産業のスポンサーになってチリワインの新しい時代が始まる。
チリ政府はサンティアゴに農事試験場(キンタ・ノルマル・デ・アグリクルトゥラ)を開設しフランスからClaude Gay(クロード・ゲイ)を招聘した。ゲイは1830年にヨーロッパからカベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、リースリングなどの苗木を輸入し、キンタ・ノルマルの実験畑に植えた。パイスに代わるワイン用ブドウの栽培を企図したのである。クロード・ゲイの試験栽培に触発されたSilvestre Ochagavia(シルベストレ・オチャガビア)は、1851年に渡欧し、1852年、フランスから大量にブドウの苗木を輸入し、マイポ・ヴァレーのタラガンテに植え付けた。その時輸入されたのはすべてボルドー品種だった。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、 カベルネ・フラン、マルベック、カルメネール、そして白品種ソーヴィニヨン、セミヨン、ミュスカデルである。同じころ、 これとは別にドイツのリースリングもほんの少し持ち込まれている。甘口ワイン全盛の時代だったからだ。19世紀半ばのブルゴーニュワインは、 まだ田舎のワインだったのでピノ・ノワールとシャルドネはチリに輸入されていない。またチリでは長らくスパークリングワインを飲むことが稀だったのでシャンパーニュへの関心は薄かったようだ。
この品種構成が後に大きな問題を生むことになる。1980年代から1990年代にかけて世界的に広がったヴァラエタルワインブームは、カベルネ・ソーヴィニョンとシャルドネの2品種が主役だった。 チリには大量のカベルネ・ソーヴィニョンはあったが、シャルドネがまったくなかった。だからセミヨンやソーヴィニヨンの樹を切ってそこにシャルドネを接ぎ、何とか需要に見合うだけの生産量を確保しようと躍起になったのである。
19世紀後半にはブドウの苗木だけでなく、栽培・醸造技術者もフランスから招聴し、本格的なワイン造りを始めた。
当時の鉱山富豪は、ワインや醸造機器はもとより豪勢なシャトーやゲストハウスまで気にいったものはすべて輸入した。
現在、チリの大手ワイナリーがホテルやオフィスとして使用している建物の建築様式や家具調度は、当時のフランスそのもの。まさに鉱山が生み出したバブルの時代であった。
19世紀末にはフィロキセラ禍にあえぐヨーロッパのワイン生産地から、醸造家や栽培家がフィロキセラの被害のないチリに続々と移住してきた。そして彼らの造ったワインを、ワインが枯渇し始めたヨーロッパに向けて輸出した。1889年のパリ万国博覧会ではチリワインの品質は大いに評判になった。
20世紀〜1980年代
(生産過剰、荒廃から復興へ)
20世紀に入るとイタリアから大量生産に適した栽培技術(パラール=棚栽培)が導入され、灌漑設備(フラッド灌漑)も整って増産体制が固まった。南部のパイスはコンセプシオン近郊の非灌漑地(セカノ・インテリオール)で株仕立て(エンバソ)されていたが、マウレやイタタなどの平地で棚栽培フラッド灌漑(用水路、ため池の設営)で生産されるものが主流になった。ちなみにチリのヴィニフェラ種栽培面積は、1875年の44,000haから1900年頃には80,000haに増加している。一方、ヨーロッパの栽培地では台木に接ぐ技術が導入されて、ワイン生産が徐々に復興し、チリワインを必要としなくなった。消費不振で生産過剰に陥ったブドウ農業は、新植禁止という事態になる。1960年代後半から1980年代初めに至るまでチリのブドウ農業は深刻な生産過剰問題を抱え、ブドウ価格はほとんどただ同然になってしまいブドウ栽培から離れる人が多かった。1974年の栽培面積は106,000haだったが、1994年には54,000haまで減少している。この減少理由は、南部のパイスとムスカテルの畑40,000haに松やユーカリを植えたからだ。
1979年にスペイン・カタルーニャのミゲル・トーレスがクリコ・ヴァレーに土地を購入してステンレスタンクやオーク樽などの新しい醸造機器を設置し、フレッシュ&フルーティなワインをチリのプドウで造ってみせた。そうこうするうちに農産物の価格引き上げ策が効を奏し、1980年代半ばになってようやくワイン産業に活気が戻った。
フィロキセラ禍もなければ秋雨の心配もないチリでは、19世紀半ばの状態が手つかずのまま連綿と引き継がれたのである。畑の新陳代謝はプロヴィナージュ(成木の枝を誘引して土中に埋め、発根したら切り離して新株を得るフィロキセラ禍以前の伝統手法)で行った。
ともかくこうしてチリワインは、1985年以降、最も遅く国際市場に参入した。そして先述のような、競って新品種シャルドネを植える動きが生まれるのである。ワイナリーでは、 発酵槽として使っていたラウリ(チリ原産の木)の大樽を撤去してステンレスタンクを新設・増設する突貫工事をしながら、その傍らでワイン造りを同時進行させる。しかし、でき上がったワインは値段が安く品質の良いものだった。
2000年代
(適地適品種の考え方で新しいワイン造り)
1990年代に入ると、先駆けの大成功を目の当たりにした人達が次々とワイン造りに新規参入してきた。これには、それまでワイナリーにブドウを販売していた栽培者が自前でワインを造るようになったケースと、新しく土地を買いプドウを植えたまったくの新規参入者の2通りがあった。
チリワイン産業は21世紀を目前にして、新しいステージを創造しなければ国際市場で生き残ることができないという大きな課題に直面していた。そこで、 「シンプルでジャムのようなヴァラエタルワイン」と言われる状態から、 付加価値のあるプレミアムワイン造りへと舵を切ったのである。
余談だが、残念なことに日本におけるチリワインに対する印象はヴァラエタルワイン全盛時代で止まったままだ。
2007年から日本向け輪出が大幅に増えているといっても、その中味は1990年代に活躍した低価格ヴァラエタルワインの復古品が主役で、日本の料飲店関係者や消費者には進化したプレミアム·チリワインの存在がきちんと知らされないままになっている。
チリワインの新しいステージはテロワール(テルーニョ)をコンセプトにしたワイン造りをすることだった。テロワールが土と空(気候)と人為という3つの要素で構成されるとするならば、チリがそれらをはっきりと意識してブドウ畑の選定と耕作に取り組んだのは最近のことである。1980年代にPablo Morande(パブロ・モランデ)が先鞭をつけ、1990年代に開拓ラッシュになった海岸近くのカサブランカ・ヴァレーは、 絶対量の不足していたシャルドネの生産適地を冷涼地に求めたという意味で、 その走りだったと言えるだろう。
ともかく、平凡なヴァラエタルワインから脱却し、新鮮な果実味と複雑味を備えたワイン造りを目指して、チリの生産者は先を競って具合のよい傾斜地を探し、 涼しい風の吹きこむ土地を見つけて、 そこをブドウ樹で埋め尽くしてきた。そして10年以上が経過したいま、 その樹がようやく最良の生産樹齢に達し、興味深いワインを産み出している。
■気候風土
チリは南北に細長い国で、東側をアンデス山脈、太平洋岸に海岸山脈が走り、 その中間部が広い平地になっている。冬の数カ月だけ集中して雨が降り、晩春から夏の終わりまでは乾燥している。典型的な地中海性気候で、最も暑い月の日中の気温は30℃に達する。夜になると夏でもかなり涼しくなる。昼夜の気温差は、海岸沿いのブドウ畑で15℃~18℃、アンデスの麓の畑では20℃以上にもなる。
セントラル・ヴァレーの雨は冬に降るだけ。ここでの耕作には灌漑用水が欠かせない。だから耕作地は河川の流域に限られた。チリの河川はみなアンデスから太平洋へ向かって東西方向に流れる。流路の短い急流が何本も走る。マイポ・ヴァレーにはマイポ川、 アコンカグア・ヴァレーにはアコンカグア川、コルチャグア・ヴァレーにはティングイリリカ川という具合だ。いずれも夏には干上がって川床が刻き出しになる。同じ南米大陸を流れる川でもアンデス山脈の東側を悠然と流れる大河アマゾンやラプラタとは対照的だ。
■伝統的な灌漑の方法
それぞれの耕作地には古くからアンデスの雪解け水を引き込むための灌漑用水路がある。
チリの伝統的な灌漑の仕方は、 雪解け水を貯めて(あるいは川から引きこんで)畝間に流すナチュラル・イリゲーションである。アンデスからの水の供給量が不足している地域や、水がほとんど来ないカサブランカ・ヴァレーなどでは、井戸を掘って水を確保し、 ドリップ・イリゲーション(点滴灌漑)で水の浪費を防いでいる。
ブドウ樹が水を必要としているかどうかを確認するために、樹間に1mほどの深さで管を通し、その部分の湿度を定期的にチェックする。 あるいはカリカタ (畝間に掘った土壌分析のための穴)を掘り、土質を分析するとともに有効な灌水量の調査も進めている。そして最近では、乾燥の烈しい斜面の畑を除けば、自然のままに任せて灌水をしないドライファーミングの畑が増えてきた。 灌水するにしてもその時期と給水量に十分な注意を払っている。一般に収穫の1カ月前には完全に灌水を中止する。給水によるブドウ果粒の水ぶくれを避けるためだ。
■ブドウ成熟期の涼しさの確保
チリで水の確保とともに重要なことは冷気、ブドウ成熟期の涼しさである。
チリのみならず南半球のブドウ栽培地は、北半球のそれに比べいったいに緯度の低いところに位置している。いや、寒さや雨による栽培リスクを避けるためにわざわざそういう土地を選んでブドウ畑を拓いたといった方が正しい。緯度が低いと日射角が鋭くなり日射量が多くなる。日射量が多いと紫外線も強い。ブドウは強い紫外線に抵抗して果皮を厚くする。厚い果皮にはポリフェノールが豊富に含まれる。だからチリワインは冷涼地のブドウ(ピノ・ノワールやシラー)で造ったものでも色の濃いものが多い。
涼しさはどこにあるのか。ひとつは万年雪を被ったアンデスの山々から風が吹き下ろす山麓·斜面の畑、 もうひとつは太平洋を流れるフンボルト寒流で冷やされた海風の吹きつける海岸に近い畑である。アンデスの麓と海岸山脈の斜面は異なる理屈であるけれども涼しいという共通項を持っている。
冷涼地の開拓は、1982年に始まったカサブランカ・ヴァレーを皮切りに、サンアントニオ・レイダ、リマリ、コルチャグア・コスタ、マウレ・コスタなどが続いた。一方、マイポ、カチャポアル、コルチャグア、マウレなどのアンデスの麓の畑では急斜面を切りひらいてブドウ畑が延びていった。さらに、秋雨のリスクはあるけれどもセントラル・ヴァレーより涼しい南部ビオビオにもブドウ畑は広がった。
近年はクール・クライメット(冷涼な栽培環境)の枠を超え、これ以上の条件ではブドウ栽培ができない、究極の栽培環境(エクストリーム・ウェザー、アルティメット・クライメット)を求める栽培家が増えている。
ウアスコ・ヴァレー
アタカマ沙漠の南端、海岸から20kmほど内陸に入ったロンゴミジャにブドウ畑をひらいた。camanchaca(カマンチャカ)と呼ばれる冷たい海霧がウアスコ川沿いに侵入するので、沙漠地帯でもブドウ栽培が成立する。ウアスコ産の個性的なソーヴィニヨン・ブランが人気。
エルキ・ヴァレー
南緯30度、アンデス山中の標高2,200mにひらいたアルコワスのブドウ畑。シラー、ガルナッチャ、マルベックなどを植栽している。紫外線の強い高地なのでトゥーリガナシオナルの適性も試されている。
コスタ
アコンカグアからマウレに至る海岸山地の山中や海に面した斜面にひらいたブドウ畑。朝は海霧に覆われ、冷たい海風が直接に吹きつける。サパヤル、ロ・アバルカ、サント・ドミンゴ(以上アコンカグア)、パレドネス(コルチャグア)、エンベドラド(マウレ)。ここでは主にピノ・ノワールが栽培されている。また、リカンテン(クリコ)の、スパイシーなマルベックやカベルネ・フランも注目されている。
オソルノヴァレー
最南部のD.O.アウストラルに広がる湖水地方のラゴ・ランコ、リオ・ブエノにひらいたブドウ畑。オソルノ山は富士山を思わせる容貌で“チリ富士”と呼ばれてすそのいる。裾野には渓流や温泉がある。ラゴ・ランコは丘陵地で涼しいが年間降水量は1,800mmもあって、日本と同じように収穫期にも雨が降る。シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ピノ・ノワールを栽培している。2018年6月、オソルノよりさらに南にあるチロエ島にアルバリーニョなどが植えられ、これがチリ最南端のブドウ畑になった。
■土壌の特徴
次に土地の成り立ちや土壌組成の特徴をみる。地質学的にみると、今から1億年前~8000万年前にナスカ・プレートが南米プレートにぶつかって南米プレートの下に滑り込んだ。その衝撃で地震や造山活動が活発になり、その結果としてアンデス山脈が形成された。海岸山脈(沿岸山脈)はアンデスの山々よりはるかに低い丘陵だが、その成り立ちはアンデスより古い。アンデス形成以前の海岸山脈は幾つかの島であり、現在のチリの国土は水面下にあったと考えられている。
セントラル・ヴァレーは、2つのプレートの衝突によって隆起して陸地になり、そこにアンデスの造山活動で降ってきた火山を 岩や灰が堆積し、その上に河川の運んだ砂利や粘土が層を成してできあがった。また、海岸山脈はアンデスのように南北にきれいに連なった山々ではなく、褶曲、隆起、陥没を繰り返し、あるものは伸び、あるものは縮み、 あるところでは川に浸食されて、まったく混沌として無秩序な形になってしまった。だから、その斜面はじつに多様で、ところによってさまざまな方角を向いている。たとえばアパルタなどの有名な畑のあるコルチャグア・ヴァレーは東西に伸びる海岸山脈の斜面にある。アパルタは海岸山脈の南向き斜面(南半球では南向き斜面が涼しい)に拓いた畑である。
そういう成り立ちからアンデスの麓は主に火山性土壌や崩積土、中央部の平地は肥沃な沖積土、海岸山脈側は砂が多く痩せた古い土壌、石灰質土壌などが支配的になっている。
■チリにフィロキセラの被害がない理由
ブドウの生育期間(発芽から収穫まで)を通じて乾燥状態が続くからボトリティスやベト病など菌類の病気に置らないこともチリのブドウ栽培の特徴だ。またチリにはフィロキセラの被害もこれまでのところない。だから北米品種の台木に接木する必要がない。これまでブドウ樹はプロヴィナージュで植えてきた。チリではムグロンと呼ぶ(フィロキセラ禍以前のヨーロッパでも行われていた)増植法である。しかし、隣国アルゼンチンのメンドーサがそうであったように、 水田のようなナチュラル灌漑からドリップ・イリゲーションに切り替えると、フィロキセラの現われる危険性が高まると言われている。だからチリでは、いつ何時、フィロキセラの棲息が確認されても良いように保険の意味合いで北米台木に接木をして新植する畑が増えている。
北米台木との接木を採用する理由は他にもある。ひとつはNematoda(ネマトーダ)(ネコブセンチュウ)という害虫対策だ。ネマトーダは根に大小の虫こぶをつくって時に根を腐らせることもあるが、フィロキセラのような強い感染力(繁殖力)はない。もう一つは最近の土壌分析で明らかになったことだが、ヴィティス・ヴィニフェラの根は怠情で地表近くに水分があるとそこに居座り、地中深くまで入り込もうとしないことだ。それに比べると北米品種の根の多くは地中深くまで伸びて深層のミネラル分を吸収する。だからそれぞれの地層に適合した北米品種の台木を選んで接木する。ちなみに現在、台木品種は数多く販売されているが、 いずれも北米原産のヴィティス・リパリア、ヴィティス・ルペストリス、ヴィティス・ベルランディエリのうちの2種を交雑したものである。リパリアは比較的根の浅い性質、ルベストリスは乾燥に耐え根が深い性質、ベルランディエリは乾燥と石灰質土壌に強い性質がある。これらの中から土壌構成に合わせて台木を選ぶようだ。
蛇足をひとつ。1990年代にカリフォォルニアのブドウ樹が台木を使っていたにも関わらずフィロキセラの被害に遭って改植を余儀なくされた。当時、 カリフォルニアではAXRという台木を使っていた。AXRはA=アラモンとR=ルペストリスの交雑種であり、アラモンはヴィティス・ヴィニフェラだ。このアラモンの性質が新種のフィロキセラに弱かったというわけだ。
チリにフィロキセラの被害がない理由を聞くと「東をアンデス、西を太平洋、北をアタカマ砂漠、南を南氷洋に囲まれているチリは自然の要塞でフィロキセラを寄せ付けない」と説明されることがしばしばある。だが、 フィロキセラの棲むメンドーサとは、毎日たくさんのトラックが往来しているから、いつでもフィロキセラは侵入できるはずだ。だからこの説明には無理がある。それでも、 ともかく今のところチリにはフィロキセラの被害の報告はない。そしてチリの農業省農牧庁SAG=Servicio Agrícola y Ganadero Departamento Protección Agricola(セルビシオ・アグリコラ・イ・ガナデロ・デパルタメント・プロテクシオン・アグリコラ)の植物検疫は非常に厳しく、新品種を外国から輸入する際には検疫所で2~3年かけてウイルスチェックなどを行うことが義務付けられている。
■主なブドウ品種
2018年のチリのブドウ栽培面積は137,191ha。赤ワイン用品種100,960ha、白ワイン用品種36,230ha。 チリで栽培するワイン用ブドウ品種は86種になった。主なブドウ品種の栽培面積は次の通り。
品種名 面積(ha)
Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニヨン 41,099
Sauvignon Blancソーヴィニヨン・ブラン 15,383
Merlot メルロ 11,844
Chardonnay シャルドネ 11,242
Carmenère カルメネール 10,647
Pais パイス 10,237
Syrah シラー 7,668
Pinot Noir ピノノワール 4,144
Malbec マルベック 2,340
Carignan カリニャン 858
■カベルネ・ソーヴィニヨン
カベルネ・ソーヴィニヨンが全体の30%を占めている。これにその他のボルドー品種を加えると6割強の占有率になる。
マイポ・ヴァレーが主産地で、プエンテ・アルト、 ピルケ、プイン、アルト・ハウエルなどアンデスの麓の斜面に位置する畑が有名だ。ことにマイポ川北岸のプエンテ・アルトからはチリを代表する赤ワインが生産されている。
■ソーヴィニヨン
チリにはソーヴィニヨン・ブランではなくSauvignonasse(ソーヴィニヨンナス)=Sauvignon Vertが多かったので、ラベルには「ソーヴィニヨン」とだけ表示される時期があった。その原因は19世紀半ばにボルドーから苗木が輪入された時に遡る。当時からセミヨンにSauvignonasse(ソーヴィニヨンナス)=Sauvignon Vertが混ざって植えられた。1990年代のチリ産ソーヴィニヨン・ブ
ランは、トロピカルフルーツの香りのものが多かったが、涼しい畑で栽培する生産者が増えて野菜っぽい香りのするソーヴィニヨンブランが主流になり、このところはグレープフルーツの香りのものに移っている。北部のカマンチャカ(冷たい朝霧)の影響を受ける塩性地のものは塩っぽいミネラルが特徴だ。
■カルメネール
カルメネールはボルドー品種で、19世紀半ばにボルドーからカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなどと一緒に持ち込まれた。受粉の時期が低温になるとすぐに花震いをおこしてしまうこと、熟期がとても遅いなどの理由で、ボルドーでは栽培が途絶えてしまった品種である。
ところが天候の良いチリでずっと生き続けた。ただチリではそれを長らくメルロだと思っていた。初めてカルメネールが発見されたのは1994年11月24日のことだった。フランスのブドウ学者Claude Vallat(クロード・ヴァラ)が、当時のチリで栽培されていたソーヴィニヨンのほとんどがソーヴィニヨンナスだと主張し、1991年に初めてソーヴィニヨン・ブランのクローンをチリに紹介した。俳せてクロード・ヴァラは、 チリのメルロの一部もメルロであるかどうか疑わしい。 カベルネ・フランではないかと持論を述べた。
ヴァラの薫陶を受けたフランス人ブドウ学者
Jean Michel Boursiquot(ジャン・ミッシェル・ブルシクオ)がマイポ・ヴァレーのビニャ・カルメンの畑に出向き、「カルメネール」と結論付けた。当時、カルメンのエノロゴだったAlvaro Espinoza(アルバロ・エスピノサ)
は早速そのブドウでワインを造った。しかし、 農業省農牧庁SAGのワイン用ブドウ品種リストに「カルメネール」はなかったのでラベル表示することができず、アルバロは「Grand Vidure(グラン・ヴィデュール)1994」として市場に紹介した。
1996年になってようやくSAGはカルメネールを認証しラベル表示を許可した。しかし、当時のカルメネールは、しっかり畑で熟させていなかったのでピーマンのような青い香りを持っていた。その後、畑でメルロとカルメネールの植え分けが進み、カルメネールの栽培法もヴィンテージを重ねるごとに理解されるようになった。
カルメネールの特徴は色素の濃さにある。語源のCarmine(カルミン)は「深紅色の」という意味。香りの成分がしっかり熟すまでにとても時間のかかる品種で、早いうちに摘むとメトキシピラジンの青い香りが残る。しっかり成熟したブドウを摘むと熟した果実、さらに樽熟成によってコーヒーやチョコレートのような香りになる。 口に含んだ時の味わいには、やわらかくて丸いタンニンと凝縮した果実味が感じられる。
ペウモ(カチャポアル)、ロス・リンゲス、アパルタ(コルチャグア)、サン・フェリペ(アコンカグア)などのブドウ畑でチリを代表するカルメネールが生産されている。
■メルロ
カルメネールの進展の一方で、メルロが等開視されてきた。かつてメルロとカルメネールが混植・混同されていた時代のチリのメルロは、熟した果実にパプリカのニュアンスの加わったバランスの良いワインだった。しかしカルメネールを分離独立してからというものジャムのような香味のワインになっている。近年栽培適地を求め、メルロはセントラル・ヴァレーから北のリマリ・ヴァレーやエルキ・ヴァレー、 あるいはカサブランカ・ヴァレーなどの冷涼地に移動している。
■シラー
チリの新品種の中ではシャルドネに次いでシラーが大きな栽培面積を確保している。初めはコルチャグア・ヴァレーなど比較的暖かい産地に植えられることが多かったが、 最近はサンアントニオ・ヴァレーなど冷涼地で栽培されるクール・クライメット・シラーが注目されている。北部ローヌのシラーのようにロダンドン(胡椒の香り)の含有量が多く、引き締まった味わいが特徴。ただ、冷涼地のシラー栽培は緒に就いたばかりで、大方の畑は温暖なエントレ・コルディリュラスにある。
■ピノ・ノワール
ピノ・ノワールも着実に栽培面積を広げている。 新しく冷涼地を拓くとソーヴィニヨン・ブラン、 シャルドネなどの白品種とともに必ずピノ・ノワールが植えられている。ブルゴーニュの醸造家をコンサルタントに招いて栽培・醸造の両面から改善の取り組みが進んでいる。チリのピノ・ノワールは味わいが軽快でも色は濃くアロマに強さがあるのが特徴だ。海風が直接吹き込むサン・アントニオ・ヴァレーなどで育ち素晴らしい酸味をもっているが、日射量には低緯度特有の強さがあり果皮が厚く、色素が濃くなるからだ。
ピノ・ノワールはブルゴーニュのような海から遠く離れた内陸の畑で連綿と栽培されてきたブドウである。しかしチリのピノ・ノワールは海風と海霧の影響を強く受けているので、風味にもおのずとそうした特徴が表れている。
■パイス
チリのブドウ畑はパイスとともに歩んできた。しかし21世紀を迎えると年々歳々、栽培面積が減少した。マウレ・ヴァレーには零細なパイスの栽培農家が多く、 彼らの経営を守るために行政が幾つかのワイナリーにパイスの再生策を委嘱した。その結果、パイスで造った素晴らしいスパークリングワインや、軽快な赤ワインが誕生している。 ことに、 ながらく放置されてきた非灌漑地のパイスは、 樹齢が古くなり自然に収量がおちて品質が向上している。また、野生化したパイスを収穫してワインを作る動きもある。ブドウ樹はブドウ科のつる性落葉植物である。人がブドウを栽培するようにせんていなり、特定の仕立て方と剪定方法が採用されて現在のブドウ畑が出現した。しかし剪定せず天然のままにおけば、ブドウ樹はつるを伸ばし灌木に寄り添って日の当たるところで実を結ぶ。マウレの海岸山地の中に放置されていたパイスが野生化し、水場近くの灌木に寄生して実をつけている。樹に梯子をかけて収穫している。
■カリニャン
栽培面積わずか858haのカリニャンが話題になっている。2009年11月に12ワイナリーがVIGNO(ヴィーニョ)=Vignadores de Carignan(ヴィニャドレス・ド・カリニャン)を結成し、ヴュー・カリニャンのラベルに共通のロゴマーク「VIGNO」を表示して販売したからだ。このグループは2020年6月末現在、16ワイナリーを数えている。
VIGNOの製造基準は、 D.O.マウレ・ヴァレーのカリニャンを65%以上使用したワインであること。そして、①樹齢30年以上のブドウを使用、②灌漑をしていない (ドライ・ファーミング)畑で株仕立て(エンバソ)であること、③マウレ・ヴァレー(カウケネス、メロサル、サウサル、ロンコミージャ)のブドウであること、④木、セメント、アンフォラ、 ガラスの容器で24ヵ月以上熟成したもの、 が必要条件である。
1939年イタタ・ヴァレーの大地震でカウケネスのブドウ畑のパイスが壊滅した。1940年以降、パイスに代わる新品種がフランスから導入され新植された。 大量生産の時代ゆえ、持ち込まれたのは収穫量の多いラングドックのカリニャンだった。戦後の混乱と1970年代の動乱、 それに続くヴァラエタルワインの全盛期に、 カリニャンはすっかり放置されていた。その結果、年を経て老いた樹はほんの少しの実しか付けなくなった。ところがそれをワインにしてみるとすばらしい品質だった。こうしてVieux Carignan(ヴュー・カリニャン)を売り出すVIGNOが誕生した。
■ワイン法と品質分類
チリのワイン製造に関するルールは法NO.18455
(1985年。アルコール飲料の生産に関する規則)に定められ、それに沿って1986年に農業省令N0.78が制定された。それによるとワインは、
・ヴィティス・ヴィニフェラのブドウ果汁を発酵させたものに限る。
・ワインの製造工程でアルコール、 蔗糖などの糖類、 人エ甘味料を使用してはならない。ワインはブドウ果汁の糖分だけで造らなければならない。
・ワインのアルコール分は11.5%以上でなければならない。と、定義されている。
また、スパークリングワインEspumoso(エスプモーソ)は、密閉容器中の二次発酵で得られた炭酸ガス(20℃で3気圧以上)を有するワイン。ボトルもしくはタンクで二次発酵をうながすとき(licor de tiraje リコルデティラへ) に蔗糖、licor de expedición : リコルデエクスペディシオンワイン、ブランデーなどのスピリッツを加えることができる。最終製品の残糖分の量で次のように分類できる。
• Brut Nature(ブルット・ナトゥレ)
3g/ℓ未満
• Extra Brut(エクストラ・ブルット)
0~6g/ℓ
• Brut(ブルット)
12g/ℓ未満
* Seco(セコ)またはDry
12~21g/ℓ
* Demi Sec(デミ・セック)またはMedium Dry 21~50g/ℓ
• Doux(ドゥー)
50g/ℓ以上
ワインの原産地呼称Denominación de Origen(デノミナシオン・デ・オリヘン)
(D.O.)とワインの品質表示は1994年に農業省令N0.464が規定され、1995年5月26日付官報で公告された。SAGはこの省令に定められた原産地呼称、 品質規定などを保護監督し、輪出ワインの品質保証·統制を担当する。
チリの原産地呼称D.O.ワインにはフランスのA.O.C.のような収穫量の制限や栽培品種の特定、熟成期間などの醸造法等に関する規制がない。
州はさらに県Provincia(プロビンシア)に分割され、県はさらに市町村Comunas(コムナス)に分けられる。 ワインの原産地呼称D.O.にも別表で示したように県、 市町村単位で細分化されたD.O.がある。しかしそれぞれのD.O.の関係は、A.O.C.のようなピラミッド型の品質階層ではなく、栽培範囲の大小を表しているに過ぎない。


■義務付けられているラベル表示の項目
ワインのラベルには次のことがらを表示することが義務付けられている。
①ワインの種類(赤ワイン、 白ワインなど)
②製造者(瓶詰者) 名と所在地
③ワインの容量
④アルコール含有量
⑤PRODUCE OF CHILEなど原産国がCHILEであることの分かる語
さらに次のことがらは必要な条件が満たされたときに任意でラベル表示できる。
⑥ワインの原産地呼称D.O.
当該産地のブドウを75%以上使用し、 消費者に供することのできる容器(瓶、 BIBなど)にチリ国内で詰めたワインに限る。
D.O.ワインには次の品質表示を加えることができる。
Superior(スペリオール)
香味に独自性が認められる場合。
Reserva(レセルバ)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも0.5%以上高く独自の香味がある場合。
Reserva Especial(レセルバ・エスペシアル)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも0.5%以上高く、独自の香味があり樽熟成したワイン。
Reserva Privada(レセルバ・プリバダ)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも1%以上高く、独自の香味がある。
Gran Reserva(グラン・レセルバ)
アルコール度数が法定最低アルコール度数より少なくとも1%以上高く、独自の香味があり樽熱成したワイン。
⑦ブドウ品種名
当該品種が75%以上使用されているものに限る。2品種もしくは3品種をアサンプラージュした場合、いずれの品種も15%以上使用し、使用比率の多い順に左から右に並べて表示できる。
⑧ワインの収穫年
当該生産年のワインを75%以上使用しなければならない。
⑨生産者元詰Embotellado en OrigenまたはEstate Bottled
自社ブドウ畑と醸造·瓶詰設備が当該D.O.内にあり、 醸造、瓶詰、保管が一貫して自己の設備内で完結している
場合に限る。醸造協同組合の場合は組合員の栽培したブドウで生産され組合の醸造所で瓶詰めされたワインに限る。
⑩残糖量に応じたワインのタイプの表示
Seco/Sec/Dry 残糖分4g/ℓ未満。ただし総酸度(酒石酸換算)が残糖分を2g/ℓ以上上回っている場合
は9g/ℓまでの残糖分を許容する。
Semi seco / Demi sec / Medium Dry 4g / ℓ以上
12g / ℓ未満。総酸度が2g / ℓ上回る場合は18g / ℓ未満。
Semi dulce / Moelleux / Medium Sweet 18g / ℓ以上45g / ℓ未満。
Dulce / Doux / Sweet 45g / ℓ以上。
11.EUは原産地呼称ワインの製造基準を産地名、品種名、生産年とも「85%以上使用」としている。 そのためSAGの指導監督のもと、 輪出向けチリワインはすべて「85%以上使用」している。
■チリの食文化と料理
食べものとチリワインの関係について考えてみよう。イタリアやフランスのように古くからワインが食卓に上っていた国では、今でも地場のワインと食材や調理理法は密接に関連している。地場ワインが輸出市場に売り出されて、その味香は市場の要求に合わせていくらか変わったけれど、ブドウ品種は未だに土地固有のものを保持している。行政がワインの原産地呼称を統制する際、そこにブドウ品種を含めているからだ。
ところが、チリの先住民にワイン飲酒の文化はない。ワインは大航海時代以降、キリスト教の伝道者とともにやってきたものだ。その後、スペインから移民が来て先住民の食と融合し、それにドイツ人などの移民が加わって現代チリの食文化が成立した。この間、チリの大方の家庭の食卓にワインはなかった。人々は専らピスコなどのアグアルデンテ(蒸留酒)を飲んだ。チリ中央部のブドウ栽培地ではブドウ果汁で造った甘いChicha(チチャ)(濁りワイン)が好まれた。ワインを食事とともに楽しむ家庭や飲食店は極めて限定的で、その白ワインは酸化して茶色くなり、赤ワインはどろどろとして舌に重く蒸れた匂いがした。これがGusto Chileno(グスト・チレノ)(チリ人好み)だった。
米国から炭酸飲料が入って来てワイン消費量が激減したので、チリワイン産業は輸出市場に目を向ける。グスト・チレノでは売れないから米国の好みを聞き、イギリスの好みを聞き、日本の好みを聞いて新しいチリワインを準備した。つまり新しいチリワインは初めからチリ料理と切り離されていたのである。
21世紀になって首都サンティアゴには、ようやくワインと料理を楽しめる飲食店が現れ始めた。フランス料理やイタリア料理から始まって、徐々にチリ料理や先住民の料理にワインを合わせる店も生まれた。ワイナリーの中にはレストランを併設して、料理との組み合わせを提案するところも現れた。家庭の食卓にワインが上る機会も増えている。
国土の西側半分が太平洋に面しているので、チリではどこでも魚介類が豊富だ。ペルーと並んで有名なCeviche(セビーチェ)は魚介類のレモン果汁和えのことで、チリではCorvina(コルビーナ)(イシモチ、ニベ)やReineta(レイネタ)(シマガツオ)など白身魚を使うことが多い。海草のCochayuyo(コチャジュジョ)。使ったセビーチェは、塩味のミネラルの強い白ワインとの相性が抜群だ。ほかには、マチャ貝(チリホッキガイ)にパルメザンチーズを掛けて貝ごと焼いたMachas a la Parmesana(マチャス・ア・ラ・パルメザナ)
、高級魚Congrio(コングリオ)
(チリアナゴ)の切り身のスープのCaldillo de Congrio(カルディージョ・デ・コングリオ)
などがチョロある。Choro(チョロ)(ムール貝)、Erizo(エリソ)(ウニ)、Loco(ロコ)(アワビに似た貝)、Ostra(オストラ)(カキ)なども人気がある。
チリの伝統的な家庭料理で最も有名なのはEmpanada(エンパナーダ)という具の入ったパンで、薄皮はスペイン由来、中身の具は先住民族アラウカノのPinu(ピヌ)(挽肉に妙めた玉ねぎとスパイスをまぜたもの)を詰めたものだ。地域によっては魚介類やチーズを入れたエンパナーダもある。
またチリ料理にはアラブ風のスパイスやハーブを使ったものがある。これはスペインがムーア人に占領されていた頃の名残で、スペインからの開拓者が持ち込んだものと思われる。
Choclo(チョクロ)(トウモロコシ)を使った料理は先住民由来のものだ。代表的なものはPastel de choclo(パステル・デ・チョクロ)(トウモロコシのグラタン)やHumitas(ウミタス)(クリーム状にしたトウモロコシにバジルを加えトウモロコシの葉で包んで蒸したもの)で、とても甘い。
冬は温暖で霜もなく夏は乾燥しているチリ中央部は、アンデスの雪解水で灌漑された畑でさまざまな果樹や野菜を栽培している。新鮮で味の濃いフルーツや野菜は食卓を彩るだけでなく、収穫期の異なる北半球にも輸出されている。アボガドの栽培地が急拡大し、アコンカグアではぶどう畑と水の取り合いになっている。収穫後の現金化の早いアボガドが優勢だ。
牛、豚、鶏などの飼育も盛んで、アルゼンチンと同様、チリでもAsado アサード(バーベキュー)をよく食べる。
チリでは余りスパークリングワインを飲まない。隣のアルゼンチンやブラジルとの大きな違いだ。その代わりの食前酒はPisco Sour(ピスコ・サワー)だ。ピスコはワインを蒸留した酒で、ピスコ・サワーはそのカクテルである。レシピは飲食店や家庭によって様々だが、一般的な作り方は、ピスコ、レモンジュース、グラニュー糖、卵白をミキサーに入れて攪拌し、冷蔵庫に入れて冷やす。とても簡単だ。
■ワインの産地と特徴
チリのブドウ栽培地域は大きく分けると北部、中央部、南部の3つに分けられる。 その長さは1.400kmにも及ぶため気候条件や土壌に大きな違いがある。現在、原産地呼称D.O.に認定されている地域を北から順に紹介する。
■D.O.アタカマ Atacama
第3州が該当しサブリージョンにD.O.コピアポ・ヴァレーとD.O.ウアスコ・ヴァレーがある。Pisco(ピスコ)という蒸留酒を造るためのモスカテル種を栽培している。ウアスコはアタカマ砂漢南部に位置しているが、海沿いはフンボルト海流の影響でカマンチャカという海洋性層積雲(曇り雲、むら雲と呼ばれる下層の雲で、地表近くでは濃い霧になるが、雨を降らせることはない)に覆われ、日中、太陽光を浴びると雲の上部から蒸発してしまう。すると冷たい海風が吹いてくる。この海風がウアスコ川に沿って内陸に入り込むため、海岸寄りの川沿いは比較的冷涼だ。近年、海から20kmの河岸段丘にブドウ畑が拓かれソーヴィニヨン・ブランなどが栽培されている。
■D.O.コキンボ Coquimbo
第4州が該当する。サブリージョンにはD.O.エルキ・ヴァレー、D.O.リマリ・ヴァレー、D.O.チョアパ・ヴァレーがある。緯度が低く日照は強い。しかしアンデス山脈が太平洋側に突き出して東西の幅が狭いため冷たい海風が吹き付けている。かつては生食用ブドウの栽培地だったが、近年、冷涼地を求める栽培者が押し寄せ、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーなどの畑が急速に増えている。
D.O.アコンカグア・ヴァレーより500kmも北に位置する(南半球ではふつう北が暑い)D.O.リマリ・ヴァレーやD.O.エルキ・ヴァレーが新しいブドウ栽培地として脚光を浴びているわけは、海岸に近いので海霧(カマチャカ)と海風によって涼しさが確保されているからだ。港町ラ・セレナとその内陸に広がるD.O.エルキ・ヴァレーは、カリフォルニアのサンフランシスコとナパヴァレーの関係に似ている。午前中のラ・セレナはいつでも霧に覆われた港町である。霧は夜のうちにエルキ・ヴァレーの奥深くまで忍び込み、朝日が差し始めると徐々に退いていく。だから比較的暑いエルキ・ヴァレーの内陸部にはカベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネールが、涼しいヴァレーの入口付近にはソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールの栽培が適している。エルキ・ヴァレーを上り詰めたアンデス山中のアルコワス(標高2,200m)にチリで最も標高の高いブドウ畑がある。
D.O.リマリ・ヴァレーはリマリ川を挟んで南北に広がるが、リマリ川北岸の地形は大きく波打つ丘陵地で、リマリ川南岸は平坦な地形である。リマリの海岸沿いにはタリナイという名の丘陵はあるが標高が低く、海風を遮ることができない。冷たい海霧(カマンチャカ)と海風が内陸部まで直接に吹き込んでいる。いずれもサン・アントニオ、レイダと同様の海岸山脈由来の非常に痩せた土壌である。しかしリマリの土壌には石灰質が多く含まれている。
D.O.チョアパ・ヴァレーはアコンカグアからリマリまでの500kmに及ぶ海岸近くの広大な土地である。しかしブドウ畑はほとんどない。この辺りはアンデスの山並みがグッと海に迫り出して適当な耕作地がないばかりか、植物が育つには寒すぎる。生えているのは背の低い高山植物だけである。
■D.O.アコンカグア Aconcagua
第5州全域が該当する。サブリージョンはD.O.アコンカグア・ヴァレー、D.O.カサブランカ・ヴァレー、D.O.サンアントニオ・ヴァレー、 D.O.マルガマルガ・ヴァレーの4つがある。
D.O.アコンカグア・ヴァレーはアンデス山脈の麓から海岸に向かうアコンカグア川沿いの平地。周囲を1,500〜1,800mの山々に取り囲まれた比較的なだらかな地形である。穏やかな地中海性気候で、夏季の最高気温30℃、平均気温は14℃。夏の気温日較差は15〜20℃と大きい。ブドウの成熟にはもってこいの条件である。日照量は申し分なし。曇りの日は希で1年のうち240〜300日は晴れ。カベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネール、シラーなどのしっかりした赤が中心。
D.O.カサブランカ・ヴァレーは、周囲を標高400m程度の丘陵に囲まれた傾斜地である。海岸山脈の西側にあるため、午後には冷涼な海風が吹きぬけ気温が下がる。また朝には霧がたちこめる。遅霜の被害の大きい年があり生産量が安定しない。夏季の平均気温は25℃、年間平均では14℃。1990年代にチリで初めて開拓された冷涼な畑で、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ワール、シラーが栽培されている。
D.O.サン・アントニオ・ヴァレー(サブゾーンにD.O.レイダ・ヴァレーがある)は、海岸山脈の西側で太平洋に面した斜面である。冷たい海風が直接吹きつける。ここに1990年代後半からブドウ畑開発ラッシュがやってきた。爽やかな酸味とミネラルの要素をもつ白ワインや繊細なピノ・ノワールで頭角を現してきている。ソーヴィニヨン・ブランも増えている。従来、海岸山脈の山中や内側にブドウ畑が拓かれてきたのだが、このところ注目を集めているのは、ロ・アバルカ、サント・ドミンゴなど海岸山脈の海側に面した寒風の吹きすさぶ斜面の畑である。
■D.O.セントラル・ヴァレー Central Valley
首都州、第6州、第7州にまたがる広大なブドウ産地。チリのブドウ栽培はこのセントラル・ヴァレーで始まった。伝統的にはボルドー品種とパイスが栽培されてきたが、最近はテロワールの特徴に合わせた新品種の栽培が盛んだ。マイポ川流域とランカグアおよびクリコ周辺には大規模ワイナリーがあり、南のD.O.マウレ・ヴァレーの栽培家はそれらのワイナリーにブドウを供給してきた。これらの栽培家が独立し、海外から移住してワイン造りを始めた生産者とともにMOVI(Movimiento de Vinateros Independientes モビミエント・デ・ビニャテロス・インデベンディエンテス)という生産者団体を組織している。雨量は年間300mm未満と極端に少なく、耕作には灌漑が必要だ。
D.O.マイポ・ヴァレーは、首都州(RM州)にある原産地呼称。西側に第5州(アコンカグア)が入り込んでいるため首都州には海がない。ブドウ栽培の歴史は古く、マイポ川流域にブドウ畑が集積している。東端は標高1,000m、西端は標高500mで東から西に向かってなだらかに傾斜している。温暖で穏やかな地中海性気候。アンデスの麓の気温日較差は20℃に達する。カベルネ・ソーヴィニヨンが栽培面積の50%以上を占める。サンティアゴのマクールやプエンテ・アルト、ブイン、ピルケなど有名な畑が多い。
D.O.ラペル・ヴァレーは第6州の原産地呼称。D.O.の西側を海岸山脈が南北に走る。海岸山脈の標高は500m未満で際立った高い山がなく、カチャポアル川とティングリリカ川が合流してラペル湖となり、そこからラペル川となって太平洋に注ぐ。海岸山脈は標高600m、東端は標高1,000m。サブゾーンが設定され、北側のカチャポアル川流域がD.Oカチャポアル・ヴァレー、南のティングイリリカ川流域がD.O.コルチャグア・ヴァレーである。
D.O.カチャポアル・ヴァレーは西側に大きなラペル湖があるため海風の影響が少なく、ペウモのカルメネールなどしっかりした赤ワインの産地として知られている。またアンデス山脈側のレンゴはカベルネ・ソーヴィニヨンが有名だ。
D.O.コルチャグア・ヴァレーは、伝統的にカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロが栽培され、近年はシラーやカルメネールが続いている。中央部のアパルタ丘陵には有名なワイナリーが集まっている。アンデス山脈側はチンバロンゴやロス・リンゲスが有名だ。また近年はブドウ畑が冷涼な沿岸部(パレドネスなど)に広がり冷涼気候を好むソーヴィニヨン・ブランの栽培が増えている。D.O.クリコ・ヴァレーは第7州の北側一番で、D.O.テノ・ヴァレーとD.O.ロントゥエ・ヴァレーの2つのサブゾーンがある。東からアンデス山脈、中央平地、海岸山脈が比較的きれいに並行して南北に延びている。ブドウ畑はマタキト川とクラロ川に挟まれた中央平地と海岸山脈寄りに多い。やや湿潤な地中海性気候で太平洋高気圧の影響を受ける。気温の日較差は15℃前後。カベルネ・ソーヴィニヨンの古木が多い。
D.O.マウレヴァレーは第7州の南側一帯。チリ最大のブドウ産地で、ここも西側から海岸山脈、中央平地、アンデス山脈の順に東西になだらかに傾斜した地形である。気候はやや湿潤な地中海性気候。冬の雨は多めで年間降水量は735mm。その後は日照に恵まれ高温乾燥の天気が続く。年間平均気温は14℃、1月の最高気温は32℃、気温の日較差は15〜18℃。D.O.トゥトゥベン・ヴァレーにあるカウケネス産カリニャンが有名だ。
■D.O.サウス South
第8州のD.O.イタタ・ヴァレー、D.O。ビオビオ・ヴァレー、第9州のD.O.マジェコ・ヴァレーという3つのサブリージョンで構成される。降水量が多いので多くの畑は灌漑を必要としない。灌漑地域は全体の約10%である。パイスの栽培が多くワインのほとんどが国内消費用に向けられている。
D.O.イタタ・ヴァレーはパイスとモスカテル・デ・アレハンドリアが主だったが、近年、シャルドネなどの栽培が広がってきた。
D.O.ビオビオ・ヴァレーも海岸山脈の東側斜面を中心にピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ゲヴュルツトラミネールの栽培が増えている。
新しい栽培地D.O.マジェコ・ヴァレーの冷涼湿潤な気候に注目してシャルドネを新植し、フレッシュで複雑味のあるワインが誕生している。
■D.O.セカノ・インテリオル Secano Interior
クリコ、マウレ、ビオビオ、イタタの非灌漑地で栽培したパイスとサンソーに適用される呼称。4地域のブドウは単独でもブレンドしてもよい。またパイスとサンソーは単独でもブレンドしてもよい。このD.O.名が適用されるエリア(村名)は、別表に太字で記載した。
パイスとサンソーは、SAGのラベル表示のできるブドウ品種別表に入っていない。その救済策としてこの呼称があった。ところが2018年からこのD.O.セカノ・インテリオルの適用される地域で収穫したパイスとサンソーであれば、D.O.マウレのように地名D.O.を表記してもよいことになった。
■D.O.アウストラル Austral
2011年に新しく認定された原産地呼称で、スール(南)よりさらに南に位置するためアウストラル(南極)と名付けられた。D.O.カウティン・ヴァレーとD.O.オソルノ・ヴァレーというサブ・リージョンがあり、シャルドネ、ピノ・ノワールなどが栽培されている。オソルノの湖水地方ラゴ・ランコやリオ・ブエノには、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングも栽培されている。2018年6月、オソルノよりさらに南に位置するチロエ島にアルバリーニョなどが植栽された。まだD.O.に認定されていないが、ここがチリ最南端のブドウ畑である。
■新しい原産地呼称表示の採用
チリの原産地呼称は北から南に向かって国土を行政区分(州)に沿って水平に切ったものだ。しかし、このように国を北から南に向かって州ごとに水平に区切って産地を区分しても、そこで生まれるブドウとワインの特徴の説明にはならないことが、新しいブドウ畑の開拓とテロワールという考え方の導入によって明らかになった。
D.O.リマリ・ヴァレーと、D.O.ビオビオ・ヴァレーは距離にして1,000km以上も離れているが、栽培品種やワインには共通項が多い。ところが東西にわずか50kmも離れていないD.O.マイポ・ヴァレーとD.O.カサブランカ・ヴァレーでは栽培品種もワインも大きく異なる。また、D.O.マイポ・ヴァレーにあるアルト・マイポ(アンデスの麓の傾斜地)とイスラ・デ・マイポ(平地、マイポ川氾濫の跡地)は隣り合っている地区だが、そこで造られるワインのスタイルは大きく異なる。アルト・マイポのワインはその南にあるD.O.ラペル・ヴァレーのアルト・カチャポアル(アンデスの麓の傾斜地)のワインと似ている。
つまりチリワインの産地区分は北から南に向かって国土を水平に切断して分けるより、気候の特徴(あるいは土壌の組成)に沿って東西に垂直に区分した方が土地の共通項がはっきり見えてくる。
2011年に従来の原産地呼称表記に付記する格好で二次的な産地表示ができるようになった。それはブドウ産地を地図上で垂直に分けたもので、西から東に、以下のように3つに分けた。
①Costa コスタ(海岸に面した畑、コースタル)
②Entre Cordilleras エントレ・コルディリェラス(海岸山脈とアンデス山脈の間、つまり中央部の平地)
③Andes アンデス(アンデス山脈側の斜面、ヒルサイド)
今後はこの改訂に沿って、「D.O.マイポ・アンデス」や「D.O.ラペル・コスタ」などとラベル表記されたボトルが市場に出てくることになる。
それぞれの表示には当該産地のブドウが85%以上含まれている必要がある。ただ、チリのワイン生産者の中には、すぐにはこのラベル表記を採用しないと言うものが多い。
以下、3つの新しい原産地呼称の特徴をまとめた。
■コスタCosta
チリの海岸線は南北4,000kmを超える長さがある。その海岸には南極海からフンボルト寒流が流れている。沿岸の海水は真夏でも冷たく、人々は砂浜で日光浴はするが海水浴は水温が低すぎてできない。この冷たい海から内陸に向かって吹く海風がブドウ畑に及ぼす影響はきわめて大きい。コスタは、チリワインに多様な広がりをもたらしたと同時に、かつては思いもよらなかった新しいスタイルをチリワインに提供したといえる。また、コスタは冷たい海と涼しい海風の影響をきわめて強く受けているだけでなく、土壌にもカルシウムなど海洋性の要素を多く含んでいるのが特徴だ。コスタのブドウから生まれるワインには、ミネラルや塩味が強く感じられ、心地よいシャープな酸味を伴っている。コスタの栽培品種は、世界的に人気のあるソーヴィニヨン・ブランをはじめ、シャルドネ、ピノ・ノワールといった冷涼地に適した品種が主体になっている。また、独特の香味をもつ冷涼地シラーや冷涼地メルロも注目を浴びている。コスタの海風の冷たさは尋常ではない。だから同じコスタでも、①海に面した斜面で海風が直接吹き付ける、②海岸山脈の内部、③海岸山脈の東側(コスタ・インテリオル)の三地域で涼しさに大きな違いが生まれる。ことに最近のコスタにおけるピノ・ノワールの栽培にはこれが大きく影響しており、③に比べて①や②の畑で収穫するピノ・ノワールの品質の高さに注目が集まっている。
■エントレ・コルテディリェラス Entre Cordilleras
コルディリェラは山のことで、エントレ・コルディリェラスは2つの山脈の間という意味だ。アンデス山脈と海岸山脈の間に位置する平坦で肥沃な地域を指している。ボルドーのアントル・ドゥー・メール(こちらは2つの大河に挟まれた平坦な地域)に似た呼称だ。南北に走る2つの山脈がエントレ・コルディリェラスと、コスタ及びアンデスとの境界線になっている。
チリの農業はエントレ・コルディリェラスで始まった。地中海性気候で肥沃な沖積土壌に恵まれたこの地域は、ブドウ栽培のみならず小麦や果樹などチリ農業を支える中心的な耕作地である。基本的には平坦な地形で殊に南のD.O.クリコ・ヴァレーやD.O.マウレ・ヴァレーに向かうと広大な土地が広がるが、そのすべてが平地というわけではない。海岸山脈の一部にはD.O.コルチャグア・ヴァレーのように東西に横断するものがあり、さらにはアンデスから太平洋に向かって東西に流れる幾筋もの河川がその流路に河川敷と河岸段丘を形成している。これらがエントレコルディリェラスに小さな起伏と複雑に入り組んだモザイク状のテロワールを形成している。チリを代表する赤ワインの多くはエントレ・コルディリェラスで造られている。そして、エントレ・コルディリェラスのブドウはチリワイン生産の約60%を占めている。
そのありようは北部と南部ではずいぶん違ったものになっている。たとえば北部のD.O.コキンボ(サブリージョンにD.O.エルキ・ヴァレーやD.O.リマリ・ヴァレーがある)ではアンデス山脈と海岸山脈が接触していて中間の平地がほとんどない。だからこの地域のエントレ・コルディリェラスはプニタキだけである。プニタキは伝統的にピスコ(ブドウで造る蒸留酒)用ブドウを生産してきたが、近年、シラーやカルメネールの栽培で注目されている。
そのすぐ南のD.O.アコンカグアで2つの山脈は左右に分かれはじめるので、ここから本格的なエントレ・コルディリェラスが始まる。D.O.アコンカグア・ヴァレーでは中央平地のパンケウエとオコアがエントレ・コルディリェラスだ。アコンカグア川に沿ったこの地域は、チリで最も古いブドウ栽培格地のひとつである。ここではカベルネ・ソーヴィニヨンをはじめシラー、メルロ、プティ・ヴェルドなどが栽培されている。
アコンカグアからさらに南に進むと、マイポ、ラペル、クリコ、マウレといったチリワインの主産地D.O.セントラル・ヴァレーに至る。それぞれの地域にアンデスから太平洋へと流れこむ大きな河川がある。
■アンデスAndes
チリとアンデス山脈は一体不可分の関係にある。地図帳を開けば一目瞭然だ。そしてチリの文化はアンデスの山々がもたらしたものといっても過言ではない。ワインとブドウもその一部である。アンデスの山々がチリの国土に及ぼす気象上の影響はきわめて大きい。たとえば、早朝にアンデス山中で形成された冷気の塊が、朝日とともに山間から麓へと吹きおろす。山の麓に拓かれたブドウ畑はそのおかげで比較的涼しく風通しもよい。さらには遅霜の降りる心配もない。日中は強い日差しを受ける斜面も日が落ちると急激に冷えるので昼夜の気温差が大きくなる。こういう理屈を昔の人々はすでに知っていて開拓当初からアンデスの麓にブドウ畑が拓かれた。雪解け水を使えば畑も簡単に灌漑できた。彼らはこの山から毎朝吹き降ろす風をEl Laco(エル・ラコ)と呼んでいた。
D.O.エルキ・ヴァレーは内陸に向かうほど(アンデスに向かうほど)標高が高くなり降水量が少なくなる。これはエルキの南に位置するD.O.リマリ・ヴァレーも同様だ。ここには海岸山脈とアンデス山脈の中間に位置する平地がない。D.O.セントラル・ヴァレーではアンデス山脈で形成された冷気が驚にあるアンデスのブドウ畑に吹き降りてくる。この地城一帯でチリを代表する赤ワイン、白ワイン、スパークリングワインが生産されている。アンデスの土壌は崩積土(斜面の麓に溜まった土壌)や火山性土壌で構成されているが、これには岩石や小石が多く含まれている。土壌中の有機物はとても少ないが水はけはよい。標高の高い畑では深く伸びたブドウの根が直接に地下水層を振むことができる。アンデスに位置するブドウ畑は、その標高や斜面の向いている方向、あるいはその斜度などによって産みだすブドウに大きな違いが生まれる。しかし共通しているのは凝縮した品質の高いブドウになることだ。
参考資料 日本ソムリエ協会教本、隔月刊誌Sommelier
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